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日本から直行便で14時間半のマドリード空港から、クルマでおよそ4時間強。バレンシア地方の地中海に面したリゾート地、ベニドルムにUAEチームエミレーツが冬季合宿拠点を置くリゾートホテルはあった。

トレーニング内容を打ち合わせるアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)とマチン・フェルナンデスGMトレーニング内容を打ち合わせるアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)とマチン・フェルナンデスGM photo:So.Isobeシーズンインに向けて足慣らしを続ける選手たちシーズンインに向けて足慣らしを続ける選手たち photo:So.Isobe

今回シクロワイアード編集部はチャンピオンシステム・ジャパン代表の棈木亮二氏に同行し、2020シーズンの選手、スタッフ、監督陣が一同に介したUAEチームエミレーツ第二次冬季キャンプを取材する機会を得た。

トレーニングはもちろん、新機材への知見を深める多忙なスケジュールを縫い、チーム代表のマウロ・ジャネッティ氏や、エーススプリンターのアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー)、プロ初年度ながら目覚ましい活躍を見せたタデイ・ポガチャル(スロベニア)などトップ選手に、チームとチャンピオンシステムとの関係について、そしてチャンピオンシステム製品の実力について聞いた。まずはチームCEOを務めるジャネッティ氏へのインタビューを紹介しよう。

チームCEO、ジャネッティ氏に聞くチャンピオンシステム

UAEチームエミレーツCEOを務めるマウロ・ジャネッティ氏。現役時代にはジャパンカップとツアー・オブ・ジャパンを制した経験を持つUAEチームエミレーツCEOを務めるマウロ・ジャネッティ氏。現役時代にはジャパンカップとツアー・オブ・ジャパンを制した経験を持つ photo:So.Isobe
かつて一級のトッププロ選手として活躍し、ポルティ時代に今中大介氏ともチームメイトだったマウロ氏。現役引退後も洞察力の鋭さを活かしてスポーツコンサルを主とする企業「GM Bikes SA」を興し、ヴィーニカルデローラ、サウニエルデュバル、ランプレ・メリダ〜UAEチームエミレーツのGMを歴任。同時に多数のブランドを顧客に抱え、現在に至るまでチャンピオンシステム・ヨーロッパの代表を兼務。チャンピオンシステムとチームの長年に渡るパートナーシップの足がかりを作った張本人だ。

体制はそのままにランプレ・メリダからUAEチームエミレーツに名を変えたチームと、チャンピオンシステムの結びつきは2019年で7年目。2020年以降もパートナーシップが決定しており、入れ替わりの激しいサイクリングスポーツ界においては異例の長期間と言える。きっかけこそ繋がりを大切にする伝統的な欧州スタイルだが、インタビューを進めていくうちに、単なるサプライヤーとは違う関係性が見えてきた。マーケティングだけにとどまらない、チームとメーカーの興味深いストーリーだ。昨年公開したチャンピオンシステム代表、ルイス・シー氏へのインタビュー記事と併せて読み進めてほしい。

「チームとチャンピオンシステムには強固なパートナーシップがある」

CW:まずはあなたとチャンピオンシステムの関わり、そしてランプレ・メリダに供給するまでの経緯を教えてもらえますか?

「チャンピオンシステムを使い続けている裏には、強固なパートナーシップが存在します」「チャンピオンシステムを使い続けている裏には、強固なパートナーシップが存在します」 photo:So.Isobe
ジャネッティ氏:元々私はチャンピオンシステム・ヨーロッパを経営する傍ら、複数のプロチームや企業をマネージメントするコンサルタント業務を行なっていました。2011、2012年頃からチャンピオンシステム本社は世界規模で発展するためのイメージ戦略、そしてより良い製品開発のためにワールドツアーチームへのサポートを検討していたのですが、私の顧客の一つであるランプレチームが当時のウェアサプライヤーの製品に満足しておらず、そこで私はルイス(ルイス・シー氏:チャンピオンシステム代表)に対して「ルイス、お互いの要求を満たすパートナーがいるんだ」と連絡しました。ランプレはプロトンの中でも最も歴史あるチームの一つですし、チームも革新的なウェアを求めていた。双方にとって全く悪い話ではありませんでした。

2013年、チャンピオンシステムはランプレ・メリダに供給開始。ここから長いパートナーシップが始まった2013年、チャンピオンシステムはランプレ・メリダに供給開始。ここから長いパートナーシップが始まった (c)Hideyuki.Suzuki2017年にはUAEチームエミレーツへ名称変更。その際もパートナーシップは途切れなかった2017年にはUAEチームエミレーツへ名称変更。その際もパートナーシップは途切れなかった photo:Kei Tsuji / TDWsport

それから話が進み、2013年にランプレ・メリダとなるタイミングからチームとチャンピオンシステムのパートナーシップが始まりました。そこからここまでの7年間、チームとチャンピオンシステムは非常に良い関係を築いてきました。客観的に見てチャンピオンシステム製品のクオリティは劇的に向上しましたし、知名度とブランドイメージも上がりました。そして何より我々チームの意見に耳を傾け、より良い製品を迅速に届けてくれるその姿勢は、若手選手を育てて一つのチームを作り上げていく我々のフィロソフィーとも完璧に合致するのです。ランプレからUAEに変わってもチャンピオンシステムを使い続けている裏には、強固なパートナーシップが存在します。

CW:チームとして、客観的にチャンピオンシステムの製品をどう捉えていますか?

「チャンピオンシステムの手法は我々チームのフィロソフィーと完璧に合致するんです」「チャンピオンシステムの手法は我々チームのフィロソフィーと完璧に合致するんです」 photo:So.Isobeジャネッティ氏:チャンピオンシステムの製品は2013年にパートナーシップを組んだ当時から平均的に高品質でしたが、正直に言えばレインジャケットの防水透湿性能、スキンスーツのエアロダイナミクスなど、まだまだ他ブランドの製品が上回っている要素は少なくありませんでした。でも、7年間に及ぶパートナーシップの中でそれらが改善され、今は他のどのブランドと比べても劣らないどころか、他チームが羨むような突出した製品もあります。

例えば我々チームでTTスーツの風洞実験を行なったのですが、様々なブランドの製品の中で、我々が使うチャンピオンシステムの製品は最速レベルで空気抵抗が少なかったのです。ナンバーワンでこそありませんでしたが、非常に満足いく高い水準を満たしていたのです。その結果は当然香港に伝え、さらなる改善のために役立ててもらっています。結果的にも選手たちを十分満足させ得るものでしたし、それはつまり大一番に臨む選手たちに大きな自信を与えることにも繋がります。今年は新しいTTスーツが届く予定なので非常に楽しみにしています。

CW:選手たちは特別なカスタムジャージを使用しているのでしょうか?

ジャネッティ氏:あまり知られていないことですが、プロ選手と一般ライダーの身体つきは大きく異なるため、既製品では対応できない場合がしばしばあります。特に身長的にはLなのにウエストはXSで、なおかつ脚はM以上が必要な(ファビオ)アル、とにかく体幹も脚も太いのに、そこに合わせると丈が長くなってしまう(アレクサンドル)クリストフなど、クライマーやスプリンターは苦労する場合が多い傾向にあります。

ですのでエースを中心とした複数選手にはカスタムオーダーの製品が供給されています。もちろんここまでは他のメーカーでも対応しているはずですが、チャンピオンシステムはその他の選手に関しても一人一人袖や裾丈の長さを選べるセミオーダーシステムがありますよね。この辺りはオーダーウェア専門であるチャンピオンシステムの強みが生かされていると感じます。

ジャネッティ氏とチャンピオンシステム・ジャパン棈木代表。2人はブランドを通じて旧知の仲だというジャネッティ氏とチャンピオンシステム・ジャパン棈木代表。2人はブランドを通じて旧知の仲だという photo:So.Isobe
棈木代表:例えば4年前、チャンピオンシステムはウインターコレクションを大刷新しました。それに対する選手たちの反応はどうでしたか?

ジャネッティ氏:すごく好印象でしたね。当時はどのチームもカステリのGabbaジャージをスポンサーロゴを消して使っていましたが、防水・保温機能を持たせたウェザーガードジャージが登場したので選手から好評でした。我々も出来上がったウェザーガードジャージに対してリクエストを出しているので、例えば袖や襟の長さなど逐一細かいアップデートが行われています。

棈木代表:ルイスは以前、ワールドチームへのサポートを決めた理由として、圧倒的なレース量の違いについて語っていました。トップ選手どうしがぶつかり合うトップレースこそが最高のラボ(実験場)だ、と。

ジャネッティ氏:もちろんです。選手たちはリカバリーの日を除いて毎日5,6時間をバイクの上で過ごします。ダウンアンダーやツールの一番暑い時で45℃、フランドルクラシックやミラノ〜サンレモ、ジロの山岳ステージでは雨+雪+-2℃のような非常に厳しい条件にもさらされるんです。

「選手のニーズを満たす性能と幅広いラインナップがチャンピオンシステム製品の魅力」「選手のニーズを満たす性能と幅広いラインナップがチャンピオンシステム製品の魅力」 photo:So.Isobe
おそらく一般の方は、そんな過酷な条件でも走らなければいけない選手一人一人に対して、どれだけのアイテム数が必要か全く理解できないはずです。夏用、冬用ジャージがそれぞれ複数種類、ビブショーツとロングタイツもそれぞれ複数種類、スキンスーツも複数種類、ジャケット各種、ソックス、ウォーマー類、キャップなどを1セットとして、トレーニング、レース問わず毎日走ることになるので複数セット必要なんです。それは凄まじい量で、一般家庭のクローゼットであれば1シーズン用だけで軽く埋まってしまうし、もしかしたら溢れてしまうかもしれません。

選手たちが履くビブショーツは市販を見据えたテスト品。2019シーズン途中から投入されたという選手たちが履くビブショーツは市販を見据えたテスト品。2019シーズン途中から投入されたという photo:So.Isobe
そして、それらをフルカバーできて、なおかつ細かい天候・気温変化に合わせたアイテムを揃えるブランドは、例えプロチームに供給しているメーカーの中においてもそこまで多くはありません。チャンピオンシステムはそれを可能とする幅広いレンジが特徴ですし、それが一般ユーザーでも購入できるのは非常にメリットがあると考えています。

ここ最近、最もイノベーションに富んだアイテムと言えばジッパーレスのジャージ(エリートジャージ)でしょう。最初こそ全員半信半疑でしたが、前面にジッパーがないからフィット感がよく、つまりはエアロダイナミクスにも優れ、なおかつ通気性が高いので夏場でもジッパーをはだける必要がありません。

こちらも市販品とな異なる大容量ポケット。チャンピオンシステム代表は「レース現場は最高のテストラボ」と言うこちらも市販品とな異なる大容量ポケット。チャンピオンシステム代表は「レース現場は最高のテストラボ」と言う photo:So.IsobeCW:なるほど。選手たちから一番人気のあるアイテムは何ですか?

ジャネッティ氏:おそらくサマーレーススーツでしょう。シーズン序盤からレースはオーストラリア、アルゼンチン、コロンビア、UAE、サウジアラビア、ツール、ブエルタとほぼ暑い気候の中開催されるため使用頻度は高いですね。フィット感もエアロダイナミクスも高いし、ビブとジャージの組み合わせと比べて生地の重なりが少ないのでとにかく快適ですから。今やスキンスーツは上下セパレートのジャージを置き換える存在になっていますし、例えばアレックス(クリストフ)は投入初期から愛用し、練習でもずっと使用しているほどです。

CW:話を聞いていると、チャンピオンシステムが単なるサプライヤーではないことが理解できますね。

ジャネッティ氏:その通りです。世界屈指のプロチームである我々が求めているのは、シリアスな、高い技術を兼ね備えるパートナーです。高い技術があってもチームに寄り添ってくれないメーカーはお断りですし、いくら意見を吸い上げてくれようとも、そもそもの技術レベルが低いメーカーでは話になりません。

出発前の気温に合わせてウェアチョイスを変更。細やかな天候変化に対応できる豊富なバリエーションもチャンピオンシステムのメリットだ出発前の気温に合わせてウェアチョイスを変更。細やかな天候変化に対応できる豊富なバリエーションもチャンピオンシステムのメリットだ photo:So.Isobe
我々はチャンピオンシステムと綿密にコミュニケーションしていますし、例え改善要望が出ればすぐに伝えます。こうしたシーズンイン前のトレーニングキャンプではもちろん、ビッグレースには香港からスタッフが来てくれますし、非常に良いパートナーシップを組むことができていると感じます。

もともとは私のコネクションから生まれた関係ですが、今や我々とチャンピオンシステムの関係は非常に強固なものとなっています。これからも彼らの製品、そしてそれ以上により良いパートナーシップを続けていけるよう期待しています。
提供:チャンピオンシステム text&photo:So.Isobe