ヴォージュ山脈の1級山岳プランシェ・デ・ベルフィーユで繰り広げられた激坂バトル。アシストとしてライバルたちを一蹴したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がステージ優勝を飾り、チームリーダーのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)がマイヨジョーヌを獲得した。

週末だけに多くの観客が沿道に詰めかけた週末だけに多くの観客が沿道に詰めかけた photo:Cor Vos「チームスカイの力を誇示することが出来て良かったが、あくまでも計画を遂行したまで。エヴァンスがアタックすることは想像出来ていた。でも勾配がキツすぎて彼は失速。その時に思ったんだ『ブラドリー(ウィギンズ)はパーフェクトな位置にいるし、タイムは失わないだろう。ここで自分が加速すればステージも穫れる』ってね。そしてそれを実行した」。忠実なアシストとしてウィギンズに尽くし、ゴール前でアタックしたフルームはそう語る。

満開のヒマワリが夏の到来を告げる満開のヒマワリが夏の到来を告げる photo:Cor Vosこの日はトンブレンヌからプランシェ・デ・ベルフィーユまでの199km。ベルギーを発ったツールは、英仏海峡まで西進後、東に向きを変え、ドイツ国境近くに達する。標高1035mのスキーリゾートに至る急峻な山道がゴールを迎える。

1級山岳プランシェ・デ・ベルフィーユは平均勾配が8.5%で、前半から勾配が11%を超える刺激の強い登りだ。そしてゴール直前には勾配が20%近くまで跳ね上がる。ここでマイヨジョーヌ候補が動かないわけがない。そして実際、力ある選手がタイムを得て、力ない選手がタイムを失う結果が生まれた。

邪魔な観客に水をかけるデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)邪魔な観客に水をかけるデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor Vos前日の落車の影響で、この日はライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)やオスカル・フレイレ(スペイン、カチューシャ)ら8名がスタートしなかった。開幕1週間ですでに17名がツールを去っている。

15km地点で、シリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)のアタックを切っ掛けに形成されたのは7名の逃げグループ。ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)、クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・ティンコフバンク)、デミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)、マーティン・ベリトス(スロバキア、オメガファーマ・クイックステップ)、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)、クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)という強力な面子が揃った。

アタックが掛かり、メイン集団が縦に伸びるアタックが掛かり、メイン集団が縦に伸びる photo:Makoto Ayano

逃げるマーティン・ベリトス(スロバキア、オメガファーマ・クイックステップ)やクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)逃げるマーティン・ベリトス(スロバキア、オメガファーマ・クイックステップ)やクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Cor Vos今大会最初の山岳決戦に向かうメイン集団はBMCレーシングチームやチームスカイ、ガーミン・シャープがコントロール。7名の逃げグループは決定的なリードを奪えず、76km地点で記録した5分55秒を上限として、その後は縮小の一途をたどった。

ゴールまで30kmを残してタイム差2分20秒。1級山岳プランシェ・デ・ベルフィーユが近づくにつれてメイン集団のスピードは更に上がる。

メイン集団のペースを上げるリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)メイン集団のペースを上げるリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Cor Vosロット・ベリソルの牽引により、ゴールまで12kmを残して逃げとのタイム差は1分を切る。しかしロットのエースであるユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー)がパンク。ファンデンブロックは懸命の追い上げを見せたが、最前線まで復帰するにはタイミングが悪すぎた。

逃げグループの中で生き残ったアルバジーニとセレンセンは、5秒のリードで1級山岳プランシェ・デ・ベルフィーユの登りをスタートさせたが、メイン集団にラスト5kmで吸収。ここからチームスカイの力が炸裂した。

ラスト400mでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が仕掛けるラスト400mでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が仕掛ける photo:Cor Vosロジャース(オーストラリア、チームスカイ)の牽引により、勾配がコンスタントに11%を超える登りで、マイヨジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)をはじめ、トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)、ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)、イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)、フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)が脱落。

リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)の牽引が始まると更に集団は絞り込まれ、ポルト、ウィギンズ、フルーム、エヴァンス、ニーバリ、メンショフ、ロラン、ターラマエ、スベルディアの9名に。

カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)をかわし、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が前に出るカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)をかわし、クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が前に出る photo:Makoto Ayanoそして最終アシストのフルーム牽引でアイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)とピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)、デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)が脱落。5名に絞られた状態でフラムルージュを通過した。

一旦勾配が緩み、激坂が目の前に現れたラスト400mでエバンスがアタック。しかしフルームとウィギンズは問題なくこれを対処し、そこからフルームが踏んで行く。

エースのウィギンズの様子を何度も確認しながら踏んだフルームがそのままステージ優勝。2秒差でエヴァンスとウィギンズが入った。

後続の動きを確認するクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)後続の動きを確認するクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayano

エヴァンスを振り切ってゴールするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)エヴァンスを振り切ってゴールするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos完璧なチーム力でライバルたちを一蹴したチームスカイ。山岳初日にステージ優勝とマイヨジョーヌを同時に手にした。ステージ優勝のフルームはマイヨアポワも同時に手にしている。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでも急勾配のペーニャ・カバルガで優勝し、最終的に総合2位に入ったフルーム。ツールでステージ初優勝を飾ったナイロビ生まれの27歳は「リッチー(ポルト)が作ったファンタスティックなペースにより、多くの選手が脱落した。僕の役目はラスト2kmからハイペースで引き続けることだった。下見をしていたので、激坂に驚くこともなかった」と回想する。

9分42秒遅れでゴールにやってきた新城幸也(日本、ユーロップカー)9分42秒遅れでゴールにやってきた新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoそしてエースのウィギンズがマイヨジョーヌに袖を通した。ウィギンズは「子どもの頃からずっと夢見ていたことが現実に起こって、まだ信じられない気分。まだ現実として受け入れられない。フルーミー(フルーム)がステージ優勝出来ると思っていた。自分の最優先事項は、ツールらしくない激坂でカデル(エヴァンス)をマークすること。彼がアタックしたときも、自分のペースを崩すことなくシッティングで付いていった。本当に信じられない一日になった」と、珍しくリラックスした笑顔でインタビューに応える。

この日の結果を受け、早速マイヨジョーヌ候補はウィギンズ、エヴァンス、そしてニーバリの3人に絞られた感がある。ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)が1分52秒遅れと健闘する中、トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)、ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)らはいずれも2分以上遅れた。

選手コメントはレース公式サイトより。

マイヨジョーヌを手にしたブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)マイヨジョーヌを手にしたブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoマイヨアポワはクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の手にマイヨアポワはクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の手に photo:Makoto Ayano


ツール・ド・フランス2012第7ステージ結果
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)             4h58'35"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +02"
3位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)    +07"
5位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)              +19"
6位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)      +44"
7位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)               +46"
8位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)
9位 デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)                +50"
10位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)      +56"

11位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)        +1'06"
12位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)    +1'09"
13位 リッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)            +1'14"
14位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)          +1'24"
15位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)
16位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)            +1'31"
17位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)        +1'39"
18位 ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)
19位 トニー・ギャロパン(フランス、レディオシャック・ニッサン)       +1'44"
20位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)    +1'52"

22位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
24位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)             +2'05"
25位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
26位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)         +2'17"
27位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)            +2'19"
37位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
40位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)        +2'53"
46位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)    +3'03"
48位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)+3'11"
102位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +9'42"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)          34h21'20"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +10"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)    +16"
4位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)              +32"
5位 デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)                +54"
6位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)      +59"
7位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)      +1'09"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)         +1'22"
9位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                +1'32"
10位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームスカイ)          +1'40"
100位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +24'56"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)

新人賞 マイヨ・ブラン
レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)

チーム総合成績
チームスカイ

敢闘賞
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano

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