ファーストアタッカーが金メダル獲得。逃げの存在に気付いていなかったオランダ勢を振り切って、0km地点から逃げて独走に持ち込んだアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)が東京五輪女子ロードレースで大金星を飾った。終盤まで精鋭集団に残った與那嶺恵理は21位、金子広美は43位でフィニッシュしている。


東京2020オリンピック 女子ロードレース東京2020オリンピック 女子ロードレース image:Tokyo 20207月25日(日)、暑さ厳しい東京都府中市の武蔵野の森公園に、40か国/67名のエリート女子ライダーたちが集結した。女子ロードレースは前日の男子ロードレースのコースから「富士山麓」と三国峠を省略した137kmコース。「道志みち(山伏峠)」と籠坂峠を越えて富士スピードウェイに至るコースの獲得標高差は2,692mある。

気温33度の暑さから、最強の布陣を揃えるオランダチームはアイスベストを着用してパレード走行を開始する。武蔵野の森公園から市街地を通って大國魂神社の境内を駆け抜け、午後1時22分に多摩川をまたぐ是政橋の上で正式なスタートが切られた。

東京2020オリンピック 女子ロードレース東京2020オリンピック 女子ロードレース image:Tokyo 2020
キーセンホーファーのファーストアタックでレーススタート

10kmのパレード走行終了後、0km地点でファーストアタックを仕掛けたのがアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)だった。ここに4名が追いつき、「尾根幹」を走るうちにメイン集団とのタイム差は10分まで拡大。遅れてメイン集団を飛び出したセラム・アムハ(エチオピア)とモサナ・デベセイ(エリトリア)も、さらに遅れて飛び出したカタリナ・ソト(チリ)とアグアマリナ・エスピノラ(パラグアイ)も、先頭グループに追いつくことなく「道志みち」でメイン集団に吸収された。

逃げグループを形成した5名
アンナ・キーセンホーファー(オーストリア)
オメル・シャピーラ(イスラエル)
アンナ・プリフタ(ポーランド)
カーラ・オーバーホルツァー(南アフリカ)
ヴェラ・ルーザー(ナミビア)

大國魂神社の境内を走る大國魂神社の境内を走る photo:CorVos
逃げ続けるアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)ら逃げ続けるアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)ら photo:CorVos
相模原を駆け抜けて「道志みち」へ相模原を駆け抜けて「道志みち」へ photo:CorVos
「道志みち」の登りで先頭からオーバーホルツァーとルーザーが脱落した一方で、メイン集団はオランダとドイツのコントロール下に置かれた。前日にゲラント・トーマス(イギリス)が落車したのと同じコーナーで優勝候補の一角アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が落車するトラブルに見舞われたものの大怪我にはつながらず、いよいよオランダはそこから攻撃を開始する。

フィニッシュまで61kmを残して、そして「道志みち」の勾配が増したところでデミ・フォレリング(オランダ)が最初のアタックを仕掛け、フォレリングが吸収されるとファンフルーテンが、ファンフルーテンが吸収されるとマリアンヌ・フォス(オランダ)が、そしてフォスが吸収されるとアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ)が立て続けにアタック。いずれの動きもメイン集団を割るには至らず、「道志みち」の頂上まで1kmほどを残したところでようやくファンフルーテンが単独で抜け出すことに成功した。

先頭3名(キーセンホーファー、シャピーラ、プリフタ)から5分45秒でファンフルーテン、6分30秒遅れで20名ほどに絞られたメイン集団が「道志みち」をクリアして山中湖へ。與那嶺恵理(チームティブコSVB) はメイン集団内で登りをクリアし、脱落した金子広美(イナーメ信濃山形)を含む多くの選手がその後の平坦区間でメイン集団に復帰している。

「道志みち」でメイン集団から飛び出したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)「道志みち」でメイン集団から飛び出したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ) photo:So Isobe
集団内で「道志みち」をクリアするマリアンヌ・フォス(オランダ)や與那嶺恵理(チームティブコSVB) 集団内で「道志みち」をクリアするマリアンヌ・フォス(オランダ)や與那嶺恵理(チームティブコSVB) photo:So Isobe
登りで遅れた金子広美(イナーメ信濃山形)が集団復帰を目指す登りで遅れた金子広美(イナーメ信濃山形)が集団復帰を目指す photo:So Isobe
ファンフルーテンの後方で40名ほどに人数を増やしたメイン集団はペースが上がらなかった。籠坂峠(全長1.3km/平均5.0%)に差し掛かると逃げグループはキーセンホーファーのアタックをきっかけに崩壊。シャピーラとプリフタを振り切ったキーセンホーファーがフィニッシュまで41kmを残して単独先頭に立つ。並走するモーターバイクに何度も前後のタイム差を確認するファンフルーテンが5分遅れ、メイン集団が6分遅れで籠坂峠の下り区間に突入した。

登り返しでのアタックでセレクションがかかり(金子が脱落)、ファンフルーテンを吸収したメイン集団(與那嶺を含む)が富士スピードウェイへ。登り区間でのアシュリー・モールマン(南アフリカ)のアタックは不発に終わり、下り区間でジュリエット・ラボー(フランス)だけが抜け出しに成功する。

フィニッシュまで17.7kmを残して、先頭で独走を続けるキーセンホーファーは追走2名(シャピーラとプリフタ)に2分13秒、追走1名(ラボー)に4分、メイン集団に4分18秒差をつけて最終周回の鐘を聞く。残り距離とタイム差的にメイン集団の選手たちによる金メダル獲得はほぼ不可能な展開となったが、逃げの人数とタイム差を的確に把握していなかったことが仇となり、メンバー4名を残していたオランダチームは逃げ吸収ではなく集団内の勝負に傾倒してしまう。

抜け出していたラボーを吸収したメイン集団は最後の富士スピードウェイへ。この日数え切れないほどアタックしていたファンフルーテンが残り6km地点から始まる登りで飛び出し、序盤から逃げていたシャピーラとプリフタを吸収する。ここでオランダチームはすべての逃げを吸収したと判断したが、その2分前方ではキーセンホーファーが勝利に向かって独走を続けていた。

メイン集団から抜け出したファンフルーテンと、遅れて追撃モードに入ったエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)がそれぞれ2番手と3番手で残り1kmアーチ。タイム差は縮小を続けたものの、是政橋で見送ったキーセンホーファーの背中は最後まで見えなかった。初出場の五輪ロードレースでファーストアタックを仕掛けたキーセンホーファーが、ラスト41kmを独走し、単独でフィニッシュまで逃げ切った。

メイン集団のペースを上げるアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)メイン集団のペースを上げるアネミエク・ファンフルーテン(オランダ) photo:CorVos
残り41km地点で独走に持ち込んだアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)残り41km地点で独走に持ち込んだアンナ・キーセンホーファー(オーストリア) photo:CorVos
独走でフィニッシュするアンナ・キーセンホーファー(オーストリア)独走でフィニッシュするアンナ・キーセンホーファー(オーストリア) photo:CorVos
1991年生まれの30歳で、かつてロット・スーダルに所属していたキーセンホーファーが大金星。オーストリアにとっては2004年以来の夏季五輪金メダル獲得となる。キーセンホーファーは3年連続でオーストリア選手権の個人タイムトライアルを制しているが、今シーズンはどのチームに所属せずにアマチュア選手として活動を続けていた。なお、数学の研究者であるキーセンホーファーはケンブリッジ大学で修士号を、カタルーニャ工科大学で博士号を取得。偏微分方程式を研究するポスドク研究員である。

優勝したと勘違いしたファンフルーテンは1分15秒遅れでフィニッシュし、1分29秒遅れでロンゴボルギーニが続く。「勝ったと思った」というファンフルーテンは五輪で初のメダル獲得。ロンゴボルギーニはリオ五輪に続く2大会連続の銅メダル獲得となった。最もボリュームのあるメイン集団は1分46秒遅れ、そして與那嶺が2分28秒遅れの21位、金子が8分23秒遅れの43位でレースを終えている。

2位のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が両手をあげる2位のアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が両手をあげる photo:CorVos
銀アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)、金アンナ・キーセンホーファー(オーストリア)、銅エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)銀アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)、金アンナ・キーセンホーファー(オーストリア)、銅エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア) photo:CorVos
東京2020オリンピック 女子ロードレース結果
1位 アンナ・キーセンホーファー(オーストリア) 3:52:45
2位 アネミエク・ファンフルーテン(オランダ) 0:01:15
3位 エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア) 0:01:29
4位 ロッテ・コペッキー(ベルギー) 0:01:39
5位 マリアンヌ・フォス(オランダ) 0:01:46
6位 リサ・ブレナウアー(ドイツ)
7位 コリン・リヴェラ(アメリカ)
8位 マルタ・カヴァッリ(イタリア)
9位 オルガ・ザベリンスカヤ(ウズベキスタン)
10位 セシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク)
21位 與那嶺恵理(チームティブコSVB) 0:02:28
43位 金子広美(イナーメ信濃山形) 0:08:23
text:Kei Tsuji
photo:CorVos

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