カナダのレーシングバイクブランド、アルゴン18が手がけるグラベルロードの「DARK MATTER」をインプレッション。ロードバイク開発で培ったテクノロジーを用いることで、ダートでの高速走行を可能にする反応性と安定して走れるスタビリティを獲得した1台だ。



アルゴン18 DARK MATTERアルゴン18 DARK MATTER (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
通算150勝以上の戦績を挙げた元プロロードレーサーのジュルベー・リュー氏が設立したバイクブランドのアルゴン18。宇宙航空研究が盛んなカナダ・モントリオールに拠点を構え、それらの研究機関同様にR&DとイノベーションがDNAに刻み込まれたレーシングブランドだ。

自社の研究ラボから生み出されたバイクは素晴らしいポテンシャルを備えており、各ジャンルのレースで勝利を積み重ねている。ロードでは2019年シーズン好調なアスタナをサポートし、オールラウンドバイクのGALLIUMやエアロロードのNITROGENで輝かしい成績を獲得。ジロ・デ・イタリア2019でミゲルアンヘル・ロペスが新人賞ジャージを獲得したことも記憶に新しい。

同時にアルゴン18はエアロダイナミクスを追求したトラックバイクELECTRON PROをデンマークのナショナルチームと開発し、オーストラリア、カナダ、デンマークという3カ国のナショナルチームに供給。ELECTRON PROが持つ性能はレースで証明され、2019年の世界選手権でオーストラリアのチームパーシュートが世界記録を塗り替えている。

コンパクトなリアトライアングとされているコンパクトなリアトライアングとされている ダウンチューブ裏にはプロテクターが標準で装備されているダウンチューブ裏にはプロテクターが標準で装備されている 肩から先端にかけて細くなっていくベンドフォーク肩から先端にかけて細くなっていくベンドフォーク


今回インプレッションを行ったDARK MATTERは、アドベンチャーやツーリングライドを含む文脈でも語られるグラベルロードにカテゴライズされる1台。しかし、アルゴン18は"グラベルレーサー"という言葉を使い、ロードバイクの開発で培ってきたノウハウを投入し、ダートを速く安定して走ることのできるバイクとして、DARK MATTERを創り上げたという。

外見はパリ~ルーベでアスタナが使用するエンデュランスレーサーのKRYPTONシリーズと似ているが、DARK MATTERはグラベルライド用にアジャストされたジオメトリーや、異なる各部ディテールなどを採用。エンデュランスロードでもなく、ツーリングバイクでもない、”グラベルレーサー”と呼ぶにふさわしい1台に仕上げられている。

トップチューブにはアメリカンなバイクロゴがペイントされているトップチューブにはアメリカンなバイクロゴがペイントされている シンプルなヘッドチューブ造形を採用しているシンプルなヘッドチューブ造形を採用している

ドライブサイドのチェーンステーは、チェーンがヒットしないように下方へオフセットされているドライブサイドのチェーンステーは、チェーンがヒットしないように下方へオフセットされている フロントディレイラー台座は取り外すこともできるため、フロントシングルバイクにもカスタマイズ可能だフロントディレイラー台座は取り外すこともできるため、フロントシングルバイクにもカスタマイズ可能だ


ジオメトリー面からDARK MATTERの特徴を紐解くと、ホイールベースに性格が現れている。KRYPTONのホイールベースはSサイズで99.7cmであることに対し、DARK MATTERは102.4cm。ヘッドチューブアングルも若干寝た設計としており、オフロードでの安定感を求めた。

チェーンステーはグラベルロードとしては短めの42.8cmで、意外にもBBドロップはKRYPTONよりも小さい7.0cm。スタビリティをホイールベースやヘッドチューブアングルで稼ぐ一方で、チェーンステーやBBドロップでは反応性や軽快な走行感を得るための設計なのだろう。この部分にグラベルレーサーという言葉を使う理由を見ることができる。

ケーブル類はダウンチューブから内装されるケーブル類はダウンチューブから内装される ダートでも軽快に走るための反応性を生み出す剛性を備えているダートでも軽快に走るための反応性を生み出す剛性を備えている


モノコックのフルカーボンフレームで、ダウンチューブとシートステー、フォークにはエアロ形状を採用している。ロードと比較し巡航スピードが低いグラベルバイクにあっても、レースバイクならば少しでもゲインを得ようとする姿勢が窺える。また、アルゴン18独自のHDSに基づき、トップチューブやシートステーなどフレーム上側はしなりを生み出し快適性を高めるデザインに。一方でヘッド~ダウンチューブ~チェーンステーにかけては剛性を高め、優れたパワー伝達性を発揮するよう設計されている。

ドライブサイドのチェーンステーが、大きなギャップを乗り越えた時にチェーンがヒットしないように下方へオフセットされていたり、ダウンチューブにはタイヤが跳ねた小石からフレームを守るプロテクターが装備されていたりと、各部がグラベル仕様となっていることが特徴。チェーンステーのドロップデザインはタイヤクリアランスとショートチェーンステーの両立にも貢献しており、タイヤクリアランスは最大45mm幅にまで対応する。

最大45mmのタイヤを飲み込むクリアランスが備えられている最大45mmのタイヤを飲み込むクリアランスが備えられている トップチューブにも台座が設けられているため、拡張アイテムを使用することで持ち運べるものの幅が広がるトップチューブにも台座が設けられているため、拡張アイテムを使用することで持ち運べるものの幅が広がる アルゴン18のアイコンとも言える「3Dヘッドチューブ」を搭載するアルゴン18のアイコンとも言える「3Dヘッドチューブ」を搭載する


アルゴン18のアイコンとも言える「3Dヘッドチューブ」を搭載するのは他モデルと同様。0、15、30mm長のヘッドキャップを用意し、ヘッドパーツ上側のベアリングの高さを段階的に変更することで、高めのハンドル位置でもコラムスペーサーの量を減らし、ヘッド剛性の低下を防ぐ。ディスクブレーキは前後フラットマウントで、140/160mmローターに対応している。

マルチパーパスバイクには不可欠なラック用のマウントは設けられず、フェンダーマウントのみに留められている。バイクの持つポテンシャルとしてはアドベンチャーライドもカバーできるため、荷物を持ち運びたいようなビッグライドを行う時は、バイクパッキングスタイルを選択することになる。ボトルケージ台座はトップチューブとダウンチューブ2箇所に設けられているため、ウルトラエンデュランスグラベルレースでも対応できそうだ。



― インプレッション

「こんなに気持ちいいバイクを作れるノウハウは凄い。アルゴン18に興味津々です」鈴木祐一(ライズライド)

「こんなバイクを作れるノウハウって凄いなと思いましたし、急にアルゴン18に対する興味が湧いてきました」「こんなバイクを作れるノウハウって凄いなと思いましたし、急にアルゴン18に対する興味が湧いてきました」
いやいや、これはもの凄く気持ち良いバイクですよ。とにかくフレームがしなやかで、衝撃を吸収しながら踏み込みに対してギュンギュン進む。こんなバイクを作れるノウハウって凄いなと思いましたし、急にアルゴン18に対する興味が湧いてきました。とにかく走りが特徴的で面白いです。

一番の特徴はショックの吸収とバネ感。自転車全体がバネのようなフィーリングで、衝撃を飲み込むだけではなくて、踏み込みに対する加速性能としても活きるんです。衝撃を飲み込んでくれるから路面と喧嘩せずに速度が落ちにくく、それでいて身体も楽。推進力を阻害しないので巡航しやすいんです。グラベル用の中でもワイドなタイヤがセットされていましたが、それでも加速が良い。ごめんなさい、このバイクに関してはダメ出しすることころがどうやっても見つかりませんでした(笑)

一言に“しなやか”と言うと”弱さ”のようにも聞こえますが、このバイクに関してはそうじゃない。ヘッド周辺からフォークの上側はしっかりとしていて、だからこそフレームのしなやかさが活きるんでしょう。ヘッドの見た目は特徴的ですが、ハンドリングに癖は無く扱いやすいものでした。

「衝撃を飲み込んでくれるから路面と喧嘩せずに速度が落ちにくく、それでいて身体も楽」「衝撃を飲み込んでくれるから路面と喧嘩せずに速度が落ちにくく、それでいて身体も楽」
ワイドかつディープリムのホイールも外周部が軽く、そこそこたわみも感じられ、ケーシングがしなやかなミシュランタイヤともマッチングも良い。全て日直商会が扱うブランドで固めた試乗車でしたが、フレームの味付けを生かすものでしたね。

凄く走るバイクなのでグラベルレース向けだとは思いますが、あえてバイクパッキングに使っても面白いかもしれないですよ。荷物を積んだツーリングとなるとバイクの性能ってあまり関係なくなってしまいますが、このしなやかな走りは活きると思う。長距離になればなるほど体力をセーブできるのではないでしょうか。

ルックス的にもなかなか特徴的ですし、ゴールド一色っていうのも渋いですよね。なんだか全体的に、”すごく良い自転車に乗ったな”という印象を持ちました。ロケをした湖の外周のジープロードをダーッと走るなんて、最高に楽しいと思いますよ。価格としても高くはありませんし、しなやかな走りのグラベルロードを求める方には絶対的にオススメできる一台でした。

アルゴン18 DARK MATTERアルゴン18 DARK MATTER (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アルゴン18 DARK MATTER
カラー:サンドグロス
サイズ:XXS、XS、S、M
価格:250,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木祐一(RiseRide)鈴木祐一(RiseRide) 鈴木祐一(RiseRide)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。

サイクルショップ・ライズライドHP

text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto.AYANO
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