2月にスペインはマヨルカ島で大々的に開催されたメリダ・プレスキャンプでは、チームプレゼンテーションだけでなく、2014年モデルとして発売予定のロードモデル2機種とマウンテンバイク4機種が公開された。

これらは今シーズン、UCIプロチームのランプレ・メリダと、世界屈指のMTBチームのマルチヴァン・メリダバイキングチームに供給され、最高峰のプロレースという実戦の場を経て熟成されて、今年後半に正式発表の運びとなる。それぞれのバイクの概要をお伝えしよう。

公開されたチームバイクと2014モデル

1972年の創業以来、世界最大級のバイクメーカーとして成長を遂げてきたメリダ・バイクス。自らを「バイシクル・プロデューサー」と称するように、先進的なアイデアを次々に投入。ついにプロツアーチームのスポンサーとして名乗りを上げた。

ランプレ・メリダの選手たち 手にするのはチームモデルのSCULTURA SLランプレ・メリダの選手たち 手にするのはチームモデルのSCULTURA SL (c)Hideyuki.SuzukiワープTTを駆ってタイムトライアルを走るワープTTを駆ってタイムトライアルを走る (c)bettini

フィリッポ・ポッツァートはすでにメリダの新型バイクを手にしているフィリッポ・ポッツァートはすでにメリダの新型バイクを手にしている (c)bettiniそのメリダが恒例のメディアキャンプをスペインのマヨルカ島で開催。世界中のディーラー、ディストリビューターが集まるテストライドも同時開催されるため、関係者だけでも300人以上が集結。オフシーズンのマヨルカ島は、メリダグリーン一色となった。

直前までチャレンジ・マヨルカが行なわれていたこともあり、最初の晩にはチームランプレ・メリダを囲むディナーパーティが開かれたが、最初こそ和やかムードだったものの、一人ひとりの選手の名前がコールされ、最後にペタッキ、クネゴ、ポッツァートが登場するやいなや、メディアがステージ前に押し寄せて異様な熱気に包まれた。

翌々日に行なわれたマルチヴァン-メリダ・バイキングチームのプレゼンテーションにも、ランプレに引けを取らない人数のメディアが集まり、改めてマウンテンバイクとともに成長してきたメリダブランドの浸透具合、注目度の高さを感じさせられた。

今回のプレゼンテーションの目玉は何と言っても、ランプレ・メリダのカラーに塗られたスクルトゥーラSLと、チャレンジ・マヨルカでデビューしたTTバイク、ワープTTだ。特にワープは「チームバイク」として公開されたものの、実質的にタイムワープに変わる2014年モデルということもあり、アセンブルされたパーツを含め高い完成度を示していた。

メリダ社ヘッドエンジニアのユルゲン・ファルケ氏メリダ社ヘッドエンジニアのユルゲン・ファルケ氏 (c)Hideyuki.Suzuki一方マウンテンバイクも、2014年に向けて改良されたBIG NINETY-NINEに、新設計の27.5インチモデルを2機種発表。ロード同様、2014年に向けてMMBTとメリダ・フリーライドチームが今季のレースやイベントで使用することになる。

どのモデルも開発途中ということでジオメトリーなど詳細の発表はされず、素材の変更を含めた改良が加えられている過程ということだが、4日間のプレゼンテーション、試乗で得られた情報を紹介しよう。


SCULTURA SL オールラウンドなランプレの主戦力

SCULTURA SL メリダ・グリーンにランプレのフーシャ(マゼンタ)が加えられたチームグラフィックモデルSCULTURA SL メリダ・グリーンにランプレのフーシャ(マゼンタ)が加えられたチームグラフィックモデル (c)Hideyuki.Suzuki
2013年モデルとして登場。軽量かつ高剛性。加えて高い振動吸収性能を備えたオールラウンドバイクとして評価されているスクルトゥーラ。パーティの後に行なわれたランプレ・メリダのレーサーたちへのインタビューで、ペタッキやポッツァートには、ジロまでに発表される予定の「スペシャルバイク」が供給されることが判明したが、クネゴを始めとする選手たちはスクルトゥーラが「軽い上に疲れにくいバイク」であることを高く評価。ワンデーからステージレースまで勝てるポテンシャルを持っていることをアピールしていた。

なおランプレチームに供給されるバイクのパーツアッセンブルは、シマノ・デュラエースDi2、フルクラム・レーシングスピードXLRだが、今回の撮影車両は、変速コンポーネンツにアルテグラDI2。クランクにFSA SL-Kライト 386。ホイールセットはフルクラム・レーシング3で構成されていた。

WARP TT 空力に磨きをかけたタイムトライアルモデル

実戦デビューを果たしたワープTT UCIレギュレーションもクリアしている実戦デビューを果たしたワープTT UCIレギュレーションもクリアしている (c)Hideyuki.Suzuki
独自のモジュラーヘッドシステムを搭載したTTバイク、タイムワープの後継モデルだが、今回のモデルチェンジでUCIレギュレーションに合致したデザインとなっている。
開発にあたっては、F1でも利用されているCFD(Computational Fluid Dynamics)によるシミュレーションののちに風洞実験を行ったが、ダウンチューブの形状変更は空気抵抗に対してそれほど大きな影響がなかったことを確認したという。

インテグレートされたヘッド&ステムから伸びるラインが印象的だインテグレートされたヘッド&ステムから伸びるラインが印象的だ オープンタイプのリアエンド。ダイアルで微調整が可能だオープンタイプのリアエンド。ダイアルで微調整が可能だ

こうしたエアロダイナミクスの研究はバイクのデティールに留まらず「ライディングフォームの最適化」にも目が向けられた。
「バイクのシェイプだけでなく、乗り手を含めたエアロダイナミクスの追求がワープのテーマ」と、自らもテストに参加したヘッドエンジニアのユルゲン・ファルケ氏が語るように、最適なポジションを得るために新たに採用されたのがスイス人デザイナー、アンディ・マフ氏考案の可変機構を内蔵したステムだ。

ケーブル類はステム内を通ってさらにフレーム内部へと導かれるケーブル類はステム内を通ってさらにフレーム内部へと導かれる ステム上面。三日月状のシムを組み合わせることで約20mmのポジション変更を可能にするステム上面。三日月状のシムを組み合わせることで約20mmのポジション変更を可能にする (c)Hideyuki.Suzuki

CNC削り出しのボディはシムにより90、100、110mmに長さを変えることができ、モジュラーヘッドとのコンビで0-30-60mmの高さが調節可能。さらにFSA/ヴィジョンと共同開発のベースバーにより、さまざまな身長のレーサーに対応することを可能にしている。

同様にフロントブレーキの搭載位置についても、当初は空力効果が認められるマグラRT8の装着を念頭に置いて開発が進められたというが、チームが使用するシマノのシステムとの互換性を考えて取り付け方式と位置を決定。結果的にはフロントはノーマルブレーキが採用されている。リアブレーキについてはBBの下部に直付されるダイレクトマウント方式が採用されている。

ノーマルブレーキをあえて採用して操作性を重視。風洞実験の結果、パワーロスは1.5w程度だというノーマルブレーキをあえて採用して操作性を重視。風洞実験の結果、パワーロスは1.5w程度だという こちらも世界初公開となったフルクラム・レーシングスピード・ディスク。重量は約900gと言われているこちらも世界初公開となったフルクラム・レーシングスピード・ディスク。重量は約900gと言われている

特殊なブレーキを採用しなかったことは、実は多くの選手にとってブレーキ性能という面ではメリットが大きい。空気抵抗の削減よりも十分なブレーキ性能の確保が結果的にはタイム向上につながるからだ。
なお、今回発表されたバイクは、実際にチームが使用するバイクそのものということで、未発表のフルクラムのカーボンディスクホイール、レーシングスピード・ディスクも装着されていた。

WARP TT  ランプレ・メリダの選手たちとの風洞実験と開発


BIG.NINE Carbon Team レイアップの変更で約100gもの軽量化を達成

BIG.NINE Carbon TeamBIG.NINE Carbon Team (c)Hideyuki.Suzuki
BIG.NINE Carbon Teamはショートヘッドチューブの採用により、ハンドルポジションを低くセットすることが可能なことから「最もコンパクトなコックピットを持つ29インチMTB」といわれるメリダのカーボン29インチ・ハードテールモデルだ。
2012年モデルから基本スペックを踏襲しながら、カーボンレイアップの変更などで約100gもの軽量化と乗りやすさを実現。さらにドイツの軽量パーツブランドPRC製のハンドル、ステム、シートピラー。ロックショックスのサスフォークを採用するなど、アセンブルパーツを更新。優れたハンドリングとトラクション性能に磨きをかけている。

近年主流となっている細身のシートチューブに加えフレックス・ステイの採用で振動を吸収近年主流となっている細身のシートチューブに加えフレックス・ステイの採用で振動を吸収 PRC TEAMステムはチタンボルトの採用で重量約120g。アングルは17度PRC TEAMステムはチタンボルトの採用で重量約120g。アングルは17度

マルチヴァン-メリダ・バイキングチームにはSRAM XX1コンポーネントに加え、カーボンリム+CULTセラミックベアリングハブでハンドビルドしたフルクラムのチューブラー/チューブレスホイールセットが提供される予定だが、このモデルにはSRAM X.Oにフルクラム・レッドメタル29XLをアッセンブル。
また新たに15インチサイズが用意されるという。

SRAM マッチメイカーXクランプによりブレーキ、シフター、ロックアウトレバーを一体化SRAM マッチメイカーXクランプによりブレーキ、シフター、ロックアウトレバーを一体化 片面がフラットになっているPRC カーボンフラットバーで、ポジションの微調整が可能片面がフラットになっているPRC カーボンフラットバーで、ポジションの微調整が可能


BIG.SEVEN Carbon Team  27.5インチを採用したXCレーサー

BIG.SEVEN Carbon TeamBIG.SEVEN Carbon Team (c)Hideyuki.Suzuki
昨シーズンのニノ・シュルター(スコット、スイスパワー)によるワールドカップXCOでの活躍で一躍注目を集めた27.5インチ(650B)ホイール。メリダでその企画を採用したCXCマシンがBIG.SEVEN Carbon Teamだ。

27.5インチは、26インチのコントロール性能と29インチの走破性を兼ね備えた規格として、さまざまなメーカーが採用したことで新たなトレンドとして確立しつつある。
ジャイアントやスペシャライズド、トレックといった大手がこの規格のバイクへの参入を控える中、メリダはマルチヴァン-メリダ・バイキングチームの主軸であるホセ・アントニオ・エルミダ・ラモスを開発の中心に据え、昨年夏にアルミフレームのプロトタイプを完成させていた。そしておよそ10ヶ月にわたるプロセスを経て誕生したのがBIG.SEVENだ。

造形が特徴的なヘッドチューブ。転倒時にハンドルバーやレバーがフレームに接触するのを防ぐFSAヘッドブロックも、メリダならではの機構造形が特徴的なヘッドチューブ。転倒時にハンドルバーやレバーがフレームに接触するのを防ぐFSAヘッドブロックも、メリダならではの機構 BIG.NINEとは異なりリアブレーキキャリパーはステイの内側にマウントされるBIG.NINEとは異なりリアブレーキキャリパーはステイの内側にマウントされる

同社のハイエンドカーボンモデルの特長であるナノマトリクス・カーボンで作られたフレームは全くの新設計となり、単体重量1060g(18インチ)と発表されている。斬新なデザインのヘッドチューブから、BB386規格のクランク周りを経て142×12mmスルーアクスル採用のリアエンドに至るまで、高剛性とペダリング性能を重視してデザインされる。

セミエアロシェイプの軽量リムXDライトにマキシス・クロスマーク27.5を装着セミエアロシェイプの軽量リムXDライトにマキシス・クロスマーク27.5を装着 路面からの細かい振動を吸収しつつペダルパワーを後輪へと伝えるボックス構造のチェーンステイ路面からの細かい振動を吸収しつつペダルパワーを後輪へと伝えるボックス構造のチェーンステイ

フレックス・ステイとバイオファイバー・ダンピングコンパウンドを採用したリアトライアングルにより、リアの突き上げによるライダーの疲労軽減と旋回性能の向上も実現したという。このリアトライアングルをより機能させるため、リアブレーキはシートステイとチェーンステイの内側にマウント(メリダでは"チェーンステイ上"と表現)され、ブレーキホースも内装式となった。

三角断面のシートステイ。天然由来の高分子素材「バイオファイバー」をレイアップすることで振動吸収性を高めている三角断面のシートステイ。天然由来の高分子素材「バイオファイバー」をレイアップすることで振動吸収性を高めている アングル7度のPRC ステム。ヘッドブロック使用時には専用のスペーサーで固定する必要があるアングル7度のPRC ステム。ヘッドブロック使用時には専用のスペーサーで固定する必要がある

今回発表されたモデルには、ロックショックスSID 27.5、SRAM XX1コンポーネンツにアレックスXDライトリム+DTスイス240sハブ、プロロゴサドルが装着されていたが、発売の際にはフルクラムの27.5インチモデルへと変更される可能性が大きいだろう。

軽さを追求するためか、9mmQRを採用するSID XX 27.5軽さを追求するためか、9mmQRを採用するSID XX 27.5 「山々と道」をモチーフにした新しいヘッドマーク。ロゴデザインも変更されている「山々と道」をモチーフにした新しいヘッドマーク。ロゴデザインも変更されている カーボンインジェクションベースを採用したプロロゴ NAGO Evo X10に、重量150gのPRC SP2カーボンシートポストカーボンインジェクションベースを採用したプロロゴ NAGO Evo X10に、重量150gのPRC SP2カーボンシートポスト


BIG NINETY-NINE Carbon Team ロッカーリンクとスイングアームがカーボン化

BIG NINETY-NINE Carbon TeamBIG NINETY-NINE Carbon Team (c)Hideyuki.Suzuki
2013年モデルとして発表されたメリダのフルサス29インチモデルは、XCマラソンだけでなくXCOにも対応していることを、昨年のU23世界チャンピオン獲得によって実証してみせた。
新たに加入したアンドレイ・ティンクとトーマス・リッチャーがメインバイクとして使用する2014年の先行モデル BIG NINETY-NINE Carbon Teamは、ロッカーリンクを含めスイングアームまでカーボン製となりフレーム重量も1900g(18インチ)と、さらに軽量化されているが、数値だけでなくハンドリング性能の向上にも貢献しているという。

ペダルボブを抑えながら高いトラクションを生み出すリアサスペンションシステムペダルボブを抑えながら高いトラクションを生み出すリアサスペンションシステム UDカーボンによるロッカーリンクは、軽量化にも貢献しているUDカーボンによるロッカーリンクは、軽量化にも貢献している


またチームのサスペンションサプライヤーがロックショックスになったことに伴い、前後サスペンションにはSID XXとリモートロックアウト機構付きのモナークXXを装着。コンポーネントはSRAMの11速システムXX1を搭載する。ホイールは、発表されたばかりのXX1対応ハブ付きフルクラム・レッドメタル29XLを装着している。

20mmアクスルを採用した100mmトラベル のSID XXを装備20mmアクスルを採用した100mmトラベル のSID XXを装備 リモートロックアウトを装備したロックショックス・モナークRT3を採用リモートロックアウトを装備したロックショックス・モナークRT3を採用 チームカラーが施されたSRAM X.Oリアディレイラーチームカラーが施されたSRAM X.Oリアディレイラー


ONE-FORTY B 27.5インチ化された145mmトラベルモデル

メリダONE-FORTY BメリダONE-FORTY B (c)Hideyuki.Suzuki
世界的に流行の兆しを見せる、下り基調のロングライド&コンペティション"エンデューロ"に対するメリダの回答が、27.5インチ化された145mmトラベルモデル ONE-FORTY Bだ。
ヘッドエンジニアのユルゲン・ファルケ氏は、26インチからの変更について「ホイールの大径化は、特にサスペンションデザイナーにとって悪夢だった」と、10種以上に及ぶ仕様変更の苦労を表現した。トップチューブに貼られた「PROTOTYPE」のステッカーが示すとおり、このバイクもまた「開発途上」としてジオメトリーや細部の修正が続けられている状態。
バイクコンセプトを「26インチよりスムーズで、29インチよりもプレイフル」として、13年モデルよりもヘッドチューブを10〜25mm短く、反対にトップチューブは15〜35mmも伸ばしている。

26インチモデルに比べ溶接面積が増えたことで、力強さを感じさせるフロント周り26インチモデルに比べ溶接面積が増えたことで、力強さを感じさせるフロント周り メリダらしさを強調するXテーパーヘッドチューブ。ダウンチューブはガセットレスデザインメリダらしさを強調するXテーパーヘッドチューブ。ダウンチューブはガセットレスデザイン

VPK(Virtual Pivot Kinematics)と名付けられたリアサスペンションシステムは、リアショックの動きに対し、2つのリンクが同じ方向に回転することで仮想ピボット位置を適正化。加速時のペダルロスを抑えながら、適度なキックバックでトラクションを作り出し、大きなギャップを通過する際には衝撃をスムーズに吸収する。

ペダルボブを感じさせない穏やかな初期動作と大入力に対するレスポンスの良さが印象的なVPKシステムペダルボブを感じさせない穏やかな初期動作と大入力に対するレスポンスの良さが印象的なVPKシステム VPK(Virtual Pivot Kinematics)に最適化されたロックショックス・モナークRT3VPK(Virtual Pivot Kinematics)に最適化されたロックショックス・モナークRT3

2014モデルでは新たにロックショックスのモナークRT3のサスペンションユニットを採用。SRAM XX1との組み合わせにより、ロスのない加速、登坂性能を示し、ロックセクションなど荒れた路面では、フロントに装着されたレヴェレーション27.5(150mmトラベル)とのコンビネーションにより、高い速度域でも安定した路面追従性を実現。試乗したメディア、ディーラーの多くが「可変シートポストをつけてこのまま市販して欲しい」と好印象の様子だった。



次回は各主要モデルに実際に乗ってみてのインプレッションをお伝えする。
photo&text : 鈴木英之 Hideyuki.Suzuki 提供:ミヤタサイクル