ロードウェアブランド「ラファ」が手がけるチーム単位でのエピックライドレース、Rapha Gentlemen's Raceに、女子だけの「ダム部」の5人が参加した。未舗装路を含む厳しくも美しいルートで知られるこのイベント、ダム部の5人はどう走り、何を思ったのか。

昨秋の日本で初開催されたラファ・ジェントルメンズレースの模様はシクロワイアード編集部チームが参戦してレポートしている。
第2回大会の舞台は京都。今回はレースに招待された女子5人組チーム「ダム部」に参加レポートを寄せてもらった。Vol.1はダム部・部長の miji(豊稔池みはる)さんがレポートします。

ダム部、スタート前の集合写真ダム部、スタート前の集合写真

ジェントルメンズレースに出たい!と突然言い出したが…。

水位をモチーフにしたダム部ジャージ水位をモチーフにしたダム部ジャージ 「私、今年はダムに専念したい!だからGentlemen's Raceに出たい!」
とダム部メンバーのヤスダムが言った。年のはじめに「今年はどのダムに行くかねぇ」と計画を立てていた時である。
他のメンバーはポカンとした。去年だってかなりの数にダムに行ったし、ダムカード(ダムでもらえるトレーディングカード)を100枚集めたメンバーもいる。それを超えるような『専念する』活動とはなんなのか?。

聞いてみると、ダムへの道は未舗装路あり、激坂ありで厳しい。もっとたくさんのダムに行くにはもっと強くならなければならない。そのため『Gentlemen's Raceにみんなで出る』という目標がほしいと、ヤスダムは熱く語った。

「出たい」と言っても簡単に出られるものではない。部員は女子5人だけ。レース指向のない部員がほとんどで、RGRを全員で完走できる自信などない。しかし参加を打診したところ、すんなりOKを頂いてしまった。不安がよぎるが、せっかく出られるなら万全の準備をして挑もう。ダム部の名にかけて。

ダム部とは
ダム部は、ダム堤体を愛でるのが好きな仲間たちだ。メンバーを紹介すると、
部長(私、miji) : 地図と段取り担当。
ダムじゅん : シクロクロスCL1レーサー。オンロード、オフロード問わず速い。
ダムセガワ女史 : 実業団ロードレーサー。いつも先頭で鬼引きしてくれる。
ヤスダム : 写真とオフロードが得意。ダムツアー開幕へ向けて燃えている。
ダム子 : 輪行家。フットワークの軽さでいち早くダムカード100枚達成。

以上の女子5人。以前より自転車を通して顔見知りではあったけれど、普段の所属チームも違うし指向も違う。「実はダムが好き」と分かってから一緒にサイクリングに行くようになり、仲良くなった。ダム部では、ダムには自転車で行くことをルールにしている(輪行は可)。去年は自転車に荷物を積み、2泊3日で10基をめぐる「ダム合宿」もした。

バイク、タイヤ、荒れたコースに対応するための準備

Gentlmen's Raceに出るには、まずルールとして、チームで揃いのジャージが必要だ。
これまでもジャージを作ろうという話はあったが、どこのダムを描くのかケンカになって実現しなかった。今回はヤスダムが中心となってまとめてくれ、お友達のまひろちゃんも絵を描いてくれた。
『一見普通に見えるが、よく見たらダム』というコンセプトでまとめたが、実際はどこから見てもダム部だ。

ダムの水位をモチーフにしたダム部ジャージダムの水位をモチーフにしたダム部ジャージ ダムの発電タービンをモチーフにしたデザイン。脇には「放流注意」ダムの発電タービンをモチーフにしたデザイン。脇には「放流注意」


つぎに、完走できる脚づくり。
ダムにたくさん行こうと提案したが、ヤスダムは「ダムにはいかない」とストイックにダム断ちを敢行し、ローラー練に励んだ。3月はみんなでブルベに出て吹雪に遭い、全身に雪が積もった。4月は坂の練習を中心に。未舗装路の練習で、前回も参加したO.S.A.K.Aチームに連れて行ってもらったのは、よい心の準備になった。
そして、装備。

噂ではコースはひどく道が荒れているという。脚のない私たちが制限時間内に帰ってくるためにはノートラブルで走ることが重要だと考えた。そのためタイヤをどうするかと思っていたところ、Panaracerの宮路さんからダム部にタイヤを提供いただけるというお話をいただいた。宮路さんは私の大学の先輩で(時期は全く違うけど)、主にお酒を飲んでいらっしゃるところでしかお会いしない(笑)が、関西シクロクロスに来られた際には、ダム部がレース最後尾で団子になっている様子や、転んでひっくり返っているところをご覧のはず。こんなダム部に貴重なタイヤを提供しようというのだから、相当丈夫で自信のあるタイヤに違いない(笑)。

パナレーサーのタイヤ TOURER PLUS Brevet edition をサポートしていたきましたパナレーサーのタイヤ TOURER PLUS Brevet edition をサポートしていたきました 提供して頂いたのはパナレーサー TOURER PLUS Brevet editionという26Cの丈夫で軽いタイヤだ。
サイクリストの集まる食堂『タベルナ・エスキーナ』に集合し、店の前で勝手にタイヤ交換大会。タイヤをはめるコツをみんなに伝授し、各自素早くチューブ交換できる練習をしておくよう指令を出した。
カーボンロードバイクだと26Cは厳しいという話も聞いていたが、全員問題なく装着できた。
レースに携帯する装備はチームで2本の予備タイヤ、チェーンカッターやニップル回し、各自ミッシングリンク、両面テープ貼ったサイドカット用プラ板など、これまでのダム活動の経験から必要と考えられるものをそろえた。

補給食について、コースは100kmぐらいの地点まで何も買えるところがないので十分持っておくことにしたが、専用の補給食を入手できず、ハンガーノックへの恐怖から薄皮あんぱん5個入りを2袋買ってしまった。

ジェントルメンズレースを走る

そして迎えたジェントルメンズレース。出場チームは3分おきにスタートするが、ありがたいことにダム部は1番目スタート。
前に誰もいなくてすぐさま迷ったが、通りかかったスタッフゆっきーのおかげで無事コースへ復帰。走るとすぐに峠にさしかかる。
時間はまだ6時過ぎ。静かで京都らしい風景にレースということを忘れ、朝もやの中、『はいからさんが通る(南野陽子)』を歌いながら一つ目の峠を越えた。後からスタートしたチームにどんどん追い抜かれるが、気にせずゆっくり。ややこしい駆け引きは嫌いです、私。

林間のオフロードを行くダム部林間のオフロードを行くダム部

速くなくてもノートラブルで。レース時の注意事項をいくつか共有した。

「パンクはなるべく避けたい」下りで調子に乗らない、未舗装路の後はタイヤについた小石をこまめはらうなど。
「最後尾をひとりにしない」万が一パンクしても2人いた方が早く復帰できるし、先行している人へ連絡しにもいける。
「枝とか変なものはなるべく踏まない」枝とか巻き込んでスポークやディレイラーが折れるのはなんとしても回避したい。

ダムセガワさんがツールボトルのフタの代わりにかぶせていた使い古しの靴下がチェーンリングに巻き込まれるというトラブルがあったが、持っていた輪行袋の紐でトラブルを回避した。
「ハンガーノックにならないように」と、ダム子ちゃんのツールボトルには朝握ってきたおにぎりが3つ(ゆかりとおかかと梅)が入っているという。それぞれに個性的な装備だ。

ツールボトルに入っているのはおにぎり(笑)ツールボトルに入っているのはおにぎり(笑) コースの通過タイムをスケジュール表にまとめてハンドルに表示したコースの通過タイムをスケジュール表にまとめてハンドルに表示した


CPでの補給は正直期待していなかった。ロングライド系のイベントに行くと、のんびり女子は補給が品切れになっていることが多い。それに備えてツールボトルやサドルバックに食べ物を詰め込んできてはいたが、今回はなんと手作りブラウニーをいただいた。補給食がおいしいと元気が出るものだ。

未舗装路本番。これまでのダム活動で似たような未舗装路は経験してきている。この程度ではひるまないぞ。強いぞダム部!
砂だらけ泥だらけ石だらけの区間、新品のジャージが泥にまみれるのがくやしい。

快調に走るダム部・部長こと豊稔池みはる快調に走るダム部・部長こと豊稔池みはる

面白いのは、舗装路で遅れをとっていた部員が未舗装路で先頭に躍り出たり、逆もまたある。坂が得意な人、平坦が得意な人、地図を見るのが得意な人。5人で走るということはそれぞれの持ち味を生かしてゴールを目指すということだ。
自転車は個人競技でもあり、団体競技でもある。ロードバイクに乗り始めたとき、プロのロードレースを見てチーム戦にあこがれた。日本で女子は自転車人口も少なく、チーム戦をくりひろげることができる機会はほとんどない。今回はロードレースとは全く異なるが、少しそれが感じられた気がする。

未舗装路の最後の登りをこなすダム部員たち未舗装路の最後の登りをこなすダム部員たち 提供してもらったタイヤは、舗装路ではいつものタイヤとの違いを全く意識することがなかった。意識しないということは重いと感じないということだろう。が、下りや段差では違いを実感した。段差をジャンプして超えるテクニックはないのでグレーチングや舗装の割れ目もガッと乗り上げるのだが、衝撃なく「ムニッ」というかんじで越えてくれる(空気圧は6気圧ぐらい)。カーブも安定して曲がれるので、「下りで調子にのらない」と言っていたのに気が付くとペースが上がっていた。

ちょうど12時に京都サイクリストのオアシス「サンダイコー」着。しっかりお昼を食べて再出発。第2のグラベル区間もやっつけて、すばらしい景色の頂上の第3チェックポイントに。

世界の中心ではなく、京都の北の山で「ダム!」と叫び、ゴールに向けて景気づけ。

眺望を楽しみ、「ダム!」と叫ぶ。こんなに標高の高いところまで登ってきた眺望を楽しみ、「ダム!」と叫ぶ。こんなに標高の高いところまで登ってきた

えっちらおっちら最後の峠を上っていると、カウベルの音が聞こえる。なんとカテO(関西シクロクロスにいつも応援にくる人たちの通称『カテゴリー応援』)の精鋭2名だ。
KOMまではダンシング!ここまで130km、後は下るだけ。ゴールまであと少しのところで元気をもらった!

ノーパンク・ノートラブルでここまで来られたのだから、最後まで無事でゴールしたい。下りも調子に乗らないで声をかけあって街中へ。スタート時通ったところに戻ってきて、達成感でいっぱいだった。

最後のチームとして暗くなった後ひっそりゴールするつもりで明るいライトも持っていたが、点けることなく日のあるうちにゴールできた。全員無傷で無事ゴール。ただレースを走ったというだけではない達成感があった。きっと、チームで走ったからだ。

感動のゴール!明るいうちにゴールに帰ってこられた!感動のゴール!明るいうちにゴールに帰ってこられた!

スタッフの方々、タイヤを提供いただいたPanaracer宮路さん、応援してくれた人、いろんな人にありがとう。
私たちにとっては、ゴールではなくスタート。今シーズンのダム活動が開幕します!


私たちがレース中にInstagramで撮った写真は、こちらで見ることができます。
Rapha Gentlemen's Race 参加者のみなさんの写真はこちら

text:豊稔池みはる(部長)
photo:ダム部、Rapha Gentlemen's Race 事務局

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