アニメや漫画やアイドルといったサブカルチャーが、クールジャパンの名のもとに注目を集めて久しい今日この頃。凝り性がはまりやすいという共通点でもあるのか、自転車乗りと重なることが多い趣味でもある。今回紹介するのは、その中でも創り手として多くのファンを生み出しているアニメーターが集まるロングライドイベント、「ジロ・デ・信州」だ。



雨の降る拝島に集合したみなさん スタジオごとのスタートとなる雨の降る拝島に集合したみなさん スタジオごとのスタートとなる 前半は雨に降られながらも多くのアニメーターが走ることを選択した。前半は雨に降られながらも多くのアニメーターが走ることを選択した。 photo:©Anima韮崎あたりでは雨も上がり快適なサイクリングに!韮崎あたりでは雨も上がり快適なサイクリングに! photo:Junji,Yabutaこの肉の塊は焼きあがると同時に無くなりました笑この肉の塊は焼きあがると同時に無くなりました笑 ジロ・デ・信州。その名を聞いてピンとくる人はあまりいないかもしれない。いわゆる「ロングライドイベント」として参加者を募集し、開催されているイベントではないのだから。しかし、アニメファンかつサイクリストという人であれば、なんかどこかで聞いたことあるような?という人もいるだろう。

そう、「ジロ・デ・信州」はアニメーション制作会社のスタッフさんのみが参加出来る、業界内のライドイベント。その始まりは1997年に遡る。スタジオジブリから信濃境までを走るというツーリングが、年々参加社を増やしつつ現在に至るまで毎年開催され、アニメ業界の自転車乗りにとっての一大イベントとして続いてきた。

アニメ制作の現場を描き話題を呼んだアニメ「SHIROBAKO」の劇中に、わざわざ熱心なサイクリストであるアニメーターのキャラクターが登場するほど、業界の中でスポーツサイクルの人気は高い。過去の参加者の中には宮崎駿さんや大友克洋さんといった誰もが知る巨匠も名を連ねているイベントであり、今年も「茄子」シリーズの監督であり、「風立ちぬ」や「耳をすませば」で作画監督を務めた高坂希太郎さんをはじめとした著名アニメーターが秋の八ヶ岳へ向けてペダルを回した。

100名を越えるアニメーター達が一同に会するこのイベント。現在は、拝島から柳沢峠を越えて甲府、韮崎と繋ぎ八ヶ岳へと至る160kmのコースが設定され、スタジオごとに固まってスタートしていく方式となっている。

中には風張峠や、今川峠をプラスしたよりハードなコースを走る猛者もいれば、甲府からスタートするビギナーも。今年は生憎の悪天候で、峠の下りは過酷を極める場面もあったが、サポートカーの助けもありみなさん無事に八ヶ岳へとゴールできた。

そして、フィニッシュ地点では、盛大なバーベキューが催される。先回りしたサポートスタッフさんたちが、これでもか!といわんばかりにじゃんじゃん肉を焼いてくれて、長旅で減りに減ったお腹を満たすことができるのだ。

年に一度のお祭りとして、自転車に乗らないスタッフさんもこのイベントを楽しんでいるようだった。そして、その様子を見てサイクリングに興味を持って、自転車にハマっていくアニメーターさんも多いのだとか。さて、それでは今年参加していたアニメーションスタジオの方々をいくつか紹介していこう。



サンライズ

サンライズのみなさんサンライズのみなさん
焼きリンゴやかぼちゃを持ちこみバーベキューを盛り上げてくれたサンライズのサポートの方焼きリンゴやかぼちゃを持ちこみバーベキューを盛り上げてくれたサンライズのサポートの方 こちらはガンダムシリーズで有名なアニメーションスタジオ、サンライズのみなさん。チーム名は「SRT」でサンライズレーシングチームの略称とのこと。チームの結成は、ずばりジロ・デ・信州がきっかけということで、今年も16名とかなりの大所帯で参加されていました。

シンプルにまとまったデザインのチームジャージが何種類もあるのは、なんと毎年チームジャージを新調しているから。どの年でも、サンライズのイメージカラーである青と赤を必ず配置するというルールでデザインされている。最新のモデルは白地に黒の横ラインと青と赤の縦ストライプが入る、イギリスっぽいジャージ。「ピーター・ケノーのイギリスチャンピオンジャージにインスパイアされました(笑)」とはジャージのデザインを担当した方の弁ですが、オリジナリティあるデザインに昇華されているのは流石クリエイターというところでしょうか。

ちなみにサンライズさんの今期注目の作品は、なんといってもガンダム最新作である鉄血のオルフェンズ。序盤からハードボイルドな展開が話題を呼んでいる同作の他にも、絶大な人気を誇るラブライブ!も今後の展開に期待だとか。



プロダクションI.G

プロダクションI.Gのみなさん 撤収間際にスミマセン!プロダクションI.Gのみなさん 撤収間際にスミマセン!
こちらもかなりの大勢力だったプロダクションI.Gは、「攻殻機動隊」や「PSYCHO-PASS」といった、硬派なアニメ制作に定評のあるスタジオ。今年のジロ・デ・信州にはサポーターを含めて20人を越える参加者がいたとのことで、今年の盛り上がりに一役買っておられました。

チーム自体の歴史も古く、ジロ・デ・信州が始まった時にはすでに結成されていたプロダクションI.Gの自転車部。身近な人と色々な話をしながら楽しく走れるということと、逆に親しい人だからこそ、ライバル心を燃やして走るということ、二つの面があって飽きないのが、ジロ・デ・信州とのことでした。

社内でも社外でも、このイベントがきっかけになって自転車に乗り始めたアニメーターは多いとのことで、このイベントに出るためにロードバイクを購入し、そのまま趣味にしてしまうという方が多いのだとか。今期は「ハイキュー!」の第2期が始まっているほか、来年には「ジョーカー・ゲーム」という推理小説原作のアニメを手掛けているのでぜひ観てください!とのことでした。



クロックダンス

クロックダンスのみなさんクロックダンスのみなさん
こちらの緑のジャージに身を包むのはクロックダンスという背景や3DCGなどをメインに手掛けるスタジオのみなさん。設立から4年ほどしかたっていないため、今はまだ、メインで制作を担当された作品は無いとのことでした。しかし、昨年、「アニメーター見本市」にて発表された「Hill Climb Girl」の背景や、「とある科学の超電磁砲S」、「心が叫びたがっているんだ」、「実写劇場版ガッチャマン」といった作品の3DCGや設定、背景に協力しているスタジオ。

クロックダンスとしての参加は3回目とのことですが、お二人ともかなりの健脚派。インタビューに応えた下さった橘さんは2003年から10年連続で出場されているとのことでした。

そんな橘さんにとって、ジロ・デ・信州は、アニメ業界の自転車好きが年に一度集まれるお祭りのようなもの。普通のロングライドイベントであれば、申し込みや受付といった手続きがあるけれど、ジロ・デ・信州はそう言ったものもなく気軽に参加できるのが魅力だとか。

「仲間と『じゃあ今年も走るか?』といったように一緒に楽しめるのがいいですね。普段は忙しいのもあって何か理由づけがないと走りに行けないので(笑)業界として、こうやって集まる機会が年に一度あると『今年も頑張るか!』とモチベーションが上がるんですよ」と語っていただきました。



ポリゴンピクチュアズ

ポリゴンピクチュアズのみなさんポリゴンピクチュアズのみなさん
背中のドクロマークが印象的なジャージ背中のドクロマークが印象的なジャージ こちらはポリゴンピクチュアズさんは日本でも古参のデジタルアニメーションに関して高い技術を持つスタジオ。アニメやゲーム、映画などで使用される3DCGの多くに携わってきたスタジオですが、ここ最近では、弐瓶勉原作の「シドニアの騎士」を3DCGを中心として製作し、その高いクオリティが話題となったことは記憶に新しいのではないでしょうか。

そんな歴史あるポリゴンピクチュアズから、今年は10人が参加。自転車部自体の歴史も長いものの、たまたま初代メンバーの人が自転車から離れてしまうことが重なってしまい、途中でメンバーが一度ガラッと変わってしまったため、今は2期メンバーのような感じだとか。

背中のドクロが目立つチームジャージはちょうど2期メンバーが入り始めた10年前にデザインしたもの。デザインのモチーフは戦闘機とのことで、「初代マクロスに登場するロイ・フォッカーのバルキリーにもドクロが描かれてたのを取り入れてみました。他にもキルマークを示す☆マークなども入れ込んでるんですよ」とはデザインされた方の弁。

そんなポリゴンピクチュアズのみなさんにとって、ジロ・デ・信州は年に一度の力試しのような存在という。毎日トレーニングを欠かさない人から、月に一度、半年に一度くらいしか乗らない人までいるけれど、このイベントだけはなぜか走ってしまうとのことでした。



デジタルメディアラボ

デジタルメディアラボのみなさんデジタルメディアラボのみなさん
KRCは親会社である「加賀電子レーシングチーム」のイニシャルとのことKRCは親会社である「加賀電子レーシングチーム」のイニシャルとのこと デジタルメディアラボの憧れの的、茄子シリーズの高坂監督は今年も参加デジタルメディアラボの憧れの的、茄子シリーズの高坂監督は今年も参加 photo:Junji,Yabuta「戦国BASARA」や「ウイニングイレブン」といった有名なゲーム作品のオープニングムービーからプラネタリウムの映像まで、CGを使っているものであれば何でもやります!というデジタルメディアラボのみなさん。チームが発足したのは5年ほど前。特徴的なグリーンのジャージは、チーム結成時に会社が秋葉原にあったことから、「アキバといえば初音ミクでしょ!?」ということで決まった色だとか。

約10名ほどのチームとのことですが、今回は少し忙しい人が多く、ジロ・デ・信州に参加されたのは4名。そして、初めてジロ・デ・信州に出場したのは4年前。紹介が無いと参加できないジロ信に初めて参加できた時は本当に大興奮だったとか。

もののけ姫のメイキングビデオに少し写っていたジロ・デ・信州の様子を見てから、このイベントに憧れを抱いていたということで、誘いがあった時には一も二もなく飛び付いたという。「絶対行く!仕事休んでも行く!ってもう大興奮でしたよ笑。知る人ぞ知るイベントで、出たくてもなかなか出れないんですから。しかも『茄子 アンダルシアの夏』が大好きで、高坂監督にお会いしたくて、声がかかった時には出ないなんて選択肢はゼロでした。」とその当時の熱い思いを語っていただきました。



熱風舎

熱風舎のみなさん熱風舎のみなさん
こちらのチーム熱風舎さんは、もともとスタジオジブリに所属されていたアニメーター仲間が集まって作られたチーム。イタリア語で「サハラに吹く熱風」を意味する「ギブリ」がスタジオジブリの由来。そこからスピンオフした自転車チームということで、ギブリを逆に日本語にし、チーム名としたという。現在は、ジブリ以外の仲間も一緒に走っているとのことで、15名ほどのチームメートがいるとのことでした。

チームとしては10年目を迎えた熱風舎さんですが、ジブリ出身とのこともありジロ・デ・信州には昔から参加しているメンバーが大半だとか。そんな熱風舎のみなさんにとって、ジロ・デ・信州とはなんですか?とお尋ねしたところ、「一言で言うなら『自己満足』ですかね。もちろん完走したら満足感は大きいですが、苦しかったら途中で降りても良いですし。」との答え。うーむ、深い。

珍しい和柄デザインのチームジャージ珍しい和柄デザインのチームジャージ 花札のようなデザインが特徴的花札のようなデザインが特徴的


ジャージデザインが独特なのも熱風舎さんの特徴。花札のデザインにインスピレーションを得たというジャージは、当時和柄のサイクルジャージというものが無く、とても珍しいデザインだったとか。パールイズミにデータを持ち込んで製作してもらって、しばらく後にパールイズミのラインアップに和柄のジャージが加わった、なんてエピソードがあるほど。流石ジブリ!というクリエイティブを感じさせてくれますね。



さてさて、いかがでしたでしょうか。こちらでは紹介できなかったスタジオも沢山参加されていたジロ・デ・信州。この中から、茄子シリーズや弱虫ペダル、Hill Crimb Girlに続く、新たな自転車アニメの創り手があらわれるかもしれません。

text&photo:Naoki.YASUOKA
photo:©Anima,Junji,Yabuta