カンピオーネはイタリア語でチャンピオンを意味する。1998年にパンターニが総合優勝を決めた山で、1990年サルデーニャ生まれのアルがアタック。若手の躍進を象徴するかのように、23歳のアスタナライダーが独走した。



1級山岳モンテカンピオーネの頂上を目指す選手たち1級山岳モンテカンピオーネの頂上を目指す選手たち photo:Kei Tsuji


独走のまま残り1kmに差し掛かるファビオ・アル(イタリア、アスタナ)独走のまま残り1kmに差し掛かるファビオ・アル(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji日本語に直訳すると「王者の山」、英語で「チャンピオンマウンテン」を意味するモンテカンピオーネ。これは通称ではなく、実際にモンテカンピオーネという街が中腹に存在している。他の多くの山岳ステージがそうであるように、フィニッシュ地点は夏季閉業中のスキー場だ。

独走で1級山岳モンテカンピオーネを駆け上がるファビオ・アル(イタリア、アスタナ)独走で1級山岳モンテカンピオーネを駆け上がるファビオ・アル(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji優勝したファビオ・アル(イタリア、アスタナ)は、地中海に浮かぶサルデーニャ島のサンガヴィーノ・モンレアーレ出身。ガゼッタ紙によるとサッカーとテニスに打ち込んでいた少年は、15歳からMTBとシクロクロスを走るようになり、18歳でベルガモに移り住んでロードレースに没頭し始めた。

喜び溢れるガッツポーズでフィニッシュするファビオ・アル(イタリア、アスタナ)喜び溢れるガッツポーズでフィニッシュするファビオ・アル(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiイタリアの強豪クラブチームであるパラッツァーゴに所属し、ジュニアやU23レースで勝ちまくった。当時を知るイタリア人フォトグラファー曰く、他の選手にはない輝くものをアルは持っていた。

マリアローザを守ったリゴベルト・ウラン(コロンビア、オメガファーマ・クイックステップ)マリアローザを守ったリゴベルト・ウラン(コロンビア、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei Tsujiサルデーニャ出身の選手は決して多くない。過去にツール・ド・ランカウイで活躍し、2011年に引退したアルベルト・ロッドはサルデーニャのカリアリ出身。しかしジロでのステージ優勝経験は無い。長い歴史の中で、アルがステージ優勝を飾った初のサルデーニャ出身選手となった。

その姿は、どこか昨年の総合優勝者ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)を彷彿とさせる。アルは身長183cmでニーバリは181cm。細身の体型もそうだが、追い込んでいるときの上半身の傾き方、その表情が似ている。出身もイタリア本土ではなく(ニーバリはシチリア島出身)、環境を求めてジュニア時代に移住したという境遇も似ている。

Aruという発音は(そもそもカタカナ表記に無理があることを置いておいて)アールでもアルーでもなくアル。もしくはアルッに近いか。

アルがアタックを仕掛けたのはフィニッシュまで2.3kmを残したあたり。1998年大会の第18ステージでマルコ・パンターニが断続的にアタックを仕掛け、ついにパヴェル・トンコフを引き離すことに成功したコーナーに近い。ここでの勝利が、パンターニのジロ総合優勝ならびに史上7人目のダブルツール達成の背中を押した。

なお、当時メルカトーネウーノの監督としてパンターニに指示を出していたジュゼッペ・マルティネッリは、現在アスタナのチームカーのハンドルを握っている。

トレーナーのパオロ・スロンゴ氏がガゼッタ紙に明らかにしたところによると、登坂距離19.35km/平均勾配7.6%の1級山岳モンテカンピオーネを、アルは53分14秒かけて登りきった。VAM(平均登坂速度)は1647m/hで平均出力は360W。アルの体重は61.5kgなので5.85W/kg。

若手の活躍が目立っている2014年のジロ。ここまで15ステージを終えて、ステージ優勝者の平均年齢は26歳と35日。これは過去20年間で最も低い記録だ。



集団前方で走る別府史之(トレックファクトリーレーシング)集団前方で走る別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji
29分07秒遅れでフィニッシュする新城幸也(ユーロップカー)29分07秒遅れでフィニッシュする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji


出走サインを済ませた新城幸也(ユーロップカー)出走サインを済ませた新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji前日のオローパステージで再度落車し、前回痛めた臀部を打ちつけてしまった新城幸也(ユーロップカー)は、苦しい表情を浮かべることなくモンテカンピオーネ頂上にフィニッシュした。

ステージに上がる別府史之(トレックファクトリーレーシング)ステージに上がる別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji「意外にも前回よりダメージは少ないです。サドルの上のほうが痛みは少ない。むしろ日常生活のほうが痛い。歩くのが辛いです」。その言葉に駆けつけた日本の報道陣(辻、宮本、飯島)は全員胸を撫で下ろした。

19分17秒遅れの集団でフィニッシュを目指す別府史之(トレックファクトリーレーシング)19分17秒遅れの集団でフィニッシュを目指す別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsujiスタート前に臀部から腰にかけてテーピングを施したことも功を奏した。リタイアすることなく、ステージ4位に入ったピエール・ロラン(フランス)のアシストもしっかりとこなした。今後も新城はステージ優勝&総合ジャンプアップを狙うロランをサポートする。

29分07秒遅れでフィニッシュに向かう新城幸也(ユーロップカー)29分07秒遅れでフィニッシュに向かう新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji「仰向けに寝れないので横向きかうつぶせで寝てますが、しっかり寝れてますよ。明日(休息日)はゆっくり睡眠をとりたい。今回はチームの整体師がいるので回復の早さを感じています」。2度の落車に苦しめられながらも、新城は闘い続ける。

スタート前に「当たって砕けろの勢いで大人数の逃げに乗りたい」と話していた別府史之(トレックファクトリーレーシング)は、少し曇った表情を浮かべてモンテカンピオーネにたどり着いた。すぐに「脚が痛い」と言いながら笑みをこぼした。

「今日は序盤からコンディションが優れなくて、今年のジロの中で一番のバッドデイでした。平坦区間で調子はよくなったけど、辛い一日だった」と首を傾げる。新城にとっても別府にとっても、そして他のどの選手にとっても、翌日の休息日は有り難い存在になりそうだ。

第15ステージは快晴と言っていいほどの暖かい一日となったが、休息日から天気は下り坂。火曜日にかけて雨が降り続く予報が出ている。

火曜日の第16ステージには標高2618mの1級山岳ガヴィア峠とチーマコッピ(大会最標高地点)標高2758mのステルヴィオ峠が登場する。スタート地点のポンテ・ディ・レーニョや、ガヴィア峠とステルヴィオ峠の間に位置するボルミオは、気温も10度までしか上がらず、冷たい雨が降る。予報によると標高2200m以上は雪だ。

徹底的な除雪作業によってガヴィア峠やステルヴィオ峠は通行可能な状態だが、頂上は確実に氷点下の世界だ。道路に積雪がなくとも、選手たちはシャーベット状の水を全身に浴びながら走ることになる。

昨年降雪によってキャンセルになった注目のクイーンステージ。今年も開催が危ぶまれる状態になってきた。



下山の準備をする新城幸也(ユーロップカー)下山の準備をする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji
故マルコ・パンターニがジロ・デ・イタリアを見守る故マルコ・パンターニがジロ・デ・イタリアを見守る photo:Kei Tsuji



text&photo:Kei Tsuji in Ponte di Legno