午前5時に日本橋を出発した、ジャパニーズオデッセイのサイクリストたち。その翌々日には群馬・長野の名だたる山岳を制覇し、すでに乗鞍岳の麓で夜明けを待っていた...。下城英悟さんによるレポート第2弾をお届けします。


大いなる”問い"の答えを求め、午前5時、21名のバイクパッカーたちが、思い思いのルートを胸にスタートを切らんとしている大いなる”問い"の答えを求め、午前5時、21名のバイクパッカーたちが、思い思いのルートを胸にスタートを切らんとしている
日本橋北詰交差点。ほとんどのライダーがCPの配置通り群馬方面を目指す中、いきなり一路西を目指し東海道を爆走する猛者も日本橋北詰交差点。ほとんどのライダーがCPの配置通り群馬方面を目指す中、いきなり一路西を目指し東海道を爆走する猛者も 協賛のペラーゴバイシクル提供ジャパニーズオデッセイ公式サイクル キャップ。跳ね上げたつばには、公式キャッチフレーズ”Be prepared&の 文字。協賛のペラーゴバイシクル提供ジャパニーズオデッセイ公式サイクル キャップ。跳ね上げたつばには、公式キャッチフレーズ”Be prepared&の 文字。 早朝の青白む日本橋を旅立ち、まだ見ぬ”神話”を求め日本を漕ぎ出したジャパニーズオデッセイのバイクパッカー達。胸には、めいめいが思い思いのルートを描いているよう。どんなルートを選ぶかは、あくまで個人の自由です。

総距離が増えるのを承知で、いきなり一路西を目指し東海道を爆走するタスマニアのサイクルモンスター、スチュアートのような輩もいましたが、多くはCPの配置から割り出されるセオリーに従い、中仙道の先、群馬~長野方面を目指しました。異国を走るということでルート予習にも余念がないのか、一部は関東のサイクリストの定番荒川サイクリングロードで北上し、安全かつ迅速な巡行へ。その道の先、最初に目指すチェックポイント(CP)は、榛名山、そして白根山になるのでしょう。

初日はかろうじて好天でした。荒川の心地よい風を切るライダーたちの頭には、グレーのおしゃれなサイクルキャップが乗っています。支給された”ジャパニーズオデッセイ”公式キャップの跳ね上げたつばに、”Be prepared”の文字。直訳すれば「準備万端に」でしょうか。

これは”ジャパニーズオデッセイ”の公式スローガンでもあり、2週間続くツアー中、皆が事あるごとに口にしていた言葉です。全CPの配置などから推測するに、総走行距離は2500〜3000km前後になるでしょうし、累積獲得標高は40000m前後になるはずで、もし全てのCPクリアを目指すのなら、毎日200km程度の、厳しい登坂含みの道行きをこなさなければオールクリアはままならないわけで、その過酷さは容易に想像できます。また、規定上、一般のブルベレースと同様のセルフサポーテッド方式がとられるので、全ての補給や宿泊、トラブルシュートまでライダー自身が判断し対処することが求められます。そもそも”Be prepared”、準備万端でない事は許されないので、皆が共感を持って頻繁に口にするのも頷けます。ある種の呪文、おまじないのようにも感じました。

非常にタフでハードな旅となるはずですが、しかしここでもう一度確認すべきは、”ジャパニーズオデッセイ”はレースではない、という事でしょう。14日間、心と脚の赴くまま自由に日本の道、文化を堪能する旅をして、それぞれが得難い経験をし、そのあかつきにとにかく無事にゴールしてほしい、それが発起人でオルガナイザーエマニュエルの願いです。

実際は、最新のGPSサービスを使用し、タイム計測、ルートトラッキング、CP通過確認が、リアルタイムかつオートマチックに計測され、最終的には総合順位までつきます。それは競うためではなく、あくまで記録のためです。ただ、計測という自転車”競技”としてのお膳立ても一応は整っているので、1、CP制覇を賭け、時間&己とハードコアに戦うのも、2、CPもほどほど心ゆくまで景色楽しみ、温泉に浸かりつつ日本の美を求めるのも、3、ショップ巡りや競輪で日本の自転車文化に浸るのも、全てお好み次第な”ジャパニーズオデッセイ”です。ちなみに1~3の例は、実際そんな風にこの旅を楽しんだ参加者がいた、と捉えていただいて結構です。

信州の幹線道路をエアロポジションで走る上海のショップ”Factry5”のボス、190cmと長身のタイラー。道のりははるか長く、ライドには集中を要する信州の幹線道路をエアロポジションで走る上海のショップ”Factry5”のボス、190cmと長身のタイラー。道のりははるか長く、ライドには集中を要する
さて序盤も序盤、皆が気力体力ともに充実しているとみえ、大半のライダーが榛名山CP(標高約1,100m)、続く白根山CP(約2,000m)を初日にサクっとクリアしています。嬬恋のキャンプ地などでめいめい野営し、翌日早朝、あらためて進路を西に。ここは信州、名物の山群盆地、大峠小峠のアップダウンを走り抜け、八ヶ岳を見渡す大河原峠CP(約2,100m)、続く入笠山CP(約1,800m)とやっつけながら、向かうは日本の自転車乗りにとってラスボスともいうべき乗鞍岳(約2,700m)いうことになるわけです。

日本橋を立ってたった2日、最速の男たち数名はすでに4つの難所CPをこなし、怪物の足元で夜明けを待っていました。私は初日の取材後、2日間は東京で別の仕事に追われながら、彼らの動きをSNSとGPSで確認していたのですが、あまりに早い展開に驚き、正直かなり焦っていました。取材に行かぬうちに終わってしまうかもしれないと本気でガクブルして、いろいろと侮った自分を呪いながら、慌ててカメラ担いで日本アルプスへとカッ飛びました。それだけ彼らは速かったのです。

それにしても今年の秋は、ひたすら天気に呪われた我が国日本。秋の日本の美しさを当て込んだはずの”ジャパニーズオデッセイ”にも、それは然りでした。初日以降の序盤1週間は、猛威を振るう大型台風16号が、時あたかも列島を横断していました。信州のCPを攻略中のライダーたちを容赦なく襲う暴風雨。山岳では視界10〜20mほどの濃霧が、何日も立ち込めています。レインウエアを着込んでも露出した靴とハンドルを握る手はずぶ濡れで、連日の長時間ライドで白くふやけきっています。

ひたすら雨に祟られたジャパニーズオデッセイ、数多くあるトンネルは、ほんのつかの間ながら雨宿りポイント。抜ければ再び雨が打ち付けるひたすら雨に祟られたジャパニーズオデッセイ、数多くあるトンネルは、ほんのつかの間ながら雨宿りポイント。抜ければ再び雨が打ち付ける
篠突く雨を、水しぶきをあげ切り裂くフィンランドのメッセンジャー、サミー。レインジャケットを着込んでも、隙間から滲み出てくる雨水で濡れ鼠だ。それでも走らなければ道頓堀には辿り着けない篠突く雨を、水しぶきをあげ切り裂くフィンランドのメッセンジャー、サミー。レインジャケットを着込んでも、隙間から滲み出てくる雨水で濡れ鼠だ。それでも走らなければ道頓堀には辿り着けない 自ら立ち上げたガレージブランド『FARACI』のプロトタイプバイクを駆るジプシーことダニエル・リカストロ。最年少の26歳。キャラも、ライドスタイルもファンキーでイキがいい自ら立ち上げたガレージブランド『FARACI』のプロトタイプバイクを駆るジプシーことダニエル・リカストロ。最年少の26歳。キャラも、ライドスタイルもファンキーでイキがいい


そんな暴風雨の夜間乗鞍にアタックをかけた奴等もいたぞと、全行程取材を敢行していた海外誌”ファーライドマガジン”のクルーから後で聞かされました。彼らのアドベンチャースピリットを思い知るに至ります。苦しみながら楽しむのがサイクリストだと知ってはいますが、いよいよ奴等は半端じゃねーなと。

台風が過ぎても、東西にのびた気圧の谷は、なお活性化し、列島をまたいで停滞しています。どのルートを選択しても、残念ながらライダーたちに秋雨からの逃げ場はなく、日本人として申し訳なく思ってきました。まあ、当人たちはオルガナイザーのエマニュエルに、はるばる日本まで来たのに、この雨の責任はどうしてくれるんだ!?なんて冗談をぶつける余裕があったのも事実なのですが...。

みな総じてタフガイだと取材を通してよく分かりましたが、さすがに序盤の過酷なCP攻略作戦を経て、脚の差や目的の違いから、徐々にバラけ、それぞれ各地に散らばっていきます。乗鞍と木曽御嶽山CP(約2,250m)ヘのアタックを前後して、ルート策定や走行距離といった日々のルーティーンに、ライダーそれぞれのはっきりとした独自性が現れてきたように思えました。”旅”という共通した大きなテーマのもと、大雑把に2派に分かれます。つまり、CP制覇を目指す言うなれば”走り屋系”と、日本文化、自然体験を重視した”文化系”の2派とでもいいましょうか。そして、方向性のまるで違う2派の共存を許すのも、こんなイベントで珍しいことのように思えます。

自身のブランド“Factry5”プロデュースのCXモデルを駆るタイラー。DHバ ーは海外ロングライダー、現代のオダックスにとってすでに必需品の感がある自身のブランド“Factry5”プロデュースのCXモデルを駆るタイラー。DHバ ーは海外ロングライダー、現代のオダックスにとってすでに必需品の感がある 休憩のセブンイレブンで栗どら焼きを頬張るNY出身のニック。日本人には当たり前すぎるコンビニの存在だが、海外ロングライダーにとって最強の生命線だった休憩のセブンイレブンで栗どら焼きを頬張るNY出身のニック。日本人には当たり前すぎるコンビニの存在だが、海外ロングライダーにとって最強の生命線だった

難関だった乗鞍岳CPを下り、狭い木曽谷の底をはしる幹線国道19号線のアップダウンを御岳山に向け巡航していく。画一したロードサイドの景観も、外国人ライダーには新鮮だった難関だった乗鞍岳CPを下り、狭い木曽谷の底をはしる幹線国道19号線のアップダウンを御岳山に向け巡航していく。画一したロードサイドの景観も、外国人ライダーには新鮮だった
木曽御嶽山の周辺地域は、いにしえからの聖域でもあり、そのことを偲ばせる苔むした石塔群が散見される木曽御嶽山の周辺地域は、いにしえからの聖域でもあり、そのことを偲ばせる苔むした石塔群が散見される 台風に続く長雨で増水した木曽川の支流を渡ってゆく。9月も後半だというのに、例年のような紅葉の気配は微塵もなく、むしろ雨で新緑のような山の木々だった台風に続く長雨で増水した木曽川の支流を渡ってゆく。9月も後半だというのに、例年のような紅葉の気配は微塵もなく、むしろ雨で新緑のような山の木々だった


ノルウェー人の二人組、首都オスローでサイクルカルチャーをテーマにしたカフェを営むマックスとクリスチャンは、信州の山岳景観と温泉をいたく気に入った様子で、なかなか渋い民宿に逗留し、浴衣で日本酒なんぞ楽しんでいました。そういう体験を自分たちのカフェや、企画するサイクルツアーに活かすのだそうです。それを意識的にSNSで発信するのですが、母国や外国のたくさんのフォロワーが興味津々に見守っています。彼らなどは”文化系”ライダーの典型と言えるでしょうか。一方、イギリス人の強豪ランドヌール、トムやダンカンなどは、”走り屋系”の代表格。とにかくサドルの上で時間を過ごし、日々CPをマイルストーンとして可能な限り踏み進むCP原理主義者です。SNS発信など、あまりしない様子で、それも実に正しく模範的なサイクリストのあり方でしょう。

いっぽう準備万端の”走り屋系”で挑んだ大柄なオーストラリア人のサイモンは、難所信州をクリアし名古屋あたりまでは順当に走っていたように見えましたが、CP制覇を諦めました。自分の力不足を嘆いて悔しがりつつ、体力より精神が弱ってしまったよ…と後で語ってくれたのが印象的でした。とても挫けるとは思えない体格の彼ですが、異国を一人で旅し続けるのは、実は体力の問題だけではないという証でしょうか。

そのサイモンですが、すぐ旅の新たな目的を見出します。大好きな自転車文化探訪や観光ライドに切り替え、輪行(実は“RINKO”はサイクリストの国際公用語)を交えつつ、しまなみ街道など意欲的に各地を走り回っていました。その様子には、”走り屋系”から”文化系”への美しい移行をみた気がしたし、SNSで自分や仲間たちの”ジャパニーズオデッセイ”を発信する姿は、実に楽しそうでした。手作りイベントということもあり、基本的に自由でおおらかな運営方針なので、その分自分たちで考えることが多くなるのです。それは懐の深さにも繋がり、私自身も取材者としてその懐の中にいる心地よさを感じていました。

代表的な木曽名物百草丸の看板を通り過ぎるオーガナイザー。山深く植生の豊かなこの土地で、天然由来の植物成分から抽出される常備胃腸薬として江戸期から全国に知られてきた代表的な木曽名物百草丸の看板を通り過ぎるオーガナイザー。山深く植生の豊かなこの土地で、天然由来の植物成分から抽出される常備胃腸薬として江戸期から全国に知られてきた まだ日は浅いが日本在住のフランス人グラフィックデザイナー、パスカルが御嶽の登坂に挑む。愛機は、北米RITTE製のステンレスバイクだまだ日は浅いが日本在住のフランス人グラフィックデザイナー、パスカルが御嶽の登坂に挑む。愛機は、北米RITTE製のステンレスバイクだ

総勢7名での登坂となった木曽御嶽山CPへのアプローチ。時折驟雨が襲い、高度を上げるにつれ霧が濃くなり、霊山への巡礼路は神秘性を帯びてゆく総勢7名での登坂となった木曽御嶽山CPへのアプローチ。時折驟雨が襲い、高度を上げるにつれ霧が濃くなり、霊山への巡礼路は神秘性を帯びてゆく 冬はスキー場の滑走バーンとなるエリアの九十九折。濃霧で時折20メートルほどの視界となる。今回ほとんどすべてのCP攻略が、視界不良だった冬はスキー場の滑走バーンとなるエリアの九十九折。濃霧で時折20メートルほどの視界となる。今回ほとんどすべてのCP攻略が、視界不良だった


文化系も走り屋系も、オルガナイザーまでもいっしょくたの、総勢7名での同時登坂となった木曽御嶽山CPへのアタックは、柔らかい雨と、神秘的な濃霧に包まれていました。

道は、深い木曽谷の奥深く、曲がりくねって切れ込み、ここそこには、いにしえの霊山巡礼路の趣を保って、2000mを超える天上の高みまで続く長い九十九折を描いて、異国のサイクリストたちを招いています。オルガナイザーのエマニュエルとギョーム、日本で活躍するフランス人デザイナーのパスカル、上海サイクルカルチャーのキーマン、タイラー、オーストラリアのヤングライダー”ジプシー”、ニューヨーカーのニック、シンガポールの超切れ者ビジネスマン(たぶん)、スティーブン。人種も国籍も違いますが、同じ苦楽を知る彼らの間には、もう絆の糸のようなものの存在を感じます。

登るほど濃さを増す霧に、引きつ引かれつ吸い込まれていく彼らの美しい影を、ファインダー越しに追いながら、不肖カメラマンの私にも小さな気づきが芽生えています。少しも晴れ間を見せない悪天でも、旅するサイクリストの姿と、それを包み込み、時に突き放す自然は絶えず美しく、取材を始めて以来写真を撮ること、そしてこの旅自体が掛け値なく楽しく感じていました。なぜジャパニーズオデッセイを追ってみようと思ったのか?その問いの答えは、撮った写真とともに少しづつ像を結びつつありました。

日本の秋の風物詩、ススキの穂が雨で重くなってこうべをたれている。長い登坂でも、皆途中で降車はせず、遅いスピードでも登ってゆく。補給はやはりバナナが多かった日本の秋の風物詩、ススキの穂が雨で重くなってこうべをたれている。長い登坂でも、皆途中で降車はせず、遅いスピードでも登ってゆく。補給はやはりバナナが多かった シンガポールの正統派オダックス、スティーブン。降車したのは登坂の厳しさからではなく、工事現場の不整地でパンクを避けるため。リスクマネジメントもツアーの大命題だシンガポールの正統派オダックス、スティーブン。降車したのは登坂の厳しさからではなく、工事現場の不整地でパンクを避けるため。リスクマネジメントもツアーの大命題だ

エマニュエルとギョームのオーガナイザーコンビ。ルート策定も二度目となる今回、一体どんな”ジャパニーズオデッセイ”を見つけるのだろうエマニュエルとギョームのオーガナイザーコンビ。ルート策定も二度目となる今回、一体どんな”ジャパニーズオデッセイ”を見つけるのだろう 御嶽山山道の石塔群の間から、行き過ぎる異国のサイクリストを見つめるキツネがいた御嶽山山道の石塔群の間から、行き過ぎる異国のサイクリストを見つめるキツネがいた

台風と雨と、険しい信州の峠を乗り越え、ようやく第一週が過ぎようとしている。東海中京地区のつかの間の平坦路ののち、西日本の旅が始まる台風と雨と、険しい信州の峠を乗り越え、ようやく第一週が過ぎようとしている。東海中京地区のつかの間の平坦路ののち、西日本の旅が始まる
悪天に見舞われたタフな第1週。多くのライダーは、ホテルなど宿泊施設利用を最低限にしているので、めいめい軽量キャンピングキットでの浅い休養が続いています。他人との競争はなくとも、環境と、己との戦いは避けられません。事故や怪我がないことだけが望まれる第2週が、いよいよ西日本を舞台に始まろうとしています。

text&photo:Eigo.Shimojo
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