1月28日から開催されたシクロクロス世界選手権。大会1日目に開催されたジュニアカテゴリーに日本人3選手が出場した。結果は期待されていたほどには伸びなかったが、若い高校生たちにとって、世界の舞台に挑戦したことは貴重な経験になった。彼らのレースを振り返りたい。

アップをする沢田時(チームブリヂストン・アンカー)アップをする沢田時(チームブリヂストン・アンカー) (c)Sonoko.Tanaka砂区間のテクニックに圧倒された

今年のベルギーは暖かい。東京で雪が降ったというニュースを聞くところ、日本のほうが寒いようだ。世界選手権が開催されるベルギー北部のコクサイデも今年は雪が積もらず、朝の凍結もほとんど見られないほど。そんななかで迎えた世界選手権1日目。

この日の朝も「いつもよりは少し寒いね」というくらい。おそらく朝の気温は2℃や3℃だったと思う。夜露で路面は少し濡れ、コース上の砂はやや重たくなったものの、試走時と比べて大きな変化は見られず。

後方から追い上げる沢田時(チームブリヂストン・アンカー)後方から追い上げる沢田時(チームブリヂストン・アンカー) (c)Sonoko.Tanaka午前11時、世界選手権の開幕を告げるジュニアカテゴリーのレースがスタートした。レースをリードするのは、開催国ベルギー、そして隣国のオランダやフランスの選手たちだった。

試走時から、この3国の選手たちの砂地でのテクニックは圧倒的だった。結果的にオランダ人のマシュー・ファンデルプールが優勝したが、日本人選手はこぞって彼らの砂地の速さに驚くばかり。

最終ラップを走る中井路雅(瀬田工業高校)最終ラップを走る中井路雅(瀬田工業高校) (c)Sonoko.Tanaka「自転車で踏んでから、砂地でバイクを担いで、また自転車で踏む。これは、強度のかかり方や使う筋肉が違い、なかなか日本では経験できない“初めてやるスポーツ”という感覚だった」と話すのは沢田時(チームブリヂストン・アンカー)。

コクサイデは毎年のようにワールドカップに組み込まれ、長いラン区間がある泥のレースもヨーロッパには多い。そのような環境下で日頃から走っているヨーロッパの選手が有利に影響したレースだった。
(もっとも結果を求められる世界選手権では、経験が足りないから走れない、なんて言い訳は通用しないわけだけど...)

彼らがコースに入ったのは大会2日前の木曜日。木曜、金曜とコースに入り、繰り返し繰り返し砂地での練習を積んだ。最初はまったく乗れなかった選手たちだったが、上手な選手のテクニックをよく見て、互いにアドバイスを交わし、しだいに乗れる感覚を掴んできた。
中井路雅(瀬田工業高校)はレース前にこう話している。「試走を重ねることで砂区間に自信が付きました。"走れる"と思って、積極的にいきたいです。緊張や不安な気持ちもありますが、それよりも楽しみな気持ちが大きいです!」。


ジュニア3選手が振り返る40分間のレース

ジュニアの競技時間は40分、6周回でのレースだった。ジュニア3選手の結果は、沢田時19位、横山航太(快レーシング)41位、中井路雅(瀬田工業高校)42位。その数字の裏にあるレースを、3人の高校生に振り返ってもらった。

レーススタートを待つ沢田時(チームブリヂストン・アンカー)レーススタートを待つ沢田時(チームブリヂストン・アンカー) (c)Sonoko.Tanaka沢田時
「スタートはクリートキャッチもうまくいって、普通に前に出られました。しかし、予想以上に周りの選手が蛇行してバラけ、どのスペースに入ろうかと考えた一瞬のすきに前に出るタイミングを失ってしまいました。

19位でゴールした沢田時(チームブリヂストン・アンカー)19位でゴールした沢田時(チームブリヂストン・アンカー) (c)Sonoko.Tanakaさらに1周回目の砂地で前を走るアメリカ人選手が止まり、ハンドルが絡んで完全に止まらされましたが、ここからは順位を下げることはなく、順位を上げながら走りました。前回のワールドカップではスタートが良く、3周目以降で疲れてしまいましたが、今回は最初の周回でセーブされた分、順調に順位を上げていけたように思えます。

最終周回は3選手のパックに後ろから2選手が追いつき合流。5人のパックで迎えました。砂区間には3番手くらいで入りましたが、ランニングで前に出られてしまい、後ろになりました。そして最後の砂のキャンバーでバランスを崩して、バイクから降り、パックから離れてしまい、ゴールスプリントには加われませんでした。

レースの準備をする中井路雅(瀬田工業高校)と横山航太(快レーシング)レースの準備をする中井路雅(瀬田工業高校)と横山航太(快レーシング) (c)Sonoko.Tanaka順位は昨年よりも悪いですが、後ろから上がってこられたことはいいことだと思っています。去年ならできなかったと思う。15番くらいまでなら上がってこれる感触を掴みました。

春からはフランスを拠点としたMTBのシーズンが始まります。そこでたくさんの刺激を受けると思いますが、シクロクロスも、自分のことだから、きっと海外で走りたいと思うと思います。MTBとの両立は厳しく、またサポート体制なども相談が必要な段階ですが、アンダーカテゴリーでも頑張りたいと思います」

42位でレースを終えた中井路雅(瀬田工業高校)42位でレースを終えた中井路雅(瀬田工業高校) (c)Sonoko.Tanaka中井路雅
「スタートで落車に巻き込まれましたが、変な焦りではなく、いい緊張感の中で走り出すことができました。一人で前を追い、最初の砂区間で6人くらいのパックに追いつきました。2周回目からそのパックの先頭を走り、常に前に前にという気持ちで、前が詰まっていたらどんな隙間にでも入って、前に出ようと走りました。

あとは得意のオンロードで前に出るなど、スタート以降はスムースに走ることができました。出遅れたことが、大集団を避けて、自分のリズムを掴めたし、前を追う気持ちも強くなったと思います」

41位でレースを終えた横山航太(快レーシング)41位でレースを終えた横山航太(快レーシング) (c)Sonoko.Tanaka横山航太
「1周回目はスタートが良く、最初の砂山セクションもうまく走れたので、順位を上げることができました。先週スタートで失敗して、ズルズルと悪い流れになってしまったので、今日は落車覚悟で突っ込んでいきました。砂山でも冷静に周りを見て、止まる選手をうまく交わすことができました。

2周目は周りがバラけて行くなかで、少し気が抜けてしまったように思います。このときに前に出ていたら、もっと前に行けたと思います。そして3、4周回と疲れが積み重なり、周りのミスに巻き込まれてしまうことも多くなりました。事前にもっと前に出ていれば、いくらか順位をあげてゴールできたはずです。まだ来年もジュニアカテゴリーなので、今回のことを次に生かしていきたいと思います」

沢田時は2回目、中井、横山は初めての世界選手権だった。悔しさも残る結果ながら、持っている力で世界に挑み、三者三様、貴重な経験を積むことができた。
現在のシクロクロス全日本チャンピオン竹之内悠(チームユーラシア)は、ジュニア時代から世界を経験しているが、さまざまな事情から、競技から離れてしまう選手が多いのも今の日本の現状でもある。高校生にして世界のトップと戦える環境は素晴らしいことであり、日本ナショナルチームは現在、競技レベルの底上げに直面している。
たくさんの可能性をもつ若い選手たちの今後の活躍を応援したい。


text&photo:Sonoko.Tanaka

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