アメリカで開催された「ツアー・オブ・カリフォルニア」。そのコースを走る一般レースの様子を石井美穂さん(通称「ちゅなどん=@chunadon」)によるレポートでお届けします。



少しさみしい感じのする受付会場少しさみしい感じのする受付会場 長机に貼られた用紙から自分のゼッケン番号を調べて、受付へ長机に貼られた用紙から自分のゼッケン番号を調べて、受付へ 半袖ジャージ、アームスクリーン、ジレのセットにウィンドジャケットを追加半袖ジャージ、アームスクリーン、ジレのセットにウィンドジャケットを追加 ツアー・オブ・カリフォルニアにエタップ(市民参加のサイクリングイベント)があるのをご存知ですか?古い付き合いのある知人……、ちゅなどんからしてみれば限りなく恩人と表現するに近い方がカリフォルニア観光局の方と自転車を通じて知り合った、そんな(限りなく個人的な)人のつながりから「ちゅなどんさん、ぜひ走りに来てください」と、お誘いをいただきました。

自転車も長く乗ってると面白いことってあるものね~ぇ、と感心している場合ではなかった!そういえばちゅなどん、英語できません!もう不安しかない!「大丈夫でしょうか?」「いえいえ大丈夫ですから、ぜひ!」とそんなやりとりを経て……ちょっと飛んでみました。ロサンゼルスまで。

エタップと言えば、知られているのはツール・ド・フランス。毎年、ツールの全ステージから1ステージが選ばれて、一般市民がそのルートをトレースするサイクリングイベントです。

ところが来月開催予定のツアー・オブ・カリフォルニアにも、プレイベントとしてエタップがある、ということで今回はこちらご紹介します今年は第3ステージ(5月17日)のサウザンドオークスからサンタバーバラ、ジブラルタルロードへ至る170km 2550m。クイーンステージと呼ばれるコースです。

前日の夕方から受付が始まります。もちろん、当日朝の受付でもいいということですが、私たちは前日早めに現地入りすることができたので、受付会場へ。長机に貼られた用紙から自分のゼッケン番号を調べて、受付に申し出ます。ちゅなどん33番。

とても健康的で美人のお姉さんから、配布物の説明を受けます。ゼッケンはジャージに、計測チップが印刷されたシール式バイクゼッケン、そして、ゴール地点まで運んでもらう荷物を入れる用のバッグとそれに貼るゼッケンシール、などなど。

この会場、日本のサイクリングイベントではスポンサー企業のブース出展でものすごく賑わっているところですが、ざっと見た感じ、ちょっと寂しい……。

ニュートラルサービスを提供するスラムの真っ赤な車とテントが目立ってはいたけれど、他はテーピングの会社、補給食、くらいのもので、大変シンプル。なので、見て回るのにもそれほど時間は必要なく、サッと会場を後にしました。

夕食を早々に済ませてホテルの部屋で明日の準備を整えます。Raphaのエッセンシャルケースにルートマップ、現金少しとパスポート、日焼け止めを兼ねた薬用リップ、烏森神社の自転車御守りを入れてジャージのポケットに。ホテルはスタート地点から至近のHumpton Inn and Suites。朝食をしっかりホテルで摂ってから出発できた。お部屋もとっても綺麗で快適。

だいたい言葉が通じない前提で、と考えるといろいろ準備が周到になる。時差ボケと思われる症状とこの用意周到な感じが相まって、前夜はみごとに一睡もできなかった。年が明けてこの4月まで、お世辞にもたっぷり自転車に乗る時間があったとは言えず、せめて睡眠くらいはたっぷり取って臨みたかったんだけど……。

開き直って走るしかないね、と外へ出てみると思いの外寒い。ちょっと考えて、部屋にウィンドジャケットを取りに戻る。半袖ジャージ、アームスクリーン、ジレのセットだったんだけど、最後の下りが夕暮れ時になることを思うと、もう一枚あった方が良さそうだ。

ゲストライダーのイェンス・フォイクトさんがインタビューされているゲストライダーのイェンス・フォイクトさんがインタビューされている 自伝のプロモーションを兼ねていたみたい自伝のプロモーションを兼ねていたみたい


スタート地点は昨日と打って変わってたくさんのサイクリストで賑わっている。この日の参加者は800人弱とのこと。ゲストライダーのイェンス・フォイクトさんがインタビューされている。どうやら書籍が出版されたらしくプロモーションも兼ねたゲストらしい。ちゅなどんも珍しくミーハーさせてもらいました。

午前7時半にスタート。全体の後半の方に位置していたので前の人に続いてぬるっと漕ぎ出す。最初に走る大通りはしばらくの区間通行止めにしてあるらしく、交差点には警察官が立っている。走り始めてしまえば周りがアメリカ人だらけでも関係ない。風はひんやりと冷たいけれど、日なたに出ると暖かい。

最初の上り坂に入ると脚力の差が出る最初の上り坂に入ると脚力の差が出る この山の先には海が待つはずこの山の先には海が待つはず


最初の上り坂に入ると脚力の差が出る。勾配の変化でガクッと落ちてくる人をかわしつつ、マイペースを保つ。このひと山を越えて、下った先はマリブ。海に出るはず。

こちらに来てからというもの毎日天気は晴れで、一年中温暖なカリフォルニア。なので、草木もみずみずしいというよりは、乾いた土に適応した渇き気味のものが多い。サボテンをはじめとする多肉植物が自生しているのも特徴。なのでちゅなどんもやたらと喉が渇く。今日は日本に居るときよりもたくさん水を飲まなくちゃ。

稲村ヶ崎から七里ヶ浜のようなロケーションが延々と続く海沿いを行く稲村ヶ崎から七里ヶ浜のようなロケーションが延々と続く海沿いを行く (c)L'Etape California
下り基調に転じてほどなくして海に出る。ちょうど私が住む神奈川県の海沿い、国道134号の稲村ヶ崎から七里ヶ浜のようなロケーションが延々と続く。向かい風がそこそこあって、前を走るお兄さんにピッタリくっついて風除けになってもらう。時々脚を止め、ストレッチを繰り返している彼は第1エイドの直前で脇へ逸れた。疲れちゃったのかピッ……だったのか。

ヌテラをたっぷりと塗ってるヌテラをたっぷりと塗ってる (c)L'Etape Californiaサンドイッチの他にはスポーツジェルなどが用意されていたサンドイッチの他にはスポーツジェルなどが用意されていた (c)L’Etape Californiaイェンス・フォイクトと共に記念撮影イェンス・フォイクトと共に記念撮影 (c)L’Etape California程なくして最初のエイドステーション。メニューは水、補給食としてエナジーバーやジェル、ヌテラやスキッピーを塗ったサンドイッチ、バナナ、コカコーラ、Doleのミニカップフルーツ。4つあるエイドステーションのうち3カ所がフィードサービスがありましたが、内容はぜんぶ同じ。日本のサイクリングイベントのようなご当地グルメ的なものはいっさいなし。走りに来てるのだから、という割り切りか。そもそもご当地グルメみたいなものが存在しないのか。よくわからないけれど。

全体の距離を考えると長居は無用。バナナとジェルだけ取って、エイドを後にする。いいペースの集団が来るのを走りながら待って、コバンザメ作戦。

しばらく信号があるような街中を走る区間だったのだけれど、この集団の前を引く人がちょっぴり信号ダッシュ気味。ここは借りてきたホイール(ボントレガー アイオロス3)の力を借りて良いペースで進行する。

驚いたのはフリーウェイの一部がコースになっていたこと。路肩にBIKE LANEの表示があったので普段から自転車の走行ができるみたい。でも、すぐ次の出口で出るように指示されていたから、ほんの短い区間だったけどね。

中切れさせないように気をつけながらちょっと集中して走っていたんだけど、ここでリアタイアがパンク。あらら。ちょうどフリーウェイと立体交差しているところで歩道があったのが幸い。安全なところでゆっくりチューブ交換できました。気を取り直して走り始めたらすぐそこに2つ目のエイドステーション。なんだもうあとちょっとだったのか。

ここを過ぎれば登りに入る。トイレもちゃんと済ませて、出発。今度は一緒に走れそうな集団にも会えなかったので、私たちだけでマイペースに。改めて周囲を見渡すと、地形も植生も、やっぱり違って日本じゃないんだなぁと感じる。時折、馬を飼っているところや牛の牧畜をやっているのを見かけるんだけど、その中で大きく立派な羽根を持ったオスのクジャクを見つけたときには大きな声をあげてしまった。

ダラっとした3%くらいの坂道が続いた後、少し勾配が上がって、6~8%くらい。ちょうどよく絞れた女性3人を男性が前後に挟んで、どこかのチームなのでしょう。同じジャージで走っているグループがいたので、こちらの方々にくっついて走る。じっと我慢して登りきったら三つ目のエイドステーション。

フォイクトさんと一緒に登る参加者フォイクトさんと一緒に登る参加者 (c)L’Etape California軽やかに坂を駆け上がっていく軽やかに坂を駆け上がっていく (c)L’Etape California


迷わずコカコーラを手に取った。年に数回しかコーラを飲まないちゅなどんにとって、今年初めてのコーラ。でもこれを甘く感じないときは飲んでもいいときだと思っている。結論。アメリカのコーラは甘さ控えめでうまかった。

前半、いいペースの集団で走ったおかげで時間に余裕がある。同行者のマサさんがここまでかなり疲労が濃くなってる様子なので、次のジブラルタルロードふもとのエイドでたっぷりめに休もう、ともう一人の同行者であるジョージさんと相談する。

天気は晴れたり曇ったり、で思ったほど暑さは感じてなかったのだけれど、お昼頃になると晴れ間が多くなってくる。木陰の涼しさと日差しがかわるがわるやってきては肌を焼いたり冷やしたりする。かいた汗はしょっぱく、乾いたところは真っ白に。

足が攣ってしまい豪邸の門前を借りてストレッチ。足が攣ってしまい豪邸の門前を借りてストレッチ。 フルーツゼリーで補給!フルーツゼリーで補給!


ところがマサさん、ちょっとしたアップダウンを繰り返す区間に入ると、ここまでで脚がいっぱいになってしまい、とうとう攣ってしまった。豪邸の門前を借りてストレッチ。あと少しで次のエイドですからねー、と励ましながら最後の関門へ。ここで靴を脱ぎ、ヘルメットをはずし、芝生に座ってちょっと休憩~。

すでに登り終わって、下ってくる人も多い。ちゅなどんは眠ってなかったことがずっと気がかりだったけど、ちょっとした転地効果と緊張感で身体が動いている。これ、終わったらぐったりするだろうなぁ……。

関門の17時にはたっぷり余裕を持って到着していたので、ここからはゆっくりいこう。10kmあるなら、1kmごとに1分休めば上まで行けるだろうから、みんなでゴールしよう、とジョージさんの提案で、ちゅなどんがガーミンとにらめっこして1kmをカウントする。

海を望む丘陵地帯を駆け抜ける海を望む丘陵地帯を駆け抜ける (c)L'Etape California
マサさんはすでにかなり悲壮感漂う感じになっていて、とうとう押し歩きに。アイアンマン2回完走しているタフガイだと聞いていたけど、しんどいときもあるわけで。無理しないでくださいね、と、ジョージさんと二人、先行することに。

フロント=インナー、リア=28Tしかもう出番がない。Max12.4%、感覚的にはずっと10%超えてる感じ。一旦脚を下ろしてしまうと上を向いて漕ぎ出せないので、必ず一旦下ってクリートを嵌めてから上りなおす繰り返し。

女性も沢山参加されていた女性も沢山参加されていた (c)L’Etape California登れば登るほど勾配はキツくなり、だんだんと風が暴力的に吹いてくるようになる。だけど、見えてる景色がこれまでに見たことがないもので、コーナーをひとつ回りこむごとに変わる風景。次が見たくてペダルを回す。このガードレールもない狭く急峻な山道をレースが、選手たちが、あのカラフルなジャージで走るんだなぁ。いま、その景色の一部になってるんだなぁと思うとちょっとニヤっとした。

そろそろ終わりのはずなんだけどな……、とガーミンの距離を睨んでたところで、ものすごい風に煽られてうっかり脚をついた。もう乗り直せないほどの風にビビってしばらく立ち止まって、押し歩き。

上から降ってきたサイクリストが「Almost there!」と声をかけてくれたので、あぁもうすぐなんだな、と、風除けになりそうな岩影に入ったところで乗り直して、KOMに到達!ふぅ。計測ラインを踏んで、数人のスタッフと水のタンク、簡易トイレがあるだけのエイドステーションだったけれど、登り終えて休んでいた人たちと軽くハイタッチ。Good job!じんわりうれしい。

ほどなくしてジョージさんもゴール。一緒に登ってきた女性サイクリストも安堵の表情だ。しかしすごい風。標高は1000m、気温は15℃。汗をかいた身体に暴風は結構寒く感じる。ここでようやく朝の判断が正しかったことになった。ここまで155kmの間、一度も出番がなかったウィンドジャケットを羽織る。ポケットをひとつこれに費やしたけど、持ってきてよかった。

あまりの風の強さに思わず足を付いてしまったあまりの風の強さに思わず足を付いてしまった KOMに到着KOMに到着


あとはいま登ってきた道を下って、街へ行けば本当のゴール地点だ。けれど、前後輪同時に足元をすくわれるような風が吹いて、ちゅなどんビビって下り坂なのにしばらく押し歩く。ガードレールがないから、気持ちセンターライン寄りを。

2kmほど下ったあたりでマサさん発見。最後まで行くというマサさん。ほんとだったらもっかい一緒に登り返してあげたいところだったんだけど、私にその力は残ってなかった…先に下って待ってることに。

3人とも無事ゴールして、夕暮れ時のサンタバーバラ、ビーチに用意されたゴール会場に用意されたBBQ……だったもの(すでに会場は撤収ムードで炭はすっかり片付けられていたのでした)とビールで乾杯~。ただしあまりに寒くて350mlのひと缶を飲み干すことができなかった。

STRAVAのデータはこんな感じでしたSTRAVAのデータはこんな感じでした そんな長い1日でしたが、走ってみると意外と日本もアメリカも変わりなく、サイクリストもそれぞれの目的に向かってペダルを漕ぐことは変わりない。日本という島国から自転車を持って海外に走りに行くのはそれなりにハードルが高かった思うけれど(荷物のアップチャージ(*1)もそれなりにお高いですし)、漕ぎ出してしまうまでがちょっと大変なだけで、漕ぎ出してしまえば世界中どこだって変わらないのかもしれない。

今は燃料サーチャージもかからないご時世、羽田とロサンゼルスを結ぶエアラインの金額も円高基調でリーズナブルです。行ってみよう!と思えば意外とすんなり行けちゃうかも!

*1 今回、アメリカン航空で渡米しました。自転車のアップチャージは往路15000円、復路150ドル。往復で約3万円でした。

text&photo:Miho.Ishii
取材協力:カリフォルニア観光局 http://www.visitcalifornia.com/jp

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