アンカー RFX8 Eliteアンカー RFX8 Elite (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

2010年のアンカーのフルカーボンバイクは、新たにフルオーダーの「RMZ」が加わったことでラインナップがますます充実した。その中でもこの「RFX8」はロングライドからヒルクライムまでこなせる軽量ラグジュアリーモデルという位置づけだ。

「RMZ」と「RHM9」はバリバリのレーシングバイクだが、RFX8はロングライドやヒルクライムなど様々なシーンで使うことを念頭において設計されたモデルであり、一般ユーザー寄りの仕上がりといえる。とはいえ軟弱なバイクというわけではなく、09モデルからRHM9 RSと同様のリブ加工の入ったフロントフォークを採用したり、ヘッドまわりの剛性感を高める「ドラゴンクローヘッド」を採用したりと、年々力強さを増している印象だ。

特徴的なドラゴンクローヘッド特徴的なドラゴンクローヘッド リアエンドの造形も美しいリアエンドの造形も美しい


また、RFX8はその軽量性から、ヒルクライム用としても人気が高い。ブリヂストン・アンカーの選手でさえ、ヒルクライムではRFX8をチョイスすることがあるくらいなので、その実力は折り紙付きであるといえるだろう。

フレームの形状で真っ先に目に飛び込んでくるのは、もはやアンカーのアイデンティティともいうべき「ドラゴンクローヘッド」であるが、もちろんこれは単なる装飾ではない。ドラゴンの爪のような特徴的な形状をした4本の突起がヘッドチューブに巻き付くことにより、断面形状にボリュームをもたせ、ヘッドまわりの剛性アップに大きく貢献している。

メインチューブは菱形断面を採用メインチューブは菱形断面を採用 フォークはRHM9と共通だフォークはRHM9と共通だ シートステーはベントして振動吸収性アップに貢献しているシートステーはベントして振動吸収性アップに貢献している


このドラゴンクローヘッドの採用により、ダンシング時のねじれを抑えるとともに、直進性の向上、制動力のアップなど、さまざまな恩恵を得ているのだ。

メインチューブにもさまざまな工夫が施されている。菱形断面形状を採用することにより横剛性を高め、さらにチューブ断面積を縮小して薄肉化を可能にしている。それによって、剛性アップと軽量化を同時に実現しているという。

ボトムブラケットまわりにはスクエア断面形状を採用し、ここでも剛性アップを実現している。力強い前三角に対してシートステイは細身の形状を採用することで、振動吸収性能を向上させる工夫を施している。

チェーンステーの根本はスクエア断面で剛性アップを計っているチェーンステーの根本はスクエア断面で剛性アップを計っている アンカーオリジナルの日東製ステムとハンドルバーアンカーオリジナルの日東製ステムとハンドルバー


一般ライダー向けに各部をチューニングしたRFX8は、アンカーの発表では「レーシングスペックRHM9 RSの20%剛性ダウン」に設定されているということだ。これらの剛性調整によってしなやかでありつつも、ダンシング時にリズムに乗りやすいという特性を実現しているという。

またアンカーのロードバイクは、完成車といえどもハンドル幅やステム長など、さまざまなパーツを選択することが可能だ。オプションでコンパクトクランクやホイールのグレードアップなどにも対応しているので、完成車で自分好みの一台に仕立てることもできる。

シートチューブに入るRFX8のロゴシートチューブに入るRFX8のロゴ 流麗な形状をみせるモノステー流麗な形状をみせるモノステー トップチューブとダウンチューブに入るアンカーのロゴトップチューブとダウンチューブに入るアンカーのロゴ


さて、この魅力溢れるRFX8を、インプレライダーはどう評価したのだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう!




―インプレッション


「基本性能が高く、長く乗って飽きないバイクだ」 戸津井 俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「基本性能が高く、長く乗って飽きないバイクだ」戸津井 俊介「基本性能が高く、長く乗って飽きないバイクだ」戸津井 俊介 踏み出した時の感覚は、「粘りのあるバイクだな」という感じだった。近年のカンカンするような硬さのバイクと比べると、ずっと優しい印象だ。

加速感はなかなか気持ちが良い。踏力をフレームが穏やかに受け止め、一瞬力を溜めた後にグッと加速していく。パワーのある競技者には少しもの足りないかもしれないが、一般ライダーにはとても好感のもてる乗り味だ。

上りはとても軽快だ。車体そのものの軽さもさることながら、ペダリングのリズムとフレームのしなりが上手くシンクロしてくれて、とても気持ちよく上っていけるのだ。ヒルクライム用として選ばれる理由もよくわかる。

ハンドリングはニュートラルだ。「攻めるバイク」という印象ではなく、カラダ全体で曲がるバイクという雰囲気だ。限界がとてもわかりやすいのだ。これは初心者や中級者用として、とても大切なこと。こういうバイクに乗ると、ロードバイクのスキルがぐんぐん身に付いていくだろう。とにかく、バランスの良いバイクだ。

振動吸収性はとても良い。路面の細かな凹凸からくる不快な振動が見事に吸収され、何ら神経を使うことなく快適なライディングができる。ロングライドで使った時、ガチガチのレーシングバイクと比べると、疲労度がかなり違ってくるだろう。

アッセンブルされているパーツにも神経が行き届いている。特に気に入ったのが、アンカーオリジナルの日東製ハンドルバーだ。近年流行のアナトミックシャロー形状なのだが、上ハンを握った時はブラケットとのつながりが良いし、下ハンを握った時にはアナトミックのように握る角度が決められず、自分の好きなポジションを取ることができる。さらにブレーキレバーとの距離も近いので、小さな手の人にもオススメできる。とてもよく考えられた形状だと思う。

とにかく、バイク全体にレーシングチームからのフィードバックがとてもよく活きていると思う。アンカーのラインナップの中ではRMZ、RHM9に次ぐ位置にあるが、安っぽさがまったく感じられない。実際、上位モデルとの差は仕上げなどではなく、単に使用用途の違いだけだ。そういった意味で、とてもお買い得感の高いバイクであるともいえるだろう。

オススメしたいのは、やはりロングライドやヒルクライムで使いたいというユーザーだ。突出した特徴はないものの、とにかく平均点の高いバイクだから、決して買って後悔することはない。基本性能が高く、落ち着いた仕上がりなので、長く乗って飽きないだろう。



「グッドバランスが光るロングライドバイク」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


「グッドバランスが光るロングライドバイク」仲沢 隆「グッドバランスが光るロングライドバイク」仲沢 隆 非常にバランスの良いバイクだ。踏み出しの軽さ、加速感、上りや下りの性能、振動吸収性など、どれもハイレベルにまとめられていて、気になる部分がないのである。「特徴がなくてつまらないバイク」なんて評する人もいるようだが、そんな減らず口をたたく人は無視しよう。とても良くできたバイクである。

実際、レーシング性能だけでなく、週末のロングライドや街乗り、通勤でも使えるようなオールマイティな性能を与えることが設計者の意図であると思われるから、そういった点でRFX8は見事にその目的を実現しているといえる。

最近の高剛性バイクなどと比較すると、踏み出しの鮮烈さはない。だが、ボトムブラケット付近が適度にウィップする感覚は、まるで上質なスチールバイクのようで実に気持ちがよい。

加速感も同様で、ウィップのリズムとペダリングのリズムが合うと、グイグイと進んでいく。上りもリズムに乗ると実に気持ちがよい。忘れかけていた、昔ながらのスチールバイクの乗り味だ。

コーナリングでは、思い通りのラインで曲がることができる。ニュートラルなハンドリングなので、下りのハイスピードコーナーでも何ら緊張感を強いられることはない。操る楽しさを感じられるバイクだ。

振動吸収性には二重マルを与えたい。現代のフルカーボンバイクとしての節度ある剛性感を実現しつつ、見事なまでの振動吸収性を与えているのだ。もちろん、これはロングライドで最大の武器になる。長時間乗った時の疲労度がまるで違ってくるだろう。

また、この振動吸収性の高さは、路面の状況によっては、ガチガチのレーシングバイクよりもこのRFX8を「速いバイク」へと変身させてくれる。荒れた路面では往々にして高剛性バイクは走らないものだが、このRFX8ならパリ〜ルーベクラスの悪路でもスイスイと走りきってしまうだろう。

インプレでは1時間程度しか乗ることができなかったが、ロングライドで丸一日乗るようなシチュエーションでは最強の一台になること間違いなしだ。フレームの作りにも一切の手抜きがなく、高級感に溢れているので、初級者や中級者だけでなく、様々なバイクに乗り継いだ年輩のライダーにもオススメしたい。

昨年までのRFX8で唯一残念だったのは、サイズが510mmまでしかなかったことだ。しかし、2010モデルから540mmサイズが追加され、大柄なライダーでもRFX8に乗れるようになった。こういう地道な努力を怠らない部分も、アンカーの大きな魅力だ。




アンカー RFX8 Eliteアンカー RFX8 Elite (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アンカー RFX8
フレーム:3ピースカーボン インテグラルヘッド
フォーク:HMカーボンモノコック オーバーサイズ
メインコンポ:シマノ・アルテグラ
ホイール:シマノ・アルテグラWH-6700
タイヤ:ブリヂストン・エクステンザRR-1 700×23C
ハンドルバー:アンカー日東・M101S 31.8mm
ステム:アンカー日東・UI-21
サドル:セッレイタリア・XO-S.E.
カラー:レーシングカラー(3色からチョイス可能)、カラーオーダー可能
サイズ:420、450、480、510、540mm
フレーム重量:フレーム単体 1,000g(480mm)
完成車重量:7.8kg(480mm、ペダル付き)、7.5kg(480mm、ペダルなし)
希望小売価格(税込み):370,000円(シマノ・アルテグラ完成車)、170,000円(フレームセット)




インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。



text:Takashi.NAKAZAWA
photo&edit:Makoto.AYANO