2022年末に次世代ロードレーサー輩出プロジェクト「ロード・トゥ・ラヴニール(RTA)」を立ち上げた浅田顕氏。RTA1〜7とフェイズを7分割し、すでに並行して様々な活動を行う中、早くも迫っているのが、プロジェクトタイトルにも掲げられたU23世代最大のステージレース「ツール・ド・ラヴニール」。その参加に向けたクラウドファンディングも実施される中、浅田氏に単独インタビューを依頼、RTAの現在の活動状況を交えて話す機会をいただいた。



梅雨空の中、傘を差してインタビューに登場した浅田顕氏 photo:Yuichiro Hosoda

――RTA最初の記者発表会から約半年が経ちました。まずは4月実施の第1回目のクラウドファンディングを受け、「RTAユースキャンプin豊後大野」が5月3〜7日に開催されました。単なるトレーニングのみならず、スポーツ栄養学講座やコンディショニング講習など、総合的なカリキュラムが組まれていましたが、実施後に得られた感触、課題などを教えてください。

浅田:まず全体的な話ですが、RTAで一番の要となる活動はタレント発掘(RTA 2)だと思っています。発掘するのはまだ見ぬ選手なんです。でも子供たちが自転車スポーツに入って来てくれて世界のロードレースを目指してくれるには、魚釣りで言うと、釣るエサも無い、泳がせる生け簀(いけす)も無い状態の今、まずはRTAの7つの活動を同時進行して、見える形にしないとならないと考えています。

その中で、提携チームとして最初に手を上げてくれたスパークルおおいたと協働で現実的に実施可能な事として、既に競技に取り組んでいる中高生を対象にユースキャンプを行いました。準備には現地でスパークルおおいたや豊後大野市の皆さんにとてもご努力頂き、またクラウドファンディングにより費用を助けていただいた皆さんのご協力もあり実施出来ました。

5月3〜7日に開催された「RTAユースキャンプin豊後大野」 photo: Road to l'Avenir

各分野のプロが選手達に指導を行った photo: Road to l'Avenir
座学にも積極的に臨んだキャンプの参加選手たち photo: Road to l'Avenir


実技も集団走行技術や全力走など、体力的にも神経的にもきつかったと思いますが、講師の方々の協力で講義にとても長く時間を取れました。講師はすべて専門家で、ぼやけた経験談や昔話ではなく、今現場で起こっている事の話をしていただきました。

キャンプでの選手たちは皆とても情熱があり、すぐに仲良くなる一方、走りにはライバル意識の火花も散らしていました。みんな眼を光らせて帰りましたので、感触は良かったですが、帰宅してから同じ情熱が続いているかは、これからの彼らの成長や成果が聞こえてこないと評価は出来ません。とにかく継続的に実施しなければ繋がらないというのが感触です。

――提携レースでもあるツアー・オブ・ジャパンでは、開催地ごとにブースを設け、RTAの広報活動も行われていました。各地での手応えはいかがでしたか?

各地では本当に皆さん私のくどい話を辛抱強く聞いていただき感謝しております。驚いたのは、ツール・ド・ラヴニールの知名度の低さです。少数ですが、逆に詳しくて驚いたこともありました。あとはTOJへ足を運んでくださる皆さんは、世界での日本人選手の活躍を楽しみにしているという事が本当によくわかりました。連日ひとりでの慣れないブーステント設置やPRは結構きつかったですが、多くの方とお話が出来てとても良かったと思います。

ツアー・オブ・ジャパン2023の会場に設置されたRTAブース
ブースに訪れた観客にロード・トゥ・ラヴニールの説明を行う浅田顕氏


――RTAプロジェクト全体としてパートナーやスポンサーが少しずつ増えていますが、現在の資金状況は。クラウドファンディングと同時に個別のプロジェクトにスポンサーを募っていく事もお考えでしょうか。

広範囲にわたる日々の活動はスポンサー協賛が無いとできません。非常に苦戦しています。今までは離陸時期としてエキップアサダのスポンサーやエキップアサダ後援会を通じて多くの方々に深いご理解を頂きこの活動を許していただいていますが、実際は無い袖は振れません。一番いいのは全部抱えてくれるスポンサーを獲得する事ですが、まず今は実績を重ね価値を見せなければなりません。

――現在、ツール・ド・ラヴニール参戦へ向けて、RTAとして2回目のクラウドファンディングが実施されています。各メディアで募集開始が報じられた後、これまでに200万円を超える資金調達に成功していますが、目標額(700万円)の達成に向けては、もうひと押しが必要にも見えます。今後どのようなアクションが必要とお考えでしょうか。

ツール・ド・ラヴニール参加については日本代表チームでありながらも、連盟のお金を使わないで活動するという前提で昨年度内に活動を承認してもらいました。なので選手の負担もあり、多くの参戦費用は自力で調達しなければなりません。

クラウドファンディングでさらなるご支援を頂くには、もう少し現実的な決定事項が増えてくることがまず必要で、例えば男女の参加の確定や出場選手、そして何よりも選ばれた選手のレースに対する取り組みが応援頂く方の心を動かすと思います。

U23世代のツール・ド・フランスとも称されるツール・ド・ラヴニール photo: Road to l'Avenir

ツール・ド・ラヴニールには、エガン・ベルナル、タデイ・ポガチャルら、後にツール・ド・フランスを制した選手達が勝者として名を連ねる photo: Road to l'Avenir

――ツール・ド・ラヴニール参戦のために、資金調達以外にRTAとして進めている事を教えてください。

まずはツール・ド・ラヴニール主催者とのリレーション、自転車競技連盟との調整、遠征準備、スタッフ調達です。選手選考は担当コーチではない私が直接できるものではないので、JCFロード部会との調整を重ねてゆきます。ナショナルコーチを退任した身分でこのような調整を行う事は、正直に言って心地良いものではありませんが、私がナショナルコーチを退任した理由も、RTAを推し進める理由も、いつか分かってもらえると思っています。

――先程も少し触れていましたが、クラウドファンディングのページにある「男女U23日本選抜チーム」とはJCF主体のジャパンナショナルチームとして編成が行われるものと見て良いでしょうか。そして、レース本番時のご自身のレーススタッフとしての立ち位置はどのようなものになりますか?

ツール・ド・ラヴニール男子はネイションズカップでナショナルチーム単位での出場が原則、女子は2.2UというクラスでUCIチームやクラブチームでも参加可能ですが、今回はナショナルチームで参加する事になります。私はJCFより委託を受けて本活動を請け負い、JCF強化支援スタッフの身分でレースでは監督を務める見込みです。

ツール・ド・ラヴニール2023のポスターとコース

ツール・ド・ラヴニール2022に参戦した日本代表選手たち photo: Road to l'Avenir
レース後の選手の表情が、ツール・ド・ラヴニールの過酷さを物語る photo: Road to l'Avenir


――「ツール・ド・ラヴニール・ファム」への女子チーム編成に際し、欧州のステージレースを戦える女子選手の確保が難航していると聞きます。今も変わらぬ状況でしょうか。

対象となるU23女子はほぼ全員が大学生なんです。国内でも重要な大会がありますが、世界への挑戦を後押ししたいという各所属先の理解や、一部対象となるトラック中距離選手のコーチらの協力を受けながら、気持ちのある選手たちにより構成メンバーが決まってきています。

――選手強化に必要な事として、記者発表会の時より、タイムトライアル能力の強化を喫緊の課題として挙げられていました。先日のアジア選手権での新城幸也選手は他国選手を交えて長距離のエスケープを決め、他選手が入れ替わる中で先頭に留まり続け3位。負けてなお強しと思わせる内容で、その重要性を感じさせるものでもありました。もちろん成果がすぐ出るものではないとは思いますが、これまでにトレーニングやレースに臨んだ選手達の様子や結果を見て、感じた事、今後取り組むべきと思われた事にはどのようなものがありましたか?

正直申し上げて、このわずかな期間では選手の走りは何も変わっていないと思います。ごく一部の選手はTTを課題として取り組んでいますが、日本で走っていれば何も困る事は無いのです。欧州の厳しいレースに行ってその恥ずかしさを感じるのです。

アジア選手権の事に触れられたので折角なので申し上げますと、新城選手のアジア選手権の走りには本当に感謝しており、また他の誰にもできない走りでした。しかしカザフスタンの意気込みには勝てませんでした。負けたのは選手のレベルではなく組織の計画性と意気込みです。アジアでは強いが欧州では十分な評価が得られていないギディッチよりも、欧州でのU23時代の活躍をアスタナにはある程度評価されながらも、ワールドツアーでは未熟なブルセンスキーよりも、新城選手の方が格上です。

アジア選ロードで他の選手らとロングエスケープを決め、常に先頭で戦い続けて3位入賞を果たした新城幸也 photo:Miwa IIJIMA

今アジア選手権ではメディアでもエリートの事しか触れられていませんが、実は本当に深刻な問題があります。アジア選手権の成績を世界の評価にする訳にはゆきませんが、アジア選手権に参加する事は、殆どのカテゴリーにおいて、世界へ行く切符を買う事に匹敵する事なのです。その切符で五輪や世界選手権等に行くために、アジアチャンピオン獲得や国別ランキング獲得という集金作業をしに行くのです。そしてヨーロッパでのレースで本質的実力向上を図り、世界選手権や年代別ネイションズカップ等の本戦で世界的評価を上げてゆくのです。

しかし日本はロード代表チームの資金不足により、今回男女を通じて育成カテゴリーのジュニアもプロ選手輩出に最重要なU23カテゴリーも派遣が出来ないのです。男子においてはU23で参加19か国中、カザフスタン、ウズベキスタン、タイ、モンゴル、シンガポール、香港、インドネシア、イラク、韓国、マレーシア、インドの11ヵ国が出場人数枠でフル参戦、ジュニアでは参加19か国中10ヵ国が人数枠フル参戦している中、日本は両カテゴリーにおいて欠席しています。これはもっと大きな問題として取り上げられるべきであり、なぜこういう状況に至ったかが追及されるべきでしょう。

五輪後の引き潮により代表チームの遠征が激減している事で、特にジュニア選手や一部のU23選手たちの世界に向ける視界が曇っています。今のRTAプロジェクトの勢いでは、両足のすべての指で砂をしっかりと握っていないと、その強い引き潮に流されてしまう感触を受けています。

浅田顕氏は「五輪後の引き潮により代表チームの遠征が激減している事で、特にジュニア選手や一部のU23選手たちの世界に向ける視界が曇っている」と現状を憂う photo:Yuichiro Hosoda

――その他、細かなところで、現在並行して行っている活動や成果を教えてください。

今はまだ成果を感じる事はありません。8月のツール・ド・ラヴニールに日本代表チーム男女が足並みを揃えてスタートを切ることが、次世代に向けての日本の自転車競技がその地位を社会に示す第一歩だと強く感じています。今は「それは大げさ」と笑う人が殆どだと思いますが、現役引退後、日本のロードレース界において全ての新しい取り組みに先陣を切って乗り込んだ経験からそれを感じるのです。それは危機感から始まり希望へと変わります。

――7〜8月の活動予定を見ると、欧州レース活動に「チームユーラシア・iRCタイヤ・サイクリングアカデミー」が並行しています。1ヶ月以上にわたるこちらの活動内容について、教えていただけますか。また、同時期から9月にも及ぶ欧州レース活動の方は、ツール・ド・ラヴニールも含まれるものと思いますが、他に予定しているレースや、期待する成果は?

夏の欧州活動は、優秀なU17とU19選手に実績のあるチームユーラシア・iRCタイヤ・サイクリングアカデミーで出来るだけ走ってもらいたいと、橋川健監督と分担しています。ツール・ド・ラヴニールには欧州を軸に活動し、より多くの経験とモチベーションを持つ選手に参加して欲しいと願っています。直ぐに結果が出るとは思っていません。今年大事なのは、どれだけ課題を持ち帰り、正面から取り組めるかです。

どんなに批判されようと、RTAの7つの当り前の活動が定着するまでは時間がかかります。ツール・ド・ラヴニールが日本のロードレース界の甲子園となり、そこを目指す勢いが流れを変えレベルを上げてくれます。

――サイクリンアカデミーや欧州レース活動に参加する選手の発表は、いつ頃でしょうか。

間もなく発表できると思います。

――最後に今後の展望とメッセージを。

TOKYO 2020が終わりもうすぐ2年になります。ナショナルフェデレーションは新体制になってから2年、結局まだロード選手強化に関する方針が示されていません。そんな中でも代表チームは男女ともアジア選手権と必要なネイションズカップ、そして世界選手権に選手を派遣できる状況に戻さなければなりません。特に育成カテゴリーであるU19とU23は国別対抗大会が最高峰である為、評価を得るためにとても重要です。

本来ナショナルフェデレーションの強化策として考え抜いたRTAとしても、優秀な日本代表選手の輩出と代表活動への全面的協力に取り組んでゆきたいと考えてます。

――ありがとうございました。またツール・ド・ラヴニールを含む欧州遠征が終わった後、その模様や成果をお聞きする機会をいただければと思います。

JCFから金銭的支援を受けず、クラウドファンディング等の外部支援のみにより、日本チームはツール・ド・ラヴニールへと臨む、と浅田顕氏 photo:Yuichiro Hosoda

RTAが今夏最大の目標とするツール・ド・ラヴニールの開催日程は8月20〜27日、そのU23日本選抜選手の参戦に向けたクラウドファンディングは、7月20日まで支援を募集中だ。支援額は5000円からと、個人でも手軽に応援しやすい選択肢がある。世界のロードレースの最前線へと日本の若き選手達を送り出す機会に自らも乗り、注目することで、ワールドツアーのみならず、より深く楽しい(そして大変な)自転車ロードレースの世界が見えてくるかもしれない。詳しくは下記リンクよりご参照いただきたい。

photo: Road to l'Avenir, Le tour de l'Avenir, Yuichiro Hosoda
text: Yuichiro Hosoda