10月3日に地元オーストラリアで開催されるロード世界選手権で、世界チャンピオンの証であるアルカンシェルを一旦手放すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。1年間に渡って栄光のアルカンシェルを着続けたエヴァンスに、シーズンを振り返ってもらった。イタリア在住のジャーナリスト、グレゴー・ブラウンがレポート。

ツアー・ダウンアンダーでグレゴー・ブラウンのインタビューに応じるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ツアー・ダウンアンダーでグレゴー・ブラウンのインタビューに応じるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji「とにかく2位や3位が多かった。多くの勝利を望んでも、手に入る勝利は少ないもの。アルカンシェルを着てフレーシュ・ワロンヌとジロ・デ・イタリアのモンタルチーノステージを制したことが、今シーズンのハイライトだ」。

BMCレーシングチーム所属のエヴァンスは、母国で開催されるロード世界選手権に向けて荷物のパッキング作業に追われていた。手元にあるのは、青、赤、黒、黄、緑のストライプが入ったレインボージャージ。しかしそのジャージを着るのは9月17日のフラーンデレン選手権が最後になる。

2009年ロード世界選手権 最終周回のナヴァッツァーノを独走で駆け上がるカデル・エヴァンス(オーストラリア)2009年ロード世界選手権 最終周回のナヴァッツァーノを独走で駆け上がるカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Cor Vos「このジャージは家に置いて行っても構わないんだけど」と語るエヴァンス。確かにオーストラリアに渡ればアルカンシェルを着る機会は無い。ロード世界選手権には緑と黄色のナショナルジャージを着て出場する。

オーストラリアに発つ前のエヴァンスに幾つかの質問を投げかけてみた。ここからは質疑応答形式で。(GB:グレゴー・ブラウン、CE:カデル・エヴァンス)

ジロ・デ・イタリア 泥だらけの姿でモンタルチーノのゴールに飛び込むカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)がステージ優勝ジロ・デ・イタリア 泥だらけの姿でモンタルチーノのゴールに飛び込むカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)がステージ優勝 photo:Kei TsujiGB:何枚のアルカンシェルをスペアとして持っている?
CE:自宅の壁には自転車関係の賞状やトロフィーを飾りたくない質なんだ。でもアルカンシェルは一枚フレームに入れて飾りたいと思っている。実は自宅に取り置きしているアルカンシェルなんて無いんだ。何枚も手に入れたけど、それらは全部寄贈した。何かの活動に役立つなら、喜んでジャージを渡したよ。200枚あれば200枚全部。自分で持っているより何かの役に立つ方が良い。

GB:いつもアルカンシェルを着てトレーニングしている?
CE:最初の数日はノーマルのチームジャージでトレーニングしていた。このジャージを着る権利があるのは1年間だけなんだと自覚してからは、ずっとアルカンシェルを着ていたよ。今では毎日トレーニングで着用している。

GB:世界チャンピオンがアルカンシェルを着てトレーニングするのは一般的?
CE:オーストラリアでアルカンシェルを着てトレーニングしていると、いつも呼び止められて写真を撮られるのでトレーニングにならない。だからオーストラリアでは無地のジャージを着ることにしている。でもスイスでは近くに住んでいるオスカル(フレイレ)やニコール(クック)がアルカンシェルで走っている姿をよく目撃した。ここではアルカンシェルがそれほど珍しいわけじゃないんだ。

GB:オーストラリアでは国内サッカーとロード世界選手権のどちらが盛り上がっている?
CE:分からない。ここ最近はオーストラリアのニュースをフォローしていないんだ。何しろオーストラリアではまだロードレースの認知度が低い。選手が大きく持ち上げられて報じられることもない。今はオーストラリア・フットボール・リーグで盛り上がっていると思うよ。ロード世界選手権の直前にリーグの決勝戦があるから。

GB:パオロ・ベッティーニやジャンニ・ブーニョのように連覇を目指す?
CE:もちろん可能ならそうしたい。でもコース的にはオスカル・フレイレのような軽量スプリンターに適している。ゴール勝負に生き残ったスピードのある選手が勝つと思う。昨年のメンドリシオのコースは完璧に自分向きだった。でもジーロングのコースは他の選手に向いている。

1年間に渡ってアルカンシェルを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)1年間に渡ってアルカンシェルを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei TsujiGB:オーストラリアに発つのはいつ?
CE:9月22日。他の選手と比べたら遅いけど、オーストラリアへは旅慣れているので、時差ボケは少ないと願っている。時差ボケ解消法は、旅行先で日中は起きておくこと。そして夜になったら寝る。フライトの機内で読む本?それは「A Thousand Splendid Suns(邦題:千の輝く太陽 作者:カーレド・ホッセイニ)」。アフガニスタンを舞台にした話で、主人公の境遇が胸を苦しめる。

ツール・ド・フランスで1日だけマイヨジョーヌを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ツール・ド・フランスで1日だけマイヨジョーヌを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor VosGB:マキュアンやレンショーが代表メンバーから外れた理由は?
CE:マキュアンは本当に出場したがっていた。僕には代表メンバーを決める権限が無いけど、彼には辛すぎる決定だったと思う。どうしてそんな決定がなされたのかは分からない。レンショーについては彼の意志を確認していないから何とも言えない。とにかく自分は与えられた仕事をやり遂げるだけ。他の選手をアシストすることもあるだろう。チームの活躍のために全力を出すのみ。

9月15日のGPワロニーでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は3位9月15日のGPワロニーでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は3位 photo:Cor VosGB:世界選手権のコースはもう走った?
CE:今回は今まで一度もレースが開催されていないコースなんだ。コースの近くに住んでいたことがあるので道は知っている。でも街中なのでトレーニングとして走ったことは無い。メルボルンからジーロングまでの平坦区間でレースが活性化すれば、今までに無い展開も起こり得る。

GB:次期世界チャンピオンに向けたメッセージは?
CE:これまでの努力が報われる日が来る。だから今までの道を迷わず進め。昔から他の選手たちにそう言い続けてきた。

GB:ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーは感じる?
CE:いや、大会連覇に向けたプレッシャーは無い。一度優勝したことで、むしろプレッシャーは少ない。

GB:ロード世界選手権後はジロ・ディ・ロンバルディアを狙う?
CE:オーストラリアのロード世界選手権とジロ・ディ・ロンバルディアを両立するのは難しいと思っている。だから出場しないかも知れない。今はBMCレーシングチームと話し合って、来シーズンのメンバー構成を練っているんだ。すでにサンタロミータ、チョップ、モワナールらの加入が決定。スイスとアメリカを中心に、もっと多くの才能を発掘したいと考えている。残念ながらオーストラリア人選手の獲得の予定は無い。

GB:今年はマイヨジョーヌを1日着用。でも肘の骨折でチャンスを失った。33歳の今なおツール制覇を目指し続ける?
CE:ツール・ド・フランスの挑戦は続ける。ジロ・デ・イタリアに関しては考え直す必要があるかも知れない。1年でジロとツールを狙うのは、よほどの運がない限り難しい。ジロで調子を上げて、上手くリカバリー出来ればチャンスがあるかも知れない。グランツールの出場に関しては様々な要素が関係している。もう来シーズンのスケジュールを組み始めているんだ。

text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji
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