2010年6月9日、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIプロツアー)第3ステージ・個人タイムトライアルが行なわれ、49kmのコースを1時間1分51秒で駆け抜けたヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)が優勝。総合成績には大きな変動が起こり、ブライコヴィッチが首位に立った。

長らく暫定トップタイムを維持したエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)はステージ3位長らく暫定トップタイムを維持したエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)はステージ3位 photo:Cor Vosグランツールさながらの49kmの長距離コースが設定された第3ステージの個人タイムトライアル。前半に3級山岳が設定された本格的なコースで、路面の凸凹が激しい箇所もあり、コーナーも多い。ツール・ド・フランスを見据える選手にとっては格好のリハーサルとなった。

曇り空の下、27番手スタートのノルウェーTTチャンピオンのエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)が1時間2分34秒の暫定トップタイムをマーク。ボアッソンはツールに向けてアキレス腱の故障から復調しつつあることをアピールした。

ステージ2位に入ったデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)ステージ2位に入ったデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ) photo:Cor Vos総合優勝候補のデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)や元TT世界チャンピオンのベアト・グラブシュ(ドイツ、チームHTC・コロンビア)の力を持ってしても、ボアッソンのタイムは破れず。総合トップ10の選手たちがようやくボアッソンを上回るタイムを連発した。

まずは総合10位のデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)が好走。2つの中間計測でボアッソンを上回るタイムをマークしたミラーは、終盤まで勢いを殺さずにゴール。ボアッソンのタイムを17秒更新して暫定トップに。

トップタイムを叩き出したヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)トップタイムを叩き出したヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック) photo:Cor Vosしかしスロベニアチャンピオンジャージを着る小柄なブライコヴィッチが、中間計測でミラーのタイムを更新する。ブライコヴィッチは上りの頂上でバイクを交換したが、それを感じさせない走りでゴールまで猛進。唯一1時間1分台をマークし、他の追随を許さずにステージ優勝。同時にマイヨジョーヌを手にした。

ブライコヴィッチはレディオシャック公式サイトの中で以下のように語る。「自分のコンディションが最高レベルにあることを感じていたので、ステージ優勝のチャンスが少しはあると思っていた。でも今朝コースをチェックして、それが夢物語であることを思い知らされたよ。風が強く、路面は悪い。このコースには体重が軽すぎると思ったんだ」。

ステージ4位に入った21歳のタジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア)ステージ4位に入った21歳のタジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vos身長177cm・体重58kgのブライコヴィッチは明らかなクライマー体型。2004年のロード世界選手権U23タイムトライアルで優勝しているとは言え、平坦区間が長い今回のコース向きではない。

「でも長距離のタイムトライアルは得意だったし、時間をかけてじっくりとウォームアップしてスタート。バイク交換で30秒ほど失ったことが悔やまれる。でもアラン・ギャロパン監督がずっと励まし続けてくれた。監督は本当に良き指導者だ。彼はずっとチームカーで叫び続けてくれた」。

ステージ優勝のヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)が総合首位にステージ優勝のヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)が総合首位に photo:Cor Vosこれまでランス・アームストロング(アメリカ)を慕ってディスカバリーチャンネルとアスタナを渡り歩いたブライコヴィッチにとって、これがプロツアーレース初勝利。多くのトップステージレースで上位入賞を繰り返しているオールラウンダーであり、今後の山岳ステージでも活躍が期待される。

その雄姿をチームカーから見守ったレディオシャックのギャロパン監督は、ブライコヴィッチの今後の飛躍に期待を寄せる。「コンタドールの調子がまだ上がり切っていないので、今日はステージ優勝とジャージ獲得のチャンスだと思っていた。ヤニ(ブライコヴィッチ)は山岳の頂上でバイク交換を強いられた。エアロパーツ(DHバーのことだと思われる)が緩み、危険な状態だった。バイク交換で少し気持ちが切れてしまったので、『パニックになるな。落ち着いていこう』と言い続けたよ。これは彼にとってもチームにとっても大きな勝利。ヤニはいつもトレーニングで追い込みすぎて、レースでフレッシュさを欠く場合がある。今回は成功だ。これが彼のキャリアの新たなスタートになってほしい」。

総合2位につけていた21歳のタジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア)は、トップ選手と対等に渡り合う走りでステージ4位。総合2位に浮上したミラーに次いで、総合3位につけている。

マイヨジョーヌを着て走る最終走者のアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)マイヨジョーヌを着て走る最終走者のアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vosその一方で精彩を欠いたのが、マイヨジョーヌを着て走ったアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)だ。前半からペースが上がらず、冴えない表情でゴールまで走りきったコンタドールはブライコヴィッチから1分41秒遅れ。総合でも4位までダウンした。

ツールで見せる圧倒的な走りが影を潜めたコンタドール。しかし本人はツールの準備レースと割り切り、それほど危機感を抱いていない様子。コンタドールはアスタナの公式サイトの中で「序盤からペースが掴めず、落ち着いて走ろうと思っても、ペダリングに力が入らなかった。コースのコンディションも悪かった。今はリスクを負う時期ではないと感じて、コーナーは攻めなかった。とにかく今日はスーパーな一日ではなかったよ。今はツール・ド・フランスに向けて少しずつペースを掴む時期。初日から言い続けているように、このドーフィネでの目標は、ツールの準備を仕上げること。過去数年と同様、この方法が理想的だと思っている。だから総合争いは他の選手の仕事。自分は一歩後ろからレースを見させてもらう」と語っている。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネはいよいよ翌日から山岳地帯に突入。第4ステージは、スキー場として知られる1級山岳リゾール(標高1870m)の頂上ゴールが設定された今大会最長コース。もう一度総合成績にシャッフルがかかることになりそうだ。

選手コメントは各チーム公式サイトより。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2010第3ステージ結果
1位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)   1h01'51"
2位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)   +27"
3位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)       +44"
4位 タジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア)  +54"
5位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)             +55"
6位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)          +1'46"
7位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)         +1'56"
8位 クリスティアン・クネース(ドイツ、チームミルラム)        +2'09"
9位 ラスロ・ボドロギ(フランス、カチューシャ)            +2'14"
10位 パトリック・グレッチュ(ドイツ、チームHTC・コロンビア)    +2'15"

個人総合成績
1位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)   10h22'04"
2位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)    +36"
3位 タジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア     +50"
4位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)          +1'41"
5位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)        +2'01"
6位 クリスティアン・クネース(ドイツ、チームミルラム)       +2'20"
7位 ウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)         +2'45"
8位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)            +2'47"
9位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)        +2'49"
10位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)    +2'53"

ポイント賞
ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)

山岳賞
ブラム・タンキンク(オランダ、ラボバンク)

チーム総合成績
チームHTC・コロンビア

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos