少年の頃、増田成幸はテレビで見たツール・ド・フランスに衝撃を受け、いつか本場のヨーロッパで活躍することを目標に走り続けた。そして彼は遂に昨シーズン、念願のUCIプロツアーチームの選手としてヨーロッパを走ることとなる。

目標であったヨーロッパでの選手生活を通じて、増田には新たな目標ができたようだ。くしくもその目標は、復帰する「宇都宮ブリッツェン」のチーム理念に一致する。彼はその実現に向けて、地域密着型チームの可能性を信じ、今年も走り続ける。少年の頃から変わらない「自転車を愛する気持ち」を抱いて。

始まりはツール・ド・フランス

今季より宇都宮ブリッツェンへ復帰した増田成幸今季より宇都宮ブリッツェンへ復帰した増田成幸 (c)Makoto.AYANO選手として9年目を迎える2014年は、私にとって節目の年です。

ここまで、どんな時も常に本場ヨーロッパのレースを目標に走ってきた自分。中学3年生か高校1年生の頃だったと思います。たまたま観たテレビ番組のツール・ド・フランス総集編に衝撃を受け、始まった自転車競技への熱。歳を重ねて、自転車ロードレースに対する気持ちは変化しましたが、今年、また新たな気持ちで走り出します。

日本ではマイナースポーツのサイクルロードレース。私自身も「自転車と言えば競輪」と思い込んでいた人間のひとりでした。テレビでサイクルロードレースの存在を知るまでは。

始まりはランスアームストロング全盛期のツール・ド・フランス。カラフルなウェアに身を包んだ選手たちが、雨の日も風の日も、野を越え山を越え、街を通り抜けてゴールを争う姿は、『カ、カッコイイ!』と、少年時代の魂に響いたのでした。

思えば、小さい頃から自転車を乗り回すのが大好きで、2歳で腕を骨折した時には、腕つり用の三角巾を勝手に外して自転車に乗ったり、幼稚園児の頃には補助輪も外れていたりと、自転車にのめり込む素質があったのかもしれません。

ロードバイクを手に入れたのは高校2年生の春のこと。そこから始まった自転車人生。ロードバイクに乗る時に、いつも頭の中にあったのはアームストロングやマルコ・パンターニの姿。

少年というのは単純で、カッコイイ!と感じたものに近づきたい気持ちになるんですね、きっと。数少ない自転車仲間たちと、アームストロングのアタックを真似したり、パンターニのペダリングを真似したり。当時、まだまだプロのロードレーサーになるなんて想像がつかないぐらい遠い世界にいた私でしたが、大学3年生の時には『人生にロードレースのプロ選手という選択肢があるのなら、本気でプロになりたい』という強い気持ちが芽生え、そこからはとにかく、テレビで観たような本場のヨーロッパで活躍することを目標に走り続けてきました。

パンターニのペダリングを真似ていた少年は、国内のヒルクライムレースをコースレコードで制するなどし、成長を遂げたパンターニのペダリングを真似ていた少年は、国内のヒルクライムレースをコースレコードで制するなどし、成長を遂げた photo:Hideaki.TAKAGI
ロードバイクを手にしたのも、プロになりたいと思ったのも、決して早くはありませんでした。才能があったとも思えません。それでも少しずつ階段を上り、ここまで一途に走れてこれたのは“この世界が本当に好きだから”なのだと感じています。

叶えたい “願い”

話が少し脱線しますが、そもそも、サイクルロードレースのプロ選手とはどういったものなのでしょうか?
出るレースのカテゴリー分けで、プロと呼ばれるのか? 走ってお金を稼げばプロ選手なのか? ヨーロッパで走るのがプロなのか?

そのことについては、今でも明確なことは分かりません。人によっては言うことも違いますから。
ただ、自分自身これまで様々なチームで活動してきて感じるのは、日本には日本に合ったスタイルの、日本で社会的な価値を生み出すことのできる形でのプロの世界があっても良いのかなということです。

そして再び宇都宮ブリッツェンの選手として走り始めるにあたって、叶えたい目標があります。それは、『日本のロードレース界を発展させたい』『もっと沢山の人に自転車の素晴らしさを伝えたい』『自転車を通して日本の子供たちに夢を与えたい』ということ。

目標ではなくて、“願い”と表現した方が正しいのかな…?

Jプロツアー2012総合優勝を勝ち取った増田成幸。翌年キャノンデールプロサイクリングに加入。ヨーロッパのチームで走るという夢を叶えたJプロツアー2012総合優勝を勝ち取った増田成幸。翌年キャノンデールプロサイクリングに加入。ヨーロッパのチームで走るという夢を叶えた photo:Hideaki.TAKAGI
日本においては、まだまだ小さなサイクルロードレースのプロの世界を、より良い形で発展させて行くと共に、レースを観た子供たちに『ロードレースってカッコイイな!』『自分も選手になりたい!』と感じてもらいたい。昔、私自身が感じたように。

子供たちには、夢を持って活き活きと輝いてほしい。夢を持つ人間が発揮するパワーは計り知れませんからね。そして将来的には、日本が自転車ロードレースの強い国になれたら、それは最高なことです。

はっきり言って、この願いは到底今年だけで叶えられるものではありませんし、野球やサッカーなどのように広く日本の子供たちに夢をもってもらうという点で、私が選手を引退するまでに実現する可能性は限りなく低いでしょう。ただ、その場所に少しでも近づきたい。その気持ちを持って走りたいのです。

2014年の宇都宮ブリッツェン。清水祐輔監督とともに増田成幸も再び日本の頂点を目指し走り出した2014年の宇都宮ブリッツェン。清水祐輔監督とともに増田成幸も再び日本の頂点を目指し走り出した (c)Makoto.AYANO

地域密着型チームの可能性

宇都宮ブリッツェンの“地域密着型”と呼ばれるチームにしかない可能性を、私は信じています。このチームで選手として走ることが、日本のロードレース界をより良い方向に発展させられるのではないか、と。

物事が成長して行く時には、一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりも…、というように、より多くの力が合わさった時に加速して行くもの。

ブリッツェンに限らず地域密着型のチームには、同じ思いを持った人、その活動を支えて下さる方々、応援してくれるファン、果ては何となく知ってくれている人たちさえ、本当に沢山の人たちの力が集まっているんです。

2014年チームプレゼンテーション後のパーティーで、ファンと談笑する増田成幸と鈴木真理2014年チームプレゼンテーション後のパーティーで、ファンと談笑する増田成幸と鈴木真理 (c)Makoto.AYANO会場には大勢のファンや支援者が集った。これがブリッツェンの強みだ会場には大勢のファンや支援者が集った。これがブリッツェンの強みだ (c)Makoto.AYANO

誰かが幸せになる時って、その人は一人ではありませんよね。どんな生き方をしていようとも、どんな仕事をしていようとも、人の幸せというものは、人と人との素敵な繋がりの中で生まれてくるものなのだと気づかされました。このチームで。

ヨーロッパのサイクルロードレースは、走る人、支える人、見る人、運営する人、本当に沢山の人に囲まれています。全てにおいて、日本のそれを越えているのです。だからこそ、やりがいがある。走ることに価値を見い出せる。人々の繋がりがあれば、とても自然なことだと思います。

応援され、期待され、批判されて、重圧を感じ、励まされ、信じ、力を与えられ、頑張って、誰かが喜んでくれて、自分まで幸せな気持ちになる。このプラスのエネルギーが大きく作用すればするほど、日本のサイクルロードレース界も、より素晴らしいものに発展していけるはず。私はそう思います。

その先には、子供たちが夢を持てるような、日本のプロフェッショナルなロードレースの世界があればいいな、と。

変わらぬ気持ち

思いがけないロードレースとの巡り合わせから今日に至るまで、この競技における私の目標や考えは、少しずつ変化してきました。ロードレースは危険なスポーツです。怪我や事故も経験しました。選手を辞めようかな、と思ったこともあります。今思えば、このスポーツに対する情熱を失いかけていたのでしょうね。

ただ、それでも、紆余曲折とした私の自転車人生の中で不変だったものがあります。それは自分自身の深いところにある『自転車を愛する気持ち』。これだけは絶対に変わりませんでした。純粋なものなんですけど、何と説明したら良いのでしょうか、この気持ちは。

チームメイトとともにトレーニングを行う増田成幸チームメイトとともにトレーニングを行う増田成幸
楽しそうにバイクのメンテナンスをする増田成幸楽しそうにバイクのメンテナンスをする増田成幸 今季ブリッツェンが使用するパナレーサーのタイヤにはプロトタイプの文字が入るものも今季ブリッツェンが使用するパナレーサーのタイヤにはプロトタイプの文字が入るものも (c)Makoto.AYANO

自転車に乗って風を切る感覚や、峠道を登って頂上にたどり着いたときの気持ち。自力で遠くに行ける喜びや、自然の中での癒しだってあります。

そこを源に、もっと速く走りたい!自転車で競争したい!…と思ってしまうのは不思議です。いや、むしろ自転車で競争したい気持ちの方が原点なのかも知れません。子供の頃に『自転車レースはカッコイイ』という図式が打ち立てられてしまいましたからね(笑)。

これから走っていく上でもずっと大切にしたいのは、この、自転車を愛する気持ちです。大好きな自転車の、スポーツの世界で生きることの幸せを噛みしめながら、選手として戦っていきたい。自転車ロードレースの素晴らしさを、少しでも多くの人に知ってもらいたい。

宇都宮ブリッツェンという地域密着型チームでの活動が、少しでも日本の自転車ロードレースの発展に繋がってくれたなら、とても幸せです。

2014年ロードレースは西日本チャレンジで開幕。増田ら宇都宮ブリッツェン勢が積極的にレースを展開した2014年ロードレースは西日本チャレンジで開幕。増田ら宇都宮ブリッツェン勢が積極的にレースを展開した photo:Hideaki TAKAGIこのレースではチームメイトの阿部嵩之が優勝。ブリッツェンは地元開催の次戦・宇都宮クリテリウムへ向け、幸先の良いスタートを切ったこのレースではチームメイトの阿部嵩之が優勝。ブリッツェンは地元開催の次戦・宇都宮クリテリウムへ向け、幸先の良いスタートを切った photo:Hideaki TAKAGI

この危険と隣り合わせなスポーツで、明日も無事に走っていられるかなんて、分かりません。この競技に取り組む情熱が無くなる時が来たならば、それはそれで引退する時。その日が来るまで、少しでも、思い描いた目標が実現出来るように。

そして、いつ選手を辞めることになろうとも後悔しないように、覚悟を持って全身全霊で走り続けます。

プロフィール
増田 成幸 ますだ なりゆき
1983年10月23日生(30歳)
日本大学在学中に人力飛行機のパイロットして活躍。大学に通いながらチームミヤタと契約し、国内主要ロードレースでトップクラスの成績を残す。

その後、エキップアサダやチームニッポに所属し、本場欧州のレースにもチャレンジ。故障や怪我に泣かされることが多く、選手生命に関わるような大きな事故も経験するが、そのたびに驚異的な復活を遂げて、“不死鳥”というニックネームで呼ばれることも。

2012年にJプロツアー個人総合優勝を遂げた後、2013年はUCIプロツアーチーム「キャノンデールプロサイクリングチーム」入りを果たした。
2014年度からは「宇都宮ブリッツェン」に復帰して、チーム史上最強と言われる布陣で勝利を狙う。

主な戦績
2011年
Jプロツアー年間個人総合2位
Jプロツアー第5戦 栂池高原ヒルクライム 優勝
Jプロツアー第6戦 富士山ヒルクライム 優勝
Jプロツアー第12戦 JBCFタイムトライアルチャンピオンシップ 優勝
JBCF経済産業大臣旗 ロードチャンピオンシップ 2位
2012年
全日本選手権ロードレース 2位
ツ-ル・ド・熊野 個人総合4位
ツール・ド・北海道 個人総合4位
Jプロツアー年間個人総合優勝

2013年
全日本選手権ロードレース 3位

Panaracer「RACE EVO2」クリンチャーシリーズ

Panaracer RACE EVO2 クリンチャーシリーズPanaracer RACE EVO2 クリンチャーシリーズ (c)Panaracer
「RACE EVO2」シリーズは、クリンチャーとチューブラーの両タイプで展開するパナレーサーのフラッグシップモデル。クリンチャータイプでは、オールラウンドに使用できる「RACE A(all around)EVO2」、耐パンク性能を高めた「RACE D(duro)EVO2」、軽量設計の「RACE L(light)EVO2」の3モデルが展開。

ロードレースなら「RACE A EVO2」、ロングライドなら「RACE D EVO2」、ヒルクライムなら「RACE L EVO2」など、用途に応じて選ぶことができるわかりやすいラインナップになっている。

さらに「RACE A EVO2」「RACE D EVO2」では、注目されている太目の25Cがラインナップ。「RACE L EVO2」も、ただ軽いだけのタイヤではなく耐パンクベルトも内蔵した安心して使える軽量モデル。公道を使用したヒルクライムやタイムトライアルには最適なタイヤと言えるだろう。

RACE A (all around) EVO2700×23C(210g)/25C(240g)
カラー:ブラック、レッドサイド、ブルーサイド
税抜価格:4,858円
RACE D (duro) EVO2700×23C(230g)/25C(250g)
カラー:ブラック、ブラウンサイド
税抜価格:5,524円
RACE L (light) EVO2700×20C(175g)/23C(180g)
カラー:ブラック
税抜価格:4,858円

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Panaracer 2014年度サポートチーム&選手情報
西日本チャレンジサイクルロードレース2014
A-Eクラス優勝阿部嵩之選手(宇都宮ブリッツェン)
4位鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)
5位向川尚樹(斑鳩アスティーフォ)
6位増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
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