「2020年の残酷な体験は、長きに渡りトレーニングへの活力となった」と、オーストラリア人選手初のジロ・デ・イタリア総合優勝者となったジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)は語った。第105回大会の激闘を制したヒンドレーのコメントを、レース直後のインタビューや記者会見から抜粋して紹介します。



TTバイクからロードバイクに乗り換えアリーナに登場したヒンドレーTTバイクからロードバイクに乗り換えアリーナに登場したヒンドレー photo:CorVos
ヴェローナのアリーナに詰めかけた観客に出迎えられるヒンドレーヴェローナのアリーナに詰めかけた観客に出迎えられるヒンドレー photo:RCS Sport
「なんて素晴らしい気持ちなのだろう。様々な感情を抱きながらも、頭には2020年ジロでの出来事があった。その再現だけは繰り返してなるものかと懸命に走った。本当に素晴らしい」と、レース直後のインタビューでジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)は語った。

総合2位のリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)に対し、1分25秒のアドバンテージで臨んだ最終第21ステージの個人タイムトライアル。残り8km地点にある丘の頂上に設定された中間計測地点を、ヒンドレーはカラパスの僅か1秒遅れの15分21秒で通過した。

「無線で逐一タイムは聞きながら走り、脚の調子も悪くなかった。丘の頂上での中間計測タイムもまずまずだったので慎重に下り、あとはフィニッシュまで全力で踏むだけだった」とヒンドレーは振り返る。

「ボーラ・ハンスグローエは僕のタイムトライアル改善をサポートをしてくれた。そのためにカリフォルニアにあるスペシャライズドの風洞実験施設に赴き、かなりの時間をフォーム改善に費やした。その恩恵は多大にあっただろう」と言うように、ヒンドレーはカラパスから6秒遅れの23分55秒でフィニッシュ。2年前、僅か19分の着用しか許されなかったマリアローザを、同じタイムトライアルで確定させたのだ。

トロフェオセンツァフィーネにキスをするジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)トロフェオセンツァフィーネにキスをするジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:RCS Sport
オーストラリア西部パース出身のヒンドレーは現在26歳。ミッチェルトン・スコット(2019年まで活動していた現バイクエクスチェンジ・ジェイコの下部チーム)などで欧州レースの経験を積み、2018年にサンウェブ(現チームDSM)でプロデビューを果たすと、その後はクライマーとしてステージレースを中心に頭角を現す。そして2020年のジロで総合2位に入り、総合表彰台に上がるキャリアハイの成績を残した。

だがそのジロの思い出は辛く、苦い体験だったとヒンドレーは言う。「2020年は最終日にマリアローザを失う、あまりにも残酷な経験だった。その失望から立ち直るのに長い時間が必要だった」。しかし「あの時優勝を逃した悔しさは、その後長きに渡りトレーニングに向かう大きなモチベーションになった」とも。

これで2011年ツール・ド・フランスの覇者カデル・エヴァンス以来となるグランツール制覇、そしてオーストラリア人初のジロ・デ・イタリア総合優勝者となったヒンドレー。「信じられない気持ちだし、オーストラリア人として誇りに思う。このトロフィーをオーストラリアに持ち帰ることができて本当に嬉しいよ」と喜びを語る。

オーストラリアからイタリアに駆けつけたヒンドレーの両親オーストラリアからイタリアに駆けつけたヒンドレーの両親 photo:RCS Sport
表彰式後の記者会見にてヒンドレーは、優勝の喜びと共に、オーストラリア人選手として欧州で戦う難しさについても語った。「オーストラリア人が(ヨーロッパで)自転車選手になるには精神的にタフでなければならない。多くの人が想像できないほどの心の強さを求められるんだ。なぜなら僕らは欧州の選手のように週末に飛行機で帰郷するなんてことはできないから。それに加えて、ここ数年はコロナが更に僕たちを故郷から遠ざけた」。

「家族に会えない中での競技はとても辛かった。だが、最終日に両親がオーストラリアから来ることを知り、あらゆるネガティブな考えが吹き飛んだ。2年半振りに両親に会えて、本当に特別な気持ちがしたよ」と、急遽オーストラリアから駆けつけた両親と再会し、ヒンドレーは共に優勝を喜んだ。

少年の頃の憧れを「オージー選手がナショナル王者ジャージを来てツールのスプリントを勝つ姿に感動したんだ」と、ツールで区間通算12勝と3度のポイント賞を獲得したロビー・マキュアンだったと話すヒンドレー。「そして歳を重ね、僕にはもう一人尊敬する選手ができた。それは友人であり元プロ選手でもあるロブ・パワー。僕たちは同じ地域の出身で、彼が1つ歳上だったということもあり、僕は彼を心から尊敬しているんだ。彼のおかげで今の僕があると言っても過言ではない」と、ヒンドレーは記者会見を締めくくった。

共に総合優勝を喜ぶヒンドレーとボーラ・ハンスグローエのスタッフ共に総合優勝を喜ぶヒンドレーとボーラ・ハンスグローエのスタッフ photo:CorVos
text:Sotaro.Arakawa