8日間6レースという過酷な欧州遠征を消化した弱虫ペダルサイクリングチーム。海外勢に全く敵わなかった理由とは、泥の中に見えた課題とは?唐見実世子プレイングコーチの手記を紹介します。



欧州遠征第5戦、ブリコクロス(UCI-2)

12月29日は、欧州遠征第5戦となるブリコクロスシリーズの1戦、ブレーデネ(UCI-2)。昨年も走った経験があるが、今年は会場が異なるため現地入りするまでどのようなサーキットなのか見当がつかない。レース当日は霙交じりの雨と強風。非常に厳しいコンディションだ。

観客でごった返す会場観客でごった返す会場 photo:Shigehiko.Sato膝の痛みがひどく、DNSを決定せざるを得なかった膝の痛みがひどく、DNSを決定せざるを得なかった photo:Shigehiko.Sato

コースに併設されたクラブハウスで女子エリートレースを観戦コースに併設されたクラブハウスで女子エリートレースを観戦 photo:Shigehiko.Sato優勝したアリーチェマリア・アルツッフィ(イタリア、ステイラーツ・ベットファースト)のキャンピングカー優勝したアリーチェマリア・アルツッフィ(イタリア、ステイラーツ・ベットファースト)のキャンピングカー photo:Shigehiko.Sato


朝8時にステイ先を出発し、11時に現地入り。雨がひどいため、受付をすました後は車で待機する。お昼あたりから少し小雨になり試走を開始するも、私は昨日痛めた膝が痛すぎて体重をペダルに乗せられず、コースに入る前にDNSする事を決めた。前田、織田両選手は身体が冷えない程度に試走を済ませ、レース前のウォーミングアップまで車で待機する。冬のスポーツだけあってテントやローラー台などの設備がある方がベターではあるが、海外レースともな
るとなかなか難しい。

幸い女子エリートが終わる頃には雨が止み、観客の盛り上がりも次の男子エリートレースを前にピークを迎える。会場ではビールやフリットが飛ぶように売れ、足元がふらついているお客さんも少なくない。

15時、男子エリートが一斉にスタート。スタートしてすぐの登り返しで落車が発生し、前田選手が巻き込まれてしまう。その後も体調不良で精彩を欠き、DNFとなってしまった。織田選手もスリッピーな路面に対応しきれず、30分も経たないうちにラップアウトという結果に。完走者は51名中11名と数字を見ただけでも非常に厳しいレースだった事が伺える。

男子エリートのスタート直前。コース両側を埋め尽くしたファンが見守る男子エリートのスタート直前。コース両側を埋め尽くしたファンが見守る photo:Shigehiko.Sato
泥キャンバーを駆け上がるワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)泥キャンバーを駆け上がるワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン) photo:Shigehiko.Sato兄のデーヴィッドと走るマテュー・ファンデルポール(オランダ、ベオバンク・コレンドン)兄のデーヴィッドと走るマテュー・ファンデルポール(オランダ、ベオバンク・コレンドン) photo:Shigehiko.Sato


優勝はワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)。最初のうちはマテュー・ファンデルポール(オランダ、ベオバンク・コレンドン)と争っていたが、マテューがミスをしてしまい、そこから独走態勢を最後まで貫いた。一方、女子エリート優勝は来日経験もあるアリーチェマリア・アルツッフィ(イタリア、ステイラーツ・ベットファースト)。やはり他を寄せつけない走りを見せ、2位はベテラン選手のヘレン・ワイマン(イギリス、コナシクロクロスチーム)同一周回完走者は50名中26名と男子同様過酷なレースだった。

体調不良で精彩を欠いた前田選手体調不良で精彩を欠いた前田選手 photo:Shigehiko.Sato泥がこびりついたバイク。コースの過酷さを物語っている泥がこびりついたバイク。コースの過酷さを物語っている photo:Shigehiko.Sato

オフィシャルで用意されたケルヒャーの高圧洗浄機オフィシャルで用意されたケルヒャーの高圧洗浄機 photo:Shigehiko.Satoフェンスを握って細かくターンを切る選手たちフェンスを握って細かくターンを切る選手たち photo:Shigehiko.Sato


昨年のブレーデネは直線区間も多くロードレースさながらの展開だったが、今年はコースも一変し、ツルツルに滑る路面や泥の重場場など、テクニックの差が露わになった。加えてこちらの選手は寒さにとても強く、低温の中でのレースは日本人選手にとっては不利だと思う。しかしヨーロッパで走る上ためにはそれら全てを克服していかなければならない。どれだけの年数を要するのか見当が付かないが、一つ一つ課題に取り組んで、その差を埋めていく必要があるのだ。



欧州遠征最終戦、スーパープレスティージュ第6戦(UCI-2)

そして翌日。12月30日にディーゲムで開催されたスーパープレスティージュ第6戦が私たちの欧州遠征最終戦となった。ナイトレースであるため、ステイ先を出発したのは12時半。14時半に現地入りして、受付、試走などしながら、出走時間を待つ。私は昨日に引き続き、怪我が回復している兆しが無く、残念ながらDNSを選択。コースを見て回ったが、昨年出場した時とあまりレイアウトは変更なし。

17時にU23のレースがスタート。先頭ではトーマス・ピッドコック(イギリス、テレネット・フィデア)が先頭を引っ張る形になり、そのまま抜け出す。まだ荒削りな走りでミスも目立ったが、観客を魅了する走りで独走を続け優勝した。織田選手は苦戦を強いられて-2lap。完走は果たせなかったが、同世代の選手達とレースを走る事ができて得るものは大きかったようだ。

女子エリートのレースを挟み、20時に男子エリートがスタートする。今回は竹之内悠(東洋フレーム)選手も出走しておりどこか心強い。レースはファンアールトとファンデルポールの一騎打ちとなったが、この日はマテューの方が一枚上手。レース中盤に上りでペースアップし、そのまま独走を決め優勝を飾った。

前田選手は得意のアップダウンコースでテンポ良く走れ、悩んでいた泥セクションも良いイメージがつかめたようだが、先頭を行く2人があまりにも速すぎて、-3lapでレースを降りる事になった。しかし、遠征最後を飾るスーパープレステージュを良い感触で終えた事は、今後の彼の活動にプラスになるに違いない。

私は、今回の遠征で得るものが大きかっただけに、遠征最後の2連戦を走る事ができなかった事が本当に悔しい。だが、今の自分の立場で客観的にレースを見れた事、いろいろな気持ちをコントロールする事など、逆に今しかできない事ができていると思うのでプラスに考えていきたい。



今回は昨年に比べて3人共レベルアップさせて遠征に挑んだが、結果は散々。少しは勝負になるだろうと考えていたものの、全く舞台にすら上がらせてもらえない状態だった。

理由としては、ほぼドライだった昨年に比べ、今年は悪天候の泥レースが多く思うように走れなかった事が挙げられるだろう。フィジカルがついてスピードが上がったとしてもテクニックがないと、そのスピードを生かす事ができないし、その逆も然り。ナショナルレースの全く強くなさそう選手に簡単に負けた事実に、シクロクロスの文化、歴史の違いを見せつけられたように思う。

私たちが1年かけて積み重ねてきた事は、すごく乱暴な言い方をすれば、ヨーロッパでは無意味な事とも捉えられるくらい、通用しなかった。マチュー、ワウト、サンヌをはじめトップ選手のレベルアップ、また選手層の厚さ、あの場所は日本とは全てが違う。昨年一回だけの遠征では分からずとも2年目の今年、大きく実感したことだ。ヨーロッパの選手と勝負するには並大抵の努力では追いつかない事、若くて有望な選手を時間をかけて強化する作業を積み重ねていかなければならない事、そのためのサポート体制、など課題は山積みだと思う。

今回の遠征で得た事は、自分達が恐ろしく弱いと気づいたこと。チームとして、今後シクロクロスを取り組むのであれば、2回の遠征で得た経験を生かして、ロードと同様に強化するための土台やシステム作りをして、それを継続させていくことにあると感じる。次の世代へ上手くバトンタッチできるように、チームとしてできる事を考えていきたい。

text:Miyoko.Karami
photo:Shigehiko.Sato