平坦基調の230kmで争われたジロ・デ・イタリア第10ステージは予想通りスプリンターたちのバトルが繰り広げられ、タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)がジロ2勝目をマークした。

第10ステージはアヴェリーノの街をスタート第10ステージはアヴェリーノの街をスタート photo:Riccardo Scanferla

観客が詰めかけた街を駆け抜ける3名の逃げグループ観客が詰めかけた街を駆け抜ける3名の逃げグループ photo:Riccardo Scanferla今ジロでイタリア最南端を通過するステージ。アヴェッリーノ~ビトント間の230kmという長距離には、3級の山岳がひとつしか設定されない。レース序盤にはやや起伏があるが、後半はまったくの平坦。当然ゴール勝負を得意とするスプリンターたちにおあつらえ向きのステージだ。

今ジロの今までの平坦ステージでは逃げによってチャンスが潰されてきたため、スプリント狙いの選手たちにとっては数少なくなったチャンスを生かしたいところだ。もちろん逃げを狙う選手にとっても大事なステージ。一方で、マリアローザ争いの選手たちはリスクを避けて休息に充てたい日でもある。


緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう photo:Kei Tsujiジロがイタリア入りして以来初めての完全な快晴。230kmの長丁場に182名の選手がスタートしていくと、直後からアタック合戦が始まる。

そして8km地点でこの日の大半を決める3人の逃げが決まった。メンバーはシャールズ・ウェゲリュース(イギリス、オメガファーマ・ロット)、ユベール・デュポン(フランス、アージェードゥーゼル)、ダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)だ。

メイン集団は完全にこの3人を容認した状態で、集団とのタイム差は36km地点で7分50秒差に広がる。最初の1時間の平均速度は35.5km/hという、今までにない平穏なステージの始まりだ。

逃げグループを牽くシャールズ・ウェゲリュース(イギリス、オメガファーマ・ロット)逃げグループを牽くシャールズ・ウェゲリュース(イギリス、オメガファーマ・ロット) photo:Riccardo Scanferlaスタート2時間目、レースの平均速度は39.3km/hに上がり、タイム差は4分50秒に縮小する。逃げ切られてしまったさきの2つのステージの悔いを繰り返さないために、チームスカイらが差が広がりすぎないようにコントロールしている。

この日唯一の3級山岳ヴァリコ・デッリバンディーナ(92km地点)をウェゲリュース、デュポン、カタルドの順で通過。

ゴールまで残り残り75kmから徐々にペースが上がり、45地点にかけて逃げ集団とメイン集団のは差は1分前後に縮まる。ゴールスプリントを狙うチームHTCコロンビア、チームスカイ、ガーミン・トランジションズらが集団先頭を占める。


集団後方に控える新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)集団後方に控える新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji残り44km地点で落車が発生。マルティン・ペデルセン(デンマーク、フットオン・セルヴェット)、イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム)の2人が集団内で激しく落車。しかし大事には至らず、ほどなく集団に吸収される。

残り40kmから逃げる3人も再びペースアップを図り抵抗を試みるが、残り16.8km地点において集団に吸収される。

迫るゴールに向けてペースの上がる集団。位置取り争いが激しくなり、残り14km地点で集団内前方で落車が発生!これにはチームスカイのグレッグ・ヘンダーソンと第3ステージで勝利を挙げたワウテル・ウェイラント(クイックステップ) の、2チームのエーススプリンターが点灯し、この重要なポイントで後退を余儀なくされた。

チームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰めるチームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰める photo:Kei Tsuji残り12kmからチームHTCコロンビアの列車とカーミン・トランジションズの列車が競いあうようにスピードを上げる。出遅れたチームスカイは残り8kmになってようやくヘンダーソンがメイン集団に追いつくことができた。そして、残り6kmで2つの列車の争いにスカイ列車が加わる。

残り3kmからはランプレ、リクイガス・ドイモ、BMC、スカイ、コロンビアらが位置取りを争う混戦の様相を呈する。
そして残り1kmを割ってマッテーオ・トザット(イタリア、クイックステップ)がアタックし、2番手につけたのは新城幸也だった。
チームメイトのスプリンター、ウィリアム・ボネ(フランス)のアシストという仕事を請け負っていた新城だったが、肝心のボネは上がってこれず、ここで自らのゴール狙いに切り替えた。

マリアローザのアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)擁するアスタナは常に集団前方マリアローザのアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)擁するアスタナは常に集団前方 photo:Riccardo Scanferlaしかし、スピードがマックスまで上がるこの集団から抜け出すのは不可能だった。ガーミンが最終的に支配しながらラスト1kmへ突入。キウィ(ニュージーランド出身)の名アシスト、ジュリアン・ディーンの牽引からラスト100mで解き放たれたタイラー・ファラーが余裕でフィニッシュラインを駆け抜けた。

ファラーは第2ステージに続く2勝目。スプリンターとしてこのジロでの最高の仕上がりを見せていることをアピールした。

ファラーを牽引したディーンは自らも3位に入り、アシストとして卓越したスピードがあることを実証。2位には追い上げたファビオ・サバティーニ(イタリア、リクイガス・ドイモ)が入った。ファラーは勝利記者会見でこの日はディーンに勝たせようとしたことを明かしている。
先頭でスプリントするタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)先頭でスプリントするタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Kei Tsuji
新城は後方にボネを探すような仕草で最後飲み込まれてしまったが、集団前方34位でゴールした。

ファラーは言う。
「僕にはリードアウトしてくれる世界最強のチームがある。だから楽に勝てるんだ。チームメイトたちには自信があるよ。
最後の数キロは道幅が狭くて曲がりくねっていたからとても危険だった。でも最後の瞬間まで最高の位置につけることができた。

今日のような少し上ったコースでのフィニッシュは僕にとって完璧だ。いや、僕じゃない。今日はディーンが最高の動きラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した)ラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した) photo:Kei Tsujiをしたから、彼に最期まで行かせようと思ったんだ。でもサバティーニがきたから僕が行ったんだ」。

総合争いの選手たちにとってはこのジロで初めての安静なステージとなった。



ジロ・デ・イタリア2010第10ステージ結果
1位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)     5h49'14"
2位 ファビオ・サバティーニ(イタリア、リクイガス・ドイモ)
3位 ジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン・トランジションズ)
感無量といった表情で表彰台に上がるタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)感無量といった表情で表彰台に上がるタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) photo:Kei Tsuji4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)
5位 ロベルト・フェルスター(ドイツ、チームミルラム)
6位 セバスチャン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
7位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTCコロンビア)
8位 ダニーロ・ホンド(ドイツ、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)


個人総合成績
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)   38h05'00"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)      +1'12"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       +1'33"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)            +1'51"
5位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTCコロンビア)      +2'17"
6位 リッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)        +2'26"
7位 ウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)        +2'34"
8位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)   +2'47"


ポイント賞 マリアロッサ
タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)

山岳賞 マリアヴェルデ
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)

新人賞 マリアビアンカ
リッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)

チーム総合成績
リクイガス・ドイモ

敢闘賞
タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)

フーガ(逃げ)賞
シャールズ・ウェゲリュース(イギリス、オメガファーマ・ロット)


text:Makoto.AYANO
photo:Kei.Tsuji,CorVos