東京北西部に広がる狭山丘陵エリアを舞台に開催された”サヤマヒルズライド”。MTBをより身近に、自然を楽しむツールとして提案する地域密着型のイベントをレポート。


 
多摩湖や狭山湖からは空気が澄む冬には遠くに富士山を望むことも出来る多摩湖や狭山湖からは空気が澄む冬には遠くに富士山を望むことも出来る
都民の水がめ、多摩湖と狭山湖。多摩川の羽村取水堰から送られた水を貯め込む貯水池として、昭和の初めに造られた人造湖の周辺には、水源涵養林として広大な緑地が広がっている。南は東村山市、東大和市、武蔵村山市、瑞穂町、北は所沢市と入間市の計6市町に接する狭山丘陵は、人々の営みと隣り合いつつ武蔵野の面影を今に残す貴重なエリア。

オオタカの生息地としても知られ様々な渡り鳥が飛来するため、バードウォッチングに勤しむ人々の姿もたくさん。多摩湖や狭山湖からは空気が澄む冬には遠くに富士山を望むことも出来、一年を通して多くの人々が自然を楽しみに訪れるエリアでもある。ちなみに我らシクロワイアード編集部も多摩湖の南側にあり、普段から編集部員も周辺を良く走っている馴染み深い一帯でも。

さて、そんな狭山丘陵の魅力を伝えるべく開催された自転車イベントが、「サヤマヒルズライド」。多摩湖の東岸に位置する狭山公園で行われたキッズバイクイベントと、狭山湖の南側に位置する「かたくりの湯」で行われたMTBイベントという2つの催しを同時開催した広域連携イベントだ。

レンタサイクルも用意されていましたレンタサイクルも用意されていました 子供も初めてのMTBでテンションアップ子供も初めてのMTBでテンションアップ


西多摩マウンテンバイク友の会の会長でもあるナカザワジムの中沢さん西多摩マウンテンバイク友の会の会長でもあるナカザワジムの中沢さん キッズたちも準備万端だキッズたちも準備万端だ


今回はかたくりの湯で行われたMTBイベントへ。朝9時の開場に合わせて編集部を出発。自走で15分ほどと目と鼻の先の距離で、いつものイベント取材に比べても楽々(笑)。会場周辺には沢山のMTBライダーの姿があり、狭山丘陵近郊に住むMTBerが詰めかけているのかと思うほどの盛況ぶり。

色々な催しがある中で、メインとなるのが狭山丘陵に張り巡らされた林道を体験できるMTBガイドツーリングだろう。2つのコースが用意され、それぞれ魅力の詰まったコース設定となっているが、今回は狭山湖を一周するコースへ。どちらも初心者ウェルカムなイージーライドとなっており、MTBが初めてという方も沢山。レンタルバイクで参加する方も多く、まずは試乗コースでMTBに慣れるところから。

簡単なレクチャーを受けて、出発だ簡単なレクチャーを受けて、出発だ
こちらは里山ライドへ参加のみなさんこちらは里山ライドへ参加のみなさん 林道ライドへ出発です林道ライドへ出発です

まずはMTBに慣れるところから始めますまずはMTBに慣れるところから始めます
コースをガイドしてくれるのは西多摩マウンテンバイク友の会のメンバーの皆さんだ。西多摩マウンテンバイク友の会は、瑞穂町でお店を構えるナカザワジムの中沢店長が発起人となり、地域との交流を通してMTBを認知してもらい、走れる場所を増やしていこう、という活動をしている団体。かたくりの湯に隣接する野山北・六道山公園も西多摩マウンテンバイク友の会が精力的に活動し、MTBライドを楽しむことが出来る環境づくりを行っている場所だ。

そんな周辺のコースを知り尽くした皆さんのガイドのもと、かたくりの湯を出発。ほんの少し舗装路を登ったら、あっというまに六道山公園の中のダートコースへ。シンと澄み切った冬の空気を心地よく感じつつ、整備された林道を走っていく。ピークは過ぎたものの紅葉目当てのハイカーの方もいらっしゃるので、すれ違う時はスピードを落として挨拶を忘れずに。そんなこともガイドさん達がしっかりと教えてくれる。

今回の里山ガイドツアーに参加されたみなさん今回の里山ガイドツアーに参加されたみなさん
落ち葉に舗装された道を行く落ち葉に舗装された道を行く 里山民家へつづく分かれ道 今回は真っすぐだ里山民家へつづく分かれ道 今回は真っすぐだ


MTBライダーも多く行きかっていたMTBライダーも多く行きかっていた こんな看板も設置されている 自転車が走ることが前提とされているのは地道な活動の賜物だこんな看板も設置されている 自転車が走ることが前提とされているのは地道な活動の賜物だ


鬱蒼とした森の道を行く鬱蒼とした森の道を行く
途中に休憩を挟みつつ、狭山丘陵周辺の自然や公園についてレクチャーを受けたり、西多摩マウンテンバイク友の会の活動について教えてもらったり。ちょっとしたアップダウンはあるものの、基本的にはフラットなダートを快適に走っていくとあっという間に狭山湖へ。

湖畔沿いの展望台からはくっきりと富士山の姿が。冬ならではの空気の良さを体感しつつ、ちょっとした休憩タイム。東大和市名産(?)のブラックサンダーも登場し、ちょっとカロリーを補給したらかたくりの湯へ戻っていく。

堤防道路を走っていきます堤防道路を走っていきます
ガイドが無ければ気づいていなかったようなケモノ道を走っていくガイドが無ければ気づいていなかったようなケモノ道を走っていく 大人になってもこういう裏道は探検気分で楽しいもの大人になってもこういう裏道は探検気分で楽しいもの


その先には怪しげな雰囲気のトンネルがその先には怪しげな雰囲気のトンネルが 薄暗いトンネルを走りぬければ間もなくゴール薄暗いトンネルを走りぬければ間もなくゴール


舗装路をつなげばアッという間にフィニッシュ地点へと着くのだけれど、そこはやっぱり寄り道したいよね?ということでもう一つのスポットへ。ガイドされなければ絶対知らなかったような細ーいけもの道のようなルートをいくつかつなぎ、現れたのは(ちょっと心霊的な)雰囲気のあるトンネル。実は昔、狭山湖を建設する際に使われていた鉄道の遺構だそうで、現在は自転車道として保存されているのだとか。そんな4つのトンネルを次々に抜ければ、かたくりの湯はもうすぐそこ。距離にして20kmほどのライドだけれど、オフロードでの20kmはオンロードのそれとはやっぱり満足感が違うもの。無事に走り終えた皆さんも晴れ晴れとした表情だ。

陽も中天に登った頃合いで、会場には多くの人が訪れていた。西多摩マウンテンバイク友の会の活動を紹介するブースや、狭山丘陵の魅力を伝えるブース、地元のグルメを楽しめるブースの他、GTやスペシャライズドが出展し、最新のMTBを試乗できる機会ともなっていた。特にGTはキッズバイクからハイエンドなトレイルバイクまで用意しており、幅広い年齢層のライダーが試乗体験していたようだ。

GTのMTBの試乗も楽しめるGTのMTBの試乗も楽しめる GTは子供車も用意していた GTは子供車も用意していた 


フォトスポットを巡るフォトラリーも開催されていたフォトスポットを巡るフォトラリーも開催されていた
スペシャライズドも出展 様々なグレードの試乗車を用意していたスペシャライズドも出展 様々なグレードの試乗車を用意していた ヨツバサイクルはキッズ向けのコースを設営ヨツバサイクルはキッズ向けのコースを設営


ちょっとしたパンプセクションなども設けられていたちょっとしたパンプセクションなども設けられていた この日のために特別に用意された試乗コースこの日のために特別に用意された試乗コース


また、キッズMTBを中心に手掛けるヨツバサイクルは子供たちが走り回って楽しめるバルーンコースを用意。ちょっとしたセクションが設置されたコースを何周も走り、ヘトヘトになるまで遊んでいたようだ。他にも、多摩湖周辺のフォトスポットを巡るフォトラリーなども開催されており、まさに大人から子供まで楽しめるファンでポップな1日となっていた。そんな素敵なイベントの仕掛人である中沢さんにお話を伺った。



「もっと子供たちが自由に遊べる環境を残したい」中沢清(ナカザワジム/西多摩マウンテンバイク友の会)

西多摩マウンテンバイク友の会会長であるナカザワジムの中沢さん西多摩マウンテンバイク友の会会長であるナカザワジムの中沢さん
10年前、MTBで走れる場所がどんどん減ってきてたんです。それはひとえに公園管理事務所とか自治体の人達とのコミュニケーション不足だったんですよね。そこで、「なにかMTBで迷惑をかけてないですか?」とお尋ねしたら、色々と問題があることが分かったんです。勝手に私有地に入ったとか、自動車を放置しているとか。あとは、ハイカーの人たちから「マウンテンバイクがすごいスピードで走ってくる」というクレームもありましたね。でも、その時に一緒に問題を解決していきましょうという話になって、活動を始めたんですよ。

しばらくマナーアップの喚起や公園管理のボランティアとか、自治体のお手伝いをしていたら、良い関係を築けたんです。そこで、しっかりとしたボランティア団体を立ち上げることにしたのが、西多摩マウンテンバイク友の会なんです。個人の気持ちでは無くて、しっかりと後に残る活動をしようと思ったんですよね。そうして活動するなかで、六市町と公園が連携して狭山丘陵の魅力を伝えるような観光事業をやろう、という話があって声を掛けていただいたんです。

それで、狭山丘陵を楽しむのには自転車がちょうどいいんですよ!という話から始まり、皆さんをアテンドしてMTBで一緒に走ってみたところ「これは良いね、楽しいね」と(笑)。それでこのサヤマヒルズライドに繋がったんです。

今日、これだけの人が集まるイベントが出来たのは、一つの通過点なんだと思います。初めてMTBに触れる人もいて、子どもたちも沢山集まってくれて。自然に触れあって、風を感じて、狭山丘陵を丸ごと楽しめる。そんなMTBの魅力を味わってもらうためにも、しっかりしたルールを提示していけたらな、と思っています。

子供たちを見守る中沢さん子供たちを見守る中沢さん
MTBを買った人って、乗って遊びたいわけじゃないですか。でもその場所が少ないから、僕たちはこういった活動をしていて。もちろん興味があればボランティア活動にも参加してもらえれば嬉しいんですけど、全然強制されるようなことじゃないです。楽しく遊んでもらいたいんですよね、それで地元の人に迷惑がかからなければ良いですし、そういう場所をどんどん広げていきたいんです。

そして、狭山丘陵はみんなで楽しく遊ぶためにぴったりのロケーションだと思います。コース自体はイージーだけど、走りを突き詰めていくと奥が深い。大人でも軽いギアで走るとジンワリと効いてきますし、道に合わせた体の使い方を詰めていくと、よりスマートにスムーズに走れるようになる。余裕をもって自然の中で遊ぶような、ジェントルな楽しみ方がこのエリアには似合います。また、ときにはマウンテンバイクを下りて歩いてみることで、狭山丘陵のもつ魅力をより深く感じられると思いますし、歩いている人の立場も分かったりするのでおすすめです。

そのためにも、ルールやマナーを学べるような広場があると良いですね。特に子供たちが中心になって自由に遊べるような自転車広場をつくってあげたいですね。僕たちが遊んできた分、次の世代にはより良い環境を残してあげたいと思ってるんですよ。

text&photo:Naoki Yasuoka
取材協力 ライトウェイプロダクツジャパン