丘陵地帯を駆け抜ける124kmで行なわれたツアー・ダウンアンダー第4ステージ。メイン集団を24秒引き離す逃げ切りが決まり、スプリントを制したキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)が優勝。ボーナスタイムも同時に獲得し、総合首位に立った。

チームメイトにコースを説明するスチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック)チームメイトにコースを説明するスチュアート・オグレディ(オーストラリア、レオパード・トレック) photo:Kei Tsuji第4ステージはノーウッドからストラサルビンまでの124km。アデレード東部に広がる丘陵地帯が主な舞台であり、ストラサルビンまでひたすら短い上りと下りを繰り返す。ストラサルビンの長い最終ストレートでのスプリント勝負に注目が集まった。

前日からの脱落者はおらず、131名の選手たちが少し薄雲の広がるノーウッドをスタート。11時22分に正式なスタートが切られると、すぐにアタック合戦が始まった。

チェッカーヒルでアタックに反応するアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)チェッカーヒルでアタックに反応するアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiランプレやカチューシャ、リクイガス、レオパード・トレック、クイックステップ、チームスカイ、エウスカルテルが積極的にアタックを仕掛けたが、メイン集団が容赦なくこれらを飲み込んでいく。メイン集団は丘陵地帯に抜ける渓谷をうねるように駆け抜けた。

KOM(山岳ポイント)が設定されたチェッカーヒルは、ダウンアンダー随一の急坂として知られる難所。長さは1kmに満たないが、平均勾配は13.3%に達する。27km地点に設定されたこのKOMを前に、全てのアタックは封じ込められた。

集団先頭でチェッカーヒルを上るマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)集団先頭でチェッカーヒルを上るマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsuji小高い丘の天辺に伸びる急坂区間に入ると、まずはアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)がアタック。これにシモーネ・ポンツィ(イタリア、リクイガス)やベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック)、ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)らが反応し、ポンツィがKOM先頭通過を果たす。

すぐ後ろのメイン集団からは何とアンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)がアタック。力強いダンシングで集団を飛び出したグライペルは、前を走るボブリッジらに合流して逃げを試みた。

逃げグループを形成するキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)ら5名逃げグループを形成するキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)ら5名 photo:Kei Tsuji総合2位グライペルの動きは逃げ切りを狙ったものではなく、KOMの6km先に設定されたスプリントポイントでのボーナスタイム獲得が目的。グライペルは他の4名の選手と懸命に先頭交代して逃げを試みたが、スプリントポイントの200m手前で吸収されてしまう。

激しいスプリントバトルの末、総合3位のロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)がスプリントポイント先頭通過を果たした。2番手通過はリーダージャージのマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)。ボーナスタイムにより、両者の総合タイム差は4秒から3秒に縮まった。

逃げグループ内で走るビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)ら逃げグループ内で走るビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)ら photo:Kei Tsujiスプリントポイント通過後にようやくこの日の逃げが決まる。飛び出したのは、ガーミン・サーヴェロのキャメロン・マイヤー(オーストラリア)とマチュー・ウィルソン(オーストラリア)、ヴァカンソレイユのトーマス・デヘント(ベルギー)とロブ・ルーグ(オランダ)、そしてビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)とローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)の合計6名。

逃げグループの中で総合成績が最も良いのはカドリで、ゴスから14秒遅れの総合13位。タイム差が2分30秒まで広がると、リーダージャージ擁するHTC・ハイロードが集団コントロールを開始した。

61km地点のスプリントポイントはデヘントが先頭通過。6名は協力して逃げ続けていたが、カドリがパンクで脱落してしまう。

ゴールまで50kmを切ると、HTC・ハイロードがエンジンを吹かして集団ペースアップを開始。しかしタイム差の縮小は鈍い。ラスト30kmで1分30秒、ラスト20kmで1分20秒、ラスト10kmで50秒。

リーダージャージのマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)がチームメイトに率いられるリーダージャージのマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)がチームメイトに率いられる photo:Kei Tsuji

逃げグループを追うメイン集団逃げグループを追うメイン集団 photo:Kei Tsujiオメガファーマ・ロットやモビスター、チームスカイがHTC・ハイロードに加わったが、横風が吹き付け、アップダウンが連続し、曲がりくねったコースで思うようにペースを上げることが出来ない。やがて先頭からルーグが力尽きて脱落し、ウィルソン、マイヤー、デヘント、テンダムの4名に絞られた。

ウィルソンの献身的な牽引により、先頭4名は39秒のリードを維持したままラスト5kmを通過。迫り来る大集団を振り切り、4名のまま最終コーナーを抜けた。

スプリントを繰り広げるトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)とキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)スプリントを繰り広げるトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)とキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiラスト300mでデヘントが仕掛けると、反応出来たのはマイヤーだけ。ラスト200mでコースが緩やかな上りに差し掛かると、マイヤーがデヘントに並ぶ。失速するデヘントに対して伸びのあるスプリントを見せたマイヤーが先頭に立つ。2日前の落車で怪我を負った痛々しい右腕を突き上げた。

スプリントを制したキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)が片手を突き上げるスプリントを制したキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)が片手を突き上げる photo:Kei Tsujiマイヤーは2008年にサウスオーストラリア.comのメンバーとして出場したツアー・オブ・ジャパンで総合優勝したので、日本人にもお馴染みの存在だ。マイヤーはこれまでトラック競技で輝かしい成績を残しており、2009年に世界選手権のポイントレースで優勝すると、2010年に連覇を達成。更に同年団体追い抜きとマディソンで優勝し、三冠を達成した。2009年にガーミンでプロデビューを飾り、今年オーストラリア選手権タイムトライアルで連覇を達成している。

スプリントを繰り広げるメイン集団スプリントを繰り広げるメイン集団 photo:Kei Tsuji「ずっとタイム差を計算しながら逃げていた。メイン集団がペースを上げるまで力をセーブして、タイム差が縮まり始めると一気にペースを上げたんだ。仮に捕まったとしてもタイラー(ファラー)で勝負する予定だった。マット(ウィルソン)は全力で逃げを引き続けてくれた。終盤はずっと彼が先頭に立っていたよ。」マイヤーはレースをそう振り返る。

「母国で初勝利を飾ることが出来るなんて本当に素晴らしい。」

リーダージャージに袖を通したキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)リーダージャージに袖を通したキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiメイン集団とのタイム差24秒に加え、ボーナスタイム10秒を獲得したマイヤーは総合首位に浮上。新人賞でもトップに立っている。総合2位に浮上したのは一緒に逃げたテンダムで、マイヤーとのタイム差は10秒。メイン集団の先頭でゴールしたゴスが12秒差の総合3位につけている。

マイヤーは「リーダージャージを守るのはタフワークだ」と語る。しかしその視界の先には総合優勝が見えている。「残り2日のボーナスタイムが勝負の鍵を握る。チームは全力でジャージキープに努めるよ。とにかく明日は長いステージだ。ボーナスタイムを逃げグループに獲得させて、逃げ吸収のミッションをスプリンターチームに任せたい。」

「(第5ステージの)ウィランガヒルの闘いは予測可能。でも今日のように風が吹いてアップダウンを繰り返すステージでは、何が起こるか分からない。チャンスがあると思って勝負に出た。」そう語るのはガーミン・サーヴェロのマシュー・ホワイト監督。

「トラック競技やタイムトライアルでの成績が目立っているが、彼はオールラウンダーだ。1週間ほどのステージレースで強さを発揮する。数年後にはグランツールで活躍する選手になっているかも知れない。まだ23歳。将来は明るい。」ホワイト監督はマイヤーをそう讃えた。

ツアー・ダウンアンダーは残り2ステージ。ゴールスプリントでは最大10秒、スプリントポイントでは最大6秒のボーナスタイムが与えられる。つまり総合3位にダウンしたゴスにはまだチャンスが残されている。

ゴスは総合首位奪回に自信を見せる。「彼(マイヤー)は明らかに強い。明日も攻撃に出るかも知れない。でもスプリントで撃ち落とす自信はある。チームの状態もいいし、まだまだステージ優勝を狙って走る。チームメイトたちの力を借りれば、リーダージャージを取り戻すのは可能だと思う。」

トップスプリンターたちの総合争いに割って入ったマイヤー。ツアー・ダウンアンダーの総合優勝争いは、最終日までもつれ込むことになりそうだ。

ツアー・ダウンアンダー2011第4ステージ結果
1位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)  2h57'55"
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)
3位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)            +03"
4位 マチュー・ウィルソン(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)    +10"
5位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)         +24"
6位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)
7位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
8位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
9位 ニコライ・トルソーフ(ロシア、カチューシャ)
10位 ロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ)

個人総合成績
1位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) 12h54'30"
2位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)            +10"
3位 マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)         +12"
4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、レディオシャック)       +15"
5位 アンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)       +16"
6位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)         +18"
7位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
8位 ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)          +26"
9位 フランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)         +27"
10位 アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)           +28"

新人賞
キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)

スプリント賞
トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)

山岳賞
ルーク・ロバーツ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)

敢闘賞
トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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