前回の野辺山シクロクロスの行われたシングルスピードの部では新たな可能性を知ったのですが、その後あるイベントに目がとまったのでした。それは5月21日に行われるシングルスピードMTBジャパンオープン(SSJ)

なんでも、「毎年行われるシングルスピードMTB世界選手権の選考会を兼ねた大会です」って、ここまでサラリと書いてきましたが、冷静に考えると“シングルスピード”の“MTB”、しかも“世界選手権”ですよ。なんだかいろんなミスマッチがあるような・・・。

SSWC(シングルスピード世界選手権)を走る北澤コウ選手。自由な気風に満ちたシングルスピードの世界はコスチュームもユニークだSSWC(シングルスピード世界選手権)を走る北澤コウ選手。自由な気風に満ちたシングルスピードの世界はコスチュームもユニークだ 「だってMTBって起伏のあるオフロードを走るためのものでしょ?アスファルトよりもスピードの変化は激しいし、そんなところをシングルスピードで走るって、なんでそんなに不便なことしてるの?」
シングルスピードMTBと聞いて、かなりマニアックな世界だと思っている皆さま、そう思うのも無理はありません。MTBに親しんできた私もそう思っていたのですから。

そんなところへ、このSSJのプレイベントが開催されるというお知らせが編集部に。早速シングルスピードMTBを体験し、楽しんでいる方々の話しを聞こうと、会場となるさがみ湖リゾートプレジャーフォレストに向かったのでした。

SSJのゼッケンは紙皿!SSJのゼッケンは紙皿! こんなベビ柄の素敵なハンドルのバイクがこんなベビ柄の素敵なハンドルのバイクが


シングルスピードMTBの魅力を語るのは、テレビ司会者で根っからのシングルスピードマニアのマイケル・ライズさん、アメリカを拠点にレース活動を行うMTBレーサー池田祐樹選手、元MTB-XC選手でオリンピック日本代表もつとめた竹谷賢二さん、現役エリートMTBライダーの松本駿選手(トレック)、それにこのイベントの主催者のひとりで昨年のシングルスピード世界選手権の日本代表(?!)でもある、OS BIKES JAPANの北澤コウさんの5人だ。

それでは、ここからは対談形式で皆さんに大いに語ってもらいましょう!

シングルスピードMTBとの付き合いはどのくらいですか?

シングルスピードMTBでJシリーズエリートクラスに出場経験をもつマイケル・ライスさんシングルスピードMTBでJシリーズエリートクラスに出場経験をもつマイケル・ライスさん マイケルさん「シングルスピードには、もう10年以上前から乗っています。最初は使っていなかった古いバイクを、お金をかねないで遊ぼうと思ってシングルスピードにしたのがキッカケ。でも軽量マニアなので、お金がすごく掛かっちゃうんだけど」

池田さん「僕はアメリカでMTBに乗り始めて、アメリカで6年間レース活動をしていましたが、一緒に走っている人にずっと「シングルスピードに乗れ」といつも言われていて、ようやく去年から乗り始めました。古いフルサスバイクにテンショナーを付けて乗り始めたんですが、かなりハマってしまって、今では週に3回くらい乗っています。トルクの掛け方やパワー伝達の練習になるので、アメリカではトレーニングに使っている選手も多いんです。」

アメリカのシングルスピード事情を語るのは池田祐樹選手アメリカのシングルスピード事情を語るのは池田祐樹選手 松本さん「シングルスピードには結構乗っています。ことの発端はシンプルにして乗ってみたいと思ったんです。アメリカなどのネットの情報を集めて実際に乗ってみたら面白かった。とはいえ、シーズン中にはなかなか乗れないので、いまは秋限定で乗っています。」

竹谷さん「何を隠そう、5月のイベント(SSJ)のために初めてバイクを用意しました。一昨年に選手を引退してから自転車の楽しさを伝えようと色んなことに取り組んでいて、今年はトライアスロンとシングルスピードという、まさに両極端に取り組もうと思っています。」

北澤さん「僕も最初からシングルスピードバイクに乗っていたわけではないんです。初めて乗ったMTBはサーリーのカラテモンキー。ノーマルなギア付きモデルでした。古い物が好きなので、それには昔のサムシフターを付けていたんです。でもそれでトレイルに行ったらシフト操作がすごく難しくて・・・乗るたびに苦労して、こりゃ僕にはダメだ!と思ったんです。あるときシングルスピードMTBというのがあることを知って、これだったらギアチェンジをしないで済む、と思って乗ってみたらすごく楽しかった。29インチとの相性もいいですし。それからです。」

ご存知、竹谷賢二さんもシングルスピードの魅力を再発見ご存知、竹谷賢二さんもシングルスピードの魅力を再発見 竹谷さんがSSJのために用意したスペシャライズドの29インチSSバイク竹谷さんがSSJのために用意したスペシャライズドの29インチSSバイク


どういうふうにシングルスピードを楽しまれてますか?

ギャラリーの声援を受けて坂を登る池田祐樹選手ギャラリーの声援を受けて坂を登る池田祐樹選手 マイケルさん「MTBのエリートクラスをリタイアしてから、ずっとシングルスピードに乗っています。たぶんJシリーズのエリートクラスでシングルスピードで走ったのは、私だけだと思います。そのときは、150mmのサスペンションバイクをシングルスピードにして走ってた。それと去年、イベントのために仙台から東京まで1日で400km以上を、サルサのシングルスピードMTBで走りました。そのために新幹線で仙台まで自転車持って行って・・・そこから21時間かけて走ってきました。みんなから"ヘンタイ"っていつも言われている(笑)。」

池田さん「アメリカでは、ほぼ全てのMTBレースにシングルスピードカテゴリーがあるんです。草レースから、ナショナルカテゴリー、100マイルの長距離レースや、最近ではステージレースでもシングルクラスがあるんです。ステージレースではコースによって、その日のギアを変更していくんですよ。僕が居たコロラドでは、29インチでシングルスピードが主流になっています。トレイルでシングルスピードMTBに出会う確率はすごく高いですよ。」

ギア付きバイクとの違いってなんですか?

竹谷さんもシングルスピードMTBで激坂を上る竹谷さんもシングルスピードMTBで激坂を上る マイケルさん「ギア付きバイクと一緒に走ると上り返しで一生懸命ギアを変えようとするでしょ、でもこっちは上りの手前で勢いつけて上って行くから、そういうところではギア付きより速いですよ。あと下り始めもギア付きより速い。独特の走り方を憶えると、シングルスピードの方が速いところが結構あります。ギア付きはギアの選択でスピードが決まっちゃうけど、シングルスピードは走り方でスピードが決まってくるのが単純で面白いですね。」

松本さん「ギア付きだと皆さんは、上り坂でギアを軽くしてからスピードを落として登り始めるんです。そうするとギアを軽くしてからもう一回踏み直さなきゃいけない。でもシングルスピードだと軽く出来ないから、みんな逆に勢いをつけて上り始めるんです。坂の手前でスピードが上がる。これってじつは、トップクラスのレースではごくあたり前のことなんです。少しでも効率よく坂を上らないといけないので。そういうことが、シングルスピードでは自然に味わえる。だから選手にとっても、シングルスピードで練習するのは、とてもいいことですね。」

竹谷さん「今日みなさんと走って感じたのは、多少の体力の差はあっても、大体同じ速度の中で収まってくるということですね。だからストレス無くみんなで遊べるなって思いますね。これがギアが選べてサスペンションが良くて、となると行ける人はトコトン行ってしまって、そうでない人はそれなりになってしまう。でもシングルスピードなら、みんなそれなりにしか早く走れないですからねぇ。今日は僕らも結構キツかったし。そういう近い幅の中で遊べる楽しさがありますね。」

トレックの松本駿選手もシングルスピードMTB愛好者とは、ちょっと意外トレックの松本駿選手もシングルスピードMTB愛好者とは、ちょっと意外 松本駿選手の愛車はもちろんトレック トップフューエル松本駿選手の愛車はもちろんトレック トップフューエル


ところで、シングルスピードMTBの日本選手権が初めて開催されるそうですが?

池田選手がこの日乗っていたのはOS BIKESのシングルスピード池田選手がこの日乗っていたのはOS BIKESのシングルスピード 北澤さん「いろいろと情報を集めているうちに、シングルスピード世界選手権というイベントがあることを知りました。もうみんなバカみたいに仮装してて、変なルールもいっぱいあるんです。コースの途中にビールが置いてあって、それを飲めば近道出来る「ビールショートカット」とか、優勝すればタトゥーを入れられるとか。
すごく楽しい雰囲気なので早速エントリーしました。僕以外には日本からだれも行っていなかったので、勝手に “日本代表” を名乗って行ってきました(笑)。世界各国から出場者が集まっていたのですが、意外だったのはシンガポールやフィリピンといった、あまりMTBがメジャーではなさそうなアジアの国からも来ていたことです。この楽しさを日本でも広めていきたいと思って、訳も判らず実行委員を組んで、初めてのシングルスピードジャパンオープンを開催することになったんです。」

もちろんシングルスピード世界選手権(SSWC)には、走りに本気の参加者も参戦するもちろんシングルスピード世界選手権(SSWC)には、走りに本気の参加者も参戦する 池田さん「一昨年にシングルスピードの世界選手権がアメリカであったので見に行きました。みんなの仮装が楽しい大会なんですけど、じつは出ている人がスゴくて。ファクトリーチームのトップ選手も出場しているんです。しかもスゴい仮装をしてるけど、走ると真面目に速いという。なんかそういう奥深さを感じますね。」


なんだか意外な発見や「な〜るほど!」と思えることまで、しかしシングルスピードの世界がここまで奥深いとは。シンプルな分だけさまざまな楽しみを秘めいるシングルスピード、恐るべし!って感じです。
ちなみにご紹介している、シングルスピードMTBジャパンオープン(SSJ)は5月21日にさがみ湖リゾートプレジャーフォレストで日本初開催。誰でも参加出来るので興味をもった方はぜひ。



text,&photo: Takashi Kayaba