バレンシアのF1コースを中心とした30kmの平坦コースで行なわれた第7ステージ個人タイムトライアルは、風と雨にも負けない独走力を発揮したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)が、下位を30秒以上引き離す圧勝。世界選手権に向けて順調な仕上がりを見せたカンチェラーラが総合首位に返り咲いた。

雨のバレンシアで行なわれた個人タイムトライアル雨のバレンシアで行なわれた個人タイムトライアル photo:Cor Vos今大会2回目の個人タイムトライアル(以下個人TT)の舞台はスペイン東部の人口80万人の大都市バレンシア。昨年からF1ヨーロッパグランプリが開催されているバレンシアの市街地サーキットをスタートするスペシャルコースが用意された。今年のF1レースは2週間前に開催されたばかりだ。

全長30kmのコースはフルフラットで、上りは皆無と言っていい。重量級の大柄なTTスペシャリストに有利なコースレイアウトで、クライマー系の選手たちが苦戦するのは確実。総合争いにおける重要なタイム差が生まれるだけに注目が集まった。

雨のコースを平均スピード49km/hで駆け抜けたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)雨のコースを平均スピード49km/hで駆け抜けたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Unipublicこの日は月末に開催が控えた世界選手権個人TTの予行演習として走る選手も多く、現世界王者のベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)や、過去に2回ブエルタの個人TTを制したデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン)らが好タイムを連発。しかし元世界王者の圧倒的な走りの前には霞んでしまった。

雨の中、濡れたコースに繰り出したカンチェラーラは、第1計測ポイント(11.3km地点)で7位と前半抑え気味のスタート。しかし得意の追い込みにより後半部分で大きくリードを奪うと、最後までハイペース走行を維持。ミラーやグラブシュのタイムを30秒以上上回る圧倒的なタイムでゴールに飛び込んだ。

雨の個人TTで32秒遅れ・ステージ2位に入ったデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン)雨の個人TTで32秒遅れ・ステージ2位に入ったデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン) photo:Cor Vos「今日は悪天候に苦しめられたよ。雨の影響で路面は非常に滑り易かった。レース序盤はコーナーが続いて慎重な走りを強いられた。コースが直線基調になった向かい風区間で、違いを見せつけるためにかなり追い込んだんだ」。その言葉通り、ライバルたちが失速した中盤にカンチェラーラ大きくリードを奪った。

前日まで総合トップだったアンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)が平凡なタイムに沈んだため、カンチェラーラはタイム差18秒を挽回して総合トップに返り咲き。第5ステージで失っていたマイヨオロをグライペルから奪い返した。

1分02秒遅れ・ステージ10位のカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)1分02秒遅れ・ステージ10位のカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos「地元スイスで開催される世界選手権の個人TTに向けていいテストになった。とにかく勝てたことと美しいマイヨオロを取り戻せたことが嬉しい」。昨年カンチェラーラは3連覇がかかっていた世界選個人TTを欠場し、世界王者のタイトルを失った。今年は順調なコンディショニングでタイトル奪回を目指す。

総合狙いの選手たちの中でタイムを伸ばしたのは、グランツール初制覇を目指すサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)や、2006年のブエルタで総合6位に入っているトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)。風の強い雨のコースで、両者はライバルたちから総合リードを奪うことに成功した。

落車しながらも1分03秒遅れ・ステージ11位に入ったトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)落車しながらも1分03秒遅れ・ステージ11位に入ったトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Unipublic総合優勝の有力候補に挙げられているカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は無難にタイムをまとめてきた。

この日の結果を受け、エヴァンスは総合6位にジャンプアップ。総合狙いの選手の中で最高位だ。エヴァンスはTwitterの中で「サンチェスの走りが驚くほど冴えていた。僕の結果はまぁOKだ」とコメントしている。

マイヨオロを奪回したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)マイヨオロを奪回したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Unipublicその一方で、ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)やイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)らはタイムを失う結果に。バッソはサンチェスから1分近いタイムロスを被ってしまった。

TTスペシャリストやオールラウンダーだけではなく、この日はダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)とトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)が健闘。ベンナーティはパンクでストップしながらもステージ16位、ボーネンは落車しながらもステージ11位に食い込んでいる。

翌日の第8ステージは、今大会最初の山頂フィニッシュが登場。序盤から断続的にカテゴリー2級と3級の山岳が7つ連続し、最後は超級山岳アイタナ峠を駆け上がってゴール。この難関山岳ステージで、間違いなく総合成績はシャッフルがかけられるだろう。

世界王者のベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)は36秒遅れ・ステージ3位世界王者のベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)は36秒遅れ・ステージ3位 photo:Unipublic40秒遅れ・ステージ4位のダビド・エッレロ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)40秒遅れ・ステージ4位のダビド・エッレロ(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Unipublic47秒遅れ・ステージ6位のサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)47秒遅れ・ステージ6位のサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic

50秒遅れ・ステージ7位のトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)50秒遅れ・ステージ7位のトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン) photo:Unipublic1分05秒遅れ・ステージ13位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)1分05秒遅れ・ステージ13位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Unipublic1分12秒遅れ・ステージ15位のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)1分12秒遅れ・ステージ15位のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Unipublic

ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第7ステージ結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)36'41"
2位 デーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン)+32"
3位 ベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)+36"
4位 ダビド・エッレロ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+40"
5位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、ケースデパーニュ)+46"
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+47"
7位 トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)+50"
8位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)+53"
9位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)+59"
10位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'02"
11位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)+1'03"
13位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)+1'05"
15位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)+1'12"
16位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
20位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、ミルラム)+1'24"
28位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+1'33"
35位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+1'43"
36位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)+1'43"
42位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+2'02"
54位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+2'19"

マイヨオロ(個人総合成績)
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)24h58'12"
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)+51"
3位 ダビド・エッレロ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+59"
4位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)+1'03"
5位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、ケースデパーニュ)+1'08"
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'12"
7位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)+1'14"
8位 トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)+1'19"
9位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+1'20"
10位 デーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン)
12位 アイマル・スベルディア(スペイン、アスタナ)+1'43"
13位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)+1'46"
14位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)+1'48"
16位 リーナス・ゲルデマン(ドイツ、ミルラム)+1'52"
17位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)
19位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+1'57"
20位 ベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)+2'00"
21位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+2'03"
41位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+2'52"
51位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+3'10"

モンターニャ(山岳賞)
1位 ホセアントニオ・ロペス(スペイン、アンダルシア)20pts
2位 アイトール・エルナンデス(スペイン、エウスカルテル)10pts
3位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)9pts

プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)84pts
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)75pts
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン)67pts

コンビナーダ(複合賞)
1位 ドミニク・ロエルス(ドイツ、ミルラム)98pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)106pts
3位 ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)180pts

チーム総合成績
1位 ガーミン・スリップストリーム 74h58'23"
2位 ケースデパーニュ +17"
3位 チームコロンビア・HTC +30"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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