「やっぱり寿司が美味い。スペインでも寿司を食べることがあるけど、日本のものとは別物だ。あれは一体なんだったんだと思うぐらい日本の寿司が美味しい」。観光客でごった返す築地の寿司店で1.5人前の寿司を平らげた"プリート"ことホアキン・ロドリゲスはにこやかに話した。プリートの6日間の東京滞在が始まった。



ますます日本を気に入った様子のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)ますます日本を気に入った様子のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji
六本木ヒルズの展望フロアを見学するホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)六本木ヒルズの展望フロアを見学するホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiお絵かきに熱中するホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)お絵かきに熱中するホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji


壁に映し出されたカチューシャの選手を撮影壁に映し出されたカチューシャの選手を撮影 photo:Kei Tsuji今回プリート夫妻はアンドラ公国のレストランで料理人を務める友人夫婦を連れての来日。もともとニューヨークに旅行する予定だったが、キャニオンジャパンからの熱烈ラブコールに応えるかたちで来日が実現した。

六本木ヒルズ展望フロアの階上にあるスカイデッキにて記念撮影六本木ヒルズ展望フロアの階上にあるスカイデッキにて記念撮影 photo:Kei Tsujiキャニオン本社からやってきたマーケティングスタッフ曰く、カチューシャのスター選手が遠い日本のローンチイベントに出席するのは異例とのこと。過去に2度来日しているプリート自身が日本を気に入っていることも今回の来日に繋がったようだ。

2015年シーズンの成功を願って2015年シーズンの成功を願って photo:Kei Tsuji到着するやいなや「今すぐ観光を開始したい」という元気の良さで、初日から築地で寿司を食べ、六本木ヒルズの展望フロアに登り、浅草寺にお参りしておみくじをひき、秋葉原で日本のカルチャーに触れるという慌ただしい観光をこなした。

引き当てたおみくじは末吉引き当てたおみくじは末吉 photo:Kei Tsuji見るもの全てに興味を示す好奇心おう盛なプリートは、六本木ヒルズの展望フロアで開催されていた「お絵かきピープル」という催しに参加。専用の用紙に描いた人物像がスキャナーによって読み込まれてプロジェクターで壁に投影され、その絵が命をもったように動き出すという仕組みに感激しながら、プリートは赤色のクレヨンを手に取ってみる。ヨランダ夫人に手直しされながらカチューシャのジャージを描き上げ、壁に映し出されたカチューシャの選手を嬉しそうに動画撮影していた。

通訳兼ガイドとしてプリートに帯同したのはスペインのアマチュアチームで走る20歳の小林海(まりの)。ベテランのスター選手でありながら飾らないプリートの人柄の良さに感激しきりだった。

「日本は静かな国。電車の中でもカフェでもみんな静かだ。でも周りの人と話をしていないように感じる。さっき気付いたんだけど、みんなiPhoneやMacBookと話している(笑)」。キャニオンジャパンのローンチパーティー前に立ち寄った代官山蔦屋書店のスターバックスで、周りを見回しながらプリートはそう語る。確かにプリートのテーブルだけ賑やかで、常にカタルーニャ語の冗談と笑いに溢れていた。

150人以上が参加したキャニオンジャパンのローンチパーティーの翌日には、約400人が列をなしたサイン会に出席。それから再び街に繰り出し、松戸で競輪を観戦し、鎌倉まで脚を伸ばし、とにかく日本食を食べまくった。

水曜日の帰国までたっぷり日本を堪能したプリートに、バイクのこと、トレーニングのこと、そして来シーズンについて聞いた。



普段から乗るキャニオンAEROADの実車普段から乗るキャニオンAEROADの実車 photo:Kei Tsuji


ローンチパーティーの階上で行なわれたインタビューローンチパーティーの階上で行なわれたインタビュー photo:Kei Tsuji—まずキャニオンのバイクについて教えて下さい。クライマーなのにAEROADに乗る理由は何ですか?

ポジションが自分向きだし、何より乗り味が好きなんだ。AEROADはULTIMATEと比べてハンドルが10mm低く、10mm遠い。僕は脚が短いから、サドル高を上げられないけれどよりアグレッシブなポジションが出せる。乗った感じも軽く、しなり具合もちょうど良いし、硬すぎず、バランスが良い。最近はどんなフレームでも軽くできるから、それだったらエアロが効いている方が良いだろう?

—パワーメーター全盛ですが、時々装着せずに走っていますよね?何故ですか?

よく見ているね(笑)。基本的に自転車の重量はあまり気にしないけれど、駆動系パーツの重量に関してはとても注意を払っている。例えばペダルやシューズ、ホイールなど、回転する部品の重量にはとても神経質なんだ。だからパワーメーター(SRM)はレース中につけていない。TTと練習の時だけはつけている。

—それだとレース中のデータは取れませんが、気にならないのですか?

気にならないね。僕は少し昔気質なのかもしれない(笑)。それと同じでシューズやサドル、ハンドルに関してもコンサバティブ。できることなら変えたく無いし、変えた後に不調に陥ってしまったら原因がパーツなのか自分なのか分からなくなる。不安要素を無駄に増やしたく無いんだ。厳密に言えば同じサドルでも、ある部分の厚さは微妙に違ってくる。サドルのヘタりでサドル高を変更する選手もいるが、自分はそうはしたくない。

インタビューに応じるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)インタビューに応じるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiジャージ姿でパーティーに登場したホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)ジャージ姿でパーティーに登場したホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji

—なるほど。実際にどのくらいの数値が出るのか興味があるのですが。

良いよ。秘密は何にも無い。私は体重58kgで、20分間だと360〜380W。でもそんなことを聞いてどうするんだ?私と勝負したいんだろ?(一同爆笑)

—勘弁して下さい(汗)

例えば一時間のテストは長過ぎてやらないが、私は短時間で高強度のペースアップが得意。だからそうした長所を伸ばすトレーニングを普段から行っている。

—パワーメーターが浸透してトレーニング方法も大きく変わったと思いますが。

昔は心拍トレーニングを行っていたが、今はほとんど絶滅した。代わりにパワーメーターで全てを管理したことで短時間で濃密なトレーニングができるようになっている。今となってはパワーメーター無しのトレーニングは考えられない。

でも個人的なことを言えば、先ほども言った通り私は昔気質。だから未だに長くトレーニングに出ることも好きだし、長いときで8時間以上乗ったりもする。そういうときは最初の3時間でメニューを済ませ、あとは自分のペースで走るんだ。

抽選会でカチューシャのジャージをゲット抽選会でカチューシャのジャージをゲット photo:Kei Tsujiキャニオンジャパンのローンチパーティーに集まった参加者と一緒にキャニオンジャパンのローンチパーティーに集まった参加者と一緒に photo:Kei Tsuji

—失礼ながらベテランの域に達していますが、プロトン内で昔と変わったことは何でしょうか?

かなり変わった。良いこともあるし、もちろん悪いこともある。悪いことの代表格が、若手選手が目上の選手に対してリスペクトしなくなったこと。メディアに対する態度も、あたかも自分が大物かのように振る舞っている。そんな振る舞いに対して僕が注意することもあるけれど、イチイチ構うことで無駄な労力を使いたくないのも事実。

でも(ジュリアン)アレドンドや(ファビオ)アルといった若手選手はかなりキッチリしているよ。僕らに対してリスペクトしてくれるし、振る舞いもわきまえている。態度の悪い選手の名前は言えないな(笑)

—恥ずかしながら私は今肋骨を折っています。あなたもジロで肋骨を折ってリタイアしましたが、リハビリ中はどのような練習をしていたのですか?

例えば膝を怪我すると余計に深刻化するから走ることを我慢する。ジロの時は指と肋骨だったから、そういう走りに関係ない部分の怪我は無視して走るしかない。ただ肋骨は深い呼吸をすると動いて痛むので、最初はあまり心拍を上げないように練習をする。とりあえず君も走っておきなさい(笑)

パーティー終了後、渋谷の街に繰り出すパーティー終了後、渋谷の街に繰り出す photo:Kei Tsuji多くのファンがサイン会に詰めかけた多くのファンがサイン会に詰めかけた photo:Kei Tsuji

—今年のレースを見ていて(アレハンドロ)バルベルデに出し抜かれたような場面がいくつかありました。ホントのところ、仲は良いのですか?

レースの時とプライベートな時では全く違う。彼は彼のために走っているし、僕は僕のために走っている。年も実力も近く、同じスペイン人だからプライベートではもちろん仲が良い。そしてそういった場面ではバルベルデが一番スプリント力を持っている。つまり彼は単独でも集団でも勝ってしまうから、僕らはどうにかして彼を置き去りにしなければいけないんだ。バルベルデ以外の選手が牽いているのにはそういう理由がある。

—来シーズンに向けてどこから動き始めますか?

帰国してから徐々にオフトレーニングを開始。シーズン初戦はアルゼンチンのツール・ド・サンルイスになる予定で、その後にドバイツアーやツアー・オブ・オマーンが控えている。シーズン前半の目標はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝つこと。おそらくジロ・デ・イタリアをパスして、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャに出場するよ。今年は苦しいシーズンだった。来年のツールはクライマー向き、つまり私向きだから勝ちに行く。

text&photo:Kei Tsuji
interview:So Isobe