「北イタリア」に足を踏み入れたジロ・デ・イタリア。前半戦の最後を飾るセストラの山頂フィニッシュで若い選手が意欲的に動いた。ミケル・ランダのリタイアの一報に衝撃が走った第10ステージの現地レポート。



アスタナを先頭に3級山岳パッソ・デッラ・コッリーナを進むアスタナを先頭に3級山岳パッソ・デッラ・コッリーナを進む photo:Kei Tsuji
休息日に電話インタビューを受ける山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)休息日に電話インタビューを受ける山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji日本から来たファンと記念撮影する山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)日本から来たファンと記念撮影する山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji
セルフィーに快く応じるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)セルフィーに快く応じるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji


第10ステージは距離が長いため朝のスタート時間が11時10分と早め。通常であればどのチームも朝9時半ごろまでにはスタート地点にやってくる。しかし、トスカーナ州の州都フィレンツェという大都市が近いこともあってスタート地点は大混雑で、朝の通勤時間と被ったためスタート地点の周辺はどこもかしこも大渋滞。時間ギリギリになってようやくスタート地点に到着するチームが続出し、どのチームもかなり忙しく準備を整えて何とかスタート時間に間に合わせた。

確か7年前に同じカンピ・ビゼンツィオをスタートした時も目を覆いたくなるような混雑ぶりだった。それでもしっかりと時間を遅らすことなくスタートが切られるのはイタリアらしいというかジロらしいというか。

コースの幹線道路の交差点やロータリーには大勢の人だかりができる。でも残念ながら、正直なところ、その多くは観客ではなく交通規制で足止めを食らった人たちで、「ジロが通過するらしくて動けない!」と職場に派手なジェスチャー付きで電話を入れている人を多く見る。実際にコース周辺には大規模な交通規制が行われている。それでも「まぁジロなら仕方がないか」と諦めて、観戦を楽しむのが人々のスタンスだ。

この日のDNSはファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)とアレクセイ・ツァテヴィツク(ロシア、カチューシャ)の2人。カンチェラーラは開幕前の体調不良から復活することができず第9ステージの個人タイムトライアルを最後にレースを去った。ツァテヴィツクは第9ステージで後続のルドヴィグソンに追い抜かれた際、長時間スリップストリームに入ったとして100スイスフランの罰金と6分48秒のタイムペナルティーを食らっている。カチューシャはツァテヴィツクの走りを「決して許されない行為」と判断。罰金とタイムペナルティーだけでは足りないとしてチームは独自の判断でツァテヴィツクをリタイアさせた。



レース序盤の3級山岳パッソ・デッラ・コッリーナに差し掛かるレース序盤の3級山岳パッソ・デッラ・コッリーナに差し掛かる photo:Kei Tsuji
ボローニャに住む石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)がジロ観戦に訪れるボローニャに住む石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)がジロ観戦に訪れる photo:Kei Tsujiピンクに染まったセストラの街ピンクに染まったセストラの街 photo:Kei Tsuji
セストラの街を賑やかに練り歩くセストラの街を賑やかに練り歩く photo:Kei Tsuji


ジロは「北イタリア」の一部とも言うべきエミリア=ロマーニャ州に入った。フィニッシュ地点に向かって車を走らせていると前方に同じくフィニッシュを目指すサイクリストのグループ。よく見るとNIPPOヴィーニファンティーニのジャージでデローザのバイクに乗るサイクリストがいる。最初はコスプレかと思ったがよく見ると昨年ジロを走った石橋学だった。

エミリア=ロマーニャ州の州都ボローニャ近くに住むという石橋は、同じ家に住むチームメイトたちがノルウェーで5月18日に開幕するツアー・オブ・ノルウェーに出発したため一人ぼっちに。ジロが近くを通るからと片道85kmを走って会場にやってきた。

この日の最も大きなサプライズはミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)のリタイアだろう。今後の山岳ステージで最も警戒すべき選手として朝のガゼッタ紙で見開きの特集が組まれ、その中で「自分のジロは今日始まる。登りでアタックする」と宣言していたが、ウィルス性胃腸炎による体調不良には勝てなかった。最初の3級山岳で、さえない表情を浮かべながら脱落すると、もう集団に復帰する力は残っていなかった。ランダのリタイアを知ったスペイン人フォトグラファーは言葉を失っていた。

チームメイトのイアン・ボズウェル(アメリカ)曰く、ランダの体調不良は他のメンバーに知らされていなかった。「胃腸の調子がよくないとは聞いていたけど、スタート前の段階ではそこまで調子が悪いように見えなかった。総合が動く日に体調を崩すなんてついていない」とボズウェル。ランダが去った今、チームスカイの総合最高位はニコラス・ロッシュ(アイルランド)の総合26位。今後は山岳ステージを中心にステージ優勝狙いにスイッチすることになりそうだ。



ハイスピードで1級山岳ピアン・デル・ファルコを走るアスタナ勢ハイスピードで1級山岳ピアン・デル・ファルコを走るアスタナ勢 photo:Kei Tsuji
メイン集団をリードするボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ)メイン集団をリードするボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
駆けつけたチームスタッフと抱きあう駆けつけたチームスタッフと抱きあう photo:Kei Tsuji


逃げから独走の展開に持ち込んだネオプロのジュリオ・チッコーネ(イタリア、バルディアーニCSF)は1994年(平成6年)12月20日生まれ。21歳と149日でのステージ優勝は1940年のファウスト・コッピと1930年のルイージ・マルキジオに次ぐ史上3番目に若い記録だ。

若いといえばマリアローザを獲得したボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ)も若い。2015年のツールで総合27位に入っている23歳は今年ティレーノ〜アドリアティコで総合3位&ヤングライダー賞を獲得している。

ユンヘルスは、サガンやキンタナ、クヴィアトコウスキー、アル、バルデ、ピノ、マシューズ、ブアニ、フィニーといった1990年生まれ組よりもさらに若い1992年生まれ。マリアビアンカを争っているフォルモロやベローナ、マッカーシー、ジロに出場していないがアラフィリップ、ヴァコッチ、マインティーズ、ポランク、イェーツ兄弟、ビストロム、ヴァルグレン、ストゥイフェンらも1992年生まれだ。

ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ)の献身的なサポートを受け、1959年のシャルリー・ゴール以来57年ぶりにマリアローザを着るルクセンブルク人となったユンヘルス。レース後の記者会見では「スプリンター向きのステージが続くのであと数日はマリアローザを守れると思う。そこから先はビッグネームに出来るだけついていきたい」と低くて遠慮気味な声で話す。キッテルがすでにレースを去っているため、エティックス・クイックステップは全力でマリアローザキープのために動くことになるだろう。

最終ステージをカウントに入れていない選手が多いので、ジロはここでちょうど折り返し。圧倒的なリーダーを欠いたままレースはドロミテ山塊に向かう。

text&photo:Kei Tsuji in Sestola, Italy