オランダで子育てをしながら自転車レースに打ち込む2児のママ、荻島美香(38歳)インタビュー後編。かつてロードの女子トップ選手として活躍、子育てが落ち着いてからレースに復帰。そしてシクロクロス世界選手権2008では日本人最高位をマーク。そして全日本選手権ロードレースにも出場する。オランダでの自転車生活を語る。

シクロクロス世界選手権を走る荻島美香 22位は日本人歴代最高位シクロクロス世界選手権を走る荻島美香 22位は日本人歴代最高位 photo:Sonoko.TANAKA
須藤:1996年に、オランダ・シクロクロス女子ワールドカップに参戦するために、オランダで一緒にレースに出場したよね。

荻島:そうそう、懐かしいね。

須藤:それで、シクロクロス世界選(オランダ・ホーヘルヘイデ大会)は日本女子で最高順位の「22位」の結果。快挙だったね。
(編集部注:自身最高位は2001年の21位)

荻島:むしろ豊岡さんがダメだったね。

須藤:全日本選手権を休んでの世界選出場だったよね。去年の全日本参戦がバタバタだったようだから、今回キャンセルしたのは理解できるんだけど。

荻島:やっぱね、もう歳だからね(笑)。あまり無理すると堪えるのよ。分かるでしょ?(笑)

須藤:分かる分かる!!

荻島:また時差ボケしてね。戻ってからも体調戻すの大変だし。もしも出るんだったらゲリラ日程がいいんですよ。着いてスグにレース!っていう。5日ぐらい経つといろんな疲れが出てダメなんですよ。でも、そういうのって一回やってみないと分からないじゃないですか!

須藤:それで分かったので、今年は(全日本)出場をやめた、と。

荻島:オランダ残ってやったほうがいいんじゃないか、と。

須藤:シクロクロスの全日本選手権に出場する女子って少ないよねー。

荻島:少ないねー!だってオランダだったら60人ぐらいスタートするもん。

須藤:え、女子で60人??

荻島:それにスタートがやたら速いんだよ、みんな。その後遅くなったりとか、シングルトラックに入ると詰まって前に行けなくなる人数だから。それを分かっているから前にいっちゃうんだ。

須藤:スタート直後に良い位置取らないといけないんだ。

荻島:日本だとせいぜい、どのレースでも女子だったらスタート1列だもんねー。日本ってシクロクロスのレース人口って増えている?

須藤:関西クロスだと多いけど・・・全体として考えると微増かも。

荻島:オランダだと、そもそもロードレースをやっている人たちって、ほぼシクロクロスのレースにも出ている。あと、マウンテンバイクにも出ている人も少しいる。それにオランダは選手層がすごく厚い! オランダの世界選のトップ10には、オランダのナショナルチームの選手が何人も入っているしね。だから私よりも強いオランダの女子選手がナショナルチームに入れなかったりする。....なになに?(ここで愛美ちゃんが美香ママとお話、愛美ちゃんはオランダ語で話かけ、美香さんが日本語で答える)

須藤:あれ? 子供達って普段はオランダ語しか話さないの?

荻島:いえ、ちょっと日本語も話せるの。でも私は日本語で話しをするの。だから2人とも日本語を理解しているよ。シャークは主にオランダ語だけど、英語も分かるし日本語もちょっと分かる。日本に何回か来ているからね。

須藤:シャークさんって日本でロードチームにいたよね?

荻島:「エキップあずみの」にいたんだよね。1987年から3年間は、オランダナショナルチームのチームタイムトライアルのメンバーだったんだって。(何か美香ちゃんに話すシャークさん)。でも、補欠になっちゃったんだって。世界選の直前に病気になって。

須藤:あら、残念。そんなシャークさんとはどこで知り合ったの?

荻島:2000年のシクロクロス世界選で。彼は日本ナショナルチームのスタッフとして来てくれたの。

須藤:そっか。それからいろいろあってオランダにね。そうそう、オランダってシクロクロスが盛んだよね。

荻島:そう、強い。選手が凄く強い。私がもしもオランダ選手権に出たら、10位か11位ぐらいだろうね。

須藤:ええーーーーー?!

荻島:10位じゃ世界選に出させてもらえない! 4位か5位ぐらいまで。それぐらい選手層が厚い。

須藤:オランダだとシクロクロス選手の活動ってどんな感じなの?

荻島:シクロクロスで狙う選手は、シーズンの早いうちからレースに出てくる。そして、ロードで結構強い選手は、だいたい12月ぐらいからシクロクロスのレースに出てくるの。

須藤:美香ちゃんみたいにスポンサー受けて走っているオランダの女子選手もいるんでしょ。

荻島:一部ね。勝たないとスポンサーは付かないよね。そのあたりは厳しいよ。

須藤:じゃあ、美香ちゃんは強いから!

荻島:いやいや、私はOssの地域で日本人でオンナで走っているんで珍しいからスポンサーがつくんだと思う(笑)。昔は私のことを「シャークの嫁さん」っていう感じだったけど、最近は「ミカの旦那がシャークらしいよ」という感じ(爆笑)!

須藤:そうそう、今年の世界選の記事がオランダの新聞に大きく出ていたね!
オランダの新聞のスポーツ欄にシクロクロスの記事が載るオランダの新聞のスポーツ欄にシクロクロスの記事が載る
荻島:一応レースの後にインタビューは受けたけど、あんなに大きく出るとは思わなかった(笑)! 結局、ラルス・ボームが優勝しなかったから紙面がうまく割かれたのかもしれないけど。でも皆、読んでくれたみたいで、かなりリアクションがあった。

須藤:2児のママで現役選手ってなかなかいないでしょ?

私の小さな応援団私の小さな応援団 荻島:2児のママは私だけ。1児はいるけど...。強いのがいる! 42歳だけど。その人、去年のクリテリウムで転んで肋骨5本折って手術して、その後復帰して。それでも私は彼女に勝てない。今は、まだ本調子ではないようだけど、来年は完全に復帰してくるだろうな。

須藤:そんな人がいるんだー。

荻島:あとルクセンブルグにもいる。スージー・ゴダールていう選手。確か46歳だったかな? ルクセンブルグ選手権で優勝している。でも世界選では完走できないんだよね。ワールドカップには時々出場しているけど。それで、彼女に言われたのよ「アンタ、最近強くなっているね」って(笑)。「どんな練習しているの?」って聞かれちゃったよ(笑)。

須藤:それって凄いことだよ!逆に聞かれるってさ。私も聞いてみたいんだけど...今は日本に前いた時よりも身体が絞れているよね!

荻島:うーん、っていうか「太れない」って感じ?!(笑)

須藤:オランダに渡る前って、太らないように気にしていた印象があるんだよね。よく言ってたよね「水飲んでも、空気吸うだけでも太っちゃう!」ってねー。ガッチリしてたし。

荻島:本当いうと、あとちょっとだけ絞りたいんだよね、あと1~2キロぐらい...。

須藤:えー!さらに?オランダにいると食事とかも太りやすいような印象があるんだけど。

荻島美香&シャークファミリー荻島美香&シャークファミリー photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp荻島:家で作るのがオランダ料理じゃないのよ。シャークはオランダの料理の方がいいんだろうけど、少ないな。日本料理が多い。シャークはカレーライス好きだし。

シャーク:(日本語で)そのとおりです。

一同:爆笑

荻島:魚も食べるし、パスタのときもあるけど、ゴハンも多いの。Ossはそんなに田舎じゃなくて、ちょっと歩けば商店街もあるから。でも日本食の材料はアムステルダムまで買出しに行くの。納豆とか油揚げとかをね。お米は近所でも買えるんだけど、美味しくないから(笑)。アムスで年2回ぐらい買出しして、お米は6袋ぐらい買っておくの。

須藤:ブログみているとケーキとかお菓子も手作りしているよね。

荻島:あれは私が食べたいから作っているの(笑)。甘いもの好きだし! 結構、失敗していることもあるけど。

須藤:オランダではご主人の誕生日に仕事場にもケーキを振舞う習慣があるみたいだね?

荻島:そう。今年はちょっと忙しくてケーキ屋さんに頼んじゃったけど。ほかの人たちは大抵、ケーキ屋さんに頼んでいるみたいだよ。手作りは珍しいみたい。

須藤:そうなんだ。じゃあ、美香ちゃんの手作りケーキは喜ばれるでしょ?

荻島:ま、まずけりゃ食べないだろうけど、みんな食べてくれるから。楽しみにしてもらえてるみたい。

須藤:お菓子も手作りだし、和食中心だから健康的だね。外食とかは?

荻島:滅多にいかない。レースのときに仕方なく行くぐらい。近くに日本食レストランもあるけど、高いし、美味しくないし(笑)。

須藤:日本にいる上を目指す女子選手に向けて何かひと言もらえないかな? たとえば海外参戦を目指す選手へ。

荻島:そうだな...最低でも1年は海外に行って走らないといけない!と思うのね。1シーズン通して、トレーニングやレースを経験して、ようやく自分が何をするべきか?っていうのが分かるって感じかな。最初の年は、すべてが新しい、すべてが上だからボロボロになって終わっちゃう。それから頑張れるなら、出来れば2~3シーズンは欧州にいないと自分のモノにはならないよね。
荻島ファミリー 世界選手権の応援に来てくれた荻島ファミリー 世界選手権の応援に来てくれた
須藤:美香ちゃんみたいに子供もいて、家族もいながらレースを続けられるのって、なんでだろう?

荻島:うちはシャークがいるからだよね。理解があるし。日本の一般的な家庭って、詳しくは分からないけど、自分の兄の話を聞くと、仕事に疲れきっちゃってて、自分の趣味の時間なんかなくって寝るだけで精一杯みたいだし。たとえば「自転車乗るなんてとんでもない!」ってなるのかも。

オランダだと、朝早くから仕事が始まって、夕方から走りにいける。いつも一緒にトレーニングするおじさん達もそんな感じだよね。それにオランダは「日曜日はホビーの日」ってなっているし。だいたい日曜日の午前中は、前の日にたとえ沢山お酒飲んでいても、朝には必ず練習に集まるものね。で、お昼には終わって、その後は家族と過ごすのよね。おばあちゃんの所にお茶しにいったりとか。

須藤:生活習慣が違うから、趣味が生かせるんだね。日本だと男の人も女の人も結婚してから自転車を止める人が多い。奥さんやダンナの理解がなかったり。

荻島:オランダだと週4日とか5日とか、男性もパートタイムを選べるんだよね。残業もほとんどないから。でも、シャークは緊急出動とか夜中の出勤もあるからオランダでは珍しいタイプみたい。みんなから「大変だねぇ」って感心されちゃう。夜中の12時に出動があって、夜中3時に戻ってくるから、私が寝てる間に出て行って帰ってくることもある。だからもしも浮気だとしても分かんない(笑)。

須藤:「緊急出動」ってそういう意味なのかって?(笑)

荻島:どこに出動なのか!ってね(笑)。「昨夜オレ家出たの知ってる?」とか聞かれちゃうし。基本的に道路が凍結すると出動だから、冬は忙しいの。

須藤:でもそれでも、オランダの大抵の人たちが趣味を生かせる生活パターンだから理解もあるし、趣味を堂々と出来るのもいいよね。日本だと同じような生活パターンの人がいないから趣味を堂々と続けるのに肩身が狭くなって、結局流れとして断念せざる得なくなることが多いような気がする。

荻島:オランダでいつも私とトレーニングする仲間は、火曜日だと大体何時から、という感じでパターンがあって、ひどく雨が降らなければ集まって走る、っていうのが出来るんだよね。

須藤:シャークさんとは同じ自転車チームなの?

荻島:ううん、違うんだよね。前は同じチームにいたんだけど、トレーニングの走行ペースが遅くて今のチームに移った(笑)。オランダだとクラブチーム同士だったらチームの間の行き来は自由なの。
Ossにもたくさん自転車クラブチームがあるけど、チームのメンバー移動は自由でラク。そのあたりも自転車の普及に役立っていると思う。

須藤:オランダのレース登録制度とか出場の手続きってどんな感じなのかな?

荻島:オランダ自転車競技連盟のライセンス登録費はちょっと高くて、150ユーロぐらいする。でもキッズからマスターまでカテゴリーが細かく分かれていて、カテゴリーごとの登録費が違う。たとえば子供のクラスは登録料が安いの。それに登録すると、今はインターネットで事前にレースエントリーをすれば無料。もしも当日出場したくなった場合だけ5ユーロぐらい払うかな。ワールドカップとかの大きいレース以外の大抵のレースは、当日申込み出来るのもいいよね。だからオランダで自転車に乗る人はほとんどライセンスを持っている。

須藤:そうか。そんな環境と生活習慣がオランダでの自転車の普及に繋がっているんだね。

では最後になるけど、日本の女子選手・ライダーの普及とか強くなるためのヒントが欲しいんだけど。

荻島::うーーん、それは難しい(笑)。そうだな、私から言えるとしたら「ないものは伸ばせない、けれど長所を伸ばせばいい」ってことかな? 無理! と思ったらそれに固執しないで、ほかの長所を見つけて、それを伸ばしてほしい。これって、自転車のトレーニング以外の育成にも言えると思うんだよね。

須藤:だから太郎くんと愛美ちゃんも、のびのびしてて本当にいい子なんだよね。今日は長い時間、ありがとうございました!

荻島:こちらこそ。


サポートのハリーさんと一緒に急遽オランダから参戦した全日本選手権ロード。時差ぼけに悩まされ、6位に終わるサポートのハリーさんと一緒に急遽オランダから参戦した全日本選手権ロード。時差ぼけに悩まされ、6位に終わる (c)MakotoAYANO



ライトウェイプロダクツジャパンからBBBヘルメットのサポートを受けるライトウェイプロダクツジャパンからBBBヘルメットのサポートを受ける



荻島美香(ARAI-MURACA)
1971.2.12生まれ。身長171cm、体重58kg、血液型O型。
主な成績
1994年アジア大会4位、1996年全日本選手権個人タイムトライアル優勝、1997年 ツール・ド・フェミナン出場(日本人初)、'99年全日本シクロクロス選手権優勝他多数。
シクロクロス世界選手権は、2000年23位、2001年21位、2006年41位、2007年40位、2008年31位、2009年22位。

2001年にオランダ人の元自転車選手シャーク・ファンデルループさんと結婚し、オランダ在住。2児の出産を終え、2006年にレースに復帰。本場オランダで子育てをしながら自転車レース参戦を続けている主婦ライダー。

オランダでの子育て&自転車レース生活をブログ「2児のママ、自転車オランダ便り」に綴る。


取材協力:ライトウェイプロダクツジャパン

text:Mutsumi.Sudou
photo:MakotoAYANO
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