1月25日第3ステージはタイピンからシティアワンまでの144.9km。この日の朝、ホテルの窓から空を見上げると、青空と灰色の雲がまざった微妙な雲行き。雨は歓迎しないが、選手のフィニッシュを待ちながら気が遠くなってきた前日のような暑さにはならなさそうで、少しうれしい気持ちにもなる。

新城幸也を欠くチームユーロップカー新城幸也を欠くチームユーロップカー photo:Yuko Sato昨日落車した新城、品川の様子が気にかかる。スタート地点に着くと、チームユーロップカーのチームカーがやってくる。
様子を聞くと、「新城は今日は出ません。首が心配なので」と笑顔でスタッフが言う。「今日は病院に行ってMRIをとる予定でいます。」(ちなみに検査は現地時間25日22時現在、クアラルンプールの病院で結果待ち中とのこと。続報は随時お伝えする。)

そして愛三工業レーシングのチームカーもやってきた。「品川さん、大丈夫ですか?」と聞けば、「おはようございます!なんとかかろうじて。」と元気な笑顔をみせてくれた。左手、左脚に大きく貼られたテープが痛々しい。

「あんまり大丈夫じゃないですけど、今日走らないと」と笑顔の品川真寛(愛三工業)「あんまり大丈夫じゃないですけど、今日走らないと」と笑顔の品川真寛(愛三工業) photo:Yuko Sato出走前のサインをする福田晋平(愛三工業)出走前のサインをする福田晋平(愛三工業) photo:Yuko Sato


昨日の第2ステージ終盤、愛三はいつも通り列車を組んで上がっていった。ラスト1kmほどで後ろから突っ込まれて5~6人が転んだ。パク・ソンベクや宮澤も一緒だ。「そのまま2回転して、右足をはねられ、立てませんでした。」すぐ走り出す選手もいたが、マックスサクセススポーツの選手と品川の2人は、そのまますぐには動けなかった。「かろうじて乗れたので、片足でこいで、ゴールしました。けがは左半身全部の擦過傷と、打撲です。今も右足は肉離れしたみたいに動かなくて。」

「実はあんまり大丈夫じゃないんですけど」とニコニコとおだやかな笑顔の品川だが、話の内容はかなりシリアスだ。こういうときの選手たちの持つ芯の強さには、思わず尊敬の念を抱かずにはいられない。「今日走らないと、明日は走れないですからね!」と元気に自転車にまたがる品川。「転んだのか? がんばれよ!」他チームのスタッフも品川に声をかけていく。

パクはカメラを向けると日本語で「超イタイです!」パクはカメラを向けると日本語で「超イタイです!」 photo:Yuko Sato今年のTDLの抱負を語る福島(日本、トレンガヌ・プロアジア)今年のTDLの抱負を語る福島(日本、トレンガヌ・プロアジア) photo:Yuko Sato


近くにはトレンガヌ・プロアジアのチームカー。福島晋一の姿も見える。「昨日はお話途中で失礼しました!ユキヤ、今日は走らないんです。朝起きたら首の調子が悪いといって、検査にいってます。ユキヤにはツールドフランスという大事な目標があるから、一緒に走りたいだろうけど、大事にしたほうがいいんですよね…」あたたかい口調で新城を心配する福島。

「改めて昨日のお話の続きですね。今年のツール・ド・ランカウイの目標ですが、マレーシアのチームにとっては一番大事なレースです。ぼくも、8回目の参加で、弟の康司と一緒に育ててもらった大会なので、すごく思い入れがあります。タイで合宿してから来ているので調子もいいです。チームとしての目標は、まずステージ優勝。もちろん総合もひそかに狙っています。去年から登坂能力も上がっているので、試してみたいと思っています。」

土井は「今日、うち勝ちますよ!」ときっぱり土井は「今日、うち勝ちますよ!」ときっぱり photo:Yuko Sato受け取ったゼッケンをカメラに見せる宮澤。「新しいゼッケン!昨日落車しちゃったから」受け取ったゼッケンをカメラに見せる宮澤。「新しいゼッケン!昨日落車しちゃったから」 photo:Yuko Sato


スキル・シマノのチームカーも到着している。「今日は山で頑張ります。楽しく、転ばないように走りたいと思います!」という土井雪広。そして去り際にふと不敵な笑みを浮かべ「今日はうち、勝ちますよ!」と自信たっぷりの予告。まさに結果はその通りになるのだが。

スタートは11時。5分前となり、選手たちの前に入るプレスカーに乗り込む。山岳ポイントまで先回りし、選手を待つのだ。途中、雨がぽつぽつと降り出した。山岳ポイントの200mほど手間でカメラを構えて待っていると、11時36分頃にひとかたまりの選手たちがやってきた。先頭にスキル・シマノのジャージが見える。

山岳賞ポイント地点まであと200mほど。デコールトの山岳ポイント獲得のために動くスキル・シマノ山岳賞ポイント地点まであと200mほど。デコールトの山岳ポイント獲得のために動くスキル・シマノ photo:Yuko Sato

ここを集団はほぼひとつで通過し、後方に遅れた選手がちらほら通っていく。この場所での撮影を終えたほかのカメラマンたちと一緒にプレスカーに乗りこむと、ひとりで登って行く青いジャージが見える。175番。品川だ。3分ほど遅れている。でも、走っている。きっと同じように選手ひとりひとりが、いろいろな思いを抱えて走っている。最後まで無事走れますように、と祈るような気持ちで、車のフロントガラスごしにシャッターを切った。

集団内の宮澤崇史(日本、ファルネーゼ・ヴィーニ)集団内の宮澤崇史(日本、ファルネーゼ・ヴィーニ) photo:Yuko Sato山岳賞ポイント地点まであと200mほどを単独で走る品川真寛(愛三工業)山岳賞ポイント地点まであと200mほどを単独で走る品川真寛(愛三工業) photo:Yuko Sato


ここからのレースのコースは、S字状に東西に大きくまわりながら南下するコース。プレスカーはまっすぐ南下してフィニッシュに先回りだ。車の窓の外にはぽっこりした山が見える。山肌が見えるのは、岩の切り出しでもしているのだろうか。お店の並ぶ町を抜け、森の間の道に入ると、細かなアップダウンが続く。選手の走るルートも、高低差が少ないとはいえ、前日のように平坦ではなさそうだ。

プレスカー車窓から。細かいアップダウンプレスカー車窓から。細かいアップダウン photo:Yuko Satoプレスカー道に迷うプレスカー道に迷う photo:Yuko Sato


途中、プレスカーが道に迷うハプニングもありつつも、なんとか無事ゴール地点へ到着する。フィニッシュは14時半少し前、集団のゴールスプリントで先頭に見えるのは白いジャージのスキル・シマノだ。高く天を指差してフィニッシュしたのはマルセル・キッテル(ドイツ)だ。その後方には綾部勇成(愛三工業レーシング)の姿も見える。綾部はこの日の日本人最高順位の8位だった。

2位に終わったアヌアル・マナン(マレーシア、トレンガヌ・プロアジア)の後方に綾部勇成(愛三工業)2位に終わったアヌアル・マナン(マレーシア、トレンガヌ・プロアジア)の後方に綾部勇成(愛三工業) photo:Yuko Satoアシストに徹した宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)アシストに徹した宮澤崇史(日本、ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) photo:Yuko Sato


集団が通過したあと、レーススタッフにきくと「6名ほどがまだコースにいる」という。徐々にカメラマンがコース脇の表彰台の前に集まり出し、表彰式が始まる。品川の姿はまだ見えない。この日のデッドラインは3時間37分36秒。時計は14時50分をまわる。

「まだ来る選手がいるよ」とレーススタッフ。マナンが表彰台から降りて壇上に並び、拍手を浴びたそのとき、遠くから数人の姿が見えてきた。ポディウムにフラッシュを浴びせるカメラマンたちの背後で静かにフィニッシュラインをこえた、4人の選手たち。品川と、お尻の破れたジャージのファン・チンロン(台湾、ジャイアント・ケンダ)は、フィニッシュしたあとそっと手を伸ばし、互いの手を握った。

2人のタイムはともに、3時間49分53秒、Did not finish in Time allow'd(規定時間内にフィニッシュしなかった)。
彼らは最後まで戦った。

タイムオーバーに抗い走った品川真寛(愛三工業)が共に走ったファン・チンロン(チャイニーズタイペイ、ジャイアント・ケンダ)と握手するタイムオーバーに抗い走った品川真寛(愛三工業)が共に走ったファン・チンロン(チャイニーズタイペイ、ジャイアント・ケンダ)と握手する photo:Yuko Sato


※26日午前11時の現地情報。 チームスタッフによると、新城はMRT、CTともに異常なし。首の痛みは軽い筋肉痛のような状態のみで、入院の必要はないという。本人は「なんだ、走ってればよかった」と残念がっていたという。
新城は現在クアラルンプールのホテルにおり、今後の動きは状況を見て決める予定だ。以上、スタート前の取材より。
佐藤有子


photo&text:Yuko.SATO