2011年3月14日に開催されたティレーノ〜アドリアティコ(UCIワールドツアー)第6ステージ。マリアアッズーラ(リーダージャージ)を着たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が、丘陵都市マチェラータのゴールに先頭で飛び込んだ。初総合優勝に向け、エヴァンスは最後の個人TTに挑む。

マルケ州の内陸に広がる丘陵地帯を走るマルケ州の内陸に広がる丘陵地帯を走る photo:Riccardo Scanferla丘陵都市マチェラータにゴールする最終日前日の第6ステージ。178kmのコースは序盤からアップダウンの繰り返し。最後は最大勾配18%の激坂を含む14.7kmの周回コースを3周し、マチェラータの街中にゴールする。最後の激坂バトルに注目が集まった。

平均スピードが46.8km/hをマークするハイスピードな集団から、44km地点で飛び出したのはボルト・ボジッチ(スロベニア、ヴァカンソレイユ・DCM)。

逃げグループを形成するボルト・ボジッチ(スロベニア、ヴァカンソレイユ・DCM)とベアト・グラブシュ(ドイツ、HTC・ハイロード)逃げグループを形成するボルト・ボジッチ(スロベニア、ヴァカンソレイユ・DCM)とベアト・グラブシュ(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Cor Vos以後1時間に渡ってボジッチの独走が続いたが、遅れてカウンターアタックを仕掛けたベアト・グラブシュ(ドイツ、HTC・ハイロード)が89km地点で先頭に合流する。

先頭を逃げるボジッチとグラブシュ。106km地点のスプリントポイントが近づくと、6分遅れのメイン集団からポイント賞ジャージを着るタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)とエゴイ・マルティネス(スペイン、エウスカルテル)がアタック。ファラーはスプリントポイントを3番手通過し、ジャージキープに意欲を見せた。

集団最前列で走る別府史之(日本、レディオシャック)集団最前列で走る別府史之(日本、レディオシャック) photo:Riccardo Scanferlaメイン集団はマリアアッズーラ擁するBMCレーシングチーム、ランプレ・ISD、リクイガス・キャノンデールがコントロールし、先頭2名から4分遅れでマチェラータに到着。この起伏に富んだ1周14.7kmの周回コースでタイム差は縮小を続け、最終周回突入を前に先頭のボジッチとグラブシュは吸収された。

ランプレ・ISDがスピードを上げたメイン集団からは、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)やトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)が脱落。最終周回に入り、ラスト9kmを切るとピーター・ベリトス(スロバキア、HTC・ハイロード)がアタック。しかしBMCレーシングチームとランプレ・ISDが牽くメイン集団にベリトスはラスト7kmで吸収されてしまう。

リーダージャージを着て走るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)リーダージャージを着て走るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos新人賞ジャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)新人賞ジャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vosマチェラータの激坂をこなす別府史之(日本、レディオシャック)マチェラータの激坂をこなす別府史之(日本、レディオシャック) photo:Riccardo Scanferla

マチェラータ中心部に向かう勾配18%の激坂マチェラータ中心部に向かう勾配18%の激坂 photo:RCS Sport
メイン集団をコントロールするBMCレーシングチームメイン集団をコントロールするBMCレーシングチーム photo:Cor Vosマリアアッズーラのエヴァンスは、チームメイトのジョージ・ヒンカピー(アメリカ)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア)の力を借りて集団前方をキープ。30名ほどに絞られたメイン集団は、ラスト2.3kmから始まる登りにハイスピードで突入した。

ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)がペースを上げると、アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)を含む多くの選手が脱落する。

マチェラータの激坂を登るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)マチェラータの激坂を登るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosやがて18%急勾配区間に差し掛かるとクネゴにサポートされたミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)が先頭に立ち、マリアアッズーラのエヴァンスが食らいつく。メイン集団はイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)やダニーロ・ディルーカ(イタリア、カチューシャ)を含む10名に絞られた。

勾配が緩んだ箇所でアタックしたアンヘル・マドラソルイス(スペイン、モビスター)は、ラスト1kmのアーチ通過後に吸収。再び勾配が18%まで跳ね上がると、スカルポーニがアタックを仕掛け、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)が反応する。

先頭でゴールに飛び込むリーダージャージのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)先頭でゴールに飛び込むリーダージャージのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:RCS Sport激坂で先行するスカルポーニとニーバリ。しかし大きなリードを奪えないまま激坂を終え、続けざまにジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)がロングスパートを仕掛ける。

このヴィスコンティの動きを利用して先頭に立ったエヴァンスが、力強いダンシングでゴールに向かってスプリント。他を寄せ付けない強さを見せたマリアアッズーラが、ガッツポーズでゴールを駆け抜けた。

惜しくも2位に終わったジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)惜しくも2位に終わったジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) photo:Riccardo Scanferla「素晴らしいサポートで支えてくれたメンバー全員に感謝したい」。レース後、まず始めにチームメイトに感謝したエヴァンス。「最後の周回コースは非常に難易度が高かった。まだ100%のコンディションではないので、スカルポーニのアタックには手こずったよ。何とかアタックを抑え込み、こうして成功を収めることができて非常に満足している。」

エヴァンスはこれが今シーズン初勝利。最後の勝利は、泥だらけになった昨年5月ジロ・デ・イタリア第7ステージだ。

リーダージャージに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)リーダージャージに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Riccardo Scanferlaボーナスタイムを獲得したエヴァンスは、総合2位のスカルポーニから9秒、総合3位のバッソから12秒のリードを得ている。翌日の最終ステージは、アドリア海のリゾート地サンベネデット・デル・トロントで行なわれる個人タイムトライアル。アドリア海に面したフルフラットな9.3kmコースが設定されている。

エヴァンスは「明日の個人タイムトライアルは全長が9km。短いけど決して気が抜けない。これまでのティレーノ〜アドリアティコでも、サンベネデット・デル・トロントで総合優勝の行方が変わることは度々あった」と、慎重な態度を崩さない。

マチェラータから35kmほど離れたイェージ出身のスカルポーニは、地元ファンの声援を受けて執拗に攻撃。しかしエヴァンスを切り崩すことはできず、ステージ3位に終わった。現在総合2位。連日のステージ上位入賞によりポイント賞トップに立っている。

最終個人タイムトライアルでエヴァンスの座を脅かすのは、総合2位のスカルポーニだけではない。「今シーズンは個人タイムトライアルの改善に取り組んできた。明日は良い走りをしたい」と語る総合3位のバッソや、総合4位・15秒遅れで新人賞ジャージを着るロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)、そして総合5位・21秒遅れのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)らの存在も忘れてはならない。ティレーノ〜アドリアティコの総合バトルはいよいよ最終局面に入る。

選手コメントはレース公式サイトより。

ティレーノ〜アドリアティコ2011第6ステージ結果
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)    4h37'58"
2位 ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)
3位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
6位 ワウテル・ポエルス(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
7位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
8位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
10位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)
74位 別府史之(日本、レディオシャック)                +8'59"

個人総合成績
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)   27h26'33"
2位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)          +09"
3位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)       +12"
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)             +15"
5位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)  +21"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)            +24"
7位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)      +33"
8位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)          +42"
9位 トーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)        +46"
10位 マルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)
94位 別府史之(日本、レディオシャック)                +47'03"

ポイント賞
ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)

山岳賞
ダヴィデ・マラカルネ(イタリア、クイックステップ)

新人賞
ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
リクイガス・キャノンデール

text:Kei Tsuji
photo:Riccardo Scanferla, Cor Vos