人知れず日本を舞台に開催されていた超長距離ロングライドイベント「ジャパニーズ・オデッセイ」。東京から大阪まで、信州や四国の難関山岳を経由しながら走る、究極のバイシクルジャーニーに集まったライダーとエキップメントを紹介しよう。



スタート直前に声をかけお願いした集合写真だが、皆スタートが待ちきれずウズウズし て、子供のような顔をしていたスタート直前に声をかけお願いした集合写真だが、皆スタートが待ちきれずウズウズし て、子供のような顔をしていた


カルロス・フェルナンデス(ドイツ)

カルロス・フェルナンデス(ドイツ)カルロス・フェルナンデス(ドイツ) ジャパニーズオデッセイは、フィンランドの新興自転車メーカーのペラーゴバイシクルとパートナーシップを結んでいて、ペラーゴ製バイクで参加するライダーも複数います。ヒゲに長髪、トレードマークのバンダナがイカすカルロスは、ペラーゴのライダー兼撮影クルーの1人。フォトグラファーとしてドイツからの参加です。

フロントパニアに機材を満載の総重量20kgで、日本の11の超級山岳に挑んだ彼ですが、実は生粋のBMXライダーです。これまでロードバイクに乗ろうなんて思ったこともなかったよ!と驚きの発言。しかし、大型台風にまで晒され、最高にタフコンディションで毎日200km近く走りきりました。残りわずか2つのCPクリアを残して、RDがモゲてしまい万事休すで、CP完全制覇ならず。

ゴール地道頓堀で、日本人の優しさや美しかった風景のことを明るく話す姿が印象的でした。BMXと違う自転車の魅力に覚醒したようで「自分が完全に別モノになっちゃったよ!」と、興奮気味でした。



ダヴィッド・ボニッチャ

ダヴィッド・ボニッチャダヴィッド・ボニッチャ 20インチ...!唯一の小径車(リム径451規格/サス付き)で参加のダヴィッド。非常に気になる存在だったにもかかわらず、不安定なGPS情報頼りの私は、幾度も彼をロストしてしまい、走行シーンを撮影することが一度も できませんでした。

14日間の制限時間内には、ゴール地道頓堀にゴールは出来ませんでしたが、全てのCPはクリアし、ほんの間近まで迫っていたので完走者でなんら問題無いと思います。そもそもの心意気だけとっても、スタート時点ですでにジャパニーズオデッセイ完走者と言ってよかったかも。

小径にも関わらず、キャンプ用品などもしっかり積む工夫には、濃縮された自転車旅の経験とエッセンスがテンコ盛りです。噂では、旅先各地でお土産などもそつなくゲットしていたそう。21人中もっともハードコアで、ヘンタイな自転車乗りさんだと思います。もっと話が訊きたかった......。



パスカル・ヴィォ(フランス)

パスカル・ヴィォ(フランス)パスカル・ヴィォ(フランス) お洒落なフレンチガイは、実は東京在住の売れっ子グラフィックデザイナーさん。北米西海岸の新興ブランド、RITTEのステンレス製フレームのチョイスも、ズルいかっこよさです。

ほとんどの参加者が15〜20kg前後のヘヴィーな自転車のなか、軽量を誇るアピデュラに統一したバッグ類に、最低限の荷物をスマートにパッキングして、総重量11kgほどにまとめていました。ギア比も、前コンパクト50/34、後は最大28Tと、今日では一般的な登坂仕様。

ちなみに欧米の超ロングブルベの定番装備とさえ感じるDHバーを装着していない点について訊ねたところ、重いし、そもそもスタイルが好きじゃない、と。あったほうが上体を休めさせることができると思うのですが、彼にとってはそういうことでは無いのでしょう。お洒落は我慢。洒落てる男は違います。しかも全CPをクリアして制限内ゴールを果たしました。普段は母国のLOOK製595も愛用して、レース参戦も楽しんでいるそうです。



トム・ウィラード(イングランド)

トム・ウィラード(イングランド)トム・ウィラード(イングランド) 1日300kmペースで、全参加者中最長最速を日々更新していた英国人、トムさん。ダントツの10日間でゴール。文字通り最速の男です。普段からロンドンの南部を拠点に、日に200〜300kmは普通に走るランドヌールです。

笑顔の通り、非常に気さくな人柄の彼に、日本を走った印象を訊ねると、なぜか日本の工業技術の偉大さについて滔々と熱く語り始めます。「橋梁、道路、トンネルが素晴らしい、工法がすごい。そして家電も同じく最高だね。技術力が素晴らしいよ日本は!」と。もとエンジニアということで、腑に落ちました。

愛車はスペシャライズドの野心的グラベルバイクDEVERGEのカーボンモデル。スルーアクスルで走行安定性も高いと高評価。ホイールはカーボンクリンチャー。最終盤で前輪組み付けの発電ダイナモハブにガタが出て少し困っていました が、それ以外大きなトラブルはなかったそう。ダイナモハブにUSB端子、大光量ライトやGPS機器など、現代の超ロングブルベのトレンドが詰まる無駄のない一台。しかし当人は必要に迫られ電気的なギミックを使っているけど、ほんとは電気機器がないほうが好きなんだ、と。バッグ類はレベレイトデザインで統一です。



エマヌエル・バスティアン(フランス)

エマヌエル・バスティアン(フランス)エマヌエル・バスティアン(フランス) Japanese Odysseyの、まさにオルガナイザー、EMMANUEL BASTIAN(フランス)。フランスはパリの東、ドイツ国境にほど近い都市ストラスブールでメッセンジャー業を営みながら、かねてよりの夢だった日本渡航を、”ジャパニーズオデッセイ”という形で結実させました。

そうはいっても大したプロモーションもせず、初年度の昨年の参加者は6人(主催者2名込)です。2回目の今年2016年は21名と、実に3.5倍の急成長といえます。本人たちは至って謙虚で実直なサイクリストで、拡大主義や商業主義に関してはかなり批判的のようです。あくまで手作りのイベントの枠で、楽しく安全な運営を心がけている様子。

なぜ日本なのか?の問いには、日本文学が好きで、例えば村上春樹とか、そういう文学からいつか日本を訪れたい、走ってみたいという想いを強めたとのこと。文学とサイクリング!フランス人らしいロマンチックな動機にはハッとします。



ギヨーム・シェーファー(フランス)

ギヨーム・シェーファー(フランス)ギヨーム・シェーファー(フランス) フランスはパリの東、ドイツ国境にほど近い都市ストラスブールで生まれ育ち、パリに2年ほどいましたが、やはり故郷に戻り、現在はメッセンジャーとして活動しているギヨームくん。ジャパニーズオデッセイ言い出しっぺの先輩エマニュエルと、文字通り二人三脚で”ジャパニーズオデッセイ”の影のオルガナイザーを務めます。

菜食主義者で、タバコも吸わず、シャイで無口ですが、SNSを介して情報発信や、参加者の安否確認など細々した、しかし大切な役回りを取り仕切っていました。なにより参加者中一番の自転車中毒者!それが一目瞭然な、究極にマニアックな自転車は、コツコツパーツを 集めて組み上げたそうです。無口でシャイな人ほど、自転車そのものが多弁に語ってくれるというとても好例です。

ちなみに、彼らがまとうのはジャパニーズオデッセイのオリジナルジャージで、日本の秋をイメージし、昨年の初来日で印象的だった銀杏の葉をモチーフにデザインしたそうです。協賛のチャンピオンシステムより参加​の証として参加者全員に提供されました。



タイラー・ボワ(カナダ)

タイラー・ボワ(カナダ)タイラー・ボワ(カナダ) カナダ出身で、現在は上海のサイクルショップ&ブランドを営む"Factry5”のボス、タイラー。ご覧の通り見た目イカツイですが、走りもイカツイです。が、愛嬌あるキャラクターです。フレームは、自社Factry5オリジナルフレームのシクロクロスモデル”CXCUSTOM"。レースでも使用しているトルク重視のギア設定に加え、リアに最大36Tをインストールし、険しいCPに備えています。

前職は大手ゼネコン勤務の有能な建築デザイナーでした。上海には彼の作品が多く形になっているといいます。大手ゼネコン勤務で上海の建築バブルに身を埋めましたが、飽きて仕事を辞め、いまは大好きな 自転車と、バンド活動の二足の草鞋で上海ライフを満喫しているようです。もとより日本好きで、ネットでジャパニーズオデッセイの開催を知るや、即参加を決めました。チーム員のニック、ジプシーと、レースを通じて意気投合したフランス人デザイナーのパスカルの4人組は”AWSOMEFOURSOME” とあだ名され、ツアーをにぎやかしていました。



ダンカン"ジェダイ"ロイド(チェコ)

ダンカンダンカン"ジェダイ"ロイド(チェコ) ヨーロッパのマスターズ選手権3位を獲得している、スターウォーズで言うところのジェダイ級サイクリスト。早々にすべてのCPをクリアしたはずなのに、最終日の道頓堀ゴールまでどこかをずーっと走り続け、ひたすら自転車乗っていたようです。本物のケンタウロスと言えます。

ツアー参加の動機などを話しかけたつもりが、語られるサイクリング論、また科学的ペダリング理論が、最終的に哲学的となり、孔子の論語みたいになりました。心の声に耳を傾けて、とにかく先に進むんだ、と。口承したサイクリスト三カ条は、私の門外不出の秘法となるでしょう。

自転車も特別で、イギリスのコンドール社が彼のためにスペシャルセットアップしたもの。 一方、メガブランドの自転車を見る目はなぜか厳しく、怖かった。ゴール日の翌日には、富士山に移動し、富士登坂3ルートの全て攻略し、ちょっと背中が痛いぜ、とか言っているサイクルモンスターです。実は今回の最高齢参加者です。おそろしや。



ダニエル"ジプシー"リカストロ(オーストラリア)

ダニエルダニエル"ジプシー"リカストロ(オーストラリア) またの名をジプシー(GYPSY)。若くてやんちゃ、人懐こいオージーで、"FARACI"という自身が立ち上げたガレージブランドを運営。台湾や中国にOEM発注で、オリジナルフレームも作っているそうです。最年少の26歳と言うだけあり、走りも元気で、タイラー率いるFactry5チームの先鋒をつとめていました。

お洒落好きで、サイクルウエアやバッグ類も、新興の尖んがったブランドをチョイス。愛車はFARACIブランドのフレームということでで、モデル名を訊ねると、プロトタイプだけどジャパニーズオデッセイにちなんでOdysseyにするよ!なんて洒落たこと言ってくれました。オーストラリアは近年自転車熱の非常に高い国ですが、そんな楽しみ方をしながら日本までサイクリングツアーに来るのだから、その懐の深さを垣間見ました。まだまだ小さなFARACIブランド、要チェックかもしれません。



ニコラス・ペデン(アメリカ)

ニコラス・ペデン(アメリカ)ニコラス・ペデン(アメリカ) アメリカ出身のニックは、ニューヨークはクイーンズ島生まれの100%ニューヨーカー。かつて上海出張していた際に、タイラーのお店Factry5に出入りしていたそうで、ジャパニーズオデッセイにはFactry5チームの一員として参加です。

現在自転車のトレンドを牽引する米国人らしいと言うべきか、愛車はテキサスのビルダー、イカロスフレームス謹製の、​分割デモンダブル仕様の美しいディスクランドナーでした。今回、ロードバイク使用の参加者としては唯一のフロントラック&バッグ仕様です。

さすがにニューヨーカー、お洒落さも併せ持つバイクパッキングながら、ハードライドを想定し余念なくまとめたセットアップで、ギア設定はフロントがコンパクト、リアは最大40Tをインストール。全てのCPはフィニッシュできなかったけど「痩せたぜ!」と。まあ、全員痩せたと言うか、やつれていましたが...。



スチュワート・エドワーズ(オーストラリア)

スチュワート・エドワーズ(オーストラリア)スチュワート・エドワーズ(オーストラリア) 自然豊かなオーストラリアはタスマニア島在住の英国人、スチュアート。日本橋で会った時点からエンジ色のラファのブルベジャージは色褪せ穴あき当たり前のヤレ具合で、ビブショーツではなく短パンで、ずいぶんな玄人感を醸していました。

実際ヨーロッパのハードコアブルベレースTCRの完走者でもあり歴戦のランドヌール。ジャパニーズオデッセイは昨年も参加し、しかも唯一の完走者。ジャパニーズオデッセイは、自称ユル系スーパーブルベイベントですが、カルトなイベントのせいか、笑えないハードコアサイクリストが混じりがちでした。

愛機は英国キネシスバイクのチタン製ディスクロード。完走後、言葉も少なく雰囲気が怖すぎて話しかけづらかったのですが、翌日床屋でさっぱりした彼は、まるで別人のように柔和な雰囲気に。どうやらツアー中の極度の緊張がそうさせていたようです。それはゴールした全員に共通した印象です。



サミ・マーティスカイネン(フィンランド)

サミ・マーティスカイネン(フィンランド)サミ・マーティスカイネン(フィンランド) 北欧フィンランドの首都ヘルシンキのメッセンジャー、サミー。欧州各地のメッセンジャー競技会や長距離ブルベにも頻繁に参加して、サイクルライフを謳歌しています。母国フィンランドのペラーゴバイシクルとパートナーシップを結ぶジャパニーズオデッセイには、ペラーゴのクロモリ製ディスクツーリングモデル”SIBBO”を駆り、母国の威信を背負い出走!と言うような緊張感は全くなく、終始リラックスした印象です。

自転車重いよ~、と言いながらさすがメッセンジャー、登りも速いですし、ルート選定に独自のセンスを感じました。パンクも全行程で3回のみという慎重さ。夏の短い北欧から太陽を求めてきたということでしたが、台風や雷雨、濃霧など、あらゆる悪天候に祟られた今大会、私も日本人として申し訳なくなる天気でした。それでも無事全てのCPをクリア、少ない晴れ間、山陰の海岸線で素晴らしいライドを楽しめたようで、日本人として安心しました。

text&photo:Eigo.Shimojo

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