「鈴なり妖怪 鈴」としてYoutubeやSNSで活躍するインフルエンサー、木下友梨菜さんが初のツール・ド・おきなわで女子国際100kmレースに挑戦。見事3位となった。6月の富士ヒルで大会記録更新からのロードレースへの挑戦で次々と結果を出す躍進ぶりから目が離せない。優勝もあり得たレースに、悔いが残ると言うが……。



木下友梨菜(きのしたゆりな/鈴なり妖怪 鈴)プロフィール

木下友梨菜(鈴なり妖怪 鈴) photo:Makoto AYANO

SNS界では「鈴なり妖怪 鈴」の名で活躍。かつて陸上界で活躍した後、ロードバイクにハマりすぎてロードバイク中心にすべく脱サラ。YouTubeチャンネル"あたおかロングライダーズ"などでライドの模様を配信。Mt.富士ヒルクライム2023では年代別で走り1時間6分44秒のタイムで大会記録更新。今夏よりロードレースにも挑戦をはじめ、Jプロツアー2023第13戦 南魚沼ロードレース女子優勝、ジャパンカップ2023オープン女子2位など好成績を挙げる。



今回初ツール・ド・おきなわ参戦ながら女子国際100kmに挑戦してきました。
自称晴れ女を名乗っている私ですが、「今後、晴れ女は一生名乗るな!」レベルの大雨の中スタート。爆風追い風で、普段なら絶対外乗りはしないコンディションでした……。

今回のために個人的にスポンサードをしていただいている企業の方々やたくさんの方が応援してくださり、おきなわ対策練として色んな方の練習に混ぜていただき、絶対いけるという確信をもって臨むことができたので、普段ならレース前緊張したり少し不安になったりと小心者ぶりを発揮する私ですが、周りの方に「いけます」と公言しちゃうくらい最強マインドのもと、一切の緊張も不安もなかったのは成長かな。

一緒に参戦したトライクルの仲間たちと

結果は2時間58分12秒でラストスプリント。惜しくもない3位でした。率直な感想は"悔しい"この感情が先ず上にきます。

元アジアチャンピオンやオリンピアンの方とも走れるという、今まで走った中では1番ハイレベルな方とのレースだったと思いますし、表彰台に乗れたこと自体とても嬉しかったです。1年前のロードレースを走ったこともない自分からしたら大健闘だったと思います。ただ、優勝を目指していたし、そのために準備してきたからこそ悔しい、この感情が8割いや9割を占めています。

11.12の中での最善は尽くしたと思うから後悔はないのだけど、この喜びきれない悔しい気持ちの理由を終わってからずっと考えてました。

・優勝できなかったこと、そもそも自分が優勝するための動きができなかったこと
・集団の中で自分主導なアタックもできず、アタックに反応してついていくだけのつまらない走りだったこと
・フルウエットの滑りやすい路面で好きなはずの下りも全然走れず、一緒に走っていた方に迷惑をかけてしまったこと
・スプリント力が不足していること

スタートリストを見た時に海外選手が参加していたり、各大会で活躍されてる選手が沢山いて、どなたをマークしないといけないか、その選手が得意なところはどこか私なりに色々調べたり聞いたりして臨みました。

女子選手で唯一海外で走られてる與那嶺恵理さんとお話しできる貴重な機会を少し前にいただき、既にオフシーズンを迎えていて、3週間ぶりの自転車になることを聞いてました。ただ圧倒的な強さを持つ方だから、3週間ぶりでもPWRは5.2倍くらいあるんだろうな、と思ったので、與那嶺さんの後ろにずっとつかせていただこうと思ってました。

スタートして早々に「頑張ってくださいね」と声をかけていただき、そのまま前にあがっていく背中が逞しすぎて「あぁぁかっこいい」と思いながら走ってました。(集中しろ)

普久川ダムの上りを行く與那嶺恵理(ヒューマンパワード・ヘルス) photo:Makoto AYANO

そんな流れで、1つ目の坂、奥の登りは途中から與那嶺さんの1本引き。集団は大きくばらけることなく、與那嶺さんの真後ろを走らせていただき登り終わった。

奥の登り(ストラバセグメント4.05km 186mup 4.6%)
12分15秒(PWR3.88倍 AHR149bpm)

渡部春雅(明治大学)、川口 うらら(TEAM TATSUNO)、金子広美(イナーメ信濃山形・バイクサンド・R×L)らのグループが普久川ダムの登りを行く photo:Makoto AYANO


皆前で位置取りしたいから下りに向けてスピードが上がって真横にはすぐ自転車。ハスりそうで怖かったから、足つかっちゃうけど、なるべく集団内で埋まらないようにあえて外側を走るようにしてました。これは経験をしていく中で距離感の慣れとかを習得して省エネな走り方を身につけないといけない課題点です。

普久川ダムの上りを行く木下友梨奈(鈴なり妖怪 鈴) photo:Makoto AYANO

今回は足を使ってでも自分が安心して走れる場所を選んで走ることにしました。集団が大きいからすごい神経使うし違う意味でめっちゃ疲れるから、基本前で走ることにしました。ちょこちょこローテーションに入ったりしましたが、ここでも與那嶺さんがアドバイスをくださり、そのまま基本的に與那嶺さんが引いてくださっていました。

そう、今回はサイコンのパワーと心拍は表示させなかったです。レースでこの2つの数値を見てるといくべきところでいけなかったり、ストッパーがどうしてもかかってしまう可能性があったから、表示させるのをやめました。前引く時だけ表示させる場面もありましたが、基本的には自分の感覚を信じて走りました。

爆風追い風だったのと、引いていただいたおかげでサイクリング状態で唯一の平坦区間は終わりました。

58号平坦区間(ストラバセグメント13.90km 66mup −0.3%)
20分31秒(PWR2.95倍 AHR131bpm)

與那嶺さんを先頭に、本レース1番の坂、普久川ダムへ。
木曜日の向かい風の試走で8割くらいの感覚で走り19分30秒くらいだったので、集団内で走れば余裕を残しつつ前で走れるだろうと思っていました。終盤まで大きな動きもなく基本的に前で走り、途中金子広美さんや川口うららさんがアタックをして集団が縦長になる場面もありましたが、集団は大きくばらけることもなく、多分この後もこの2人は積極的に動くのだろうと思ったので2人の動きをよく見ることにしました。

普久川ダムの登り(ストラバセグメント 7.26km 325mup 4.5%)
19分47秒(PWR4.57倍 AHR159bpm)

そして問題の下り。登り終わるところで川口さんが少しペースを上げたので、縦長で下りに入って行きました。集団は少しばらけて自分含めて8人くらいが少し抜けて下りへ。

沖縄の路面は雨でより滑るという噂は聞いていたけど、今回私はそれをめちゃくちゃ感じて、タイヤが地面を掴んでる感覚を全然感じることができませんでした。何度も滑る感覚があり、怖くて仕方なかった。

怖い感情のままのダウンヒルほど危ないものはないので(身体に力が入って力む)、「大丈夫、大丈夫。下りは自分のペースでいこう」と言い聞かせました。前の選手に突っ込んで迷惑かけるのも怖かったから、いけそうにない時は横にはけたりしました。ラインどりは最悪だったと思う。

また、ツルツル路面もそうだけど、撥水スプレーをしたアイウェアも開始10分で効果をなくし、前が全然見えない。私の視力は1.5はありますが、水飛沫で視界はぼやけ、自分の熱気で曇る場面もあり、視界はボヤボヤ。

視力0以下の世界線ってこんなかな、と望んでいない世界線へいくことも。

そんな中で皆が下りをかっ飛んでいくから「正気か?!」と思いながらマイペースで下ってしまいました。

所々自転車がひっくり返って落車があったり、雨の中のディスクブレーキの音が鳴り響いていて怖く、ネジを外せるタイプだと思ってだけど、ネジ固着してるレベルでのんびりでしか下れなかった
。誰か私に潤滑油を…。

今回はその後復帰できたから良かったものの、一緒に走ってる方に迷惑かけたことが申し訳なかったです。ここでの遅れが取り返しのつかない遅れになりうるので、早急に克服しないといけないです。

下りは好きなのですが、晴れてる日限定だ…と走りながら思う始末。走れる方に聞いたところ、晴れだろうが雨だろうがバイク操作は変わらないようなので、シンプルに私の技量のなさと、雨だからという思い込みにより今日は下りでは攻められないと初っ端で感じました。

私が今回勝つにはラストの羽地でかちあげて、そのまま下りもガン攻めしてラストスプリントに持ち込まない。これが1番勝つ可能性がある走り方だと思っていましたが、下りで攻められないとなり、だとしたら次に勝つ可能性がある走り方はなんだろう、どうするべきだろうとずっと考えながら走ってました。

レースはどんな天候でも基本的には開催されるので、そんなことを言い訳にはしていられない。これも私の今後の課題です。

そんな下りだったので、普久川ダムの下りで先頭集団が見えなくなるくらいに離されました。後日ガチンコTVさんのダイジェストYouTubeを観たら先頭集団は4人でした。ここで焦っても仕方ないから次の学校坂登り終わるまでに追いつこうと決めて、自分含めた4人が追いかける形に。

登り始めたら先に先頭が見えました、見えたからといって踏みすぎず、けど先頭よりは速いスピードで登り、登り終わる少し手前で無事に追いつきました。

この時にも周りの選手の位置取り、息遣い、フォームのブレない1番余裕があるのは誰か見ながら走るようにしました。

学校坂は斜度がきついけど距離は短いので、追いついてから少ししたら登り終わりました。データをみたらそれなりに心拍は上がっていたけど、走っている時の体感はまだ余裕を持って走れている自信があったし、多分本当に調子はよかった。

下りがうまくなれば無駄に足を使うこともなくもっと有利にレースを進められるから頑張ろうと思います。

学校坂(ストラバセグメント 1.81km 128mup 7%)
6分09秒(PWR4.85倍 AHR170bpm)

確か登りきりあたりで金子さんが「後ろ割と絞れてる?」と私に聞いてきたので、後ろ確認して8人の集団であることを伝え、金子さんの「このまま逃げるよ」の声がけと共にローテーションが始まりました。

学校坂が終わってからの道はアップダウンがひたすら続く道。ここでも下りは滑る感じがあって少し距離を置いて走ることにしてしまった。

危ないから(?)所々、畳がクッション代わりなのか立てられているところがあるんですよね。
そんなんじゃ大怪我不可避だよ…と思いつつ、あそこには絶対いきたくないと思いながら慎重に走りました。このアップダウン区間では誰も動くことなく、サイクリング的な感じで終わった。大きく辛そうにしてる人もいなかった。

次の坂、慶佐次(げさじ)の登りで開始早々に川口さんがアタックした。慶佐次は短い登り2連なので、リードさせたらダメだと思ったから、即座に反応して真後ろにぴったりついた。

反応した私が570Wだったから川口さんはもっとパワーで踏んでいたと思う。走っていて川口さんが1番余裕ありそうというのはずっと感じていた。こういうアタックを何回もできるタイプの選手なんだと思ったから、自分がローテ交代して後ろに下がった時にアタックされることは避けなければいけないと思いながら走った。

慶佐次の坂2連中1つめ終わっての下りのところで、私が先頭でのんびり下っていたら後ろから加速しながら川口さんがもう一回いった。金子さんが続いて、それに私も続いた。割と踏んだ。後ろと若干開いて縦長になったけど、後ろから追いついてまた集団に戻った。

2つ目の坂はずっと川口さんと金子さんを横目で見つつ、周りの方の余裕度を観察しながら走った。
やっぱり1番川口さんが余裕そうだった。

慶佐次の登り(ストラバセグメント 3.17km 67mup 1.8%=下りが含まれてるので平均勾配は緩め)
6分27秒(PWR4.35倍 AHR164bpm)

有銘の登りやカヌチャの坂などでアタックがあったらそれに毎回ついていく。そしてそのたびに集団に回収を繰り返し、それ以降のアップダウン区間も皆でローテしながら着実にゴールに近づいていき、結局自分から何か展開を変えられる動きはできずに、気付いたら85km地点だった。

この段階で集団は7人。1人で逃げても後ろの集団ローテから逃げられる自信はなかった。だから羽地で少し踏んで、一か八かのスプリントにかけることに決めた。

スプリント練習はほぼしてない。スプリントのやり方を少し聞いたことがあるくらい。けど、スプリントは運要素もあるって聞いたから(チェーン落ちする可能性があったり、タイミングによって強い人に勝てる可能性もある)85km地点での私の頭ではそれが最善だったと今でも思う。

羽地の入り口でちょうど自分のローテが回ってきたので、そのままローテは変わらず先頭で走ることにした。

羽地の登りでめっちゃ踏んで下りもガン攻めが理想だが、羽地途中で後ろを見たら自分含めて4人。仮に1人で抜け出しても、自分より下りが速い3人。

羽地はあまり距離も長くない、残りの羽地の登りで踏んで3人を離せたとしても、下りで追いつかれてしまうくらいの差にしかならないと思ったし、なんなら下りで抜かされ、3人でそのままいかれてしまうと思った。

だから、最後まで攻めた走りができなかった。受け身だらけのしょうもない走りしかできなかった。多分これが一番自分の中でモヤモヤの原因。何も自分で動けなかった。

走ってる中で外国人選手でスプリンターのナさんは余裕がまだありそうな気がした。ナさんは元アジアチャンピオンのスプリンター。ここで離せなかった時点で自分が優勝できる可能性は0に近かったんだと思う。

羽地2連トンネルヒルクライム(ストラバセグメント 1.63km 80mup 4.9%)
4分55秒(PWR4.27倍 AHR173bpm)

羽地の下りは緩かなカーブだからテクニカルでもない。けどタイヤが地面を捉えてる感覚を感じられずここでもやっぱりいけなかった。
金子さんと手塚さんにここで少し離された。そこから少し開いてナさんが続いて、下り終盤直線になったところから前の3人を追いかけてガン踏み。羽地の下りが終わったら90°右折して残すはラストの1.2kmの直線のみ。

先頭2人は私が遅れたことに気づいていたし、後ろを何度か見ていた。ラストの直線に入るまでに絶対に前に追いつかないとダメだと思ったので、下り終わりから追いつくまではめっちゃ踏んだと思う。

女子 4名でのスプリント勝負をナ・アルム(High Ambition 2022 jp)が制した photo:Satoru Kato

で、無事に追いついて4人でラストの直線に入った。私は一番後方。ここでは絶対前に出ちゃいけないと思った。私が一番レース経験もないし、スプリントのタイミングもわからない。ただ、一番後方から一番に出ることも難しいと思ったから、3番手の金子さんと並走することにした。

牽制体制でどんどんゴールが近づいてくる。自分から絶対仕掛けちゃダメ。誰かのタイミングに合わせて動く、と決めて、2番手のナさんがドカンといった。
それに合わせて金子さんもいった。私も同タイミングでスプリントぽいことをした。

そのまま3位でゴールした。

昨年優勝の金子広美(イナーメ信濃山形バイクサンドR×L)が2位、木下友梨菜(鈴なり妖怪 鈴)は3位 photo:Satoru Kato

表彰台に載れた。嬉しいという気持ちよりも、勝てなかった、何もできなくてやるせない気持ちが遥かに勝っていた。そしてなによりも怪我なく無事にゴールできた安堵感がすごかった。

優勝したナ選手とは1秒、金子さんとは0.2秒差。4位の手塚さんとも僅かな差しかなかった。

今回のレースを経て自分の課題がたくさん顕著になった。それと同時に、もっと頑張りたい欲が更に加速した。そして多分結果がどうであれ、自分で積極的に動かないと多分また同じモヤモヤの気持ちに陥ることを感じた。

応援してくださってる方にいい報告ができなかったことがすごく悔しいから、今回自分が感じたことできなかったことを絶対に忘れない。

女子国際ロードレース 表彰式 photo:Satoru Kato

ずっと守りに入ってしまった自分をぶん殴りたい。「そんなつまんない走りすんなよ」と言いたい。
それだったら当たって砕けて鬼垂れした方がきっと晴れやかだと思う。
「たられば」はいくらでも言えるから、ここら辺でやめますが、こうやって色んなレースに出て自分が感じたことを大事に、自分が納得できる内容のレースを増やしていこうと思います。

2位だった金子広美さんと。走っている間いろいろなアドバイスをもらいました photo:Yurina Kinoshita

自分の活動を応援してご支援頂いてる企業の方々には日頃から本当にお世話になっており、ありがとうございます。

また、レース前後にSNSでメッセージくださったり、会場で応援してくださった方々の応援が自分の力に本当になっています。いつもありがとうございます。

一緒に練習してきたトライクルの仲間たちと

また、今回自分は初参戦で何もわからない状態の中、日頃の練習の時にたくさんお世話になっているトライクルの方々とずっと動かせていただきました。男子レースの方でそれぞれ活躍している姿が自分のこと以上に嬉しくて、素敵なチームの方と繋がれていることに幸せなことだと思った。

部活動に打ち込んだ日々を思い出すような今の環境。自分が頑張りたいと思える環境で恵まれた今の環境に感謝をして、後悔がないように頑張ろうと思います。

いつも1番近くで応援してくれる家族、好き勝手好きなことに挑戦することを応援してくれてありがとう。

これからも鈴なり妖怪/木下友梨菜として、自転車が大好きマンがどこまでいけるか、いけるところまで突き進みます。

アホみたいに語っちゃいました。制作時間数時間に及ぶ超大作・笑
ここまで読んでくださってありがとうございました。妖怪の脳内と心を綴ったブログでした。

やっぱりロードレースは楽しい!大好きだ!
まったね〜ごきげん妖怪〜!

木下友梨菜(鈴なり妖怪 鈴)と愛車のキャノンデールSuperSix EVO photo:Makoto AYANO

【ツール・ド・おきなわ2023走行データ】
女子国際ロードレース100km
走行距離 100.88km
走行時間 2時間58分12秒
獲得標高 1,712m
平均速度 33.9km/h
平均パワー 172W
最大パワー 593W
平均心拍 150bpm
最大心拍 180bpm


text:木下友梨菜(鈴なり妖怪 鈴)

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