チュニジアに端を発した中東・北アフリカに於ける民主化運動の拡大がエジプトに波及し、リビアではカダフィ大佐が大暴れと世界情勢は予断を許さない状況に置かれている昨今。そんな喧騒とは全く無縁の平和な編集会議でメタボ会長が独り呟く。

「のんびり気分でサイクリングを楽しめそうなイベントの取材って何か入ってないの?」
いつもと変わらぬ好き放題な要求だが、すっかり慣れっこになってしまっている編集部内では誰一人として取り合う素振りを見せない。そんな中で人格者の編集長が優しく答える。

快晴に恵まれたイベント当日。やっぱり晴れ男?快晴に恵まれたイベント当日。やっぱり晴れ男? 「東松山の森林公園で”シクロ4hエンデューロ”っていうイベントが取材予定にありますね。これなんか丁度いいんじゃないですか?」
そんな優しい編集長の心遣いをあざ笑うかの様なワガママが続く。
「ガシガシ走る系は嫌だぞ。まだまだ寒いから下手に頑張ると背中の故障が悪化しかねないからな。」

普通の感覚の持ち主であれば愛想をつかす状況にも屈せず優しく声を掛け続ける編集長は本当にできた人である。
「大丈夫ですよ。エキップ・アサダの主催ですけど、実はノンビリムードのアットホームな大会ですから。」

エキップ・アサダ主催と聞くと誰もがハードな内容を想像しがちであるが、実は初心者から上級者までが満遍なく楽しめる大会なのである。運営がシッカリしているし、エカーズの選手達もパトロールライドをしてくれるお陰で、シャカリキになって速度違反をしたり無理な追い抜きをする参加者もいない素敵なイベントなのだ。

素敵なお姉様たちに囲まれて幸せそうですね。素敵なお姉様たちに囲まれて幸せそうですね。 「じゃ、それに決まり。主催者さんに連絡しといてくれよ。」
いつも通りのお決まりのパターンで話が進む中、編集長が驚愕の一言を発する。

「判りました。取材申請に会長の名前も追加しておきます。それと申し訳ないのですが、私は別件で同伴できませんので編集部員と同行して下さい。」

思わず椅子から転げ落ちそうになる。編集長不在で、メタボ会長の子守を我々下っ端だけで対応なんて出来得るはずもないし、そもそもまっぴらご免である。

編集長ですら手を焼く怪物の面倒を我々だけで見るなんて・・・。この時ばかりはいつもの優しい編集長が鬼に見えた気がした私だった。

こうして迎えた恐怖のイベント当日。

関東圏の自転車専用コースとして評判の高い埼玉県東松山市武蔵丘陵森林公園のサイクリングコースで、スポーツサイクルによる4時間エンデューロ「シクロ4hエンデューロin武蔵丘陵森林公園」のスタートだ。

心持ち気温は冷たく感じるものの、この晴天には文句のつけようが無い。自称晴れ男の面目躍如といった所かメタボ会長が取材に同行するとホントに天気だけは良いのが不思議である。

浅田監督と並んでコースに流れ込んで行く。浅田監督と並んでコースに流れ込んで行く。 コース状況は文句なし。とても走りやすい。コース状況は文句なし。とても走りやすい。


「バリバリ速い集団」「中級者グループ」「のんびりチーム」の3組に分かれ順次各一団となって進み始める。もちろんオヤジはのんびりチーム。先頭に陣取り、先導役のエキップ・アサダの浅田監督と一緒にスタートを切ってゆく。

参加者の皆さんの輝く笑顔に包まれながら、緩やかなアップダウンを小刻みに繰り返す1周5km弱の周回路を10分/周前後のペースで走るその姿はとっても楽しそうである。

国立公園内のサイクリングロードだけあって、路面状況は抜群である。きめ細かい舗装面はピカピカで砂利が浮いている場所など皆無である。比較的テクニカルなレイアウトではあるが、急坂が無い事が幸いしそれぞれがレベルに合った集団を形成し、楽しそうに走っている。

メタボ会長も自分に都合のいいペースの集団を見つけてはその後ろに隠れて無賃乗車を繰り返しながらこのイベントを心から満喫している。

アイカワショウさんとランデブーを楽しむ。アイカワショウさんとランデブーを楽しむ。 相手のことも知らずに挑戦中のメタボ会長。相手のことも知らずに挑戦中のメタボ会長。


スタートから5周ほど走り、ライダー交代にオヤジが戻ってくる。笑みが絶えないその表情は満足感に満ち溢れている。どうやらとても充実した1時間だったらしく、前方を指差しながらメタボ会長が笑顔で話しかけてくる。

「ほら、あそこにアサダさんのジャージ着たイケメン君が居るだろ? 彼の後ろに隠れて走ってたからとっても楽チンだったよ。一定のペースで走ってくれるから彼の後ろは随分と走りやすかったな。途中で千切ってやろうと思ったんだけど平気な顔して付いて来るから参ったよ。」

そんなメタボ会長が指差した先はエキップ・アサダの名インストラクターであるアイカワショウさんが立っている。

念のために補足しておくが、アイカワショウさんとは日本とフランスを股にかけて選手生活を送っていた過去を持ち、ブリヂストンアンカー選手時代にはジャパンカップ2007のオープンクラスで優勝しちゃった程の人なのである。そんな事情を説明すると

「えっ、そぉ~なの? 随分と甘いマスクだったから、どっかのモデルさんか何かだと思ったんだよ。結構頑張って踏んでも涼しい顔で付いて来るから、てっきり俺の調子が悪いのかと思ってたよ。いやいや、道理で千切れない訳だ。」

のどかな武蔵野の景色に心が休まります。のどかな武蔵野の景色に心が休まります。 集団からチギれても楽しそうに走るメタボ会長。集団からチギれても楽しそうに走るメタボ会長。


全くこのオッサンは何を考えてるんだか?。無知ほど強い武器は無いのかも知れない。もはや呆れる事しか出来ない私を尻目に、メタボ会長がパトロールライドから戻って来た浅田監督を見つけるなり手を振りながら声を掛ける。
「浅田さ~ん。腹減ったから無料のトン汁食いに行きましょ~よ!」

この言葉には思わず我が耳を疑う。浅田監督とは小一時間前に初めて会ったばかりのなのに、この馴れ馴れしさには開いた口が塞がらない。この無礼千万な態度を我々に止める手段など皆無である。

「いやー疲れちゃったよ。何か飲むモノ持ってない?」「いやー疲れちゃったよ。何か飲むモノ持ってない?」 「会長、勘弁して下さいよ。くれぐれも浅田監督には失礼の無き様にお願いしますよって編集長からガッツリ言われてましたよね? じゃないと僕たちが編集長にブッ飛ばされる事になるんですけど・・・。」

心の中で叫んではみるものの、編集長不在の私にこの言葉を口にするだけの勇気など持ち合わせている訳があろうはずも無い。

見た目は冴えないただのオヤジなのだが、これでも編集部を司る運営法人のトップなのだ。組織に属する下っ端社員の私からすれば、本来は雲の上の存在である。

私の不用意な一言でオヤジのヘソでも曲がろうものなら、それこそ大事件に発展しかねない。我が編集部存亡のリスクを背負ってまで会長に盾付くほど私も馬鹿では無いのだ。精一杯努力は試みたが力不足でしたと編集長に報告しておけば八方丸く納まるに違いない。そもそも来てくれなかった編集長が悪いんだと自身に言い聞かせる。

そんな私の困惑に満ちた表情に心中を察してくれたのかメタボ会長が穏やかな表情でこちらを向く。
「心配しなくて大丈夫だよ。浅田さんて穏やかでとってもフレンドリーな人だぞ。君達も一緒にトン汁行こうぜ。」

心配しなくてもちゃんとアナタの分もありますから。心配しなくてもちゃんとアナタの分もありますから。 浅田監督もカメラ目線なのに。少しはハシを休めれば?浅田監督もカメラ目線なのに。少しはハシを休めれば?


「今日のメインはこのトン汁だな。」それでいいんですか?「今日のメインはこのトン汁だな。」それでいいんですか? ドーピングの瞬間を発見。これで永久追放に出来ます。ドーピングの瞬間を発見。これで永久追放に出来ます。


普通の人は初見の場合、常識的な遠慮から控えめな態度になり勝ちであるがこの生物にこの公式は当て嵌まらない様だ。そんな私の心配をよそに、メタボ会長の隣で一緒にトン汁を味わいながら楽しそうに雑談に付き合って下さっている浅田監督の姿に少しだけ救われた気持ちになる私だった。

その後も会場のあちらこちらで色んな人達と楽しそうに喋っているメタボ会長。同年代の参加者を見つけては座り込んでみたり、出展ブースでドーピングに励んでみたりと一向に自転車に乗る気配が感じられないのだ。そんなオヤジが3杯目のトン汁をその腹に流し込んでいる最中にイベントがフィニッシュを迎える。

笑顔に包まれた表彰式も無事終わり、駐車場へと引き上げる参加者の皆さんの表情はどれも光り輝いている。

同年代の参加者さんと雑談中。ほのぼのと楽しそうです。同年代の参加者さんと雑談中。ほのぼのと楽しそうです。 この人は最後までトン汁の前から離れませんでした。この人は最後までトン汁の前から離れませんでした。


こうして編集長抜きでメタボ会長の子守と云う激務もようやく幕を下ろした。

しかし私にはどうにも不思議に感じる事がある。私の場合はイベント参加となるとガムシャラに走る事を最優先し、イベント終了時には充実した達成感と共に疲労困憊で脱力感の塊と化すのが常なのだが、メタボ会長の場合は気力も体力も有り余っている。

最近の会長がすっかり自転車愛好家になっている事を知っているだけに、私にはどうも腑に落ちないのだ。
「せっかくのイベントなのに、何故会長はバリバリ走られないんですか?」
興味本位で恐る恐る尋ねてみると、以外にも茶化すことなく普通に答えてくれた。

「ただ自転車に乗るだけなら何時でも何処でも出来るじゃない? 自転車っていう共通の趣味を持ってイベントに集まった様々な人達との、そこで生まれる新しい出会いや触れ合いが俺にはとても心地いいんだよ。そんなイベントの楽しさを教えてくれたのは他ならぬ君たち編集部なんだけどな?」
いつになく穏やかな表情でメタボ会長が言葉を続ける。

「自転車の楽しみ方は人それぞれじゃないか? ひたすらストイックに走るも良し。自分のレベルを測る為に頑張ってみるも良し。景色や人との出会いを楽しむも良し。仲間との連帯感に浸るも良し。イベントは競技じゃないんだから、大切なのは自分が楽しかったどうかじゃないかな? 今日の俺はとっても楽しかったから合格だよ。」

こんな言葉と共に満足げな表情で缶コーヒー片手に助手席でくつろぐメタボ会長をぼんやり眺めながら、不覚にも彼のスタンスにちょっぴり感心させられたりもする私である。傾き始めた夕陽に照らされたメタボ会長の横顔が少しだけ輝いて見えた気がした。

広大な武蔵丘陵に沈む夕陽を見つめながら、イベントっていいもんだなと呟きながら帰路に付く私だった。

広大な武蔵丘陵を望む浅田監督とメタボ会長。自転車があってこそ出会えた二人の親分はすっかり意気投合したご様子です。広大な武蔵丘陵を望む浅田監督とメタボ会長。自転車があってこそ出会えた二人の親分はすっかり意気投合したご様子です。

今回、編集部チームが実走取材にお伺いした「シクロ4hエンデューロin武蔵丘陵森林公園」を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に御礼申し上げます。   編集部一同。


*このコンテンツは2月26日の取材のもとに3月5日に制作したものです。
 去る3月11日の東日本大震災に於いて被災された皆様方に対し、心よりお見舞い申し上げます。





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「ポイ捨てはダメだぞ!」「ポイ捨てはダメだぞ!」 メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 21ヶ月目

当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。


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