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DOMANE(ドマーネ)の開発は、ほぼ3年前から始まった。最初は漠然としたアイデアだった開発構想が急に進んだのがカンチェラーラの前レオパード・トレックへの移籍加入だった。その前年のロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベの二冠に輝いた当時のカンチェラーラがトレックの開発陣に求めたのが、「Less in, More Out」という言葉。要約すると、「より少ない入力で、より大きなパワーを生み出す」と言う意味だ。

この言葉をもとに、トレックの技術者たちはファビアンが求めるバイクの性能の要素について、次のような仮説を立てる。

DOMANEのプロトタイプを駆ってアランヴェールのパヴェを走るファビアン・カンチェラーラDOMANEのプロトタイプを駆ってアランヴェールのパヴェを走るファビアン・カンチェラーラ

〜Less in, More Out を実現するために必要な性能とは〜

  • Conserve Energy(省エネルギー性)
  • Stable Handring(安定したハンドリング)
  • Confort(快適性)
  • Efficiency(効率性)

解析用の電極をつけたバイクを駆るヨースト・ポストゥーマ解析用の電極をつけたバイクを駆るヨースト・ポストゥーマ 以上の要素を満たすバイクこそが、Less in,More Outを可能にするのではないか、ということ。

謎に満ちたパヴェでの走りを解析すべく、トレック開発陣とカンチェラーラたちは実際にパリ〜ルーベで使用されるパヴェで実走解析を開始する。

当時の記録映像をみると、当時まだ移籍前の2010年10月末より北の地獄パリ〜ルーベの難所「アランベール」のパヴェで、解析用の電極をつけたテストバイクでデータ収集をするトレックの技術者とカンチェラーラやポストゥーマらの姿がある。

次に技術者たちは魚拓よろしくパヴェの「型」を採取し、それをもとにした走行試験機をアメリカ国内のトレックの実験施設内に再現。過酷な走行条件を忠実に再現し、パヴェで勝てるバイクの開発を進めた。

先に挙げた、カンチェラーラが求めた性能要素に対する答えが、DOMANEに搭載されているそれぞれのテクノロジーにある。

シートチューブとフォークに搭載されるIsoSpeedテクノロジーが路面からの振動を吸収し、快適性を生み出す。エンデュランス・ジオメトリーが安定したハンドリングを実現し、長距離走行時の体力の消耗を抑える。パワートランスファーシステムがライダーのパワーを受け止め、高いペダリング効率で伝達する。もちろんそれらはお互い作用し合い、カンチェラーラの求める Less in,More Out につながる。

パリ〜ルーベで使用されるパヴェを再現するべく型どりするところから開発はスタートしているパリ〜ルーベで使用されるパヴェを再現するべく型どりするところから開発はスタートしている 本社でも歪み計測やFEA解析などの実験を繰り返した本社でも歪み計測やFEA解析などの実験を繰り返した

実際のパヴェに近い路面をアメリカ国内の実験施設に再現。試験機にも応用した実際のパヴェに近い路面をアメリカ国内の実験施設に再現。試験機にも応用した 回転ローラーにも凹凸を人工的に作り出し、効率の悪い路面状況を作り出した回転ローラーにも凹凸を人工的に作り出し、効率の悪い路面状況を作り出した

開発を進めながら、トレックの技術者たちはあることに気がつく。プロチームと技術者の橋渡し役を務めるベン・コーティス氏は言う。

「ファビアンの求めるバイクの素晴らしい点は、もしそのバイクの開発に成功したら、そのバイクの性能はプロだけでなく一般のサイクリストすべてにとってもメリットになる」

「ヴァーティカル・コンプライアンス」がキーワード

DOMANEのもっとも特徴的なテクノロジーである IsoSpeed は、シートチューブ周辺とフォークに搭載される。

シート側はエラストマーが入っているのではないかと思わせる外観だが、今回の技術はそれを超えるものだ。このキャップの内側にあるリンクがピヴォットとして機能し、シートチューブがBB付近からしなることを可能にしている。これがトップチューブとシートチューブとを強固に結ぶリンクとしても機能しながら、シートチューブは大きな入力(路面からの突き上げ等)があると独立してしなり、振動を吸収する。

そして一見ユニークな後方オフセット・エンドと、先端にかけて大きな曲げ形状をもつフロントフォークも、路面からの振動を積極的に吸収し、ライダーに伝わるショックを効果的に減衰する。

IsoSpeedテクノロジーがシートチューブの縦方向のしなりを作り出し、振動を吸収するIsoSpeedテクノロジーがシートチューブの縦方向のしなりを作り出し、振動を吸収する
チューブのリンク部には樹脂製のパーツが嵌合されるが、エラストマーではない。中のリンク構造が肝だチューブのリンク部には樹脂製のパーツが嵌合されるが、エラストマーではない。中のリンク構造が肝だ
IsoSpeedテクノロジー搭載フォーク。後方にオフセットさせたフォークにより、高い衝撃吸収性を生み出すIsoSpeedテクノロジー搭載フォーク。後方にオフセットさせたフォークにより、高い衝撃吸収性を生み出す

この IsoSpeed テクノロジーにより生み出されるヴァーティカル・コンプライアンス(垂直方向の柔軟性による路面追従性)は、MADONE(マドン)の数値が22.9mmなのに対し、32.9mmと大幅に上回っている。そして、競合他社のバイクに対しては実に2倍の数値を実現しているという。

プレゼンテーションにおいてその競合他社のバイクについては名前が挙げられなかったが、トレックの技術者に質したところ、それは(やはり)スペシャライズドのルーベだということだった。その技術者は他にも、「DOMANEはフォークの横剛性で30%、縦剛性で5%、その競合車種より上回っている」とも話してくれた。

シートチューブに高い柔軟性を持たせたことに対し、ペダリングパワー伝達に大きな役割を果たすBB周辺には逆にマドンよりも高い剛性を持たせてあるという。

力を逃さず伝達する パワートランスファー・コンストラクション力を逃さず伝達する パワートランスファー・コンストラクション ヘッドチューブ前面にケーブル内蔵口が集められたパフォーマンス・ケーブルルーティングヘッドチューブ前面にケーブル内蔵口が集められたパフォーマンス・ケーブルルーティング

ヘッドチューブからダウンチューブ、チェーンステイにかけて「パワートランスファー・コンストラクション」が搭載されたDOMANEは、高度なネットモールディング(特殊な金型によるカーボン成型技術)によって成型される。結果として、マドン比でヘッド剛性が9%、フォークの横剛性で30%、フレーム全体で6%の剛性向上を達成しているという。

つまりDOMANEは、シートチューブをしならせるという画期的な技術を採用しながらも、ライダーのパワーを受け止める剛性は向上させるという、従来同時には成し得ることができなかった性能を両立していると言うことができる。

エンデュランスジオメトリー

DOMANEとMADONEのフレーム部位の比較
(サイズ:54cmの場合)

 DOMANEMADONE
チェーンステイ420410
トップチューブ542544
フレームスタック57.552.6
ヘッドアングル71.373.0
ヘッドチューブ1612
シートアングル73.7°73.7°
フォークレーク5.34.5
BB下がり8070
トレール5.95.6
DOMANEのもうひとつ特徴的な点は、そのスケルトン(設計)だろう。採用された「エンデュランスジオメトリー」とは(マドンと比べて)簡単に言い表せば、
  • ホイールベースが長い
  • ヘッドアングルが寝ている
  • トップチューブが長く・寝ている
  • フォークレーク(オフセット)が大きい
  • BBハイトが低い
もちろんこれは表面的な数値の違いを簡単に言い表しただけにすぎない。DOMANEをマドンと比較したフレーム各部位の具体的な数値は、右の表を参照して欲しい。

プロのためだけじゃない、万人のサイクリストのためのバイク

カンチェラーラのリクエストが大きく開発を後押ししたDOMANEだが、トレックが製品として仕上げたのは、決してパヴェ対策だけのバイクではない。また、プロロードレーサーだけのバイクではない。すべてのサイクリストにメリットとなる性能がDOMANEにはある。

より速く、より長い距離を、より快適に、より効率的に、より安全に。スポーツバイクに求められる普遍的なすべての性能を高バランスで実現した理想のロードバイクがDOMANEなのだ。

Movie

text:綾野 真/シクロワイアード 提供:トレックジャパン