4月に梅丹本舗が自社の2商品から世界アンチドーピング機構(以降WADA)の禁止薬物に指定されている物質が検出されたと発表、大手マスコミ各社も大きく報道して話題となった。その問題の実際と経緯について、梅丹本舗の松本社長に訊いた。



これまでの経緯

梅丹本舗は、イギリスのWADA認定検査機関であるLGC社へ検査を依頼したサイクルチャージなど自社の10商品の検査結果において、「古式梅肉エキス」と「トップコンディション」の2商品で、WADAの指定する禁止物質である "1,4-androsdiene-3,17-dione" (通称ボルジオンと呼ばれるステロイド剤の一種)の含有が確認されたと発表した。

梅丹本舗は4月11日、ドーピングコントロール下にあるアスリートに対して使用停止を呼びかける文面を自社ホームページへ掲載。同時に自社がサポートするアスリートには個別に連絡するなどして対応してきた。

古式梅肉エキス古式梅肉エキス (c)梅丹本舗メイタン トップコンディション(TC)メイタン トップコンディション(TC)


発表から10日後の4月21日、報道を受けて梅丹本舗は同日中に本社内で記者会見を開き、事情を説明した。主要新聞およびテレビ、ネットニュースなど各メディアにおいてその模様が伝えられた。

梅丹本舗は2011年より日本自転車競技連盟(JCF)の公式スポンサーとなっており、同社の商品は公式サプリメントとして選手に配布、使用されている。その一部に禁止物質が含まれていることで報道されることになった。なおJCFはホームページ上で梅丹本舗からの発表をリンクで紹介するにとどめ、経緯や過去の選手の陽性反応の有無などについては状況説明を行っていない。

梅丹本舗は対象アスリートに向けて、禁止物質が検出された2商品の使用停止と、梅肉エキスを含む製品についても念のため使用しないように呼びかけた。同時に、検出された物質が極微量であることから、副作用や健康被害は存在しないとの考えも発表した。(梅丹本舗ホームページでの発表(PDF)へのリンク

問題となった2商品と、その成分を含む6商品ともに現在も販売は継続されており、とくに回収等の処置は取られていない。サイクルショップ等の店頭では、対象アスリート向けの注意書きを添えるなどしてサプリメント商品の販売が継続されている。

「はたして梅丹本舗のサプリメント商品は本当に安全なのか?」という疑問の声もあるだろう。発表内容とその解釈において複雑な面が多いこの件について、商品を愛用するサイクリストとして抑えたいポイント、そして騒動の経緯について、大阪・摂津市の梅丹本舗本社を訪ね、松本喜久一社長に話を聞いた。



株式会社梅丹本舗 代表取締役社長 松本喜久一氏に訊く
(インタビュー:綾野 真/シクロワイアード編集部)

取材に応じる梅丹本舗の松本喜久一社長取材に応じる梅丹本舗の松本喜久一社長 photo:Makoto.AYANO
― そもそも問題となった成分は梅に付着したものでしょうか? それとも、もともと梅に含まれていたものですか?

青梅に付着したものが検出されたという可能性は無いと考えています。青梅にもともと含まれているものか、濃縮のため加熱した際に成分が変質して新しく生まれた成分のどちらかだと思われますが、そのどちらなのかは調べても多分わからないと考えられます。

ドーピングに使われることもある禁止物質ではありますが、含有量からすれば、商品で効果を得ようとすると大量の摂取を必要とするため、商品によるドーピングは非現実的です。

― 自然界に存在するもの、植物由来のものなども、調べないと何が含まれているかわからないということですか? 

今回の件を踏まえ、弊社ではそのように考えています。これまで「梅には問題物質は入っていない」という大前提で進んできてしまったために今回の問題に至りました。

― 梅は国内産のものを使用しているのですか?

すべて和歌山産の梅です。残留農薬も心配ですから、加工前によく洗浄を行います。産地を複数にすると、何かあった時に後で追跡ができなくなるため、原材料は和歌山産に絞っています。

― ごく微量が検出されたとする問題物質ですが、商品であるサプリメントについては、ユーザーはどう捉えれば良いのでしょうか。

「古式梅肉エキス」と、その成分を使用した「トップコンディション」については、「ドーピング検査を受ける可能性のあるアスリートの方はご使用を中止してください」とご案内しています。幸いにも今までに検査を受けた使用選手から陽性反応が出たとは聞いていません。

梅肉エキスを配合した健康食品群は多岐にわたる梅肉エキスを配合した健康食品群は多岐にわたる photo:Makoto.AYANOトップコンディション(左下)は禁止成分が検出された。サイクルチャージシリーズ(上)は梅肉エキスを含む商品だが検査では陰性だったトップコンディション(左下)は禁止成分が検出された。サイクルチャージシリーズ(上)は梅肉エキスを含む商品だが検査では陰性だった photo:Makoto.AYANO


また、その2品以外の「梅丹」「梅丹エキストラゴールド」「梅丹スーパーエキストラゴールド」「サイクルチャージ」「サイクルチャージカフェインプラス」「サイクルチャージカフェイン200」からは禁止物質は検出されませんでした。ただ、それらは古式梅肉エキスを原料にしているため、ドーピング検査を受ける可能性のあるアスリートの方にはご迷惑をお掛けすることが無いよう、使用を中止するようお願いしています。

検出されたボルジオンは蛋白同化ステロイドの一種で、自然界に普通に存在し、創傷や筋肉損傷の治療にも用いられています。治療の際の副作用のない範囲の摂取量などに比べても、検出された含有量は極微量であるため「健康被害は無い」と考えますので、一般の方は引き続き安心してお召し上がりくださって大丈夫です。長期に渡って摂取した際の毒性検査も実施して安全性も確認していますので、継続してお飲みいただいても問題ないと考えています。

― 今回の騒動に至った経緯をご説明いただけますか?

そもそもの弊社のサプリメントの始まりは、自転車チームをサポートするにあたり、我々のメイン商品である”梅肉エキス”を使った商品で、何かお役に立てることがあるんじゃないか? ということで2007年にスタートしました。

その当時より、ドーピングはもっと遠いところにあるイメージで居ました。当初から、関係者の方々には「梅肉エキスを使ったサプリメントを開発しようと思うが、問題無いだろうか?」と問いかけていました。サプリメントや食品についての検査機関を国内で探していたのですが、私たちでは見つけることができませんでした。

梅丹本舗の創業者 松本紘斉氏の言葉からは、梅が健康に役立つ食品だという自信がつづられる梅丹本舗の創業者 松本紘斉氏の言葉からは、梅が健康に役立つ食品だという自信がつづられる photo:Makoto.AYANO梅肉エキスの原料は青梅だけです。検査するまでもなく「梅なら大丈夫に決まってます」の一言で片付いていた側面がありました。「梅は日本人が古来から皆食べているもの。それが大丈夫でないワケがない」と思い込んでいました。加えて弊社のサプリメントを摂取した選手に検査で陽性が出ないことで、「梅は大丈夫」という言葉の裏付けだけが積み重なってきたんです。

ただ、それでも公的機関の「お墨付き」が欲しいという思いは常にありました。検査機関の認定を受けることで”ドーピングフリー”を謳うことができれば、それはアスリート向けサプリメントとして自信を持って売り出せるし、売上も変わってくるだろうという思いがありました。

― 認定を受けるためにどういった動きをされていたのでしょうか?

まずはJADAに認定のためのお伺いを立てたのですが、「5年間は認定製品の新規募集はしていない」というお返事でした。ならばやはり弊社で検査を担当してくれる会社を探すしかない。そこで食品の検査ではなく、アスリートのドーピング検査をしている会社なら検査ができると考えて依頼したのですが、「アスリートの検査はするが、サプリメントの検査はできない」というお返事だったのです。もちろんサプリメントを製造しているメーカーも社内検査はしているはずですが、検査できる第3者機関は国内には無いのが現状だ、という考えに私たちは至ったのです。

― 検査を受けたイギリスの検査会社はどうやって探したのでしょうか?

「海外にはあるはずだ」と思って友人・知人のつてを頼って探し、欧州とアジアに複数のWADA認定検査会社を見つけましたが、いちばん厳しそうな、格式があると思われるイギリスのLGC社に依頼することにしました。

その企業のベースはイギリス国内で販売されるサプリメントや食品に認定マークを出すための検査機関であって、国外の製品だということで当初は敬遠されました。弊社にとっても英国内で通用する認定マークは必要ないのですが、無理を言って検査してもらうことができたんです。

検査の結果が出るまでに2〜3ヶ月かかりました。そのなかの梅肉エキス使用量が濃いもの2品に、検出限界ギリギリとはいえ、禁止薬物の成分にあたるものが入っているという結果が出ました(梅肉エキス 1g当たり0.00005mg前後の含有量と推定)。

― それを受けて公表に踏み切ったということですね。

まずは弊社のサプリを使っている選手たちにまずは使用を止めてもらわなければいけませんので、サポート選手に直接連絡し、使用を止めるように伝えました。

報道用配布資料で検出された禁止物質についての説明や、陰性の商品、競技者の使用は念のため止めて欲しい商品などを説明した報道用配布資料で検出された禁止物質についての説明や、陰性の商品、競技者の使用は念のため止めて欲しい商品などを説明した photo:Makoto.AYANOJCFにも相談し、「この件を公表させて欲しい」と伝え、了承していただきました。弊社のホームページで発表し、後は関係者、友人・知人のつても頼って可能な限り情報を拡散してもらうように努めました。それは、弊社がサポートする以外の選手でも、使っている選手がいる場合があるです。弊社の商品はもともと梅干しの代用として海外遠征に行くようなアスリートには好んで愛用されていますから。

自社での情報発信力は限りがある。しかしできるだけ広く知らせたい。商品に健康被害がないことも同時に伝えたい。そう思って動いていたところで大手メディアの報道がありました。

その報道によりメディア各社からの問い合わせが殺到し、細かい資料を用意する時間もなく、その日の夕方のうちに記者会見に応じることになりました。本来ならば翌日に会見を予定していたのですが、できれば推測や憶測で伝えて欲しくなかった。ですからなるべく早く状況を説明しようと考えたのです。

記者会見で弊社が伝えたかったことは、「選手は飲まないで」ということと、「健康被害はありませんから、一般の人は引き続き安心してお召し上がりください」という2点でした。

また、記者会見内ではまったく問題のない商品と、陰性だが問題の成分が含まれているため飲まないほうがいい商品の区別の仕方についてもご説明しました。梅肉エキスの成分が含まれた商品も健康被害は無いと考えられますので、一般の方が飲み続けても問題がないことなどをご説明しました。 

トップアスリートの方々を混乱させて申し訳ないという気持ちでいっぱいですが、報道が広がったことで、ひとまずは第1の目標「選手に使用を中止してもらう」という目標には到達できたと思います。

そして、今回の問題をきっかけとして、検査機関を国内にもつくろうというムーブメントを起こせないものかと思っています。

海外の検査機関を紹介して欲しいという他企業からのコンタクトがあり、「検査をしなければ」と思って動いている企業が他にもいらっしゃると感じています。製品づくりを真面目にやっている企業なら、多少お金がかかったとしても検査はしたいはず。

ですから国内でサプリメントの検査ができる機関があれば、こうしたジレンマは解決するはずです。自社の商品が陰性か陽性か判別してもらうことは絶対に必要だと思いますし、そしてもし検査をしていない製品が原因で陽性反応が出て、アスリートの競技人生を終わらせてしまうようなことがあったらたまりません。

― 今回の発表による売上高や出荷量への影響はありましたか?

売上高は約10%減です。ネットや新聞で例のニュースが出回った当日と翌日は200件ほどの問い合わせがありました。スポーツ量販店の新規取り扱いが止まった例はありますが、サイクルショップなどでは継続してご注文をいただいている状況です。

報道の大きさに対して影響は軽微だと感じています。自転車店や自転車ファンの方々からはむしろ温かい言葉をかけていただいており、本当にありがたい事だと感謝しています。

― 自転車界へのサポートは継続しますか?

梅丹本舗の松本喜久一社長梅丹本舗の松本喜久一社長 photo:Makoto.AYANOまずJCFには「弊社の進退については一任します」とご連絡しています。「自転車界をサポートしたい」と思っても、それは私たちだけで決めることではなく、お客様に決めていただくことという面もありますから。しかし、五輪までサポートを続けることになった場合、現状ではアスリートをサポートできる製品が無い。

この状況を打開するために梅肉エキス無しの補給食の開発に着手しました。もともとCC(サイクルチャージ)シリーズも糖質の配合が高評価を得ている商品ですから、梅肉エキスを他の成分に差し替えた新しい商品を開発するべく進めています。

自主的に行った検査である上に、検出された値も基準値以下ですので、公表しないで良かったのかもしれないですが、それは私には分かりません。今回の件で選手の皆さんも驚かれたと思いますが、私も驚きました。今、弊社でやっている対応が果たして良いのか悪いのかもわかりません。

ともかく、今回の弊社のケースをきっかけに、サプリメント食品の検査が国内でもできるように、無いなら各社が協力しあって公的機関をつくろうという動きが出てくることに期待したいです。



梅丹本舗は、先の検査結果についてはまだスクリーニング検査(ふるい分け検査)段階のもので、次の段階の確定検査が終了し次第、禁止物質の含有量等についての詳細な数値データ等を発表すると公表しています。


text:綾野 真