アルプス初日の超級山岳シャムルースの山頂フィニッシュで総合順位に大きな変動。登坂距離18.2kmの難関山岳で、マイヨジョーヌを着るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)がライバルたちを振り切った。ニーバリが総合優勝に向けて着々とリードを広げつつある。



ヒマワリ畑とプロトンヒマワリ畑とプロトン photo:Tim de Waele


ツール・ド・フランス2014第13ステージツール・ド・フランス2014第13ステージ image:A.S.O.アルプス山脈突入を告げるのが超級山岳シャムルースの山頂フィニッシュ。ヴォージュ山塊でたっぷりと3日間を過ごしたのに対し、本格的なアルプス山岳ステージはこの第13ステージと第14ステージの2日間に限定される。

ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)率いる逃げグループが一定ペースで走るダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)率いる逃げグループが一定ペースで走る photo:Makoto Ayanoリヨン南部に広がる丘陵地帯を進んだ後、まずはツール初登場の1級山岳パラキ峠(14.1km/6.1%)を高速で駆け上がる。高速と言っても下り区間を含んでいるため、登りの実質的な平均勾配は10%に近い。

マイヨジョーヌを擁するアスタナは今日も手堅く集団をコントロールマイヨジョーヌを擁するアスタナは今日も手堅く集団をコントロール photo:Makoto Ayanoこの急勾配の登りで人数を減らしたプロトンが、標高1730mの超級山岳シャムルース(18.2km/7.3%)に挑む。2001年にランス・アームストロングが山岳タイムトライアルで優勝した(後にタイトルは剥奪された)シャムルースで、マイヨジョーヌ候補は絞り込まれる。ニーバリに対して誰が攻撃を仕掛けるのかに注目が集まった。

落車・転倒の負傷が痛々しいヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)落車・転倒の負傷が痛々しいヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ) photo:Makoto Ayanoスタート直後の3級山岳クロワ・ド・モンヴィーニュ峠で新城幸也(ユーロップカー)を含む5名が先頭グループを形成したものの、メイン集団はこれを許さずに吸収する。すると続いてジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)やブレル・カドリ(フランス、AG2Rラモンディアール)、アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)ら9名が先行する。落ち着きを取り戻したメイン集団は、この先頭9名に最大5分のリードを与えた。

先頭9名を追走したのはカチューシャ率いるメイン集団。マイヨジョーヌ擁するアスタナではなく、山岳賞ならびに山岳ステージ制覇に興味を示すカチューシャが長時間にわたってメイン集団を牽引する。最初の勝負どころである1級山岳パラキ峠に差し掛かる頃にはタイム差が1分15秒まで縮まっていた。

1級山岳パラキ峠で先頭グループは分裂し、カドリとヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)がアタックを仕掛けて先行する。デマルキは一時的に遅れたものの、一定ペースを保ってカドリとバケランツをパス。山岳賞5位のデマルキが独走で1級山岳を登り切った。

この1級山岳パラキ峠でメイン集団の強力なペースを作ったのは新城だった。袖口に元全日本チャンピオンの証である赤い帯を配した新城のペースメイクによって集団は人数を減らし、ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)らも脱落。ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)のためにお膳立てした。



1級山岳パラキ峠でメイン集団のペースを上げる新城幸也(ユーロップカー)1級山岳パラキ峠でメイン集団のペースを上げる新城幸也(ユーロップカー) photo:Tim de Waele


積極的にペースを上げるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)積極的にペースを上げるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Tim de Waele続いてアスタナが主導権を握ったが、ニーバリの山岳アシストの要であるミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アスタナ)は脱落してしまう。続いて1級山岳パラキ峠の下りでヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)が落車し、ニーバリのアシスト体制は手薄な状態に。しかし2人のアシスト脱落はニーバリにとって大きな問題にならなかった。

バルベルデやピノを振り切るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)バルベルデやピノを振り切るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waeleフグルサングの落車に伴ってペースを落としたメイン集団は、先頭デマルキから3分45秒遅れで最後の超級山岳シャムルースへ。登坂距離18.2kmの登りが始まるとFDJ.frとモビスターによる集団ペースアップが開始される。失速し始めた先頭デマルキのリードは見る見るうちに縮小し、残り14kmで吸収。メイン集団内で総合争いとステージ優勝争いが始まった。

懸命に追走するロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)懸命に追走するロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:Tim de Waeleジョン・ガドレ(フランス、モビスター)やタネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)が集団先頭でペースを刻むと、残り12km地点で総合2位のリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)が脱落する。ミケル・ニエベ(スペイン、チームスカイ)らのサポートを得たものの、ポートは大失速。結局この日だけで8分48秒遅れ、総合2位から総合16位まで順位を下げた。

ニーバリを追うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)ニーバリを追うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr) photo:Tim de Waele先頭ではティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)が先陣切ってアタックを仕掛け、続いてレオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)の2人が先行。総合上位陣はこれらの動きに興味を示さない。

独走で超級山岳シャムルースを駆け上がるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)独走で超級山岳シャムルースを駆け上がるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Tim de Waele残り10kmアーチを前にアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がアタックを仕掛けると、ニーバリとピノだけが合流する。マイヨブランを着るロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)やティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)が追走したものの、ニーバリらの背中は遠ざかった。

追走3人(ニーバリ、バルベルデ、ピノ)の中で明らかに余裕の表情を浮かべていたニーバリが動いたのは残り7km地点。軽いダンシングでライバルたちを振り切ったニーバリは、すぐに先頭ケーニッヒとマイカに合流。しばらく3人での走行が続いたが、残り3km地点でペースを上げるわけでもなくニーバリの独走が始まる。トップコンディションのニーバリの勢いは誰にも止めることが出来なかった。

マイカとケーニッヒを10秒、バルベルデとピノを50秒、バルデとヴァンガーデレンを1分23秒引き離したニーバリが天を仰いで独走フィニッシュ。「メッシーナの鮫」の異名をもつ王者ニーバリがステージ3勝目を掴んだ。

アルプス初日を終えて総合2位バルベルデとの3分37秒、総合3位バルデとのタイム差は4分24秒まで拡大。総合リードを広げることに成功したニーバリは喜びに溢れるコメントを残す。「今日の目的は総合ライバルたちとのタイム差を広げること。暑さに苦しんだけど、ポートが脱落してからはバルベルデを引き離すことに集中した。今日の表彰台はこれまでのそれよりも幸せいっぱいに見えたかも知れない。だって総合ライバルたちからリードを奪うことが出来たかのだから」。

超級山岳のフィニッシュで50ポイントを荒稼ぎしたニーバリは山岳賞ランキングでもトップに。また、ワイルドカード枠で出場しているケーニッヒが総合10位まで順位を上げた。

選手コメントはレース公式サイトより。



マイヨジョーヌを着るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が独走でフィニッシュマイヨジョーヌを着るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が独走でフィニッシュ photo:Tim de Waele
トーマスに感謝するリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)トーマスに感謝するリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ) photo:Tim de Waeleシャムルースのゴールに辿り着いたグルペット集団。大きなタイム差がついたシャムルースのゴールに辿り着いたグルペット集団。大きなタイム差がついた photo:Makoto Ayano



ツール・ド・フランス2014第13ステージ結果
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)
3位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
5位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
6位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
7位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
8位 ローレンス・テンダム(オランダ、ベルキン)
9位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)
10位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、トレックファクトリーレーシング)
11位 アイマル・スベルディア(スペイン、トレックファクトリーレーシング)
12位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
13位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキン)
14位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
15位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)

27位 リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)
44位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
5h12'29"
+10"
+11"
+50"
+53"
+1'23"

+1'36"
+2'09"




+3'01"


+8'48"
+19'35"


マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
3位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
4位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
5位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
6位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)
7位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキン)
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
9位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)
10位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)
56h44'03"
+3'37"
+4'24"
+4'40"
+5'19"
+6'06"
+6'17"
+6'27"
+8'35"
+8'36"


マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
2位 ブライアン・コカール(フランス、ユーロップカー)
3位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
341pts
191pts
172pts


マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
3位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
70pts
53pts
41pts


マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
2位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
3位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)
56h48'27"
+16"
+4'27"


チーム総合成績
1位 AG2Rラモンディアール
2位 ベルキン
3位 チームスカイ
170h27'17"
+9'24"
+23'46"


ステージ敢闘賞
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele, Makoto Ayano