ここ数年、大きな注目を集めるパワートレーニング。その最先端の理論を学ぶため、単身アメリカ・バージニア州ベッドフォードに渡った中田尚志氏。パワー・トレーニング・バイブルの著者ハンター・アレン氏の元で学びながら得たアメリカの自転車事情をレポートします。



アメリカならではのユニークな種目が行われたコロラド州トラック選手権アメリカならではのユニークな種目が行われたコロラド州トラック選手権 (c)Takashi.Nakata
2013年USAC(米自転車競技連盟)でパワートレーニング セミナーを受講し、本場のパワートレーニングの奥深さに感銘を受けコーチになるために2014年春に渡米しました。今回からコロラド州の自転車事情を中心にアメリカの自転車文化についてご紹介したいと思います。

自転車版フィールド・オブ・ドリームズ ボルダー・バレー・ヴェロドローム(BVV)

倒壊してしまったベロドローム倒壊してしまったベロドローム このヴェロドロームを企画・制作したのはバイクショップのオーナー、 ダグ・エマーソンさんとこのヴェロドロームを企画・制作したのはバイクショップのオーナー、 ダグ・エマーソンさんと (c)Takashi.Nakataバイクショップ「University Bicycles」におかれたヴェロドロームの模型バイクショップ「University Bicycles」におかれたヴェロドロームの模型 (c)Takashi.Nakata2013年のレポートで嵐に倒れたヴェロドロームをご紹介しましたが、あれから2年。見事にベロドロームは完成しレースが行われていました。

このヴェロドロームを企画・制作したのはバイクショップのオーナー、 ダグ・エマーソン(Doug Emerson)さん。熱烈なサイクリストだった彼は1985年にユニバーシティ・サイクルズを開きます。 彼の自転車熱は留まることを知らず2005年「ボルダーにヴェロドロームを作ろう。」というアイデアに向けて動き出します。

コロラド州にはあの中野浩一氏がV10を決めた7-11ヴェロドロームがありますが、ボルダーからは2時間かかる為、地元トラック建設の要望はかねてからありました。

ダグとパートナーのフランクは、トラック設計のスペシャリストに依頼した設計図を手に自分たち自身でトラックを作り始めます。しかし2013年完成も間近に迫った夏の日、嵐がヴェロドロームを襲いバンクは倒壊してしまいました。

それでも諦めずに自身で釘を打つ作業を再開し構想開始から10年もの時を経て今年1月1日、遂にトラックはオープンの日を迎えました。初めてトラックを周回したダグさんの第一声は「俺たちヴェロドロームを作っちゃったよ!」だったそうです。

そんなBVVで、州選手権が開催されました。7月中の毎水曜日に各一種目ずつ州選手権が行われていきます。取材のこの日はスクラッチが行われていいました。

州選手権とは言えそれ程プレステージが高いわけでなく、イブニングレースの一部が州選手権の名を冠して行われます。レースはオーガナイザーによる開催種目・安全確認などの簡単なミーティングの後に始まりました。

7月中の毎水曜日に各一種目ずつ州選手権が行われていく7月中の毎水曜日に各一種目ずつ州選手権が行われていく (c)Takashi.Nakata
レースはオーガナイザーによる開催種目・安全確認などの簡単なミーティングの後に始まるレースはオーガナイザーによる開催種目・安全確認などの簡単なミーティングの後に始まる (c)Takashi.Nakataスタートを待つ参加者スタートを待つ参加者 (c)Takashi.Nakata


レースは各種目10分のインターバルをおいて、スノーボール(後述)、アンノウンディスタンス、スクラッチが行われました。殆どの選手が全レースに参加しオムニウム型式で総合表彰が行われます。総合成績表彰からは外れますが個別種目のエントリーも可能です。

この日は上記3種目のレースと表彰が終わった後に、”アンコール”でエリミネーションが行われました。レースは各カテゴリー混走(女子も含む)でかなり実力差がありますが、種目を工夫する事で一緒に走れるように上手くオーガナイズされている印象でした。ちなみに落車は0件。脚力に関係なく、皆スキルは高いです。

夕暮れになってもレースが続く夕暮れになってもレースが続く (c)Takashi.Nakataスノーボールなどアメリカならではのユニークな種目が行われたスノーボールなどアメリカならではのユニークな種目が行われた (c)Takashi.Nakata照明設備も整っているのでナイトレースも開催可能照明設備も整っているのでナイトレースも開催可能 (c)Takashi.Nakata日本にも4km速度競争や400m速度競争などといった日本独自のレースがありますが、アメリカにも独自のレース種目があります。

・スノーボール
おおむね10周程度で行われるこのレースは1周目の先頭通過者には1点、2周目は2点、3周目は3点…とスノーボール(雪だるま式)に点数が加算されることから、この名前がついています。勝敗は合計得点で争われます。 前半のポイントが低いうちに逃げて連続ポイントを狙っても良いですし、終盤まで待って大量得点を狙うのも手です。戦術によって脚力差をカバー出来るので、ローカルレースではよく採用されます。

・アンノウンディスタンス
その名の通り距離はアンノウン(Unknown…未知の)です。突如ベルが鳴りラスト1周になります。脚を使わずに常に前方に位置する能力が試されます。距離はスタート後、予め周回数を書いた紙を開いて決まることもありますし、レースの流れを見て審判が決めることもあります。

他にもウィン&アウトなど強化を目的に作られたレースもあります。興味のある方は下記のリンクをご覧ください。

ヴェロドローム運営に関わる人々は自転車が大好きな地元の自転車屋さんであったり、地元の審判・選手が中心です。これはちょうど日本の各都道府県の車連が行っている強化によく似ています。熱意のある人々に支えられてジュニア・U23・エリートそしてマスターズまでが、毎週切磋琢磨できる環境があるのは日米に共通して良いことだと感じました。

次回は、コロラド訪問の主な目的であったトレーニング ピークスで行われたセミナーについてお伝えしたいと思います。



中田尚志(なかた たかし)中田尚志(なかた たかし) (c)Takashi.Nakata筆者 中田尚志(なかた たかし)
Peaks Coaching Group エリートコーチ。
パワー・トレーニング・バイブル(原書:Training and racing with Power Meter)の著者、ハンター・アレン(Hunter Allen)氏のもとでパワートレーニングを中心にコーチングを学ぶ。
25年に及ぶ日本・アメリカでのレース経験を持つ現役選手。バージニア州ベッドフォード在住。現在でも週末はPro/1/2レベルおよびマスターズでレースに参加している。2013 全米自転車競技連盟主催パワートレーニングセミナー修了。