泥々の、まさに泥試合。超マッドコンディションのシクロクロスW杯第6戦ナミュールで、トーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)との激しいシーソーゲームをマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)が制した。女子はオランダ王者ルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)が勝利している。



一騎打ちを繰り広げるトーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)とマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)一騎打ちを繰り広げるトーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)とマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) (c)CorVos
クリスマス休暇を挟むことなくフルスロットルで進行中のヨーロッパシクロクロスカレンダー。後半戦に入ったUCIシクロクロスワールドカップ第6戦が、ベルギーはワロン地方のナミュール城塞にて催された。

ただでさえメインストレートの長い登り、絶え間なく高低差の大きなアップダウン、斜面を横切る長いオフキャンバー、担ぎセクションが目まぐるしく現れる難コースだが、この日は前日からの雨によってディープマッドコンディションに。コースの至る所には深い泥だまりが生まれ、選手たちは超スリッピーなライン上で泥試合を繰り広げた。

全米選手権を終えたアメリカ勢や、ヨーロッパ各国の選手も加わった国際色豊かな60分間の男子エリートレース。好スタートを切ったのはテレネット・バロワーズ勢で、コルヌ・ファンケッセル(オランダ)以下3名が先行し、ここに前日のDVVトロフェーで勝利したばかりのマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)やランキングリーダーのU23世界王者エリ・イゼルビッド(ベルギー、パウェルズサウゼン・ビンゴール)らが数珠繋ぎに続いた。

先頭2人がわずか1本のラインが用意されたキャンバーセクションに差し掛かる先頭2人がわずか1本のラインが用意されたキャンバーセクションに差し掛かる (c)CorVos
テクニカルな泥の下りを走るマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)テクニカルな泥の下りを走るマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) (c)CorVos
やがて主導権を握ったのは、ここまで圧倒的な勝利数を並べるファンデルポールと、同じく超マッドコンディションのDVVトロフェー第4戦でファンデルポールに黒星を付けたトーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)。パワフルかつ圧倒的なテクニックで飛ばす2人は、1周目を終える頃にはライバル勢を置き去りにし、ランデブー状態を築き上げる。3番手にはテクニックに秀でるイギリス王者トーマス・ピッドコック(トリニティレーシング)が、4番手にはコルヌ・ファンケッセル(オランダ、テレネット・バロワーズ)が続いた。

レース2周目には「対策はしていたにも関わらず2周目には完全に低体温症になってしまった。何がいけなかったのかすら分からない」と突然の体調不良に見舞われたイゼルビッドが途中棄権。前フランス王者スティーブ・シェネル(シャザル・キャニオン・3G IMMO)やマチューの兄デーヴィッドもリタイアを強いられる過酷なレースが続いた。

おそらくこの日、最もスムーズな走りを披露したのはアールツだった。調整期間を終えた上り調子のベルギー王者は泥々のナミュールのコース上で飛ぶように走りプレッシャーを与え続けていく。その背後でファンデルポールは何度かミスを出し、その度に脚を使って追いついていく。6周目の下り区間ではファンデルポールが後輪を大きく滑らせて後退するも、直後のドロップオフでアールツが落車。その直後にはキャンバー区間をスムーズにこなしたファンデルポールがリードを奪い、その直後にファンデルポールのピットイン時にアールツがアタックするなど、ワンミスが命取りとなるシーソーゲームが展開された。

歓喜の表情でフィニッシュするマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)歓喜の表情でフィニッシュするマチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) (c)CorVos
落胆の表情を隠せないトーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)落胆の表情を隠せないトーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ) (c)CorVos最終盤の落車で表彰台圏外に落ちたトーマス・ピッドコック(イギリス、トリニティレーシング)最終盤の落車で表彰台圏外に落ちたトーマス・ピッドコック(イギリス、トリニティレーシング) (c)CorVos

2位トーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)、1位マチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)	、3位コルヌ・ファンケッセル(オランダ、テレネット・バロワーズ)	2位トーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ)、1位マチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) 、3位コルヌ・ファンケッセル(オランダ、テレネット・バロワーズ) (c)CorVos
すると全9周回中の7周目には、長い舗装登りでアールツがアタック。表情に影を落とすファンデルポールは追従できず、首を振りながら遅れてしまう。20秒以上のリードを得たアールツが試合を決めるかと思われたが、今度はアールツが高低差のある泥のドロップオフで落車してしまう。この隙にファンデルポールが復活し、勝負は再度振り出しに戻された。

誰もが固唾を飲む最終周回を優位に運んだのはファンデルポールだった。ペースを上げてライバルのアタックを封じ込めると、2番手のアールツはコーナーでミス。そこで生まれた差を詰めたベルギー王者だったが、続く木の根が露出した下り区間で前輪のグリップを失いクラッシュしてしまう。精神的にも崩れたアールツは数秒間起き上がることができず、ここで勝負が決した。

残る区間を走り切ったファンデルポールは、余裕で制してきたこれまでのレースとは違う歓喜の表情でガッツポーズ。落胆しきったアールツは55秒遅れてフィニッシュラインを切り、3番手にはアールツと同じ場所で激しく落車したピッドコックを交わしたファンケッセルが入った。



同じく悪コンディションの中開催された女子レースでも熾烈な泥レースが展開された。

85名がスタートした女子レース。好調オランダ勢がスタートからリードを奪った85名がスタートした女子レース。好調オランダ勢がスタートからリードを奪った (c)CorVos
序盤から好調セイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ、コレンドン・サーカス)が飛ばし、アンマリー・ワースト(オランダ、777)、オランダ王者ルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)、U23ランキングリーダーのアンナ・カイ(イギリス、エクスペルサ・プロCX)ら今季好成績を重ねている面々が続く。

いまひとつ調子を上げきれない世界王者サンヌ・カント(ベルギー、IKO・コレンドン)は全米選手権連覇記録が15でストップしたケイティ・コンプトン(アメリカ、トレック・ナイトコンポジット)らと共に10番手前後を走行。後方からはスタートポジションの悪い元世界王者マリアンヌ・フォス(オランダ、CCC・リブ)が圧倒的な走りで追い上げたが、最終的にレース先頭まで届くことはなかった。

安定した走りでリードを築いたルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)安定した走りでリードを築いたルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ) (c)CorVos
後方から追い上げたマリアンヌ・フォス(オランダ、CCC・リブ)は9位フィニッシュ後方から追い上げたマリアンヌ・フォス(オランダ、CCC・リブ)は9位フィニッシュ (c)CorVos
優勝を射止めたルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)優勝を射止めたルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ) (c)CorVos
先頭ではブラントとアルバラードが激しい一騎打ちを展開し、全5周回中の3周目には下りのテクニックに分があるブラントが抜け出す。「レース前日に会場入りして(チーム監督の)スヴェン・ネイスと重ねた予習が上手くいった」と語るブラントは最速ラインを駆け抜け、そのまま独走勝利を飾った。

2位セイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ、コレンドン・サーカス)、1位ルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)、3位アンマリー・ワースト(オランダ、777)2位セイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ、コレンドン・サーカス)、1位ルシンダ・ブラント(オランダ、テレネット・バロワーズ)、3位アンマリー・ワースト(オランダ、777) (c)CorVos
男子エリート結果
1位 マチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス) 1:05:59
2位 トーン・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ) 0:55
3位 コルヌ・ファンケッセル(オランダ、テレネット・バロワーズ) 1:14
4位 トーマス・ピッドコック(イギリス、トリニティレーシング) 1:41
5位 ティム・メルリエ(ベルギー、クレアフィン・フリスタッズ) 1:48
6位 ラース・ファンデルハール(オランダ、テレネット・バロワーズ) 1:56
7位 マイケル・ファントーレンハウト(ベルギー、パウェルズサウゼン・ビンゴール) 1:56
8位 マルセル・マイセン(ドイツ、コレンドン・サーカス) 2:02
9位 ローレンス・スウィーク(ベルギー、パウェルズサウゼン・ビンゴール) 2:23
10位 タイス・アールツ(ベルギー、テレネット・バロワーズ) 3:11
女子レース結果
text:So.Isobe
photo:CorVos