カナダに拠点を置くレーシングバイクブランド、サーヴェロ。同社を代表するエアロモデル「S3」にディスクモデルが加わった。制動力という新たな武器を手に入れた人気モデルをインプレッション。



サーヴェロ S3 DISCサーヴェロ S3 DISC photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
現在では、ロードレーサーの中の一分野として、確固たる地位を築き上げたエアロロード。また、オールラウンド系の軽量バイクや、エンデュランスバイクにおいても、空力という要素は外せないものとなっており、フレームのどこかの設計においてエアロダイナミクスを意識している箇所が見受けられるバイクは多い。

より速く、より遠くへ。ロードバイクの至上命題ともいえるこの目標を達成するにあたって、高速になればなるほど立ち塞がる空気の壁との闘いが、いかに重要なものかが改めて浮き彫りにされているということでもある。

フォーククラウンのクリアランスがとられ、空力性能を向上させているというフォーククラウンのクリアランスがとられ、空力性能を向上させているという ワイヤー類はダウンチューブ側方から内蔵されるワイヤー類はダウンチューブ側方から内蔵される ベンドが強めになったフロントフォークベンドが強めになったフロントフォーク


隆盛するエアロロード市場だが、そこに新たな方向性をもたらす一台が登場した。そう、エアロロードのパイオニアであるサーヴェロが発表した新作、「S3 Disc」だ。ピュアレーシングブランドとして高い人気を誇る同社の中核をなす名車「S3」のディスクブレーキ仕様である。

ベースモデルとなった「S3」はサーヴェロの歴史の中でも重要な位置づけを持つモデル。2009年、エアロロードの祖ともいえるソロイストカーボンシリーズをブラッシュアップして生まれたSシリーズ。その最上級モデルとしてデビューしたのがS3である。

2010年には、ノルウェーのスプリンター、トル・フースホフトとともに世界選手権を制覇、ほかにもグランツールをはじめとした多くのビッグレースで戦績を残してきた。現在スポンサードを行うディメンションデータでは、さらなる上位モデルとして登場したS5を使用する選手が多いものの、タイラー・ファラー(アメリカ)はS3を愛用しているという。

シートクランプは内蔵されるシートクランプは内蔵される ヘッド付近にはサーヴェロの理念がプリントされるヘッド付近にはサーヴェロの理念がプリントされる


リアエンドからシフトワイヤーは出される仕様で、電動コンポにも対応するリアエンドからシフトワイヤーは出される仕様で、電動コンポにも対応する トップチューブ裏に大々的に入れられたS3ロゴトップチューブ裏に大々的に入れられたS3ロゴ


そんな栄光に満ちたS3に対し、サーヴェロはディスクブレーキという新たな武器を与えた。「A WORKHORSE UNLEASHED(解き放たれた馬車馬)」というキャッチコピーが示すように、高い運動性能とどんなバッドコンディションでも活躍するタフさを兼ね備えた究極の一台として、新たな魅力を手に入れた。

エアロダイナミクスの向上を使命とするエアロロ―ドと、前方投影面積の増大を招くと思われるディスクブレーキという組み合わせは意外かもしれない。それが、レースバイクの空力については権威であり、トライアスロンのトップレーサーの間では圧倒的なシェアを誇るサーヴェロが発表した、ということであればなおさらだ。

ただ、それは逆説的に言うならばディスクブレーキによるデメリットを帳消しにするような、あるいはむしろプラスにするほどのブレイクスルーが行われていたことの証明でもある。そして、実際にサーヴェロはS3 Discはノーマルモデルよりもさらなる空力の向上を果たしたとアナウンスしている。そう、リムブレーキ仕様に対して2%のパワーセーブを実現したと。

サーヴェロ独自規格であるBBrightを採用。剛性を9%向上させるというサーヴェロ独自規格であるBBrightを採用。剛性を9%向上させるという ブレーキ台座はもちろんフラットマウント、ローター径は160㎜だ。ブレーキ台座はもちろんフラットマウント、ローター径は160㎜だ。


その魔法のような設計の秘密はフォーククラウンにあるという。リムブレーキでは、取り付け寸法や強度の兼ね合いがあり、自由に設計することができなかったフォーククラウンを再設計したサーヴェロ。クラウンの股の位置を高くとり、タイヤからの距離を確保することで空気抵抗の原因となっていたフォーク後方の低圧域を軽減することに成功したという。このほかにも、ディスクブレーキ周辺の気流を最適化するために、フォークブレード間を拡幅したことや、フロントホイールとの相互作用を合わせた結果として、2%のパワーセーブを実現したのだ。

もちろん、ディスクブレーキ化にあたってキャリパー取り付け部及びフレームの剛性強化も行われている。先だってディスクブレーキモデルとしてデビューしていた「R3 Disc」で使用したデータをもとに、リアトライアングルを再設計。フロント、リアともに12㎜スルーアクスルを採用することで剛性を強化するとともに、ダイレクト感のあるハンドリングやブレーキング、ディスクローターのアライメント保持にも貢献している。

細身のシートステー サーヴェロバイクのもう一つのアイデンティティだ細身のシートステー サーヴェロバイクのもう一つのアイデンティティだ ヤグラ付近が板バネ状にされたシートポスト 快適性に貢献するヤグラ付近が板バネ状にされたシートポスト 快適性に貢献する 翼断面形状のダウンチューブ いかにもエアロバイクらしい翼断面形状のダウンチューブ いかにもエアロバイクらしい


また、ディスクブレーキのデメリットの一つである重量増加に対しても、サーヴェロは解決策を用意した。あらゆるカーボンレイアップから無駄な部分を徹底的に排除することで、40gの軽量化を実現。硬くなりがちな乗り味についても、フォークのベンドを強めることや、エアロポストのヤグラ部分を板バネ状にすることで突き上げを緩和している。

ディスクブレーキ化によってもたらされるといわれてきた多くのデメリットを覆し、メリットへと転じさせたサーヴェロ。より優れたエアロダイナミクスと重量、そしてディスクブレーキのコントローラブルな制動力と全天候性を併せ持つ最優のロードレーサーとしてデビューしたS3 Discを二人のインプレッションライダーはどう評価するのか。それではインプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「高性能な次世代のエアロロードバイク」山本朋貴(ストラーダバイシクルズ)

この車体はエアロフレームとは思えないほど乗り心地が良いバイクですね。登りもノーマルバイクと同じくらい登りますし、ハンドリングもニュートラルで、エアロバイクの重くて扱いづらいというデメリットが消し込まれています。エアロロードらしい空力性能ももちろんあるので、とてもバランスの良い仕上がりになっていますね。

「高性能な次世代のエアロロードバイク」山本朋貴(ストラーダバイシクルズ)「高性能な次世代のエアロロードバイク」山本朋貴(ストラーダバイシクルズ) エアロロードというと各チューブにボリュームがあるため硬いバイクになりがちですが、このフレームはリア三角に柔軟性があり、体への負担は少ないと感じました。わざと荒れた路面を走ってみましたが、衝撃は少なく高い振動吸収性を持っています。23Cのタイヤでこれだけ快適なので、フレームの性能の高さがより際立って感じられるところです。

軽いギアでクルクル回しても軽快に進んでくれますし、重いギアでトルクをかけてもしっかり反応する懐の深さを見せてくれます。本当にエアロロードかと疑うほど優れた登坂力も発揮してくれながら、30km/hを越えた辺りからの加速感や巡航性能は紛れもなくエアロバイクを体現していました。

BB周りはしっかりと剛性が確保されており、たわみは感じません。レースユースでも問題のない反応性を見せてくれると思います。ディスクブレーキロードの使用が許可されるのであれば、すぐにでも戦力となるでしょう。そうは言ってもガチガチの剛性感もなく、脚への負担も少ないため、ロングライドをエアロフレームでかっこよく走りたいという希望も叶えてくれるバイクではないでしょうか。

スルーアクスルが採用されたおかげでハブ軸の剛性が上がり、エンドがよれる感覚もないため、ハンドリングは自分が思った通りの素直なラインを描くことができます。クイックリリース式の普通のロードを比較した時に、その点はメリットでしょうね。エアロフレームにありがちなバイクの倒しにくさもほとんどありませんでした。

フレームがディスクブレーキに最適化した設計となっているため、ブレーキフィーリングも違和感はありませんでした。ハンドリングとブレーキングが両方とも高いクオリティで実現しストレスのないものになっているため、下りでのコーナーリングも楽しみになるバイクです。安全性という面でも満足できる1台でしょう。

この自転車を一言で表すならば次世代のエアロロードバイクと言ったところでしょうか。UCIのレースでディスクロードが解禁された後は、この車体のようにエアロダイナミクスと快適性が共存するバイクが開発されていくのではないかと感じました。高性能なバイクが好きで、エアロでかっこいいバイクが欲しいけど乗り心地も妥協したくない、という欲張りな方にオススメ出来る一台です。

「エアロバイクなのに快適で脚への負担が少ないフレーム」佐藤淳(カミハギサイクル)

翼断面形状を採用したエアロフレームは縦方向に硬く、快適性が損なわれがちですが、このバイクにはその感覚がありません。ハイエンドモデルよりはグレードの低いカーボンを使用し、フレームに柔らかさがあるためでしょうか。非常に心地よい乗り味に仕上がっていますね。

「エアロバイクなのに快適で脚への負担が少ないフレーム」佐藤淳(カミハギサイクル)「エアロバイクなのに快適で脚への負担が少ないフレーム」佐藤淳(カミハギサイクル)
快適性を高めるくびれを設けたシートポストにより、サドルから伝わる振動もマイルドになっています。また、リア三角の形状や緩くベンドされたフォークも振動吸収性を高めていると感じました。しかし、少し荒れた路面を走った際はハンドルからの衝撃が気になる部分ですので、カーボン製のものに交換すると手の疲れも軽減できるのではないでしょうか。

ハンドリングはニュートラルで扱いやすく、ベンドしたフォークも違和感のない挙動を見せてくれます。スルーアクスルによりエンドの剛性もアップし、速度が上がった下りのコーナリングも不安がありません。ディスクブレーキは制動力が高く、一般レーサーレベルの速度域なら非常にコントローラブルでしょう。

ボリュームのあるダウンチューブは横風の影響を受けると思っていましたが、今回のテストでは風でハンドルが取られることもありませんでした。エアロフレームですが、風に対する扱いやすさも持ち合わせていると感じます。同じ条件でノーマルバイクと比較すれば多少の違いはあるのかもしれませんが、そのくらい気にならないと思います。

剛性が高そうに見えるBB周りも、踏んだときには硬さを感じず、むしろ脚への負担は少なめな印象を受けました。高い出力で踏んだ際の加速が多少遅く、ケイデンス高めで回していく漕ぎ方のほうが相性がよく、気持ちよく進む感覚が得られます。そのため頻繁にアタックをかけるようなレースシーンには向いていないかもしれません。

巡航性能が高いバイクのため、仲間とイーブンペースでライドをする方や、あまり速度の上げ下げのないロングライドを楽しむ方には向いていると思います。その性格を活かし、サーキット系のイベントでハイペース巡航をしたり、集団の先頭を引いて活躍したい人にオススメの1台です。

サーヴェロ S3 DISCサーヴェロ S3 DISC photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
サーヴェロ S3 DISC(完成車/フレームセット)
メインコンポーネント:スラムRED eTAP、シマノULTEGRA Di2、シマノULTEGRA
ヘッドセット:FSA IS2 1-1/8 x 1-3/8”
クランク:スラムRED(RED eTAP仕様)、FSA SL-K(ULTEGRA Di2仕様、ULTEGRA仕様)
ホイール:エンヴィSES5.6(RED eTAP仕様)、エンヴィSES3.4(ULTEGRA Di2仕様)、HED Ardennes Plus GP(ULTEGRA仕様)
ハンドル:Cervélo Aero AB04(RED eTAP仕様、ULTEGRA Di2仕様)、FSA Energy Compact(ULTEGRA仕様)
サイズ:48、51、54、56、58、61
カラー:WHT/BLK/LIME、RED/NAVY
価 格:スラム RED eTap 完成車 1,200,000円(税抜)
    シマノ ULTEGRA Di2 完成車 1,000,000円(税抜)
    シマノ ULTEGRA 完成車 600,000円(税抜)
    フレームセット 340,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

山本朋貴(ストラーダバイシクルズ滋賀本店)山本朋貴(ストラーダバイシクルズ滋賀本店) 山本朋貴(ストラーダバイシクルズ滋賀本店)

滋賀県草津市にあるストラーダバイシクルズ滋賀本店の店長。2011、2012年の全日本マウンテンバイク選手権クロスカントリーマスタークラスチャンピオン。ストイックに自転車競技に取り組んできたが、ストラーダに入社後は、ビギナーライダーのライド初体験の笑顔に魅せられエントリーのお客様にバイクの楽しさを伝えることが楽しみ。最近はトライアスロンに挑戦中。

ストラーダバイシクルズ滋賀本店(CWレコメンドショップ)
ストラーダバイシクルズHP


佐藤淳(カミハギサイクル)佐藤淳(カミハギサイクル) 佐藤淳(カミハギサイクル FIT&RIDE STORE)

愛知県豊山町にお店を構えるカミハギサイクルのスペシャライズド専門店「FIT&RIDE STORE」にて、メカニックから接客まで幅広く担当する。自転車にのめり込んだきっかけは何の気なしに購入したMTB。購入後すぐに3日間のツーリングで550kmを走り切ったことでその道に進んだロングライド派。常にビギナー目線での接客を心掛け、対話の中からお客様の本当に求めているものを探り、提案していくことを心がけている。

CWレコメンドショップページ(緑店)
CWレコメンドショップページ(小牧本店)

ウェア協力:Rapha

text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO

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