ジロ・デ・イタリア開幕から1週間が経ち、ロードレースファンの関心はツール・ド・フランスへと傾き始めた。「グランボクール」の前哨戦として知られるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)が6月3日に開幕。マイヨジョーヌの本命たちが勢揃いする。

山岳の難易度は昨年比で低下 個人タイムトライアルで総合争いは決する?

晴れ間の覗く山岳地帯を進む晴れ間の覗く山岳地帯を進む photo:Cor Vos2010年からツールと同じA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)が主催しているクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、通称ドーフィネ。1947年に第1回大会が開催され、長年地元新聞のドーフィネ・リベレ社によって運営されてきた。

その名の通りレースの舞台はフランス南東部のドーフィネ地方(現在のイゼール県、ドローム県、オート=アルプ県)。「ミニ・ツール」と形容されるほど内容の濃い8日間のステージレースだ。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第5ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第5ステージ image:A.S.O.アルプス山脈の麓に位置するグルノーブルで8日間のレースはスタート。街中の直線路で構成されたほぼ真っ平らな5.7kmコースでプロローグが行なわれる。顔見せ的要素の強いこの短距離走で初日のマイヨジョーヌ着用者が決まる。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第6ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第6ステージ image:A.S.O.第4ステージを挟んで、前半3ステージの難易度が低く、後半3ステージの難易度が高い。第1〜3ステージはスプリンターにもチャンスが有る平坦〜中級山岳ステージ。登りで生き残ったスプリンターによる勝負に持ち込まれるだろう。そもそも登りが苦手な重量級スプリンターは出場していない。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第7ステージクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012第7ステージ image:A.S.O.第4ステージの個人タイムトライアルは、距離が53.5kmに及ぶ本格的なもの。場所は異なるが、ツールの最終日前日に行なわれる個人タイムトライアルと同じ距離で行なわれる。TTの比重が高いとされる今年のツールの総合争いを占う上で、この第4ステージの結果は重要な指針となるだろう。

そして最終日までの山岳3連戦でドーフィネの総合は決まる。まずは超級山岳ル・グラン・コロンビエールを越える第5ステージ。ル・グラン・コロンビエールは登坂距離17.4km・平均勾配7.2%・標高1501m。ゴール68km手前に位置しているため決定的な勝負ポイントにはならないが、ここで最初のセレクションがかけられる。

「クイーンステージ」となる第6ステージは、スタート直後から平均勾配6.5%の1級山岳プランパレ峠が始まる厳しいもので、中盤にかけて標高1613mの1級山岳コロンビエール峠をクリア。そしてゴール12km手前で超級山岳ジュープラン峠を越え、ハイスピードダウンヒルを経てスキーリゾート地モルジンにゴールする。

最終第7ステージは、距離124.5kmと短いながらも、今大会唯一の頂上ゴールが設定されている。ゴール22km手前で1級山岳コルビエを越えて山岳地帯に入り、ダラダラとした登りを経て山間の街シャテルを目指す。ゴール1.5km手前から始まる平均勾配8.7%の3級山岳頂上がゴール地点。もうスイス国境は目と鼻の先だ。


クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2012ステージリスト
6月3日(日)プロローグ グルノーブル〜グルノーブル 5.7km(個人TT)
6月4日(月)第1ステージ セイサン〜サン・ヴァリエ 187km
6月5日(火)第2ステージ ラマストル〜サン・フェリシアン 160km
6月6日(水)第3ステージ ジヴォール〜ラ・クライェット 167km
6月7日(木)第4ステージ ヴィリエ・モルゴン〜ブール・ガン・ブレス 53km(個人TT)
6月8日(金)第5ステージ サン・トリヴィエ・シュル・モワナン〜リュミリー 186.5km
6月9日(土)第6ステージ サン・タルバン・レイス〜モルジン 166.5km
6月10日(日)第7ステージ モルジン〜シャテル 124.5km

これぞツール前哨戦 ウィギンズvsエヴァンスに注目

昨年の総合表彰台、左から3位アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、優勝ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)、2位カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)昨年の総合表彰台、左から3位アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、優勝ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)、2位カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosドーフィネにはツール並みの豪華なオールラウンダーが揃う。しかし彼らの最優先事項はこのドーフィネで総合優勝することではない。あくまでも7月に向けた準備の一環としてドーフィネを走る。

昨年、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)は個人タイムトライアルでリードを広げ、山岳ステージでそのリードを守る走りで圧勝。下位に1分26秒ものタイム差をつけ、ドーフィネ初制覇を果たした。

ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsujiウィギンズは今年、同様の手法でパリ〜ニースとツール・ド・ロマンディを制覇。着々とツール制覇に向けてステップアップしている感がある。クリス・フルーム(イギリス)、マイケル・ロジャース(オーストラリア)、リッチー・ポルト(オーストラリア)ら、チームスカイのアシスト陣も豪華だ。

6月のドーフィネ、そして7月のツールでウィギンズの最大のライバルとなるのが、昨年のツール覇者カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)だろう。TTでリードし、山岳でリードを守るという点で、両者は似ている。

カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiエヴァンスは過去に4度ドーフィネ総合2位を経験している。BMCレーシングチームからは、2010年大会総合3位のティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)も出場。フィリップ・ジルベール(ベルギー)は前半ステージで勝利を狙ってくるだろう。

つい先日2010年ツールのマイヨジョーヌを受け取ったアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)は、今シーズン未勝利。ただでさえ「今年のツールはシュレク向きのコースではない」と言われているだけに、そろそろ存在感を見せておきたいところ。

全日本チャンピオンの土井雪広(アルゴス・シマノ)全日本チャンピオンの土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Cor Vosグランツール総合優勝経験者のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)やファンホセ・コーボ(スペイン、モビスター)、デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)らも出場。ニーバリは今年ツールに焦点を合わせているが、直前のツアー・オブ・カリフォルニアでは精彩を欠いた。

他にもユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)、そして昨年ツールを沸かせたトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)が出場。TT世界チャンピオンのトニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)はサプライズになり得る。

そして、カリフォルニアからヨーロッパに戻った土井雪広(アルゴス・シマノ)も出場する。一般的に、カリフォルニア→ドーフィネの流れは定番のツール準備プログラム。「脚はパワフル。早くレースを走りたい」と話す全日本チャンピオンの走りに期待したい。

text:Kei Tsuji