4年に一度のロングライダーの祭典、パリ~ブレスト~パリ。準備の模様や挑戦に至る経緯を記したレポートに引き続き、2度目の挑戦となる三船雅彦さんによる実走レポートを前後編に分けてお届けします。



スタート・フィニッシュの会場はUCI認定のヴェロドローム。外にはルーフ付オリンピックスタート台付のBMXコースがスタート・フィニッシュの会場はUCI認定のヴェロドローム。外にはルーフ付オリンピックスタート台付のBMXコースが photo:Daisuke.Yano
サポートプランとしてサポートカーの指定ルートなどをマップに書き込むサポートプランとしてサポートカーの指定ルートなどをマップに書き込む photo:Daisuke.Yanoサポートグッズ。これはほんの一部だ。水とパンはすぐになくなり買い足ししている。サポートグッズ。これはほんの一部だ。水とパンはすぐになくなり買い足ししている。 photo:Daisuke.Yano今回、フランスへは大会5日前の8月11日に入国。前回は2日前、それも南回りとギリギリのスケジュールでの入国だった。正直なところ、その時点で4年前は何も期待できる状態じゃなかった。それは例えるならば、竹槍で爆撃機を落とすようなもの、いくら気合いと根性があってもタイムを狙うには無理なレベルだった。その反省を踏まえ、今回は5日前に入国。最後の調整を現地でするようにした。

到着の翌日から2日間はLSDトレーニングを行うことで、しっかりと晩に寝られるようにもっていき、日本でのリズムによりはやく近づけるようした。高強度のトレーニングを抑えているので、体のダメージも少なくリカバリーにはそれほど時間を要しない。

13日にラファ・ジャパンの矢野大介さん、そして今回ホテルの部屋をシェアさせてもらうことになった川邊くんがフランス入り。14日には矢野くん、川邊くんと3人で2時間半ほど軽いライドへと出かけ、最後の調整を行った。

大会前日となる15日には受付をしたり、明日の準備・買い出しをしたりと慌ただしく準備に追われることに。スタートしてからのサポートをどうするのか矢野くんと打ち合わせ。

完璧にこなしたい矢野くんと、走り出して刻々と変わるであろう状況で決まりごとは固められないし、その時々の状況次第と思っている私の間に温度差が(笑)。矢野くんに「最初のPCでは何が欲しいですか?」と聞かれた私は、「わかんない、多分だけど・・・」と頭につけて返事するような打ち合わせだった。

その中で決めていたのは
●ナイトランでは夜用の明るいレンズのアイウェアに交換し、明るくなるタイミングで紫外線をカットするタイプのものに交換
●GPSログを取り続けたかったので、350㎞を過ぎたところでモバイルバッテリーをポラールM650に装着
●折り返し地点あたりになると、多分温かいものを食べたくなると思うので、温かいパスタが欲しい
 (マカロニでオリーブオイルのみ。ミートソースやクリームソースだと、消化が悪いので)
●折り返し地点でライトを充電済みのものに交換
●ボトルはその時のタイミングで何を欲しくなのかわからないので、水、スポーツドリンク(シトリック)、少し炭酸を含んだスポーツドリンクの3種類を基本用意しておいてもらう

その他のことは、平均時速、天候、展開によって全く読めないし、実際私もまだ一度しか経験していない。本当に走ってみないと何もわからないので決めようがないのだった。



1200km級のブルベだというのにコーステープを押し出してでも前になるのはレースそのもの1200km級のブルベだというのにコーステープを押し出してでも前になるのはレースそのもの photo:Daisuke.Yano
タンデムやリカンベントなど様々な「自転車」で参戦している。タンデムやリカンベントなど様々な「自転車」で参戦している。 photo:Daisuke.Yanoエロイカを思わせるスタイルのライダーエロイカを思わせるスタイルのライダー photo:Brian VernorグループAのスタート集団グループAのスタート集団 photo:Daisuke.Yanoスタート前。終始トップ集団に入っていたベルギー勢と並ぶ。スタート前。終始トップ集団に入っていたベルギー勢と並ぶ。 photo:Daisuke.Yanoこんな大きなサドルバッグを装備してはしるランドヌールもこんな大きなサドルバッグを装備してはしるランドヌールも そして迎えた大会当日、朝はいつも通り(?)に7時前には目が覚める。焼きたてのパンを買いに行き、普通に朝食を摂り、静かにスタート時間を待つ。そしてスタート3時間前、少し早いが落ち着かないし、これといってすることもないのでスタート地点へと向かった。

スタート地点に移動しても特に緊張はない。このあたりは元々プロとしてたくさんのレースをこなしてきたからか、緊張したり自分を失うというようなことはなかった。スタート1時間前には集合場所へ。今から1,200kmを走るというのにピリピリしている選手たちが前を陣取る。その中で自分も位置取り(笑)何とか前列あたりを確保することができた。

今回、スタートは16時00分スタートの「A組」を選択したが、上位を狙ってくると思われるフランス人がA組におらず15分後のB組にいるらしい。彼らは最初のPCまでに追いついてきてしまおうという作戦のようだ。

そして、定刻の16時ちょうどにスタート。サンカンタン・エン・イブリーヌの町を抜けると集団は比較的安定しつつも速い巡航スピードで駆け抜けていく。時速は30km/h後半を常に推移し、時折40km/hも越えている。

これほどのペースであれば、15分後にスタートしたB組が追いついてくるのもすごい労力だろうし、長いスパンで見たら仮に追いついたとしても消耗度合いは自分たちよりも上のはず。そう考えると少し気が楽になった。前回よりも平均時速は速いがペースが安定している。

そして、前回同様に100km過ぎの登りでペースアップすると集団は分裂。参加者みんなが先頭を目指しているわけではない。中にはそういう選手を利用して自己ベストを更新しようとか、要は引かないけれどついてくる、付けるところまでついてくるという選手が集団内の前方にもいるので、油断しているとあっけなく中切れの餌食になる。

人数を減らしコンパクトになるにつれて集団内も安定し始め、最初のPCとなるヴィレンヌ・ラ・ジュエル(218km)には22時23分到着。アベレージで言うと34km/h強と非常に速い。その後徐々にペースは落ちていくも、けっして遅いわけではない。

集団の中で気になったのが他の選手のぺダリングだ。前回も少し気になっていたが、ギヤを重くしてケイデンスを落とし、少しでもぺダリングの際の筋肉の動きを遅くし、筋肉が速く動くことによる心拍数の上昇やリズムの変化をできるだけ抑えているように感じられた。周囲を見ている限りでは、多くのランドヌールたちが採用していることを考えると、これがブルベ、ファーストランの走り方の基本としてヨーロッパでは伝わっているのだろうか。

PBPは全行程を53Tx39T、11T~25Tで十分走れるが、今回はスプロケットを12T~29Tを選択した。理由として最も大きいのはインナーの使用頻度を減らすため。変速時にチェーンを落としてしまい、そのままフレームとチェーンリングの間に挟まってしまうトラブルの発生頻度を極力抑えこみたかった。そのためロー側のギヤを積極的に使うことでアウターでの走行時間を長くとり、フロントギアの変速回数を少なくした。

また、PBP特有のセッティングとしては、ブレーキブラケットには独自にクッション材を巻きつけたりしている選手もチラホラ。ライト類には衝撃で破損・脱落しないように、結束バンドやビニールテープで固定している選手も多かった。実際、序盤に町の入口に設置してある車の減速用段差の衝撃で、サドルバッグが飛んで行ったり、衝撃で後輪に挟まり落車したりする選手もいた。1,200kmを速く、そして無事に走るということは、トラブルを起こさないように走るということ。走りながら他の選手のバイクを観察し、今後の参考にしていた。

そして、1回目のナイトランはまるで終盤戦に突入したロードレースのような状態。ただでさえ真っ暗闇の中をライトの光だけで走るのに、そこにアタックをかける選手や逃げる選手、そこに追走のブリッジを仕掛けているランドナーなどなど、完全にカオスな展開。

日中に逃げている選手にブリッジをかけるのであれば、目測で距離を測ってから「いける!」とする展開はあっても、真っ暗闇では前が速いのか遅いのか、単独追走後にこの先の地理は登ってるのか下っているのか?とまるで真っ暗な深海でもがき苦しむかのような気分になってくる。

そんな混沌としたナイトランを終えて朝霧に包まれる早朝、周りを見ると半数以上がB組の選手たち。いつの間にか、いや後で聞くと200km走らない間に追いつかれていたらしい。だからナイトランの動きも落ち着かないアタックが多かったのかと、今となっては納得できる。つまり、B組にすれば、A組の遅い選手が中切れするだろうと期待してのアタックだったのかもしれないということだ。

夜の集落を走り抜ける「プロトン」夜の集落を走り抜ける「プロトン」 photo:Daisuke.Yano
ちなみに、ナイトランから朝日が昇るまでの一日の中で最も冷え込む間、薄手の長指グローブがすごく重宝した。ラファのブルベジャージポケットには、ジッパー付きの大きなポケットが通常の3つポケットの上部にあるが、そこには最悪の場合に備えて財布と一緒に長指グローブを収納していたのだ。

寒さに強いはずのベルギー選手ですら夜通し手を握ったり開いたりして、かじかんでいるのをしのいでいたが、長指グローブを装着したおかげでまったく寒さを感じなかった。スタート直前にナイトランで走っているであろうポイントの天気を確認しておいたおかげで、ほぼすべて想定範囲内だった。



さて、日本のイベントでは到底味わうことの出来なさそうな過酷で独特の世界が広がっているPBPの先頭集団もまもなく折り返しのブレストへ。過酷さを増すブルベの真髄が詰め込まれた後編レポートはまもなくアップ予定です。お楽しみに。

text:三船雅彦 
photo:Brian Vernor
協力:矢野大介/rapha Japan