初夏の高地と美しい景観を存分に楽しめる本格的山岳ロングライド「グランフォンド軽井沢」に初挑戦したCW編集部・藤原がバラギ湖からゴールまでの実走レポートをします。甘く見ていたコース設定と取材に慢心を折られた前回。不安を抱きつつ後半へ突入します。



藤原岳人22歳。社内ではヘタレ君と呼ばれている新卒の編集部員だ。藤原岳人22歳。社内ではヘタレ君と呼ばれている新卒の編集部員だ。 東海大学嬬恋高原研修センターに設けられた第2エイドステーションで昼食となるカレーをお腹いっぱいに食べた私達は、重い腰を上げて(少なくとも私はそうだった)オアシスからコースへと復帰する。"この先の坂道は斜度が緩いから完走できるよ"と先輩から声をかけていただくが、白糸ハイランドウェイと最高標高地点への登坂で体力の限界が来ていた私は苦笑いでしか返事を返せない。

2kmで180mを下るワインディングロードを楽しむ。自転車に乗って楽しいことがあれば、辛かった記憶を消してくれるそんな感じがした。あっという間に下り終え、アップダウンを繰り返しながら徐々に標高を上げていく「つまごいパノラマライン」に突入する。

パノラマラインというだけあって広がる景色は美しく、私のペダリングも図らずもリズミカルになる。大型バイクに乗っていたツーリンググループとランデブー。同じように休日を満喫している彼らの姿は、私達の特別な一時を一層、非日常的なものへと演出している気さえする。そんなことを思っていた私はこの先に峠道が控えていることも、すっかり忘れていた。

大パノラマは気分まで壮大にしてくれる大パノラマは気分まで壮大にしてくれる


鳥居峠に向けて車列は一列棒状に鳥居峠に向けて車列は一列棒状に 鳥居峠制覇に思わずガッツポーズが出る鳥居峠制覇に思わずガッツポーズが出る ピークに到達した時の高揚感は何にも代えがたいピークに到達した時の高揚感は何にも代えがたい カレーで体力回復を果たした私は、快調に愛妻の丘もクリアし、鳥居峠への登坂を迎える。過去2回の大きな登坂ではもれなくタレてしまっていたが、カレーを補給した今は、とりあえずクリアすることができそうだ。しかし、峠まで半分の道のりを残した所で体は悲鳴を上げ始める。体は正直者だった。再び腰が痛くなり、足が重く感じてくる。

先輩たちは撮影のために先行したかと思うと再び戻って来ては登坂を繰り返している。ここぞという場面で写真を撮影しに行ける体力と脚力にはやっぱり驚かされる。一方で、私は残り少ない体力と相談しながら、足への負担が少ないテンポを探りつつギアを黙々と変えて先を目指す。

ここでもうひと踏ん張りすることができれば…と何度も思う。またひとり黙してペダルを踏み続ける。

遠くに見慣れたジャージが現れ峠に達したと悟り、思わずガッツポーズが出る。「いやいや仕事に来てるんだから」と飽きれられていそうだったが、今の私の目的は取材では無く完走することに変わっている。

先輩たちは私が到着する前にすでに必要な写真は撮り終えており、仕事をしていないのは私だけなのはちょっぴり悔しくて申し訳ない気分にもなる。

しかし、峠のピークを表す表示はいつ、どこでみても登坂の達成感を盛り上げてくれるもので、私もこみ上げてくる高揚感に浸る。悦に入っている私の感情を読み取るように、先輩が峠の石標と一緒に写真を撮ることを提案してくれた。まったく仕事らしい仕事も出来ず、まるで一般の参加者のようで情けないと思いつつ、しっかりと写真は撮ってもらう。

次の区間はいよいよ第3エイドまで続く10kmの下り坂だ。足が疲れで痺れ始めている私にとっては、先輩たちについていくために全力を出す手筈の下りは地獄そのものである。しかし、私の体力が限界にきていることと、バイクコントロールが稚拙であることを知っている先輩たちは私を先行させてくれる。



ドネルケバブ専門店CHAYHANEが出張できていたドネルケバブ専門店CHAYHANEが出張できていた お昼すぎの第3エイドは直射日光で暑いお昼すぎの第3エイドは直射日光で暑い

ドネルケバブ専門店CHAYHANEのみなさんドネルケバブ専門店CHAYHANEのみなさん 第3エイドではまだ48.6kmも残っていた第3エイドではまだ48.6kmも残っていた




単独で下りに突入したが、もちろん足を止めることは許されない。私がバイクをコントロールできるギリギリいっぱいの速度を出し、車線をはみ出してしまいそうなことへの恐怖と闘いながら下り続けるが、下りだして3kmも経たないうちに先輩たちが矢のように私の横を通り過ぎていく。体力もそうだが、バイクコントロールも達者な先輩たちに面くらう。この体力とコントロール技術こそが、まわり回ってきれいな写真を取ることにつながるのだと感じる。

信号待ちで止まっていた先輩たちと合流して残りの下りをクリアする。山道から生活の雰囲気を感じる道に変わってきた頃に第3エイドステーションは姿をあらわし、私はまたもや体力の限界の所で救われた。なんてエイドの設定が上手いのだろうか、ありがとうございます!と心の中でスタッフの方たちに感謝をする。しかし、私はにわかに信じがたい案内板を発見してしまう。「ゴールまであと 48.6km」と書かれたそれは私に絶望を与えてくる。

1人絶望を感じながら第3エイドステーションを後にした私たちは、稲田の棚田に差し掛かる。目の前に広がる田んぼは壮観で、都会から遠く遠く離れた土地であることを実感。水が張られていない状態でも十分美しい棚田は、水が張られている時期はより美しいはずだ。ぜひ、そのような時期に1度は訪れてみたい。



稲田の棚田を横目にテンポよく進めるアップダウンをこなす稲田の棚田を横目にテンポよく進めるアップダウンをこなす
初夏の陽気を感じさせてくれる初夏の陽気を感じさせてくれる 濃いピンクの花がライドに彩りを添える濃いピンクの花がライドに彩りを添える




ちぎれない程度の絶妙な速度で車列をけん引してくれたちぎれない程度の絶妙な速度で車列をけん引してくれた 県道79号の登りは心身ともに消耗する県道79号の登りは心身ともに消耗する 火照った身体に染みわたる濃厚なジェラートを頂く火照った身体に染みわたる濃厚なジェラートを頂く 美しい景色を堪能するあまり、今までの辛さを忘れかけていたが、「山岳」グランフォンドは当然のようにアップダウンを登場させる。しかし、今までに現れた勾配と距離の両方が激しい坂に比べると、下りの勢いで登れてしまうほど勾配も距離も緩い。今までなら調子に乗ってくる場面であるが、ここの段階で私は勾配が緩いことに有り難さを感じるようになっている。

棚田などの日本の田舎を堪能した後に合流する幹線道路は交通量が多くなり、一般車への注意が必要になる。頭の中は自分の前方、後方、体調と様々なことで一杯になっている上に、強い直射日光を浴びている私はオーバーヒート寸前になっている。

そして、長く続く直線の上り坂に突入した私は、ケイデンスを上げることができず、ケイデンスを落として失速していく。ギアを1枚上げて失速を防ごうとするものの重くて踏めない。考えうる手の全てを尽くして、八方ふさがりになる。待っているのは立ちごけのみと覚悟をした。

ふと前を見ると待っていた先輩が私の心を読んだかのようなタイミングで「休憩をしよう」と声を掛けてくれ、私を苦行から開放してくれる。私の初取材のハイライトはここにあったと言っても過言ではない。先輩が選んでくれた休憩場所はジェラートショップ「ジェラート ちるちる」。大好物のジェラートを食べて、心身ともに元気を取り戻した。なんだか、もうひと踏ん張りができそう。

甘いジェラートに後ろ髪を引かれながら私達は秘湯・菱野温泉にある第4エイドステーションへと足を再び向ける。疲れた体にムチを打ちながら幹線道路のアップダウンを消化したあとは再び田舎道へ戻っていく。すでに軽いギアで回すことも重いギアを踏むことができなくなっている私にとって、上り坂は苦行でしかなくなっている。



温泉までは斜度4%ほどの登りが続く温泉までは斜度4%ほどの登りが続く
菱野温泉までの登りで磯部先輩に押していただく菱野温泉までの登りで磯部先輩に押していただく 菱野温泉の「壁」は悶絶必至だ菱野温泉の「壁」は悶絶必至だ




どうしようもなく辛くなり無心で登り続けていると、絶妙なタイミングで再び先輩が背中を押してくれる。ありがとうございます。辛い時はサポートしてくれる優しい先輩たちがいるなんて良い職場だ。ただ、仕事は遂行しなければならないのだが。

そして、いよいよ菱野温泉常磐館前の斜度15%に達しようかという上り坂に挑むことになる。このような激坂は撮影ポイントとなるため、先輩たちは先回りをしている。つまり、手助けはない。足を着くことを覚悟しながら「壁」のような坂に突入する。悶絶しながら、ペダルを踏みつける。足も腰も痛い…もうダメだ。旅館の方の「あと30m!がんばれ!」という声に力をもらい、なんとか第4エイドステーションに転がり込む。声援で力が湧いてくるというのは初めての体験で、新鮮だった。

第4エイドステーションではレモンが振る舞われており、疲れた体に酸味が染みわたる。特に、クーッと顔をしかめたくなる酸味が妙に心地良い。「壁」をクリアしてきた参加者の満足そうな顔を見ると辛さを共有した仲間のように感じる。



高台は気持ちがいいです高台は気持ちがいいです


標高100mの林道は心地よい標高100mの林道は心地よい ヘロヘロになりながらも無事にゴールに辿り着くことができたヘロヘロになりながらも無事にゴールに辿り着くことができた 温かいお蕎麦を頂く温かいお蕎麦を頂く ここから先は浅間山南麓で標高1000mに位置する林道を走り抜ける。路面は荒れていて多少気を使うが、幹線道路で感じた暑さも和らぎ心地よく走ることができる道だ。大きなアップダウンはなく体が疲れていても、素晴らしい自然に囲まれた楽しいサイクリングを楽しめる。

視界が開けたところで最高標高地点に匹敵する景観が現れる。眼下に市街地を収める草が生い茂る農道。最終盤に来てもこの景色を味わえるなんてやっぱり来てよかった!

再び林道に入ると「軽井沢」の雰囲気が満点の別荘地に戻ってくる。完走という文字が頭の中をよぎるが、車列から脱落してしまわないように兜の緒を締める。磯部先輩にここの林道からゴールまでの区間で車列をひいてもらう。その速度は私がなんとかついていけるように調整しているという。

取材を淡々とこなしながら、2300mという獲得標高に加え110kmという長距離を走っていながらも人を気にしてペース調整を行う余裕があるとは、この先輩の底なしの体力には恐ろしさすら覚える。

朝に通過した道を再び通り過ぎ、出発した駐車場へと入っていき、ついにゴールを迎える。朝には楽勝なコースだろうと息巻きながら飛び出していったものの、コースを消化していくうちに余裕がなくなっていった私にとって、この瞬間の感動は一入だ。ペダリングを止め、バイクから降りようとしても上手く降りることができない。体力の最後の一滴をゴールで使ってしまっていた。

なんとかバイクから降り、すでに写真撮影に回っていた先輩たちと合流して、振る舞われていた「山菜そば」を頂く。尻もちをついてお蕎麦を食べていた私は立ち上がれなくなっており、取材に戻っていく超人的な体力を持つ先輩たちの背中を悲しいことに、見守ることしかできない。

取材をひとしきり終えた先輩たちに連れられて、出展ブースのスタッフの方や大会運営の方に1日お世話になった旨のご挨拶をする。こうして私の初めての実走取材は終わった。


なんとかゴールを迎えることができた「グランフォンド軽井沢」。実走取材の大変さを身を持って体験した私は、先輩の仕事へ情熱を持って取り組む姿にただただ驚くばかりでした。また、初級者の私には有り余るコース設定でしたが、その魅力は最大限に感じる事ができました。来年も取材班にアサインされることがあったら、ぜひ軽井沢の地に戻ってきたいと思います。


text:Gakuto.Fujiwara
photo:So.Isobe Naoki.Yasuoka

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