イタリアンヘルメットブランドのカスクが手掛けるオールラウンドヘルメット「ELEMENTO」。イネオス・グレナディアーズとの共同開発によって生み出された高性能かつ安全性に優れたフラッグシップヘルメットを、CW編集部員の高木がインプレッション。



カスク ELEMENTO photo:Michinari TAKAGI

優れたデザインと機能性で人気を集めるイタリアンヘルメットブランドのカスク。比較的新しいブランドながら、チームスカイ(現イネオス・グレナディアーズ)と緊密な関係を築き、ツールをはじめ多くのレースにおいて栄冠を獲得してきたレーシングブランドとして認知されている。

なかでも長きに渡り同社のレーシングモデルの中核を担ってきたセミエアロモデル"PROTONE"は、多くのサイクリストに愛されてきたヘルメットであり、名作の呼び声高い一着だ。軽量かつエアロ、そして通気性に優れた万能モデルととして、あらゆるシーンで着用できるオールラウンドモデルとして支持されてきたPROTONE。その後継モデルとして、カスクが満を持して送り出したのがELEMENTOだ。

新素材「FLUID CARBON12」はアウターシェルに採用 photo:Michinari TAKAGI

外側のエアインテイクを小さくして、エアロダイナミクスを向上 photo:Michinari TAKAGI

次の時代のスタンダードとして開発されたELEMENTOは、PROTONEのDNAを受け継ぐ丸みを帯びたシルエットの中に2つの革新的な技術を詰め込むことでヘルメットとしてのポテンシャルを引き上げている。その一つが"FLUID CARBON12"と名付けられたテクノロジー。これはベンチレーションホールや頭頂部に配置されたカーボンプレートで、ヘルメットの強度を引き上げつつ優れた衝撃吸収性を発揮する。

表に見えるカーボンプレート間は可動するジョイントによって繋がっており、大きな衝撃を受けた際には変形することでヘルメット全体に衝撃を分散する機能を有している。更にEPSシェルの骨組みとしての役割も果たすことで、ヘルメット全体のEPSフォームの使用量を削減し、軽量化にも貢献する。加えて、FLUID CARBON12は僅か1mmという厚さによって優れた通気性にも寄与する。頭部とヘルメットの間により大きな空間を確保することを可能とし、より効率的なエアフローを実現。

カスク独自デザインの3Dプリントのエラストマー素材が使用されているMULTIPODインナーパッド photo:Michinari TAKAGI

もう一つのコアテクノロジーとなるのがMULTIPODインナーパッド。これは最近サドルなどに用いられる3Dプリント製エラストマーをインナーパッドとして用いることで、快適性と安全性の向上を図っている。

格子状の構造を有するMULTIPODパッドは、通気性の面において一般的なウレタンフォームとは一線を画す。また、衝撃吸収性にも優れていることもこのパッドの特徴だ。垂直方向だけでなく横方向にも変形する立体ハニカム構造は、脳震盪を惹起する回転衝撃を吸収するためにも機能する。

この2つの技術により、ELEMENTOは非常に優れたプロテクション性能を実現。多くのヘルメットの安全性をテストしているバージニア工科大学の試験において、最高ランクの5つ星を獲得している。なお、前頭部と側頭部のパッドは温度調節と抗菌効果のあるメリノウール製とされている。

フィッティングシステム「OCTO FIT PLUS」を搭載 photo:Michinari TAKAGI

カーボン素材の質感のままヘルメットのデザインに溶け込むように備わっている photo:Michinari TAKAGI

フィッティングシステムは「OCTO FIT PLUS」という軽量かつ大きなダイヤルを用いたアジャスターを採用。アジャスターは上下へ可動し、自身の後頭部に合った位置にセッティングできる。

ヘルメット後部には大型の反射材が備えられ、後部からの被視認性を確保した。サイズはM(52~58cm)とL(59-62cm)の2つのサイズが展開される。カラーはホワイトとレッド、ブラック、シルバーの4カラーが用意される。価格は52,800円(税込)。それではインプレッションに移っていこう。



―編集部インプレッション

学生時代から現在に至るまでカスクのヘルメットを愛用してきたCW編集部員の高木 photo:Gakuto Fujiwara

今回、ELEMENTOのインプレッションを担当するのは、学生時代から現在に至るまでロードレースやシクロクロス、トラック競技でカスクのヘルメットを愛用してきたCW編集部員の高木。

オールラウンドモデルのPROTONEやエアロモデルのUTOPIA、軽量モデルであるVALEGRO、トラック競技のポイントレースやタイムトライアル競技ではTTヘルメットのBAMBINOなど、様々なカスクのヘルメットをレースやトレーニングで使用してきた。

MULTIPODインナーパッドにより被り心地は変わった photo:Gakuto Fujiwara

アジアンフィットのヘルメットが合う丸型頭の持ち主で、METやスペシャライズド、ケープラス、レイザーではMサイズ、カブトではS/Mサイズを着用している。今回、MサイズとLサイズが用意されるELEMENTOにおいては、両サイズを試してみた結果Mサイズがジャストフィット。

いざ被ってみると、これまでのカスクのヘルメットとは少し異なる被り心地であることに気づく。ELEMENTOが初採用となるMULTIPODインナーパッドの影響だ。頭頂部周辺が3Dプリント製のインナーパッドになったことにより、少し硬めの被り心地に。髪の短い側面や額には従来のメリノウール製パッドが配置されており、ソフトな肌辺りとされているのは適材適所ということだろう。

ダイヤルの側面には凹凸が細かく刻まれ指が掛かりやすい photo:Gakuto Fujiwara

その一方でしっかりと頭部をホールドするフィット感はカスクらしい。後頭部の位置に合わせてアジャスターを上下に幅広く調整可能で、確実にフィットしてくれる。

ダイヤル自体も大きく操作しやすい上、側面には凹凸が細かく刻まれ指が掛かりやすい。厚みのある冬用グローブでも操作しやすいデザインで、特に今の時期にはありがたい。ダイヤルを回すと細かなクリック感が返ってくるため、微妙な締め付け具合も調整しやすい。

エアインテイクから風が入り込み、ヘルメットの内側にあるチャンネルを駆け抜けていくため、ヘルメット内は快適だ photo:Gakuto Fujiwara

いざ走り出し、まず感じたのは通気性の良さ。前面のエアインテイクから風が入り込み、ヘルメットの内側のエアチャネルを駆け抜けていくのが如実にわかる。常にヘルメット内が換気されており、今の時期では寒いほど。特に低速になるヒルクライムにおいても、しっかりと換気されているように感じるのは、MULTIPODパッドの通気性とエアフロー設計の妙だろう。

ヘルメット内部だけでなく、ヘルメット外部を流れる空気についてもしっかりと設計されていることは明らかだ。PROTONE ICONゆずりの丸みを帯びたシェル形状はあらゆる方向からの風を抵抗なく受け流してくれる。正面からの向かい風はもちろん、斜め前からの風、横風などでも風がヘルメットを押す感覚が小さいので首が疲れにくい。

カーボンシェルに守られている感覚があり、安心感のあるヘルメットに感じる photo:Gakuto Fujiwara

四輪のF1やSUPER GT、二輪のMOTO GPでもカーボン製のフルフェイスヘルメットが採用され、モータースポーツで安全性が強化される中、MTBのダウンヒルなどでもフルカーボンヘルメットが登場している。

一方、部分的にカーボンが使用されるロードヘルメットはこれまでもあったが、頭を覆うようにカーボンシェルが備えられているロードヘルメットは数えるほどしかないのが現状である。このELEMENTOはカーボンシェルの面積も非常に多く、安心感はかなり高い。もちろん、所有欲がくすぐられる質感も大きな魅力の一つだ。

より高速化するロードバイクを楽しむには、より安全性の高いヘルメットを選ぶ必要がある。それも、ただ分厚いことで安全性を確保したモノではなく、ハイテンポなライドでも苦にならない着用感、つまり軽く、通気性に優れたヘルメットが。このELEMENTOは、ある意味ワガママとも言えるそんなニーズを余すところなく満たす一着だ。



カスク ELEMENTO
カラー:ホワイト、レッド、ブラック、シルバー  
サイズ:M(52-58cm)、L(59-62cm)
重量:260g(Mサイズ)
価格:52,800円(税込)
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