UCIワールドツアー第11戦レコードバンク・E3ハーレルベーケが3月24日に開催。石畳坂で抜け出した3名によるスプリントに持ち込まれ、ジルベールとナーセンを下したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が初勝利を飾った。



平日にもかかわらず沿道には多くの観客が詰めかけた平日にもかかわらず沿道には多くの観客が詰めかけた photo: TDWsport / KT


レコードバンク・E3ハーレルベーケ2017レコードバンク・E3ハーレルベーケ2017 image: Record Bank E3 Harelbekeロンド・ファン・フラーンデレンの9日前というタイミングで開催されるレコードバンク・E3ハーレルベーケ。クラシック本戦の前哨戦としての意味合いが強く、歴代の優勝者リストには一流クラシックレーサーの名前が並ぶ。

レース序盤から集団内で落車が多発するレース序盤から集団内で落車が多発する photo: TDWsport / KT初開催は1958年で、今年で開催60回目。E3は60年代に建設されたアントワープとフランスを結ぶ主要高速道路の名称(現在のA14)であり、かつてはE3プライス・フラーンデレンと呼ばれていた。2011年に現在の名称に変更され、2012年からUCIワールドツアーレースとして開催されている。

ターインベルグでアタックするトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)ターインベルグでアタックするトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTなお、同じフランドル地方で開催されるオンループ・ヘット・ニュースブラッドやドワーズ・ドール・フラーンデレン、ヘント〜ウェヴェルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、シュヘルデプライス、ブラバンツペイルは共通の主催者「フランドルクラシックス」によってオーガナイズされているが、このE3ハーレルベーケは別の主催者だ。

その名の通りウェストフランデレン州に位置するハーレルベーケを発着する206.2kmコースには15カ所の急坂が設定されている。その中には石畳に覆われたパテルベルグやオウデクワレモントといった定番の登りも。他のフランドル地方のクラシック同様に標高のある峠などは一切登場せず、最も標高のある上りも150m以下だが、それでも獲得標高差は2,000mに達する。

序盤から落車が多発する荒れたレースは、逃げグループ形成までに2時間を要した。やがて抜け出したアレクシ・グジャール(フランス、アージェードゥーゼール)ら6名をメイン集団が追う展開に。タイム差が3分を推移する中、レースが活性化したのは残り72km地点に位置するターインベルグ(650m/平均9.5%/最大18%)だった。

「ボーネンベルグ」の異名をもつターインベルグで、5度の優勝者トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)がペースアップ。2004年〜2007年、そして2012年のE3で優勝しているボーネンの攻撃によって集団は縦に長く伸びる。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)らも集団前方に位置して頂上を通過すると、続く平坦区間でベルギーチャンピオンのフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が動いた。



石畳の上りでペースを上げるフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)石畳の上りでペースを上げるフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT


メイン集団からの抜け出しを試みるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)メイン集団からの抜け出しを試みるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo: TDWsport / KT数度のアタックの末に抜け出したジルベールにはヴァンアーヴェルマートとオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)、ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)が反応。残り68km地点で生まれたこの動きが決定的となる。

メイン集団から抜け出したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)らメイン集団から抜け出したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)ら photo: TDWsport / KT序盤からの逃げを飲み込んだジルベールグループはメイン集団から45秒程度のリードで先行開始。不安定なメイン集団はペースが上がらず、抜け出したいサガンがアタックを繰り返したが決まらない。やがてジルベールグループとメイン集団のタイム差は1分を超えた。その後サガンは集団落車に巻き込まれ、相次ぐメカトラなどで争いから脱落している(10分45秒遅れの108位)。

先頭グループ内でレースを展開するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)先頭グループ内でレースを展開するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT逃げ吸収により10名にまで人数を増やしたジルベールグループは、連続する石畳坂で徐々に人数を減らしながら先を急いだ。残り42kmを切って始まるパテルベルグ(700m/平均12%/最大20%)とオウデクワレモント(2200m/平均4.2%/最大11%)の連続登坂を終えると先頭はジルベール、ヴァンアーヴェルマート、ナーセンの3名に。

先頭グループをリードするフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)先頭グループをリードするフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT快調にローテーションを回すこの最も強いベルギー人選手3名には追走グループもメイン集団も追いつけない。十分なリードを得た状態で3名はフィニッシュ地点にやってきた。

3名によるスプリントで先行するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)3名によるスプリントで先行するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KTジルベール、ヴァンアーヴェルマート、ナーセンの並びで牽制しながら最終ストレートへ。残り200mで最初に仕掛けたのはナーセン。直近のクラシックレースでトップ10フィニッシュを繰り返している26歳(オンループ7位、クールネ8位、ドワーズ6位)が一気に抜け出したが、2人のベテランを振り切ることはできない。

3名によるスプリントに勝利したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)3名によるスプリントに勝利したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT最後はヴァンアーヴェルマートとジルベールが先頭でスプリントを繰り広げ、リオ五輪金メダリストのヴァンアーヴェルマートが先着した。

「このレースで勝つことも難しさはよく知っている。前回表彰台に上ったのは2008年のこと(3位)。毎回強い気概を持ってレースに挑んでいるけど、勝てない年が続いた。今日はミスさえしなければスプリントで勝つ自信があったけど、確証なんてなかった。勝てると信じてスプリントするだけだった」。オンループ・ヘットニュースブラッドに続くクラシックレース2勝目を飾ったヴァンアーヴェルマートはそう語る。

「ミラノ〜サンレモでは重要な局面でポジション取りが悪く、決定的な動きに乗れなかった。でも今日はそんなミスはせず、正しいタイミングで正しいポジションにいた。BMCレーシングは決してクイックステップフロアーズのようなレース展開はできないけど、ダニエル・オスやシュテファン・キュング、ジャンピエール・ドリュケールという強力な選手がいるんだ。彼らを信頼して勝負した」。

ヴァンアーヴェルマートが目標とするのはもちろん9日後のロンド・ファン・フラーンデレンだ。ヴァンアーヴェルマートは2014年に2位、2015年に3位を経験している。「これが今シーズン2勝目で、チームの信頼感も増している。目標であるロンド・ファン・フラーンデレンに向けて調子は整った。ビッグレースを前に、チームリーダーが信頼に足る良い状態であることはとても重要なんだ」と意気込んでいる。

2日前のドワーズ・ドール・フラーンデレンに続く2位となったジルベールは「再びクイックステップフロアーズが強さを見せつけるレースになったと思う。ターインベルグ通過後に先頭グループが形成された時、逃げ切れるかどうか定かではなかったけど、フィニッシュまで全開で走ることに決めたんだ」と、アグレッシブな走りを振り返る。

「最終スプリントではナーセンの早駆けに不意を突かれて、向かい風の中の追撃に力を使ってしまった。勝つチャンスがあっただけに残念だけどそれもロードレース。石畳を快適に速く走る感触を再び得ることができて満足している。ファイティングスピリットが戻ってきた。強い自分が帰ってきた」。ロンドでは再びボーネンとジルベールのタッグがライバルたちの脅威になるだろう。

「オウデクワレモントでアタックしたけど2人は振り切れなかった。その時点で3人での勝負になると思っていたよ。最後は不意打ちを狙ったけどダメだった。勝利を信じていたけど、フィニッシュラインが遠かった!」と語るのは3位に入ったナーセン。「プロ3年目で、着実なステップアップを感じている。表彰台には満足しているけど、トップ10入りは何度も経験しているし、これで未来が変わるわけじゃない」と冷静だ。



ビールで乾杯するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)らビールで乾杯するグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)ら photo: TDWsport / KT


レコードバンク・E3ハーレルベーケ結果
1位 グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)   4h48'17"
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
3位 オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)
4位 ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、オリカ・スコット)       +40"
5位 ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)  +41"
6位 ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、アスタナ)             +52"
7位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)
8位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
9位 ディラン・ファンバーレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)
10位 アルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ドラパック)

text:Kei Tsuji
photo:TDWsport