終盤の2級山岳シュク・オ・メイで独走に持ち込み、強力な追走グループを振り切ったマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)。今大会2回惜しいところでステージ優勝を逃していた22歳が、ツール・ド・フランス第12ステージで念願のプロ初勝利を飾った。



イネオスの新型車両グレナディアが登場イネオスの新型車両グレナディアが登場 photo:Kei Tsuji
9月10日(木)第12ステージ
ショヴィニー〜サラン
距離:218km
獲得標高差:3,400m
天候:晴れ
気温:24〜30度

カテゴリー山岳とスプリントポイント
51km地点 スプリントポイント
104.5km地点 4級山岳サンマルタン=テレシュ峠(距離1.5km・平均8.8%)
121.5km地点 4級山岳エイブールフ峠(距離2.8km・平均5.2%)
177.5km地点 3級山岳ラ・クロワ・デュ・ペイ峠(距離4.8km・平均6%)
192.5km地点 ボーナスポイント/2級山岳シュク・オ・メイ(距離3.8km・平均7.7%)

9月10日(木)第12ステージ ショヴィニー〜サラン 218km9月10日(木)第12ステージ ショヴィニー〜サラン 218km photo:A.S.O.9月10日(木)第12ステージ ショヴィニー〜サラン 218km9月10日(木)第12ステージ ショヴィニー〜サラン 218km photo:A.S.O.



平均スピード51.4km/hのハイスピードな幕開け

今大会最長の218kmコースには細かいアップダウンが詰め込まれている。しかも終盤にかけてアップダウンの上下量は大きくなり、登場するカテゴリー山岳の難易度も4級、4級、3級、2級と右肩上がり。とにかくアップダウンとワインディングの連続で、最も勾配のある最後の2級山岳シュク・オ・メイの頂上にはボーナスポイントが設定。人口275人の田舎町サランに至る逃げ切り向きのコースは逃げ屋の触手を刺激した。

ライアン・ギボンズ(南アフリカ、NTTプロサイクリング)やマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)のファーストアタックで幕開けた熾烈なアタック合戦。最初の1時間を平均スピード51.4km/hという猛烈なスピードで平坦路を駆け抜けた末に、合計6名の逃げグループが先行を開始した。

逃げグループを形成した6名
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)総合39分05秒遅れ
イマノル・エルビティ(スペイン、モビスター)
カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)
ニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(ドイツ、NTTプロサイクリング)
マチュー・ブルゴドー(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)

アタックを許さずに高速で進むメイン集団アタックを許さずに高速で進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
レース開始から1時間経ってもペースが落ちないレース開始から1時間経ってもペースが落ちない photo:Kei Tsuji
ようやく先行を始めたニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)らようやく先行を始めたニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)ら photo:Kei Tsuji
マイヨヴェールを着るサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)は51km地点のスプリントポイントを集団先頭通過して9ポイント獲得。追う立場のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は7ポイント獲得にとどまる。メイン集団の牽引を担ったのはユンボ・ヴィスマではなくボーラ・ハンスグローエ。前に選手を送り損ねたドイツチームが、逃げグループとのタイム差を3分以内に押さえ込んだ。

この日も総合3位ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が落車に巻き込まれたものの大事には至らず。第11ステージのニュートラル区間で落車して負傷したイルヌル・ザカリン(ロシア、CCCチーム)はリタイアを余儀なくされている。

ステージ後半に入り、徐々にコースの起伏が増すとCCCチームやサンウェブも集団牽引に参加。残り50kmを切ってアスグリーンとエルビティが飛び出すと逃げグループは崩壊し、3級山岳ラ・クロワ・デュ・ペイ峠でメイン集団から飛び出した強力なグループが先頭に立った。

ボーラ・ハンスグローエがメイン集団の牽引を続けるボーラ・ハンスグローエがメイン集団の牽引を続ける photo:Kei Tsuji
マイヨジョーヌのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)マイヨジョーヌのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:Kei Tsuji
リムーザン地域圏の田舎町を駆け抜けるリムーザン地域圏の田舎町を駆け抜ける photo:Kei Tsuji


2級山岳シュク・オ・メイでヒルシが独走に持ち込む

マイヨヴェールのベネットを含めてピュアスプリンターたちが軒並み遅れる中、3級山岳ラ・クロワ・デュ・ペイ峠でマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)、セーアン・クラーウアナスン(デンマーク、サンウェブ)、ティシュ・ベノート (ベルギー、サンウェブ)、マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)、カンタン・パシェ(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)、マルク・ソレル(スペイン、モビスター)の先行が始まる。

そこから独走に持ち込んだソレルを追走し、最後の2級山岳シュク・オ・メイで先頭を奪ったのはヒルシ。2〜3%の緩斜面と15%ほどの急勾配が交互にやってくるこの2級山岳でヒルシはむしろリードを広げる走りを見せ、追走するソレルとシャフマンに18秒差をつけて2級山岳をクリアした。

独走で2級山岳シュク・オ・メイをクリアするマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)独走で2級山岳シュク・オ・メイをクリアするマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
2級山岳シュク・オ・メイでヒルシを追うマルク・ソレル(スペイン、モビスター)とマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)2級山岳シュク・オ・メイでヒルシを追うマルク・ソレル(スペイン、モビスター)とマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
ドリス・デヴェナインス(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)が牽引する追走グループドリス・デヴェナインス(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)が牽引する追走グループ photo:Kei Tsuji
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)率いるメイン集団ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)率いるメイン集団 photo:Kei Tsuji
メイン集団からはジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が飛び出して追走グループに合流したものの、2級山岳通過の時点で先頭ヒルシから40秒遅れ。約10名で構成された追走グループは前のソレルとシャフマンを飲み込んだが、巧みな下りテクニックでペースを維持したヒルシは40秒リードのまま残り10kmを迎える。

ペースの上がらない追走グループからアラフィリップが数回カウンターアタックを試みたが成功せず、ヒルシは47秒のリードを保ったままサランのフィニッシュに飛び込んだ。ステージ2位にはピエール・ロラン(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)、ステージ3位にはクラーウアナスンが入っている。2分30秒遅れのメイン集団はサガンを先頭にフィニッシュ。4ポイントを獲得したサガンはベネットに対して差し引き2ポイントの挽回に成功している。

フィニッシュに向かって独走するマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)フィニッシュに向かって独走するマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
息を切らすことなく登りをクリアするマイヨジョーヌのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)息を切らすことなく登りをクリアするマイヨジョーヌのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:Kei Tsuji
独走勝利したマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)独走勝利したマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:Luca Bettini
集団先頭でフィニッシュするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)集団先頭でフィニッシュするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Luca Bettini


3回目の正直、ヒルシがプロ初勝利

「2回も惜しいところでステージ優勝を逃していたから、今回も勝てないんじゃないかと思った。この感情を表現することができないし、言葉が出てこない。フィニッシュするまでステージ優勝を信じることができなかった」。第2ステージでアラフィリップらと逃げて2位、そしてピレネー山脈を走る第3ステージでは残り2kmで捕らえられて3位を経験していた22歳のヒルシがプロ初勝利を射止めた。

2018年ロード世界選手権U23ロードレースで優勝し、2019年にサンウェブ入りするとともにクラシカ・サンセバスティアン3位、ビンクバンクツアー総合5位、ドイツツアー総合6位という成績を残しているヒルシ。「ツール・ド・フランスでプロ初勝利を飾るという、信じられないことを果たした。でもピレネーでの敗北でステージ優勝に向けて自信を得たという面もある。あの敗北がなければこうして独走に挑戦することはなかった。敗北が力を与えてくれた。本当に夢のようだ」とコメントしている。

翌日の第13ステージは中央山塊を走る獲得標高差4,400mの難関山岳ステージ。最後は1級山岳ピュイマリーの山頂フィニッシュが設定されている。

3度目の逃げでようやくステージ優勝を果たしたマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ)3度目の逃げでようやくステージ優勝を果たしたマルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) photo:Luca Bettini

デイリーハイライト: J SPORTSでツール・ド・フランス全21ステージ独占生中継

ツール・ド・フランス2020 第12ステージ結果
1位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) 5:08:49
2位 ピエール・ロラン(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト) 0:00:47
3位 セーアン・クラーウアナスン(デンマーク、サンウェブ) 0:00:52
4位 カンタン・パシェ(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)
5位 ヘスス・エラダ(スペイン、コフィディス)
6位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
7位 ユーゴ・ウル(カナダ、アスタナ)
8位 セバスティアン・ライヒェンバッハ(スイス、グルパマFDJ)
9位 ケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード) 0:00:56
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サンウェブ)
11位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:01:48
12位 マルク・ソレル(スペイン、モビスター) 0:02:05
13位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 0:02:30
DNF イルヌル・ザカリン(ロシア、CCCチーム)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 51:26:43
2位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:21
3位 ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) 0:00:28
4位 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) 0:00:30
5位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) 0:00:32
6位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFプロサイクリング)
7位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 0:00:44
8位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:01:02
9位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) 0:01:15
10位 ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン) 0:01:42
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) 252pts
2位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 186pts
3位 ブライアン・コカール(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト) 162pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール) 36pts
2位 ナンズ・ピーターズ(フランス、アージェードゥーゼール) 31pts
3位 マルク・ヒルシ(スイス、サンウェブ) 31pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) 51:27:04
2位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 0:00:23
3位 エンリク・マス(スペイン、モビスター) 0:01:41
チーム総合成績
1位 モビスター 154:26:36
2位 トレック・セガフレード 0:04:18
3位 EFプロサイクリング 0:05:37
text:Kei Tsuji

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