カナダに拠点を置くアルゴン18から、エアロロードラインナップのフラッグシップモデル「NITROGEN PRO(ナイトロジェンプロ)」をインプレッション。昨年のツール・ド・フランスでデビューを果たした独創的なフレームが持つ世界観を紐解いていこう。



アルゴン18 NITROGEN PROアルゴン18 NITROGEN PRO photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
昨年のツール・ド・フランスにおいて、プロコンチネンタルチームであるボーラ・アルゴン18の選手たちが駆ったことで、一躍日本でも知名度を上げた感のあるカナディアンブランド、アルゴン18。新興ブランドとして認識しているサイクリストも多いだろうが、意外とその歴史は長く、創業は今を遡ること27年前、1989年にまで遡る。

当時、現役を引退した元カナダ代表のオリンピアンであるジャーベス・リュー氏が経営するバイクショップのオリジナルブランドとして産声を上げたアルゴン18。しばらくは、ショップオリジナルバイクとして細々とした展開をしていたが、転機が訪れたのは1999年。初めて出展したインターバイクにて大きな注目を集めたことがきっかけとなり、本格的なブランドとしての歩みを踏み出したという。

ワイヤーはトップチューブ上からフレームに入っていくワイヤーはトップチューブ上からフレームに入っていく 「3Dヘッドチューブシステム」を搭載する「3Dヘッドチューブシステム」を搭載する シンプルな形状のストレートフォークシンプルな形状のストレートフォーク


当時より、アルゴン18は技術志向のブランドだった。レースの主流が金属系フレームで占められていた2001年ごろにはカーボンバイクである「ヘリウム」を発表。そのころからカーボンバイクの製造ノウハウを蓄積してきたアルゴン18は、トライアスロンやタイムトライアルバイクの分野で多くの実績を残すこととなる。

2006年にはトライアスロン・ワールドカップで3勝、2008年に発表したTTバイク「E-114」はエアロヒンジやブレーキ裏に装着したブレーキなど、画期的な構造を取り入れることでユーロバイクアワードを受賞した。こうして実績を積み重ねてきたアルゴン18は、2015年にはバイクブランドにとって大きなステータスとなるツールへの出場を果たしたのだった。

フォーク裏に設置された専用ブレーキフォーク裏に設置された専用ブレーキ 30%のエアロ性能向上を果たしたエアロハンドルバーシステム「AHB500」30%のエアロ性能向上を果たしたエアロハンドルバーシステム「AHB500」

シートステーと一体化するようなリアブレーキシートステーと一体化するようなリアブレーキ シートクランプは臼式となり余分な出っ張りを排除したシートクランプは臼式となり余分な出っ張りを排除した


平坦ステージを中心に選手たちが愛用するNITROGEN PROは、トライアスロンやタイムトライアルバイクを得意とするアルゴン18が培ってきた技術がふんだんに盛り込まれたエアロロードである。その設計には、並々ならぬ時間と情熱が注ぎ込まれている。

エアロロードにおいて風洞実験を行っていることを誇るバイクは沢山あるが、アルゴン18が考える真のエアロバイクは風洞施設の中だけで完成するものではない。もちろん、コンピューターによる流体解析(CFD)、5~20°の角度での風洞実験、ベロドロームでの実走実験、そして野外のフィールドでの走行実験によって、様々な状況での空力性能を分析。結果をフィードバックすることで、実際の走行時に最も抵抗の少ないバイクを開発したという。

直線的なチェーンステー直線的なチェーンステー チェーンステーが延長されたような造形のBB部チェーンステーが延長されたような造形のBB部


最も特徴的なポイントは同社のTTバイク、Eシリーズの流れを汲むように、フォーク裏とシートステーに一体化するようなデザインで配置されたヒドゥンブレーキだろう。一般的なキャリパーブレーキに対して、大幅にドラッグの発生を抑制する事に成功した、このバイクのアイコンともいえるパーツである。

ダウンチューブとシートチューブは翼型断面形状とされ、特にシートチューブはリアホイールに沿うようにカットされている。専用のエアロプロファイルデザインを持つシートポスト、そしてトップチューブにインテグレートされた臼式のシートクランプによって、空気抵抗を低減している。

エアロロードといえば重量がかさみがちなものだが、NITROGEN PROは生粋のエアロバイクながら軽量に仕上がっていることも特徴の一つ。最先端のナノテクノロジーを応用した「Nanotech Tubing HM8003」を新たに採用することで大幅な軽量化を果たし、フレーム単体で833gというクライミングバイク顔負けの重量に仕上がった。

エアロシートピラーは前後を入れ替えることも可能エアロシートピラーは前後を入れ替えることも可能 ホイールに沿うようにカットオフされたシートチューブホイールに沿うようにカットオフされたシートチューブ 薄めのダウンチューブ薄めのダウンチューブ


ポジショニングが重要となるエアロロードであるが、その点も抜かりはない。ヘッドチューブの長さを可変できる「3Dヘッドチューブシステム」を搭載することで、コラムスペーサーを挟むことによる剛性低下を起こすことなく、アップライトなポジションを可能としている。

また、従来のハンドルとステムの組み合わせに対して、30%のエアロ性能向上を果たしたエアロハンドルバーシステム「AHB500」が付属する。乱流を発生させる原因となるハンドルクランプ部を廃したステム一体型ハンドルながら、3ピース構造となっており、ステムの突き出し量を変更できる構造によって、エアロダイナミクスとポジションの自由度を両立してみせた。

様々な革新的かつ、オリジナリティあふれるテクノロジーが盛り込まれた意欲作、NITROGEN PRO。今回のインプレッションバイクは機械式アルテグラに、ヴィジョンのカーボンチューブラーホイール・メトロン55という組み合わせ。それでは早速インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「踏み続けやすいソフトな剛性感のエアロエンデュランスバイク」
錦織大祐(フォーチュンバイク)

エアロ効果よりも強く感じたのは、踏み続けやすいフレームだな、ということです。イーブンペースでケイデンス低め、丁寧に回して巡航する時の進み方がとても素晴らしい。力のロスや脚への跳ね返りが少なくて、いつまでも走っていけるような剛性感でした。

「踏み続けやすいソフトな剛性感のエアロエンデュランスバイク」 錦織大祐(フォーチュンバイク)「踏み続けやすいソフトな剛性感のエアロエンデュランスバイク」 錦織大祐(フォーチュンバイク) エアロバイクというと、一枚板のような剛性感のバイクが多いですが、このバイクはそこから引き算していったようなフィーリング。それが独特の踏みやすさに繋がっています。このフィーリングがどういったシチュエーション、そしてライダーにとってメリットとなるのかといえば、やはり競技者でしょう。

イーブンペースがずっと続くような長丁場のレース、日本であればもてぎやFISCOなどで行われるサーキットエンデューロ、もしくはトライアスロンなどで真価を発揮するバイクでしょうね。加減速が少なく、巡航速度が高く、その中でいかに脚を溜められるかが勝負になるようなレースでは最高のパートナーとなるでしょう。

ただ空気抵抗を減らすことを主眼に置いたバイクではなく、エアロで上がった平均スピードをどういった状況で武器にするかという事までを視野に入れて開発されたバイクなのだと感じます。集団の先頭を引く、単独で前を追う、もしくは逃げる。そういった具体的なシチュエーションが思い浮かんでくるようです。

一方、ブレーキが特徴的なバイクなので、その点について不安を感じる人も多いと思います。確かに、一般的なキャリパーブレーキに比べるとリターン力が少ないので違和感はありますが、慣れの範囲ではありますし、ストッピングパワー自体はきっちりと確保されています。

ハンドリングも特徴的です。直進安定性に優れているので、横風などでもふらつくようなことは少ないです。微妙にステアリングを切るだけで、バイクがまっすぐに進んでくれます。反面、コーナーはアンダー気味。少し外側から被せていくようなイメージで回っていくと上手く曲がっていけます。エアロ効果が効いているのか、下りのスピードの伸びは明らかに速いですね。

登りのダンシングや下りのコーナーなど、バイクにねじれが加わるようなシチュエーションでは、ライダーのテクニックが必要とされますが、反対にバイクにねじれが加わらず、リズムをとって長時間踏み続けるような状況では、バイクが助けてくれます。誰にでも合うオールラウンダーではない代わりに、唯一無二の特徴を持っているこのバイクは、趣味としてのスポーツバイクの世界において貴重な存在です。

組み合わせるホイールも重要ですね。エアロロードなので、ディープが良いという先入観があるかもしれないですが、35mmくらいの軽めの高剛性ホイールがいいのではないでしょうか。何かを突出させて速くしたい!というようなアッセンブルよりも、自分が一番疲れずに踏み続けていられるためのパーツチョイスが大切。そうすれば、コンセプトに沿った良いバイクが出来上がるのではないでしょうか。

「直線番長という言葉がぴったりくるバイク」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

直線番長という言葉がぴったりくるバイクですね。スピードが乗ってくると、直進安定性が高さが際立ってきます。ただ、登りでのダンシングやスプリントのように、バイクをこじる動きには弱いですね。ホイールの組み合わせにもよるのかもしれないですが、すこし力が逃げるような感覚はあります。

低速域では、ハンドリングが重めに感じます。やはり基本的には高速巡航でしっくりくるような味付けとなっているのでしょう。エアロポジションできつめの前傾姿勢で踏んでも、バイクが安定しているからペダリングに集中できる。

「直線番長という言葉がぴったりくるバイク」 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「直線番長という言葉がぴったりくるバイク」 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
それには前後の重量や剛性バランス、ジオメトリーなどいろいろな要素が絡み合っていると思いますが、風を受けても動じず、矢のようにまっすぐ進んでいきます。具体的な数値でいえば、35km/hあたりから、速度が上がるに連れてこのバイクの良さが出てきます。

低速域の加速については緩やかに丁寧に加速してあげると良いでしょう。ただ、BB回りは非常にしっかりとしているので、ホイールとのバランスが取れれば加速も鋭いものになりそうです。一度溜めるような感じではなく、ダイレクト感はかなり高いため、まるでクランクが短く感じるような脚の回しやすさはありました。

ブレーキフィーリングも専用品ということで少し構えていたのですが、実際に試してみると非常に素直でニュートラルな引き心地でした。ストッピングパワーもきちんとありますし、かなりコントローラブルなブレーキなので、安心できますね。

全体的に重心が低めに感じるような安定感があるのですが、下りで高速コーナーに入ると、少し不安を感じる部分もありました。ただそれは、試乗車のハンドル幅が狭く、ポジションが低かったこと、ホイールの横剛性が低めだったことも大きく影響していると思いますので、バイク自体の剛性に大きな問題があるわけではないのでないでしょうか。

シートピラーを逆付けにすることもできるので、エアロバーをつけてトライアスロンに使うというのもありでしょう。オリンピックディスタンスからミドルのレースはこれ一台でこなせる。ポジションの自由度も高いようなので、ロードレースだけではなく、様々な競技に対応できるのではないでしょうか。

ロードレースであれば、サーキットで長い時間走るようなレースが向いています。加減速が激しいクリテリウムなどでは、ホイールのチョイスが大切になってくると思いますね。乗り心地も良く、淡々と走ることが得意なので、ロングライドにも良いでしょう。

アルゴン18 NITROGEN PROアルゴン18 NITROGEN PRO photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アルゴン18 NITROGEN PRO(フレームセット)
素 材:Nanotech Tubing HM8003
ボトムブラケット:BB86
ヘッドセット:FSA model 39 + 3D (Top bearing 1" 1/8 and 1" 1/4 (bottom) + compressor included.
重 量:フレーム833g、AHB500エアロハンドル397g、シートポスト220g
サイズ:XS、S、M、L
カラー:Black Matte/Grey Matte
付属品:AHB500エアロハンドル、専用シートポスト、専用ヘッドパーツ、エアロブレーキ
価 格:575,000円(税抜)



インプレライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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ショップHP

吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)

名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。

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ワタキ商工株式会社 ニコー製作所


ウェア協力:アソス
アイウェア協力:カブト

photo:Makoto.AYANO
text:Naoki.YASUOKA

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