冠雪の北アルプスを望みつつ、安曇野地方を駆け抜ける「アルプスあづみのセンチュリーライド」。今年から新設されたサイクルトレインコースは帰路が列車というラクラクコースだ。CW編集部もサイクルトレインにおじゃましてみた。



アルプスあづみのセンチュリーライド(AACR)に今年から新設されたサイクルトレインコースはまず、160kmコースと同様に梓水苑から安曇野を北へ走り白馬ジャンプ競技場まで向かう。白馬からは160kmコースと分かれ、白馬駅から帰路を列車に乗り、一日市場駅まで信州の山々と湖を望みながら列車で移動。そして自走で梓水苑へと戻ってくる走行距離約80kmほどの道程だ。

早朝の梓水苑からAACRが始まる早朝の梓水苑からAACRが始まる
早朝5時40分、健脚自慢の160kmコース S組のライダーたちがスタートする。MCサイクルトレインコースは1時間20分遅れの7時の出発だ。私たちはS組の最後尾でスタートしていく。早朝の特有の湿った空気の中、リンゴ栽培が盛んな日本アルプスサラダ街道を抜け第1エイドの穂高エイドへと向かう。ここでは地元の銘菓「あずさ」と「湯多里饅頭」が振る舞われている。

第1エイドのあとは平坦基調の道を進み第2エイドの大町エイドまで、田舎道を満喫しながら進んでいく。大町エイドは国営アルプスあづみの公園内にあり、青々と繁った森のなかでくつろげる。ここで用意されているのは「ネギ味噌おにぎり」と「おざんざ」で、心地よい疲れを感じる体に丁度いい。

第2エイドまでもう少し第2エイドまでもう少し
信州名物「おざんざ」信州名物「おざんざ」 第3エイドの漬け物バイキング第3エイドの漬け物バイキング


第2エイドから先は160kmコースとの分岐がいくつか現れる。まずは、高瀬川と鹿島川の合流地点。160kmコースでは高瀬川から籠川沿いに自然をたっぷり味わえるルートだが、サイクルトレインコースでは鹿島川沿いに大町温泉郷へ一直線で向かうルートだ。足と時間に余裕がある人なら160kmコースにも足を伸ばしてみたい。

第3エイドとなる大町温泉郷エイドは振る舞われる漬物バイキングと焼きドーナッツが特徴。たっぷりと用意されているお漬物の数々はどれも塩味が効いていて、疲れた体には嬉しい。そして、通過関門の大町市西原の交差点で160kmコースとは別れて木崎湖、青木湖を横目に一気に白馬まで駆け抜ける。

ジャンプ台まで少し登るジャンプ台まで少し登る
スタートから73km地点にある白馬エイドにはお昼ごはんに丁度いい時間に到着する。そこで振る舞われているのは豚汁と紫米のおこわ。12時半頃に到着した私はサイクルトレインコースの集合時間に間に合わせるために、それらを急いでかき込む。お味噌の塩加減とお米の甘さが疲れた身体に染み渡る。ここからは帰路だ。

白馬ジャンプ競技場の広場にサイクルトレインに乗車する参加者が集まりきった頃、ボランティアの松本ぽたりんぐクラブ(通称、松ぽた)の方から今後の流れの説明を受ける。いよいよ駅に向けて出発だ。そんな中、サイクルトレインに乗る参加者がギリギリ間に合った! 疲れた様子も見せるが、旅も折り返し地点、笑顔は満点だ。

予定から自転車の積み込み方まで説明する予定から自転車の積み込み方まで説明する 時間に間に合った!やったぜ!時間に間に合った!やったぜ!

白馬駅まで後もう少しだ白馬駅まで後もう少しだ 積極的に手伝ってくれるボランティアスタッフ積極的に手伝ってくれるボランティアスタッフ


松ぽたの方に先導してもらいながら白馬駅へと到着する。心なしか参加者の顔には安堵の表情が見て取れる。レクチャー通りに自転車の支度をして、列車に乗り込む順番を待つ。積み込み作業はスムーズに行われており、あっという間に自分の順番が来る。松ぽたの方に自分の自転車を預けて、列車へと乗り込む。旅もいよいよ終わりだ。

午後2時00分ちょうど、定刻通りにこの臨時電車は発車して、ゆりかごのように心地よいリズムで揺れ始める。出発してからしばらくすると、車掌さんから白馬岳、鹿島槍ヶ岳など残雪の山々、160kmコースで訪れる名所木崎湖、午前中に私たちが通ってきた道を見ることができる旨のアナウンスが入る。のんびりと自然を楽しめるのはこのコースの楽しみのひとつだろう。アナウンスが終わると歓談にもどる参加者もいたが、私はそのまま目を閉じて身体を休める。

私たちを一日市場駅まで運んでくれるサイクルトレイン私たちを一日市場駅まで運んでくれるサイクルトレイン
ボックスシートでくつろごうボックスシートでくつろごう 後もう少しでゴールだ!後もう少しでゴールだ!


午後3時10分、私たちを乗せた電車は定刻通りに一日市場駅のホームへと入っていく。10分前のアナウンスで目を覚ました参加者は降りる準備を始め、自転車を下ろしにかかる松ぽたのメンバーたちは臨戦態勢となっている。ドアが開くと同時に始まる荷降ろし作業はスムーズに行われ、自分のバイクの番になるまで時間はかからなかった。1時間以上座って固まった体をほぐすために伸びをしてからバイクを受け取る。

ここからはゴール地点へ自走だ。田舎らしく線路を横切って駅舎から出て、各々自転車のチェックを行いゴールへと向かう。一日市場駅から紫水苑までは県道315号線を南下する5.4kmの道のり。サイクルトレインコースに参加した面々は1列棒状、ここでもまさにサイクルトレインとなって進んでいく。のんびりと進む車列は幹線道路から抜けて、左には水が張られた田んぼ、右には青々しく茂る麦畑を見る生活道路に入っていく。

ゴールに向けラストスパート!ゴールに向けラストスパート! JRの駅員のみなさん、ありがとうございましたJRの駅員のみなさん、ありがとうございました

自転車も無事に到着自転車も無事に到着 これぞサイクルトレインだこれぞサイクルトレインだ


緩い右カーブを抜けるとスペシャライズドのエアアーチが現れ、ロングライドの終わりを告げる。午後4時、スタートから9時間を使い梓水苑へと戻ってきた。一日市場駅から一緒に走ってきたサイクルトレインの仲間たちは一様に笑顔を見せている。

「160kmを走破する自信はないが、白馬までは行ってみたい!」という想いに応えるようにして登場したこのサイクルトレインコース。距離にして73kmという往路は初心者には十分走りごたえがあるコースだが、帰りは仲間たちと車窓を楽しみ、思い出を共有することができる魅力的なコースだと思った。

実際にこのコースができたからこそ、今回のAACRに参加したという参加者もいた。積み込み作業でお疲れの様子だった松ぽたの方は「電車が到着して無事に自転車を返すまでが仕事」と気合が入っていた。さらにはJRの職員の方も好意的に私たちを迎えていただいた。携わる皆さんが楽しそうにしていたことがサイクルトレインに心地よく乗れた理由だろう。

ついにゴール!ついにゴール!
電車でガイドしたかったです(笑)電車でガイドしたかったです(笑) サイクルトレインを手伝ってくれた松ぽたのみなさんもスタートサイクルトレインを手伝ってくれた松ぽたのみなさんもスタート




鈴木雷太さんに訊いた、サイクルトレインコースをつくったわけ

サイクルトレインコースについて、アルプスあづみのセンチュリーライドのプロデューサー鈴木雷太さんにお話を伺った。雷太さんはシドニーオリンピック日本代表や全日本選手権の優勝など輝かしい経歴を持つマウンテンバイクの元トップライダーで、現在は長野県松本市のBIKE RANCHを経営している。

サイクルトレインの発起人の鈴木雷太さんサイクルトレインの発起人の鈴木雷太さん プロデューサー自らチェックプロデューサー自らチェック アルプスあづみのセンチュリーライド2014アルプスあづみのセンチュリーライド2014 鈴木雷太さんによるウェルカムトークではコース攻略のコツが語られた鈴木雷太さんによるウェルカムトークではコース攻略のコツが語られた ーサイクルトレインコースを企画した理由を教えていただけますか?

まず、ひとえに数多くの人たちに楽しんでいただきたいという思いから企画しました。センチュリーライドのコース設定が40km、80km、120km、160kmと分かれていて、足のレベルとか体力とかに合わせて選べるようになっていますが、やはり、白馬まで行きたいという想いに応えるということが1番の理由ですね。そこで、電車と組み合わせることで折り返し地点まで行けるようにしてイベントの楽しみ方を増やしました。

ー苦労したことはありますか?

サイクルトレインというアイデアは前から温めていたのですが、いざ実現するとなると 具体的に詰めなければいけないことが山ほどあり、「こんなに大変とは思わなかった」 というのが正直な気持ちです。分刻みのスケジュール調整、駅までのルートと誘導方法、積込み手順、下車手順などなど、関係の皆様と打ち合わせを重ねました。JR東日本の皆さまの強力なご支援があってこそ実現できたのだと思います。

ーこだわった点はどういうところでしょうか?

1番こだわったのは「積み込み方法」です。今まであったサイクルトレインでは自転車を手に持って着席していましたが、それでは写真撮影やのんびりと飲食して休憩ができないと感じていました。そこで参加者が安心して自転車を手放せる積み込み方を考えました。

ーサイクルトレインコースは来年も続けたいですか?

もちろんです。電車がホームに入ってくるまでのドキドキ感、参加者が白馬の駅に到着するまでのワクワク感、そして出発するときまで、イベント企画を行った側として楽しかったです。自転車の積み込みを手伝ってくれる「松本ぽたりんぐクラブ」のメンバーとイベント当日までに3回、積み込みの練習を行うなど下準備があり、今日も問題なく積みこむことができました。

ー現在の定員100名から増やすことは考えていますか?

エントリー枠がすぐに埋まってしまったり、実際に楽しそうに電車に乗る姿を見たら、このコースのニーズはあると感じました。なので、増やしたいという気持ちはあります。しかし、AACR全体のキャパシティが一杯いっぱいという事実もあるので、各コースとのバランスをみて考えたいと思います。

ーこのコースをおススメしたいライダー層を教えて下さい?

1人の参加者はもちろん、カップルやファミリーのようなグループにおススメしたいです。行きは楽しく自転車で白馬へ向かい、帰りはのんびりと電車で帰ってこれるというのは誘いやすいでしょう。



アルプスあづみのセンチュリーライドのハイライトとなる白馬ジャンプ競技場まで行くことができるサイクルトレインコース。列車の中の皆さんのリラックスした表情が印象的で、集合から流れ解散までスムーズなエスコートを実感させた。

帰路も駅からゴールまで自転車に乗らなくてはならないから、残念ながら車中でビールを飲んだりすることはできない。それはゴールして温泉で汗を流してからのお楽しみ。帰路をスキップできるのは、気分的にもこのうえなく気楽だ。往路のみでも風景は十分楽しめた。走れる距離が100km程度の初心者にはとっても魅力だ。来年は仲間を誘い合わせて参加してみてはいかがだろうか。

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO Naoki.Yasuoka Gakuto.Fujiwara