ジロ・デ・イタリア2日目は、大会最長の244kmコース。さぞ選手たちは長い距離に飽き飽きするだとうと思いきや、アスタナの中野喜文マッサーは「選手たちは(前々日のチームプレゼンで)むくんでいるから、これぐらいの距離のほうが良いんですよ」と笑って答えてくれる。立って話をしているだけで、額に汗が浮かぶ暑さだ。

子どもたちに囲まれるダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア、チームスカイ)子どもたちに囲まれるダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji244km。グランツールのステージとしてはかなり長めだ。東京のど真ん中をスタートして、静岡県の掛川辺りにゴールするぐらいの距離感。イタリア半島の背骨にあたるアペニン山脈の北端を、舐めるようにして東に向かう。序盤に小さな丘がある他は、イタリア最大の河川であるポー川に沿った平坦コースが続く。

トリノから南に60km。トリュフで有名なアルバの街をスタートしてすぐに、セバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)のアタックが決まったとラジオコルサ(競技無線)が告げる。集団から誰か飛び出して合流するかなと思いきや、誰も動かない。ラングの長い一人旅が始まった。

出走サインを終えた別府史之(日本、レディオシャック)出走サインを終えた別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsuji上半身が微動だにしないフォームで、規則正しいペダリングを繰り返すラング。まさにドイツ人の気質が出ているような走りで、イタリアの地を駆け抜ける。ひとりで。

この日のコースは、昨年の大会で新城幸也(ユーロップカー)が逃げてステージ3位に入った第5ステージと同じ地域を通過する。当時、ユキヤが3番手通過した中間スプリントのゲートが置かれていたトルトーナの街で、この日3回目の撮影を行う。空は快晴。1年前に撮影した時は雨がパラついていたことを思い出す。逃げるユキヤに向かって叫んでいたことを思い出す。

トルトーナの街に、チームカーを引き連れたラングがやってきた。レース状況を伝えるオフィシャルカーが「タイム差は19分!」と叫ぶと、観客たちは暑さから逃げるようにバール(カフェ)へと入って行った。

丘の上のモンテグロッソ・ダスティに向かう丘の上のモンテグロッソ・ダスティに向かう photo:Kei Tsuji総合8位で初日を終えた別府史之(日本、レディオシャック)総合8位で初日を終えた別府史之(日本、レディオシャック) photo:Riccardo Scanferlaレース終盤にかけてリードを失っていくセバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)レース終盤にかけてリードを失っていくセバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット) photo:Riccardo Scanferla


延々と続く平坦路を駆け抜ける延々と続く平坦路を駆け抜ける photo:Kei Tsuji結果的にラングは5時間以上、219kmをひとりで逃げ続けた。ソロエスケープの場合は平均スピードが落ち、ゴール時間が遅くなる場合が多いが、追い風の影響でスケジュール通りにレースは進行。この日の平均スピードは42.4km/hだった。

ラングは終盤の4級山岳を先頭で通過したため、マリアヴェルデ(山岳賞ジャージ)を手に入れた。長い長い逃げの末のジャージ獲得。

集団内に息をひそめる別府史之(日本、レディオシャック)集団内に息をひそめる別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiシッティングがあまりにもキレイで、ダンシングに少し違和感を覚えるラングの走り。決して山岳に強いキャラではないが、2008年のツール・ド・フランスでも逃げによってマイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を着ている。

前述の通り、スタート地点アルバはトリュフが有名。一方、ゴール地点パルマは美食の街として知られている。チーズの王様と称されるパルミジャーノ・レッジャーノや、「パルマハム」ことプロシュート・ディ・パルマはパルマ発。スポーツ界では2001年から2004年まで中田英寿がACパルマに所属していた。生憎、グランツール期間中は「食」が疎かになりがちで、トリュフもパルミジャーノもプロシュートも関係ないのだけど。

アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)が先頭で猛進するアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)が先頭で猛進する photo:Kei Tsujiコースはシティーバイク利用率の高いパルマ旧市街を貫くように伸び、折り返して最終ストレートに向かう。会場のアナウンスを聞く限りガーミン・サーヴェロとHTC・ハイロードの闘いに持ち込まれると思いきや、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)の蛍光色のバイクが左右に振られながら加速しているのが目に入る。

ゴール地点から見ていると、ペタッキは斜行することなく真っすぐにゴールに向かってきた。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)はラインを迷いながらスプリントしている感じで、ゴール直前になってペタッキに並ぶも、先着は奪えず。長めのスプリントでカヴを翻弄したペタッキが、ブワっと両手を広げてゴールした。

ハンドルを投げてゴールするアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)ハンドルを投げてゴールするアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)とマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsujiカヴはペタッキの進路妨害をアピールしたが、イタリアの地では認めてもらえず。HTC・ハイロードのヴァレリオ・ピーヴァ監督は「もし逆だったら(カヴが進路妨害していたら)降格処分を受けていただろう」と苦虫を噛みつぶしたような顔で語る。

カヴは2年ぶりにマリアローザに袖を通したが、その表情は冴えず、明らかに異論がある感じ。イタリア国営放送のRAIがレース後の番組にペタッキとカヴを出演させ、わざと衝突を再燃させるような質問をぶつけたが、カヴは冷静にかわしていた。

やけくそ気味にかなり長い時間シャンパンを振り回したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)やけくそ気味にかなり長い時間シャンパンを振り回したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsujiカヴのチームが初日のチームTTで勝利し、翌日のステージでペタッキがカヴを打ち破る・・・どこかでそんなシナリオを見たと思ったら、2年前のジロと同じだった。当時もチームコロンビア(現HTC・ハイロード)がチームTTを制し、翌日のステージでペタッキがカヴを下している。今後のステージでもペタッキvsカヴの闘いが見られるだろう。

「エーススプリンターが3人いるから、勝負には絡まない」と語っていたレディオシャックの別府史之は、ボトル運びや風よけなどのアシストとしての仕事をこなして30位ゴール。総合8位を守っている。

「距離が長い上に、気温が高くなり、コース高低図でみるよりもタフなステージになった。でも長い距離だったからいい汗をかけて、良い乗り込みになった。チームとして結果は残せなかったけれど、自分に与えられたチームの仕事は100%こなすことができたので、自分としては良く走れています。」

レディオシャックのエキモフ監督に聞いても、フミへの信頼感の厚さを感じ取ることができる。開幕前のインタビューの通り、しっかりと仕事をこなした先にチャンスが待っている。

翌日の第3ステージは、終盤にかけてアップダウンを繰り返す。純粋なるスプリントステージとは言えず、登りでアタックした選手が逃げ切る可能性もある。注目したいのはジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)のような爆発力のある選手。必然的に総合順位は変動するだろう。

text&photo:Kei Tsuji in Parma, Italy

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