6月後半、ジャイアントの新型ロードバイク試乗会が、各国の自転車ジャーナリストを集めスペイン・マヨルカ島で開催された。ここでは2012モデルの主力車種をインプレッションと共に紹介しよう。

GIANTがテストライドの拠点にするマヨルカ島中部の高級リゾートGIANTがテストライドの拠点にするマヨルカ島中部の高級リゾート
会場となったスペイン・マヨルカ島は、ヨーロッパ全土から直行便が飛ぶ屈指のリゾートアイランド。沖縄本島の3倍ほどの面積の島内には美しいビーチが点在する一方、島の北西側には急峻な山地が連なる。市街地以外は信号がほとんど無い絶好のロードバイク環境であり、シーズン初頭の2月にUCI1クラスのワンデーレースが5日間連続開催される「チャレンジ・マヨルカ」でも有名。

チャレンジマヨルカの1級山岳を含む本格的な試乗ルートが設定されたチャレンジマヨルカの1級山岳を含む本格的な試乗ルートが設定された 今回の試乗会では、すべてのジャーナリストに対して適正サイズの「TCR ADVANCED SL」「TCR ADVANCED」「DEFY ADVANCED」の3車種が用意された。

初日はこれら3車種をアップダウンのある1周11kmのルートで試乗し、2日目にそのうちの1台を選んで山岳中心に100km程度走るという万全のプログラムだった。身長185cmの筆者はMLサイズとなり、試乗車は用意されなかった「DEFY ADVANCED SL」にも短時間だが試乗することが出来た。以下、車種毎にレポートしよう。




18%の軽量化と40%のステアリング強化を果たした、新型 TCR ADVANCED SL


フルモデルチェンジされた TCR ADVANCED SLフルモデルチェンジされた TCR ADVANCED SL
ジャイアントの上級ロードバイクには、ロードレース向けの「TCR」と、ロングライド(同社はエンデュランスと呼ぶ)向けの「DEFY(ディファイ)」という2つの軸があり、新型「TCR ADVANCED SL」は、今年のツール・ド・フランスでも活躍するプロチーム「Rabobank」のために開発された最高峰のロードレーサーだ。

ADVANCED SLグレードのフレームは、カーボン原糸に最上級T-800を採用するのは従前通りだが、新たにカーボンナノチューブ技術の応用で対衝撃性を14%高めている。一見すると2009からの現行フレームと大差ない印象だが、もちろん完全な新設計であり、モールド(焼き型)も別物。新技術が随所に投入されて大幅な性能アップを果たしているが、特筆すべきは「OVER DRIVE 2」だろう。

下1-1/2・上1-1/4サイズの新規格OVER DRIVE 2 採用下1-1/2・上1-1/4サイズの新規格OVER DRIVE 2 採用
コラムも1-1/4径のためOVER DRIVE 2 専用ステムが必要コラムも1-1/4径のためOVER DRIVE 2 専用ステムが必要 プレスフィット式のBB86は継続。アルミカップを廃してフルカーボン化プレスフィット式のBB86は継続。アルミカップを廃してフルカーボン化


これは現行モデルの「OVER DRIVE」、すなわち「下1-1/4・上1-1/8」サイズの上下異径ベアリング採用でヘッド部全体をボリュームアップし、同径のテーパードコラムと合わせて剛性を高めるという独自設計だが、これをさらに大径化、「下1-1/2・上1-1/4」サイズとした新規格である。結果、現行対比で40%ものステアリング強化に成功。フレーム単体では現行968gに対して新型820gと、剛性アップを図りながら18%もの大幅な軽量化を果たしている。オーバードライブ2コラムとなる専用フォークについても、330gとほぼ現行通りながら大幅な剛性アップが図られている。

シートクランプも新型となり、やぐら入替による前後オフセット量が拡大シートクランプも新型となり、やぐら入替による前後オフセット量が拡大 実際に走ってみると、まず最初にその剛性の高さに気付かされる。特にハンドル周りから受ける硬さが印象的で、試乗車はコラムがカットされておらずステムも一番高い位置でスペーサーが30mmぐらい入っていた状態だったが、体重90kgオーバーの筆者が上体を預けて全力でもがいてもビクともしなかった。また、BBあたりの剛性感も高く、シッティング、ダンシング共にフレームがたわむ感じが全くない。調子に乗って下りで70km/h以上の速度を出してみたのだが、直線はもちろん、ゆるやかな高速コーナーでもフロント剛性の高さによって大きな安心感が得られた。

ただ、あまりの剛性感のせいかフロントの接地感が硬質で、タイトなコーナーの倒し始めではしっとりとしたグリップ感が感じられず、やや慣れが必要なのかもしれない。もっとも元来クセの無いハンドリングで定評のあるTCRだけに、上級レーサーにとっては全く問題にならないレベルだとは思うが。

ANT+対応のスピード&ケイデンスセンサーRIDE SENSEを標準装備ANT+対応のスピード&ケイデンスセンサーRIDE SENSEを標準装備 ケーブルがフレーム内蔵式となりシマノDi2にも対応ケーブルがフレーム内蔵式となりシマノDi2にも対応

ちなみに筆者は現行TCR ADVANCED SLを所有しているが、今回でまったく別物となってしまって悲喜こもごもである。現行はレーサーとしてはかなり快適で筆者のようなメタボ気味ライダーにも優しかったが、新型は明らかに強い人向けとなった。これは後述する「DEFY ADVANCED SL」の登場により、レースバイクとしてより純化させる方針になったからなのだろう。




TCR ADVANCEDも完全新設計。7%の軽量化と34%のステアリング強化を実現


現行モデルに比べて全体的にマッシブになった新型 TCR ADVANCED現行モデルに比べて全体的にマッシブになった新型 TCR ADVANCED
ジャイアントのカーボンロードの中核となる「TCR ADVANCED」も同時にモデルチェンジを果たした。「TCR ADVANCED SL」との違いはシートピラー方式とカーボン原糸にT-700を採用することだが、ADVANCED SL開発の恩恵であるOVER DRIVE 2やフレーム軽量化の技術により、大幅な剛性アップを図りながら、フレーム単体重量では現行968gに対して新型908gと、7%の軽量化に成功している。

剛性と軽量化を両立する特徴的な形状のシートステイ上部剛性と軽量化を両立する特徴的な形状のシートステイ上部 細部を見ると、現行モデルから採用される流体断面の「VECTOR」シートピラーにはADVANCED SL同様の新型シートクランプが採用され、フレーム側のクランプも締付け精度が向上している。ケーブル内蔵&Shimano Di2対応といったフレーム加工や、RIDE SENSEもすべて標準仕様となる。

さて、走り出して数分で感じたのはそのバランスの良さだ。TCR ADVANCED SLのように、キンキンに硬いという印象は無いものの、どこをどう走っても必要十分以上の剛性を感じるし、もっと感覚的に言えば、ペダリングした分だけロス無くきっちり進んで清々しい、という印象だ。

急な登坂や絶対的なスピード性能ではTCR ADVANCED SLに分があるだろうが、一部の超上級者を除けば、こちらの方がマッチする気がする。これは重量級の筆者だけの感覚かとも考えたが、同行した日本人ジャーナリストや小柄な外人に訊いても「グッドバランス」と言っていたのできっと間違いないのだろう。実際、筆者を含めた多くのジャーナリストがこのグレードを「ベストバイク」と言い切っており、翌日のロングテストライドには、TCR ADVANCED SLではなく、こちらを選んだことも付け加えたい。

なお、ジオメトリー自体はTCR ADVANCED SLとほぼ共通のはずなので、恐らくはフレーム全体、さらにはパーツやホイールまで含めた剛性バランスが良いのだろう。

オーバードライブ2によりステアリング剛性が大幅にアップオーバードライブ2によりステアリング剛性が大幅にアップ そう、ジャイアントの2012モデルでは、完成車全体での性能向上を目指して、ハンドルやステム等のコクピットパーツとホイール・タイヤに自社開発製品をアッセンブルしていることも大きなトピックだ。今回のTCR ADVANCEDにはスカンジウムリムに専用タイヤを合わせた「GIANT P-SLR1」ホイールシステムが組み合わされ、それがトータルバランス向上に寄与したのかもしれない。

もしこのバイクが現行レベルの価格で販売されるというなら、ライバルを震撼させる驚異的なコストパフォーマンスとなるのは間違いないだろう。




最軽量コンフォートロード、DEFY ADVANCED SL が新登場。


コンフォートロードの最高峰モデル DEFY ADVANCED SLコンフォートロードの最高峰モデル DEFY ADVANCED SL
今回のフルモデルチェンジでは、レースモデルであるTCR ADVANCED SLとTCR ADVANCEDを大幅に剛性アップさせる一方、コンフォートモデルであるDEFYシリーズについては「TCRまで剛性を求めない分、軽量化する」という開発方針になり、超軽量の最上級コンフォートロード「DEFY ADVANCED SL」が誕生した。

アドバンスドSLグレードを名乗る通り、カーボン元糸はT-800を採用。その最上級素材をDEFYシリーズのジオメトリーとコンフォートな剛性設計とすることで、TCR ADVANCED SLを凌ぐフレーム単体重量799gを実現している。もっとも、当モデルもオーバードライブ2を採用するため、ステアリング剛性は現行TCR ADVANCED SLを凌駕し、最高峰レースシーンでも十分戦えるレベルである。

事実、当モデルの開発にあたってもRabobankチームからのフィードバックがなされており、石畳や未舗装路など、レースコースによってはRabobankチームがこちらを使用する機会もあるとのことだ。RIDE SENSEやケーブル内蔵加工、Shimano Di2取付加工、新型シートクランプなどの新機能はもちろんすべて盛り込まれている。

TCR ADVANCED SLに比べて明らかに細身のシェイプにTCR ADVANCED SLに比べて明らかに細身のシェイプに この車種については試乗車が用意されなかったが、開発用バイクが幸運にも筆者のサイズだったため、短時間だがその片鱗を確かめることができた。

まず第一印象は、筆者が所有する現行TCR ADVANCED SLに近い、というものだった。振動を適度に減衰してくれて快適である一方で、踏めばよく進む、という点だ。

しかし、もう少し乗るとその設計意図が伝わってきた。これはコンフォートバイクだが、レースで使うこともかなり意識していると思う。

まずペダリングが軽く、グイグイと進む印象で、ダンシング時の横剛性はTCRに譲るものの、必要十分以上の張りがあり、後述するDEFY ADVANCED と同シリーズという感じはしない。そしてヘッド周りの剛性はまさにレースバイクであり、重量級の筆者が何をやっても大丈夫という安心感がある。

一方、直進性と振動吸収性はDEFYならではであり、短い試乗の帰路には未舗装路で手放し走行をしてみた程で、極めて操安性が高い。全体としてはゆるやかなエッジの乗り味にしっかりとした芯がある感じで、言うなれば「アルデンテ」というところだろうか。

使途としてはやはりブルベのような高速ロングライドがメインターゲットになるのだろうが、その軽さと快適性はロードレースシーンにおいても大きな武器となるはずで、特に軽量なオールラウンダーに合うのではと感じる。




DEFY ADVANCED もTCR ADVANCEDを凌ぐ軽量モデルに。


メリハリのあるフレーム造形の新型 DEFY ADVANCEDメリハリのあるフレーム造形の新型 DEFY ADVANCED
レースモデルであるTCR ADVANCEDと双璧をなす、ADVANCEDグレードのコンフォートモデル「DEFY ADVANCED」。

オーバードライブ2の採用によってステアリング剛性を現行モデル対比で30%も向上させながら、フレーム全体としてはコンフォートな剛性設計とすることで現行の1060gに対して894gと、19%もの軽量化に成功。新型TCR ADVANCED より14g軽量となった。また、RIDE SENSEやケーブル内蔵加工、Shimano Di2取付加工、新型シートクランプなどは、ADVANCEDグレード以上の共通仕様としてすべて盛り込まれる。

この車種についてもジャーナリスト全員分の試乗車が用意されており、結果として評価が高かった。全体的な印象としては、ここまでの4車種中で最もマイルドであり、アップライトなジオメトリーに加えてステムも一番高い位置に取付けられていたせいか、スペイン郊外の荒れた舗装路とのマッチングは最高だった。

オーバードライブ2採用。ケーブル内蔵も他モデル同様オーバードライブ2採用。ケーブル内蔵も他モデル同様 シートステイ上部は振動吸収性を意図した設計がなされるシートステイ上部は振動吸収性を意図した設計がなされる RIDE SENSEやShimano Di2取付加工はADVANCEDグレード以上の標準仕様にRIDE SENSEやShimano Di2取付加工はADVANCEDグレード以上の標準仕様に

バランスの良さは新型TCR ADVANCEDに通じるものがあり、マイルドでありながらそのヘッド剛性のおかげでレーススピードでの下りコーナーリングなども安心感が高い。他車種と比較してしまうとマイルドな分だけロスも感じてしまうが、実際に所有して乗り込んだ際には、このマイルドなバランスがライダーの疲労を軽減し、結果としてタイムアップや長距離走行を可能にするだろう。

また、重量面では現行モデルとは比較にならないほど軽いため、マイルドになっても「かったるい」ような感じは無く、上りも軽快に走ることができる。

なお、試乗車には53x39Tのノーマルクランクが装着されていたが、現行DEFYシリーズのコンセプト通りなら市販時にはコンパクトクランクが標準仕様になると思われる。従来からのマイルド指向に「TCRを凌ぐ軽さ」が付加されたDEFY ADVANCED。ロングライドやヒルクライムを楽しみたいホビーライダーにとって強力な武器となるに違いない。




DEFY COMPOSITE グレードも新登場。


流麗なフレーム造形を継承する新型DEFY COMPOSITE流麗なフレーム造形を継承する新型DEFY COMPOSITE
現行のオーバードライブ規格が継続となる現行のオーバードライブ規格が継続となる カーボンDEFYの末弟となる「DEFY COMPOSITE」も2012モデルで登場する。2011モデルから投入されたTCR COMPOSITEと同格となるT-600カーボン原糸採用の普及型カーボンロードであるが、引張強度が抑えられた素材はコンフォートロード設計との親和性も良いため、今回試乗は適わなかったが、コンセプト通りの走行性能が期待できる。

また、剛性をやや抑えた分だけ軽量化されるのは上位グレード同様で、TCR COMPOSITEの1569g(フレーム+フォーク)に対して1489gと、80g軽量である。

なお、COMPOSITEグレードについては現行のオーバードライブ規格が継続され、上位グレードで採用された新機構としては新型シートクランプが採用されている。




レディスモデルが各グレードに新設定される


新型DEFY ADVANCED のレディスモデル、AVAIL ADVANCED新型DEFY ADVANCED のレディスモデル、AVAIL ADVANCED
2011モデルまで限定販売だった「Liv/giant」ラインを継承する2011モデルまで限定販売だった「Liv/giant」ラインを継承する 「RIDE SENSE」などの仕様は新型ADVANCEDグレードとすべて共通「RIDE SENSE」などの仕様は新型ADVANCEDグレードとすべて共通

2012モデルのもう1つの目玉がレディスモデルの登場だ。従来「Liv/giant」として限定販売されてきたアジアンフィット・スモールサイズコンセプトをグローバルモデルとして展開するというもので、その主旨からコンフォートモデルが主軸となる。

DEFY ADVANCED グレードに相当する「AVAIL(アベイル) ADVANCED」、今回は資料のみだったがDEFY COMPOSITE グレードに相当する「AVAIL COMPOSITE」と、アルミフレームのDEFYグレードに相当する「AVAIL」というフルラインナップ展開になる。一方、レーシングジオメトリーのTCRについてはADVANCEDグレードに「TCR ADVANCED W 」が設定される。

レーシングモデルらしく精悍なカラーリングのTCR ADVANCED Wレーシングモデルらしく精悍なカラーリングのTCR ADVANCED W
各モデル毎に、ハンドル幅やステム長、クランク長、サドルなどが女性仕様となる他、2011モデルの「Liv/giant」での展開から考えれば「XXSサイズ」が各モデルから選べるようになるはずなので、特に日本の女性にとっては選択肢が増えるという意味でグッドニュースだろう。


提供:ジャイアント 編集:シクロワイアード