革新的な性能を持って生まれたミシュランの新たなるハイエンドロードタイヤ「POWER」シリーズ。本章ではプレゼンテーションに出席した開発メンバーの一人、ピエールイヴ・フォルマーニュ氏へのインタビューを紹介します。高性能を生み出す要素とはいかに?

「勝利を導くためのレーシングタイヤ」

POWERシリーズを手にするミシュラン開発陣の面々POWERシリーズを手にするミシュラン開発陣の面々
インタビューを行った開発陣の一人、ピエールイヴ・フォルマーニュ氏インタビューを行った開発陣の一人、ピエールイヴ・フォルマーニュ氏 photo:Michelinテストに向かうライダー。ペダリング時の荷重移動を踏まえてバイクは電動仕様になっているテストに向かうライダー。ペダリング時の荷重移動を踏まえてバイクは電動仕様になっている

テストコースで行われたウェットテストテストコースで行われたウェットテスト (c)Michelin「ブラインドテストの結果、POWERオールシーズンはライバル製品に比べコーナリングスピードが上がった」「ブラインドテストの結果、POWERオールシーズンはライバル製品に比べコーナリングスピードが上がった」

そんなディスクブレーキの性能を引き出すためには、グリップ力の高さはもちろん、グリップの変化が把握しやすい素直な挙動のタイヤである必要があります。グリップ性能に関して言えば、PRO4世代で既に、市場のロードタイヤでトップクラスのレベルは出ていましたが、今回はコンパウンドを改良することで大幅な性能向上が叶いました。



ウェットグリップのラボテスト。上方向から荷重を加え、滑り出すタイミングを計るウェットグリップのラボテスト。上方向から荷重を加え、滑り出すタイミングを計る 耐久性試験用のテストコース。荒れたアスファルトに小石が散りばめられている耐久性試験用のテストコース。荒れたアスファルトに小石が散りばめられている テストコースに無数に敷かれた尖った小石。この上で耐久性が磨かれていくテストコースに無数に敷かれた尖った小石。この上で耐久性が磨かれていく 耐久性テストの様子。厳しい状況下で性能が高められたという耐久性テストの様子。厳しい状況下で性能が高められたという photo:Michelin普通に乗っているだけならどんなタイヤでも特に問題ありませんが、雨天レース時に危険を回避したり、1秒を争う場面ではグリップ力こそが安心感に繋がり、大きな差が出るのです。

ーPOWERオールシーズンでは新たに特徴的なトレッドパターンを使っていることも目につきました。これにはどのような意味があるのですか?

オールシーズンにトレッドパターンを設けているのは、ウェット路面でのコンタクトプレッシャー(面圧=面積当たりの荷重)を稼ぐためです。コンパウンドの工夫による部分も大きいのですが、さらに特殊なトレッドパターンを施すことでコーナリング中のグリップ力をもう一段高めました。

基本的にウェットや汚れた路面でグリップさせるには、接地面に掛かる力を増やす必要がありますが、自転車に重りを積むわけにはいきません。ではどうするかと言うと、タイヤを細くしたり、溝を入れることで接地面積を少なくし、相対的に面圧を上げてグリップ力に繋げるのです。これはWRCなどラリーカーの世界で、スノータイヤがドライタイヤに比べて極端に細いことと同じ理屈ですね。

ですからオールシーズンではウェット時のコーナリンググリップを高めるため、タイヤサイドに矢羽状のトレッドを加えています。対してセンター部分をスリックパターンとしたのは、直進時にはコーナリング時に求められるほどのグリップ力が必要無いため、転がり抵抗の削減を優先したからです。これらの工夫によって、開発ライダーからはとても好意的なフィードバックを得ることができました。

ー「160×3TPI」のように、ケーシングが3層構造となっている理由を教えて下さい。

ケーシングを3層構造にした最大の目的は、耐パンク性を向上させることにありました。またタイヤの剛性(ケーシング剛性)を上げ、グリップ力をはじめとする各性能を引き出す狙いもあります。

確かに一般的な1層構造のケーシングの場合はしなやかな乗り心地にはなりますが、ヤワなタイヤを使っていては順位を争うことすらできないと考えています。また、これは協力関係にあるチームから強く言われていたことですが、高速化している現在のロードレースでは、たった一つのパンクが脱落の要因となってしまう。だからケーシングを3層構造にすることで剛性と耐パンク性を共に引き上げることにしたのです。

転がり抵抗低減が至上命題

ーコンペティションには転がり抵抗を低減するため、モトGP由来のコンパウンドが使われていると聞きましたが、具体的にはどういった技術なのでしょうか?

詳細はトップシークレットなのですが、今日のタイヤにおいて、最も進化を遂げているのはコンパウンドです。タイヤ用のコンパウンドは、天然ゴムや合成ゴムからなるポリマーと、ゴムの強度を高めるカーボンブラック(炭素の粉)や、ウェット性能を向上させたり転がり抵抗を低減させるシリカ等からなる充填剤、さらにレジンや複数のオイルなどが複雑に混ざり合うことで構成されています。

転がり抵抗のラボテストの様子転がり抵抗のラボテストの様子 photo:Michelin
幾つかのブランドは特にレース用タイヤで新素材を加えた独自のコンパウンドを投入していますし、ミシュランもモトGP用のレースタイヤに新技術を投入し、それをコンペティションのコンパウンドに流用しました。素材の配合を工夫することでコンパウンド自体の変形量を少なくすることで転がり抵抗の削減を狙っているのですが、残念ながらその多くはトップシークレットゆえに語ることができません。

ーオートバイと自転車では使用環境も想定温度帯も完全に異なりますよね?

変形量を抑える新型のコンパウンドで転がり抵抗を大幅に低減した変形量を抑える新型のコンパウンドで転がり抵抗を大幅に低減した その通り。重量や熱、摩擦係数、タイヤに掛かる力など、根本的に全てが異なります。だからモトGP用のコンパウンドをそのまま使うことはできず、ノウハウは応用しつつも専用のコンパウンドを開発しています。

よく開発陣で話すのですが、コンパウンドはパンやケーキ作りに似ているんです。基本となる素材はほぼ一緒で、配合や製法を微妙に変化させることでスポンジケーキにもなるし、パウンドケーキにもなる。コンパウンドも同様ですね。その中でPOWERが生み出されました。特にオールシーズンはウェット路面でクラス最高のグリップ力を生み出すことができたと考えています。

「クリンチャーがチューブラーを置き換える時が必ず来る」

ーラインナップはクリンチャーのみですが、現在プロトンで使われているのはほぼ100%チューブラータイヤです。チューブラーバージョンを発売する可能性はありますか?

メディアの面前でプレゼンテーションを行うピエールイヴ・フォルマーニュ氏らメディアの面前でプレゼンテーションを行うピエールイヴ・フォルマーニュ氏ら ありません。現在プロロード選手のほとんどがチューブラータイヤを使っていることは事実です。しかし、ミシュランとしては、今後クリンチャータイヤがチューブラータイヤに取って変わる時が来ると感じていますし、私個人としては、この先チューブラーは廃れるとすら思っています。

実際に各チューブラータイヤの対抗馬となるのはコンペティションですが、グリップ力や転がり抵抗など、いかなる面においてもライバル製品の上を行くことがテストラボでも、実際のロードテストでも証明できましたし、タイヤの交換時にテープや接着剤、そして時間を要するチューブラーは、多くの機材を必要とするプロチームではナンセンスです。確かに乗り心地は優れていますが、レースでは特殊な場合を除いてスピードとグリップこそが勝利に直結する大きな要素。その面ではクリンチャータイヤであるPOWERの右に出るものは無いと自負しています。

それともう一つ。トライアスロンではここ最近、セバスチャン・キーンレやヤン・フロデノらほとんどのトップ選手がチューブラーからクリンチャーへとスイッチしています。その理由は、転がり抵抗において圧倒的なアドバンテージがあるからです。アイアンマンディスタンスでは秒ではなく、分レベルでの差が出てくる。トライアスロンはロードレースよりも機材の差が出るため、トップ選手は非常にこう言った差に敏感ですし、ロードレースとは違い個人で活動している選手が多いため、機材の変更がそこまで難しくないことも理由の一つです。

クリンチャータイヤであるPRO3を使って2010年のツール・ド・フランスを走るAG2RラモンディアールクリンチャータイヤであるPRO3を使って2010年のツール・ド・フランスを走るAG2Rラモンディアール photo:CorVos
例えば1989年にグレッグレモンがツール・ド・フランスを制した時、タイムトライアルで使ったTTバーが大きく味方したのはあまりに有名な話です。クリンチャータイヤも同じようにロードレース界に浸透するはずですし、実際にタイムトライアルで使い始めている選手も数人レベルですが、実際に存在しています。

ミシュランは1980年代に、初めてレーシングクリンチャータイヤをトップレースに投入したブランドです。当時は誰もがその性能に懐疑的でしたが、結果的には世界選手権やジロ・デ・イタリアを制し有効性を世に知らしめました。今回のPOWERをきっかけに、クリンチャータイヤがより一層の注目を浴びていくことは間違いないと感じます。
提供:日直商会、深谷産業 text : 磯部聡 制作:シクロワイアード編集部