世界的な認知度を誇るサイクリングデスティネーション、しまなみ海道。そのロケーションを活かした国際大会「サイクリングしまなみ」が開催された。供用中の高速道路を封鎖し行う唯一無二のロングライドイベントへスポーツジャーナリスト・ハシケンが帯同したレポートをお届けしよう。



高速道路を走る サイクリングしまなみ2018高速道路を走る サイクリングしまなみ2018 photo:Kenji.Hashimoto
愛媛県今治市と広島県尾道市の6つの島々をつなぐ「瀬戸内しまなみ海道」。島に架る橋には自転車専用道路があり、今治駅から尾道駅まで全長76kmにわたってブルーラインが敷かれている。このブルーラインは、サイクリストの聖地として知られるしまなみ海道のシンボルだ。

10月28日(日)、このサイクリストの聖地が特別な1日を迎えた。世界23カ国・地域から、約7906人がエントリーした「サイクリングしまなみ2018」は、ブルーラインだけでなく、普段は自動車専用の高速道路上もコースになる。

朝陽が昇り、絶好のサイクリング日和になった朝陽が昇り、絶好のサイクリング日和になった photo:Kenji.Hashimoto
香港から参加の3人組とゲストの日向さん 香港から参加の3人組とゲストの日向さん  photo:Kenji.Hashimoto海外からの参加者も多く国際色豊か海外からの参加者も多く国際色豊か photo:Kenji.Hashimoto


スタートしていく約8000名のサイクリストスタートしていく約8000名のサイクリスト photo:Kenji.Hashimoto
本州と四国をつなぐ大動脈として、すでに島民の生活道路になっている自動車専用道路を通行止めにしてのイベントは、地元の住民や警察をはじめとする多くの人の理解があってこそ実現できたもの。よくある供用直前の高速道路のを利用した開通記念イベントとは意味合いが異なるのだ。これができてしまうのも、世界的なサイクリストの聖地としての自負があるからだろう。

正式名称「瀬戸内しまなみ海道・国際サイクリング大会 サイクリングしまなみ2018」は、2013年にプレ大会が開催され、以降2014年から2年に一度開催。7000人規模の大規模大会は2014年に次いで、今年で2度目。間の大会は中規模大会と位置づけ、3500人規模で行われる。つまり、今年の大会は、参加者数もコースも最大スケールで開催される4年に一度のプレミアムな大会なのだ。

コースマップコースマップ
今治ICからスタートした140kmCコースと70kmDコース今治ICからスタートした140kmCコースと70kmDコース photo:Kenji.Hashimoto
高速道路の今治ICの料金所ゲートを潜ってスタート高速道路の今治ICの料金所ゲートを潜ってスタート photo:Kenji.Hashimoto
前日には、世界29団体を招待して国際交流を深める「しまなみサイクリングサミット」(関係者のみ出席)が初めて開催。バイクニューヨークやケープタウンサイクルツアーなど、世界的な自転車イベントの主催者が出席した。

今や世界から注目を集めるしまなみ海道を世界のサイクリストへPRする機会にもなった。今大会、海外からのサイクリストは約770人がエントリー。全参加者のうち、およそ10分の1にあたる国際色豊かな大会へと成長した。

全長約4kmの「来島海峡大橋」全長約4kmの「来島海峡大橋」 photo:Kenji.Hashimoto
しまなみ海道がサイクリストで埋め尽くされる1日しまなみ海道がサイクリストで埋め尽くされる1日 photo:Kenji.Hashimoto
コースは、30km〜140kmまでバリエーション豊富に7つ用意され、どれも高速道路を走る区間がある。今治〜尾道間のワンウェイ70kmコースや、しまなみ海道とゆめしま街道を巡るコースなどがあり、中でも人気は、しまなみ海道を往復縦断する140kmコースだ。初心者から上級者までレベルに合わせてエントリーでき、総エントリー数は7906人、7200人あまりが秋晴れのしまなみ海道サイクリングを楽しんだ。

大会ゲストライダーの日向涼子さんは、最長140kmコース(Cコース)に参加。スタート会場の今治ICから、高速道路の料金所ゲートをくぐって140kmの長旅が始まった。この大会の魅力は、何と言っても高速道路上を走れるスペシャル感だろう。料金所を通過するとすぐにその特別感にカラダが高揚しだす。

トンネルも多い高速道路ではライト点灯を促すトンネルも多い高速道路ではライト点灯を促す photo:Kenji.Hashimoto
高速道路上の瀬戸田サービスエリアのエイドステーション高速道路上の瀬戸田サービスエリアのエイドステーション photo:Kenji.Hashimoto
エイドステーションは大混雑エイドステーションは大混雑 photo:Kenji.Hashimoto
中村時広愛媛県知事も絶好のサイクリング日和に笑顔中村時広愛媛県知事も絶好のサイクリング日和に笑顔 photo:Kenji.Hashimoto
140kmコースは今治ICから因島南ICまで43kmにわたって高速道路上を走る。最初の橋は、全長約4kmの「来島海峡大橋」だ。橋脚の真下を次々にくぐっていく体験は贅沢すぎる。最初の数キロほどは密集度が高かったものの、その後は2車線道幅いっぱいに広がって快調に駆け抜ける。普段、しまなみ海道を走ったことがある人なら、それが特別な体験であることは想像に難くないだろう。

そして、島に渡ると高速道路はブルーラインからも逸れて、島の中を縦断する。この橋と橋のつなぎの区間が、緩やかに起伏があって意外にも脚にくるのだ。でも、ちょっとキツイなと感じだした頃に、高速道路に架る道の上から地元の方々やボランティアスタッフからの声援が背中を押してくれる。コース脇には、等間隔にスタッフが立ち、コース案内板を掲げたり、簡易トイレの案内をしてくれている。高速道路と聞くと殺風景なイメージを持ちがちだけど、この日ばかりはそんなことはない。

地元の中学生のボランティアスタッフの皆さん 地元の中学生のボランティアスタッフの皆さん  photo:Kenji.Hashimoto
地元の方々も沿道で応援してくれた地元の方々も沿道で応援してくれた photo:Kenji.Hashimoto
船で向島から尾道市へと上陸船で向島から尾道市へと上陸 photo:Kenji.Hashimoto
大会のため特別に就航するサイクリングしまなみ専用船  大会のため特別に就航するサイクリングしまなみ専用船 photo:Kenji.Hashimoto
多々羅大橋を渡り、生口島へ入るとそこは広島県尾道市。約33km地点の瀬戸田PAで最初のエイド休憩だ。その後も、仲間やカップル同士で、海の上の高速道路サイクリングを堪能しきって、因島南 ICで一般道へと降りることに。

ここからはブルーラインに沿って島々をつなぐ一般道路のしまなみ海道を満喫する。因島の万田発酵エイドを経由して、自動車道路の真下に自転車道路が走っている二段構造の因島大橋を渡れば、いよいよ尾道へと渡る渡船が待っている。渡船は、普段も自転車と共に利用できるが、この日は参加者専用渡船として就航。高速道路同様に、官民一体となった上で、地元の理解あってこそ実現できる特別な演出だ。

和をイメージさせる大会記念ジャージ(左)。プレミアムエントリーの参加者は白基調のジャージ(右)和をイメージさせる大会記念ジャージ(左)。プレミアムエントリーの参加者は白基調のジャージ(右) photo:Kenji.Hashimoto
エイドステーションでは日本らしい伝統文化の演出もエイドステーションでは日本らしい伝統文化の演出も photo:Kenji.Hashimoto
因島大橋の下を通過する参加者の隊列。このあと橋を渡って今治をめざした因島大橋の下を通過する参加者の隊列。このあと橋を渡って今治をめざした photo:Kenji.Hashimoto
渡船の列に並ぶこと30分少々。復路の関門時間を気にしながら乗船したものの、この船がCコース最後の出航だったようだ。つまり、まさかの140kmコースの最後尾。約5分の乗船で向こう岸の尾道駅前へと渡って、第4エイドの「みなとオアシス尾道」でランチ休憩。尾道がゴール地点の片道Dコースの参加者は、芝生でゆっくりと過ごしているけれど、140kmコースはまだ折り返し地点。ホタテやエビなど海の幸の天ぷらをお腹に入れて、先を急いだ。

確かに各エイドステーションで長居してしまった感はあるものの、ロングライドの経験とそこそこの体力がなければ、関門時間に引っかかってしまうくらい140kmコースはなかなか厳しい設定のようだ。

尾道の新浜港から因島へは約20分の渡船。乗船時間がやや長いため、バイクと人を別々の船で運搬してくれる。残り距離は約65kmだ。サポートライダーを先頭に足並みの合う参加者同士で一列になってブルーラインを辿っていく。この日は南風で尾道から今治へは向かい風に苦戦した参加者も多かったはず。

最終盤、大島の急坂で参加者を励ますゲストライダーの日向涼子さん最終盤、大島の急坂で参加者を励ますゲストライダーの日向涼子さん photo:Kenji.Hashimoto
夕景に浮かぶ来島海峡大橋夕景に浮かぶ来島海峡大橋 photo:Kenji.Hashimoto
初めてのサイクリングしまなみを無事完走初めてのサイクリングしまなみを無事完走 photo:Kenji.Hashimoto
午後は、できるだけ人の後ろについて走っていたいほどの向かい風が吹いていた。さらに、橋へのアプローチとなる自転車専用道路の上り下りだけでなく、終盤の大島の外周コースはアップダウンがあり、なかなか厳しいコースだった。

スタート時には朝陽に照らされていた白亜の来島海峡大橋も、復路で辿り着くころには黄金色の夕景にそのシルエットを浮かび上がらせていた。その光の先にあるフィニッシュ地点「しまなみアースランド」へと、最後の力を振り絞ってペダルを漕ぎ続けるサイクリストたち。しまなみ海道がサイクリストの聖地として世界に誇るポテンシャルを最大限に発揮したスペシャルな1日は最高のフィナーレを迎えたのだった。

text&photo:Kenji.Hashimoto
取材協力:公益財団法人 JKA