ツール・ド・おきなわでも勝利経験のある店長の岩島啓太さん(エイジサイクル)が台湾で行われたアマチュアステージレース、デフ・ツール・ド・フォルモサに参戦したレポートをお届け。第3ステージから第6ステージまでの模様を紹介する。



◆11/6第3ステージ
コース:台中→台南 距離175km 獲得標高190m
天候:晴天 31℃

台湾の町の中を進むプロトン台湾の町の中を進むプロトン (c)Cycling Formosa Deaf
朝から天気が良く、日差しも強い。今大会最長となる175kmの平坦コースで今回も逃げグループに気を付けながら走る。パレードが解除したあたりで2名の逃げが発生。100kmを過ぎたところで集団が活性化し、前の逃げにブリッジをかける動きが勃発。初日3位、第2ステージで優勝している微程式の劉選手が鋭いアタック。私も便乗してペースアップ。劉選手は後続が連なって追ってきているのを見て踏みやめたが、私はそのままの勢いで踏み倒し前の数名の逃げに追い付くことに成功した。

逃げメンバーはデフチームからベルギーのFauconnier(フクニ)選手、スロバキアのBabic(バビック)選手、日本の早瀬憲太郎選手。健聴チームからE-maの王(ワン)選手、微程式の林(リン)選手、SNYの呉選手、FTLの麦(マイ)選手、MONTONの鄧(トウ)選手、私の9名。この時はまだわからなかったのだが、最終ステージまで総合争いをするメンバーがこの中に皆入っていた。

多くの有力選手を含む逃げグループ多くの有力選手を含む逃げグループ (c)Cycling Formosa Deaf
時々ローテーションが乱れて回らなくなったが、ローテーションをジェスチャーで促し積極的に前を牽き、後続との差を着実に広げていった。ラスト3kmくらいから呉選手がキレのあるアタックを繰り出し集団を引きちぎり独走でゴール。22歳の若い選手で、センスのある走りを見せ、強敵であることが確認できた。

私は2番手でゴール。早瀬選手もデフの2番手でゴールし、日本チームは良い結果で満足なレースが出来た。後続の大集団との差は2分半、フクニ選手が総合トップに躍り出た。私はこの時点で総合2位。

キレのあるアタックで集団から抜け出し、ステージ優勝した呉選手キレのあるアタックで集団から抜け出し、ステージ優勝した呉選手 (c)Cycling Formosa Deaf
◆11/7第4ステージ
コース:台南→墾丁 距離164km 獲得標高550m
天候:晴天 32℃

第4ステージは、ほぼ平坦でラスト3kmが登りコースのレイアウト。この日も日差しが強い1日が始まった。かけ水や氷等の補給をチームカーまで下がって取ってくる役割を買って出てくれた中原選手に感謝。補給が無いと完走は危ういほどの暑さだった。

第4ステージで常にマークされるイエロージャージを着た呉選手第4ステージで常にマークされるイエロージャージを着た呉選手 (c)Cycling Formosa Deaf
しかしここで今大会最大の事件が発生、アタックがかかり始めたレース中盤に集団後方にいたデフ・ジャパンチームと中原選手が落車に巻き込まれ、中原選手と早瀬久美選手がDNF。早瀬憲太郎選手はかろうじて集団に追い付いたがかなりの重傷を負ってしまったようだ。今後のステージがかなり厳しい状況。その隙に健聴チーム6名の逃げが発生しタイム差が開いていった。

ラストの登りまで早瀬憲太郎選手のデフグループの順位を落とさないようにするため、デフの選手、特にスロバキアのバビック選手、ベルギーのフクニ選手、ハンガリーのFoldi(フォルディ)選手をマークしながらアシストの走り。途中アタックを潰すためにバビック選手とフォルディ選手が飛び出た際に反応しつつも先頭交代を一切拒否したら、デフの選手なので罵声はないもののジェスチャーで怒りをぶつけられた。しかし冷静に2人を集団に引き戻す。

レース後半に出来た逃げグループレース後半に出来た逃げグループ (c)Cycling Formosa Deaf
アシストワークで相当脚を使いつつもラストの登りへ。ここは力勝負をする以外ないので、呉選手と争いながら全開で登り先頭でゴール、逃げは6名いたので7位でゴールした。逃げには前のステージで一緒に逃げた鄧選手が含まれていたため、今度は鄧選手が総合首位に立った。

◆11/8第5ステージ
コース:墾丁→壽卡 距離68km 獲得標高1030m KOMあり
天候:晴れ 28℃

第5ステージ、強風吹き荒れる海岸線を逃げるバビック選手と岩島選手第5ステージ、強風吹き荒れる海岸線を逃げるバビック選手と岩島選手 (c)Cycling Formosa Deaf
この日は短いながらも登りが4か所ありコースも細いため、逃げる気満々でスタートラインに並ぶ。リアルスタート後の2つ目の山頂で、6名の逃げが発生しそこにうまく乗ることが出来た。曲がりくねった下りで後続の大集団との差を一気に広げていく。3つ目の丘も越え海岸線に出ると前を牽きたがらない選手が何名か。どうもエースのアシストとして先頭に送り込まれたようだ。

一緒に行けそうなスロバキアのバビック選手だけを少し前に行かせ、ちょっとした登りでアタックし他の選手を置き去りにする。一気に差が開いてバビック選手と一騎打ちになった。ラストの20kmは緩斜面が時折入る登り基調のレイアウト。ここを2人で先頭交代しながら登る。

得意な緩斜面に入るとリズムが乗ってきて私がほぼ先頭固定になった。5kmほど登るとバビック選手が遅れはじめた。私は残り15kmをそのままペースを緩めず走り切りゴール。全開で苦しみながら登り続け、なんと後続に3分の大差をつけることに成功し、会心のレースが出来た。遂に総合首位に躍り出た。

後続に3分の差を付け先頭でゴールした岩島啓太さん後続に3分の差を付け先頭でゴールした岩島啓太さん (c)Cycling Formosa Deaf
◆11/9第6ステージ
コース:台東→花蓮 距離162km 獲得標高1230m KOMあり
天候:晴れ時々曇り 28℃

リーダージャージに袖を通し、正念場の最難関ステージ。コースの難易度だけではない難しさを体験したステージだった。マークする選手は総合上位の面々、王選手、麦選手、バビック選手、呉選手、SNYチームの蘇(スー)選手。特に王選手は強いと認識していたので、徹底マークしていた。

開始から40kmまでアタックの応酬で、マークしている選手はほぼチェックをいれて逃がさないようにする。だが、まだ120km残して私は疲弊しきってしまった。

そこで数名の逃げが発生。バビック選手、劉選手、呉選手、蘇選手、E-maのアシスト選手、早瀬憲太郎選手が乗っているようだ。総合上位が乗っているので、これは嫌な逃げになったなぁと思いながらも、今は追いかける気力と脚がない。王選手と麦選手が逃げに乗っていないだけまだマシか。しばらく回復に努めなければ。ゴール後に気づいたのだが、途中で呉選手は落車でステージリタイアしていたようだ。

補給はラインレースならではのチームカーまで下がって受け取る方式補給はラインレースならではのチームカーまで下がって受け取る方式 (c)Cycling Formosa Deaf
総合リーダージャージの黄色はやはり目立つ。前に出されるとしばらくは淡々と集団を牽かされる。この日全行程の半分くらいを牽かされたのではないかと錯覚するほどずっと集団の前にいた。

そうこうしているうちに逃げは2分以上先を行っているようだ。私はこの時点でバーチャルリーダーから転落する寸前。昨日せっかく全力で頑張って稼いだタイムを水の泡とするかどうか?最終ステージのヒルクライムで逆転できる確約も無い。

といっても早瀬憲太郎選手が逃げに乗っていたので、総合リーダーの私が逃げを追うに追えない状況を作り出した。これを逃げている他の選手が狙ってやったとしたら、策略家だな。早瀬選手はデフの上位を目指しているので、他のデフ選手とタイム差をつけたい、私は総合優勝を目指しているので総合上位の選手は逃がしたくない。同じジャパンチームとして両方の順位は狙いたい。

下りを攻めるスロバキアのバビック選手下りを攻めるスロバキアのバビック選手 (c)Cycling Formosa Deaf
あれこれ迷って考えた挙句に出した答えは、「逃げとのタイム差を少し詰め、後半のKOMの登りで追いつけそうなら他の選手をちぎって少人数で逃げに追いつく」という作戦。バビック選手は私をライバル視してくれているらしい。私もそれに応えて常に全力で相手に挑むというスポーツマンシップスタンスは崩したくない。できる範囲の妥協点を見つけ、この作戦で行くことに決めた。この時点で私が考えうる最善策。

そうと決まったら、同じ総合を争う立場であるE-maの王選手に話しかけ、「前に総合に絡む選手がいるので80~100km地点の間だけ協調して少しタイム差を詰めよう」ということで同意した。連日のハードワークで日本健聴チームも疲れていて、無茶はさせられない。私はE-maチームの数名と共に先頭交代し、逃げとの差を詰めに行く。やはりE-maチームは今大会で唯一チームプレイができる組織力を持っていた。

100km地点を過ぎ、KOMポイントが近づくと予想外に早瀬選手だけが落ちてきた。早瀬選手なりの考えがあって先頭でかなり動き回った後、戻ってきたようだ。

第6ステージで集団の先頭を引き続ける岩島啓太さん第6ステージで集団の先頭を引き続ける岩島啓太さん (c)Cycling Formosa Deaf
予定は狂ったが今度は第1ステージでアシストしてくれたお返しということで、齋藤選手のステージ優勝をアシストするために、登りに入り山頂までほぼ一本牽きする。疲れていてあまりペースは上げられないが、なんとか齋藤選手、王選手、麦選手、私の4名で前の逃げに山頂辺りで追いついた。少人数で逃げに追いつくという、予想していた理想の展開。これで8名の先頭集団、齋藤選手が得意とする小集団スプリントに持ちこめそうだ。

山頂KOMポイントは王選手の加速について行けず、獲られてしまった、これで私と同率1位。山岳賞は最終ステージに持ち越しとなった。次に待ち構える最後の登りも1本牽きで登る。疲れていてあまりペースが上がらないが、バビック選手が落ちて先頭は7名になった。

このままゴールまで行きたいが、流石に1人で平坦を牽き逃げ続ける力は残っていない。先頭交代を促すと皆疲れているためペースが乱れはじめ、結局後続の大集団に追い付かれてしまった。残念。

E-maチームが先頭交代に加わるE-maチームが先頭交代に加わる (c)Cycling Formosa Deaf
再び私が先頭固定となり集団は進む。残り3kmで単独アタックをする選手が出るが、私がマークしている選手以外は反応せずに淡々と集団を牽く。2名に逃げ切られ、スプリントは不発に終わったが無事集団ゴールできた。

この日は肉体的にも精神的にも疲れた。口の中が荒れまくって唇が紫に腫れあがった。なかなかできない貴重な経験をしたが、もう二度と経験したくないな。

vol.3へ続く